熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

「中国の若年層で進む日本車離れ」何故か

2014年08月13日 | 経営・ビジネス
   先日、WSJ電子版に、「もうカッコよくない?中国の若年層で進む日本車離れ」と言う記事が出た。
   「心の中では、日本車を買う人はあまり裕福ではない人だと思っています」。日本車はもはや「カッコいい」とは思われなくなり、販売の伸びは今後、鈍化しそうだ。
   ボニ氏によると、競争激化に加え、中国の消費者が日本車についてダイナミックさに欠けるとか楽しくないといったイメージを持っているため、日本ブランドが苦戦を強いられているという。
   これに対して、ドイツブランドのシェアは19.6%から21.5%に、米国ブランドでは12.3%から12.8%に拡大した。と言うのである。

   実質的な価値を重視するプラグマチックなアメリカ人とは違って、ブランド価値を重視するヨーロッパ人や中国人の傾向だと思うのだが、最近、急速な経済成長によって、豊かになり始めた中国人の見せびらかし気質が、急速に台頭してきたと言うことであろう。
   何十年も前、TIME誌に、当時出始めた携帯電話を架けているかのような格好をして、おもちゃの携帯を持って街を歩くのが、上海や北京の中国人の流行だと言う記事が載ったことがあるが、これである。

   大分以前のこと、日産の欧州本社の竣工式の時に、下請けであったゼネコンの社長以下トップが、式典に参加するため、仕方なくレンタルした日産の最高級車にすし詰めで乗って来たのだが、いくら良くても、やはり、ベンツの方が良いと言っていた。ヒットラーに蹂躙されたのに、それでも、ドイツ製が良いのかと言ったら苦笑していたが、ヨーロッパで、レクサスが苦戦するのが良く分かる逸話である。

   さて、ここで興味深いのは、BCGの「世界を動かす消費者たち」で指摘されている中国人のラグジュアリー商品への対応の姿勢についての指摘である。
   3点指摘されているのだが、その2つは、自動車についても関係ありそうで面白い。
   まず、第一は、他のどの国の消費者よりもブランドネームを重視する。
   群衆の中で目立ち、人とは違う存在とみなされることへの欲望は、長く続いた個性を抑圧するコミュニズム集団主義の反動で強烈であり、ブランドネームと知名度をことさら重視する。
   第二に、豊かな中国人は、富を誇示する方法として、心に残る体験よりもモノへの投資を好む。彼らは、所有することを、何らかの存在になること以上に重視する。クラシックカー、高級ワイン、芸術品等々蒐集可能な高級品にラッシュし、中国のコレクターは、中国の芸術品や骨董に対する所有欲も旺盛であることは勿論、ラグジュアリー商品取得のために膨大な財を注ぎ込んでいる。
   第三は、豊かな中国人は、ラグジュアリー商品を海外で購入したがる。ヨーロッパのブランドを追い求めて、パリ、ミラノ、ロンドンを洗練されたファッションの都と考えて殺到する。と言うのである。

   この傾向から言えば、日本のメーカーなり商品は、世界のメーカーと競合している産業分野では、いくら品質が良くてコストパーフォーマンスが高くても、ファッション性とクリエイティブで高級品感覚の遥かに上位にあるヨーロッパのブランド製品には、中国では太刀打ちできないと言うことである。
   
   日本の自動車会社は、対策として、
   ”トヨタの広報担当者はデザイン面でも販売促進活動でも「若さ」を強調すると述べた。同社は今年、中国を含めた新興市場の若年層を引き付けるため、米国人歌手のビヨンセさんを起用した世界市場向けの広告キャンペーンを開始した。
   ホンダの広報担当者によると、同社は「ダイナミックで若々しいイメージ」を作り上げることに力を入れているという。4月の北京モーターショーでは、若者向けの小型コンセプトカー「コンセプトB」を公開した。”と言うのだが、
   そのような販売戦略の問題ではなく、根本的な問題は、日本車に、ブランド力のみならず、高度なファッション性や中国人消費者を圧倒するようなカッコ良さ素晴らしさ魅惑力が欠けていると言うことであって、中国人が目を廻すようなクリエイティブな価値ある商品を開発しない限り勝ち目はない。


   さて、サーチチャイナが、隣の国のことだが、「韓国の自動車市場 シェア伸ばす外国車」と言う記事を掲載しており、韓国では高級車が特に販売台数を伸ばして、「BMW、ベンツ、アウディが販売台数の上位を占めており・・・、「韓国で高級車を購入するのは主に20-40代の裕福な女性で、彼女たちには韓国メーカーの自動車は高級さに欠けていると映るようだ」と報道しており、これなども、先の中国の乗用車への嗜好と同列の傾向であろう。


   もう一つ興味深いのは、今朝日経が朝刊で報じた、「タタ、格安車路線を転換 4年ぶり中間層向け新ブランド」と言う記事である。
   ”インド自動車大手のタタ自動車は12日、4年ぶりの新ブランド車となるセダン「ゼスト」を発売した。内外装で高級感を演出した中間所得層向けだ。2009年発売の超低価格車「ナノ」が失敗し、販売低迷にあえぐ。「低所得者でも買える国民車をつくる」という戦略を転換、ライバルの主力車種がひしめく激戦区で勝負に打って出る。”と報じた。
   ”10万ルピー台からの超低価格でナノは話題をさらったが、販売実績では失敗が明らかだ。足元の月間販売は1千台程度。当初見込みの10分の1に満たない状況が続く。「低所得者層向けのBOPビジネスの発想が自動車にはそぐわなかった」(競合メーカー)と、企画自体に無理があったとの指摘もある。”と言うのである。

   先日、タタ・モーターの件で、タタ・ナノについて、破壊的イノベーションだと言う記事を書いたが、これについては、今後のBOPビジネスやアフリカ中南米などの発展途上国市場の動向などを見極めないと、とやかく論評するのは時期尚早だと思っている。
   多少気になるのは、トヨタがローエンドの破壊的イノベーションからアメリカ市場に参入して成功を収めた頃と比べて、自動車市場に構造変化が起こっているのかと言うことである。

   そして、もう一つは、感性豊かな価値創造を重視するクリエイティビティ時代に突入した成長の激しいグローバル経済においては、自動車市場においても、クオリティよりも差別化されたブランド性やファッション性を重視した高級品志向が主流になるのかと言う問題である。
   この点については、もう少し考えてみたいと思っている。
  

   私は、ヨーロッパに居た時には、アウディやベンツを社用車として使っていたし、必要に応じて、色々なヨーロッパの高級車をレンタルして乗ってみたが、当時は、日本車よりも、ヨーロッパ車の方が、手配が楽であったし、日本車に対しても全幅の信頼をしていたので、あまり、その差には気にならなかった。
   尤も、ドイツを、ベンツの高級車でアウトバーンを突っ走ったり、フランス国内を装甲車の様なボルボで10日ほど走り回ったりするなど、ヨーロッパ車を使い分けながら走っていた頃は、安全性も含めて、素晴らしいと感嘆したことはあった。

   さて、口絵写真は、株主総会で見たニッサンの高級車だが、どこが、ヨーロッパブランドの高級車と比べて劣るのか、私自身は、要するに知名度とブランドネームの差だけではないかと思っている。
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