産経が、「MS、PC事業不振のデルに出資検討」と報じた。
複数の米メディアは22日、米ソフトウエア最大手マイクロソフト(MS)がパソコン大手デルに出資を検討していると報じた。と言う。
マイケル・デルが、驚異的なデルのコンピューター・メーカーとしての成長物語について、「デルの革命 Direct from DELL Strategies That Revolutionaraized an Industry」を著して、世界中に高らかに勝利宣言を発したのは、ほんの13年前のことで、今でも、トップ企業だと思っている人が多いと思うのだが、そのデルが、パソコン事業が不振となったために、収益性の高い法人向け事業を強化し、その一環として株式上場のとりやめを検討しており、MSが10~30億ドルの出資を行う方向で協議していると言うのである。
この本のサブタイトルの如く、デルは、「ダイレクト」戦略で産業を革命したユニークなビジネス・モデルが、功を奏して、驚異的な成長を成し遂げたのである。
何を思ったのか、当時のソニーの出井伸之社長が、このビジネス・モデルを、「本書からソニーがまなぶべきことは多い」と本の帯に、書かせている。
ところが、皮肉にも、エクセレント・カンパニーの多くがそうであるように、成功したビジネス・モデルにのめり込んだが故に、その成功の手段が、デルの場合にも、裏目に出て墓穴を掘る結果となったのである。
このことは、クリステンセンの「イノベーション・オブ・ライフ」に詳しいので、この話を借用して考えてみたい。
デルは、最初は単純な入門モデルのパソコンを非常な低コストで製造し、電話やインターネットを通じて販売し、上位市場を攻略して行ったのだが、デルの製品はモジュール式だったので、顧客がカスタマイズしたパソコンを組み立てて、48時間以内に出荷したので好評を博した。
実は、この革命的で破壊的なデルのビジネス・モデルを支えていたのは、エイスースと言う台湾メーカーであって、ローエンドから始めて、まず、単純で信頼性の高い回路を、より低コストで製造し、デルに供給していたのである。
アウトソーシングすれば、当然資本効率は高くなるので、資本の1ドル1ドルから、益々多くの売り上げと利益を絞り出そうとするデルの資本の効率的な活用と言う経営戦略とも合致して、株式市場も好感した。
このデルのエイスースへのアウトソーシング戦略だが、エイスースの技術がどんどん向上して行って、次は、マザーボードを作らせてくれ、次は、パソコン全体の組み立てをやらせてくれ、とエスカレートするエイスースの要求に、デルは、はるかに安く製品が出来上がる上に、アウトソーシングした分の製造資産をバランスシートから外せて、RONA(純資産利益率)が高くなるので、デルにとっては好都合であった。
ところが、このプロセスはその後も進んで行って、デルはサプライチェーン管理を、続いてコンピュータの設計そのものまでアウトソーシングし、要するに、パソコン事業の中身をそっくりそのまま、ブランドを除くすべてをエイスースにアウトソーシングしてしまったのである。
結果として、デルのRONAは、極めて高くなったのだが、同社の消費者部門に残ったのは、直販事業に関するわずかな資産だけとなった。
もっと悪いことに、エイスースが、デルから学んだ総てを活用して、満を持して、2005年に、自社ブランドのパソコンを製造販売したのである。
ずっと数字だけ見て満足し、自分たちの戦略が如何に自分たちの将来を危うくするのかに全く気が付かなかったデルは、今や、パソコンも製造しなければ、出荷も保守も行わない、台湾企業の製造するパソコンに、「DELL」のブランドを許すだけに成り下がってしまったのである。
ファブレスとなったデルの弱みは、製品開発の企画や設計など一切アウトソーシングしてしまって、単なるブランド貸のようなものであるから、同じファブレスでも、ユニークで他の追随を許さないクリエイティブで革新的な製品やサービスを自らの手で創造してアウトソーシングしているアップルや、他の欧米のエクセレント・カンパニーとは、較べものにはならない。
単なる凡庸なパソコン販売会社に成り下がったデルのパソコン事業の不振は当然の帰結であろうが、優しいクリステンセンは、デルの名誉のためにと、収益性の高いサーバー事業に進出して、この分野で成功を収めていると付記している。
さて、先日、一時、シャープが、台湾のホンハイに資本参加話で翻弄されていたが、ホンハイやエイスースのみならず、台湾メーカーは、EMS(Electronics Manufacturing Service)、すなわち、OEMやODMによって、先進的な技術ノウハウを蓄積して、今や、押しも押されもしない巨大なエレクトロニクス産業の巨人として台頭し始めて来て、世界中の名だたるエレクトロニクス製品の多くが、台湾で生産されていると言っても、あながち間違いでない程力をつけてきた。
日本や韓国の産業とは全く違った形で大を成しつつある台湾企業のビジネスモデルは、EMS,ファウンドリー、ファブレスと言った形で再編成されるグローバルベースでのプロダクション・シェアリングの新しいモデルと言うことであろうか。
ところで、日本のエレクトロニクスやパソコン企業は、アップルなどのファブレスの先進国企業と、コスト競争力優位の韓国台湾などの狭間にあって、激烈なグローバル競争に巻き込まれて、どんどん、地歩を失いつつある。
優秀な技術を持ちながら、その差別化戦略が不発に終わっており、それに、何よりも、ファブレスの欧米企業には勿論、韓国台湾などの新興国企業に対しても、コスト競争力では、全く勝ち目がないので、殆ど競争にはならないし、未だに、ブルーオーシャン市場を生み出すイノベーション力さえもない。
かっての日本の企業のように、ローエンドから最先端の科学技術を駆使して這い上がろうとしている新興国企業には、どんどん、市場を蚕食されて行くのは必定であるので、その先を行く未来志向型の製品やサービスを生み出すべくイノベーションを追求する以外に日本の生きる道はないのである。
しかし、大前研一氏が説くように、膨大なヒンターランドを抱えた巨大な人口と経済力の日本が、果たして、小国で機動力のあるスイスやシンガポールのようなクオリティ国家になれるのであろうか。
複数の米メディアは22日、米ソフトウエア最大手マイクロソフト(MS)がパソコン大手デルに出資を検討していると報じた。と言う。
マイケル・デルが、驚異的なデルのコンピューター・メーカーとしての成長物語について、「デルの革命 Direct from DELL Strategies That Revolutionaraized an Industry」を著して、世界中に高らかに勝利宣言を発したのは、ほんの13年前のことで、今でも、トップ企業だと思っている人が多いと思うのだが、そのデルが、パソコン事業が不振となったために、収益性の高い法人向け事業を強化し、その一環として株式上場のとりやめを検討しており、MSが10~30億ドルの出資を行う方向で協議していると言うのである。
この本のサブタイトルの如く、デルは、「ダイレクト」戦略で産業を革命したユニークなビジネス・モデルが、功を奏して、驚異的な成長を成し遂げたのである。
何を思ったのか、当時のソニーの出井伸之社長が、このビジネス・モデルを、「本書からソニーがまなぶべきことは多い」と本の帯に、書かせている。
ところが、皮肉にも、エクセレント・カンパニーの多くがそうであるように、成功したビジネス・モデルにのめり込んだが故に、その成功の手段が、デルの場合にも、裏目に出て墓穴を掘る結果となったのである。
このことは、クリステンセンの「イノベーション・オブ・ライフ」に詳しいので、この話を借用して考えてみたい。
デルは、最初は単純な入門モデルのパソコンを非常な低コストで製造し、電話やインターネットを通じて販売し、上位市場を攻略して行ったのだが、デルの製品はモジュール式だったので、顧客がカスタマイズしたパソコンを組み立てて、48時間以内に出荷したので好評を博した。
実は、この革命的で破壊的なデルのビジネス・モデルを支えていたのは、エイスースと言う台湾メーカーであって、ローエンドから始めて、まず、単純で信頼性の高い回路を、より低コストで製造し、デルに供給していたのである。
アウトソーシングすれば、当然資本効率は高くなるので、資本の1ドル1ドルから、益々多くの売り上げと利益を絞り出そうとするデルの資本の効率的な活用と言う経営戦略とも合致して、株式市場も好感した。
このデルのエイスースへのアウトソーシング戦略だが、エイスースの技術がどんどん向上して行って、次は、マザーボードを作らせてくれ、次は、パソコン全体の組み立てをやらせてくれ、とエスカレートするエイスースの要求に、デルは、はるかに安く製品が出来上がる上に、アウトソーシングした分の製造資産をバランスシートから外せて、RONA(純資産利益率)が高くなるので、デルにとっては好都合であった。
ところが、このプロセスはその後も進んで行って、デルはサプライチェーン管理を、続いてコンピュータの設計そのものまでアウトソーシングし、要するに、パソコン事業の中身をそっくりそのまま、ブランドを除くすべてをエイスースにアウトソーシングしてしまったのである。
結果として、デルのRONAは、極めて高くなったのだが、同社の消費者部門に残ったのは、直販事業に関するわずかな資産だけとなった。
もっと悪いことに、エイスースが、デルから学んだ総てを活用して、満を持して、2005年に、自社ブランドのパソコンを製造販売したのである。
ずっと数字だけ見て満足し、自分たちの戦略が如何に自分たちの将来を危うくするのかに全く気が付かなかったデルは、今や、パソコンも製造しなければ、出荷も保守も行わない、台湾企業の製造するパソコンに、「DELL」のブランドを許すだけに成り下がってしまったのである。
ファブレスとなったデルの弱みは、製品開発の企画や設計など一切アウトソーシングしてしまって、単なるブランド貸のようなものであるから、同じファブレスでも、ユニークで他の追随を許さないクリエイティブで革新的な製品やサービスを自らの手で創造してアウトソーシングしているアップルや、他の欧米のエクセレント・カンパニーとは、較べものにはならない。
単なる凡庸なパソコン販売会社に成り下がったデルのパソコン事業の不振は当然の帰結であろうが、優しいクリステンセンは、デルの名誉のためにと、収益性の高いサーバー事業に進出して、この分野で成功を収めていると付記している。
さて、先日、一時、シャープが、台湾のホンハイに資本参加話で翻弄されていたが、ホンハイやエイスースのみならず、台湾メーカーは、EMS(Electronics Manufacturing Service)、すなわち、OEMやODMによって、先進的な技術ノウハウを蓄積して、今や、押しも押されもしない巨大なエレクトロニクス産業の巨人として台頭し始めて来て、世界中の名だたるエレクトロニクス製品の多くが、台湾で生産されていると言っても、あながち間違いでない程力をつけてきた。
日本や韓国の産業とは全く違った形で大を成しつつある台湾企業のビジネスモデルは、EMS,ファウンドリー、ファブレスと言った形で再編成されるグローバルベースでのプロダクション・シェアリングの新しいモデルと言うことであろうか。
ところで、日本のエレクトロニクスやパソコン企業は、アップルなどのファブレスの先進国企業と、コスト競争力優位の韓国台湾などの狭間にあって、激烈なグローバル競争に巻き込まれて、どんどん、地歩を失いつつある。
優秀な技術を持ちながら、その差別化戦略が不発に終わっており、それに、何よりも、ファブレスの欧米企業には勿論、韓国台湾などの新興国企業に対しても、コスト競争力では、全く勝ち目がないので、殆ど競争にはならないし、未だに、ブルーオーシャン市場を生み出すイノベーション力さえもない。
かっての日本の企業のように、ローエンドから最先端の科学技術を駆使して這い上がろうとしている新興国企業には、どんどん、市場を蚕食されて行くのは必定であるので、その先を行く未来志向型の製品やサービスを生み出すべくイノベーションを追求する以外に日本の生きる道はないのである。
しかし、大前研一氏が説くように、膨大なヒンターランドを抱えた巨大な人口と経済力の日本が、果たして、小国で機動力のあるスイスやシンガポールのようなクオリティ国家になれるのであろうか。