「経済学の巨星、激突す!!」と帯に大書された本だが、日本は世界のロールモデルだと言うアベノミクス礼賛論。
経済学は、これが正しいと言った決定版がないので、何が正しくて適切かは、時の流れによって推移変化するので、現在の一つの経済論だと思って読めば、面白いし参考になる。
私自身は、これまでに何度も書いてきたが、シュンペーターの創造的破壊によるイノベーション成長論を勉強してきたので、サプライサイドを殆ど軽視して、ディマンドサイドばかりを重視したケインジアン的な理論展開によって経済を論じているクルーグマンに対しては、是々非々と言うか、賛否相半ばしているのだが、インパクトのあるその著作のかなりを、興味を持って読んではいる。
今回の浜田教授との対談形式のこの著作でも、クルーグマンは、殆ど同じ理論を展開しているのだが、現在の国際経済や日本経済について、カレントトピックスを交えた現実的な話を、具体的に語るなど、興味深い。
下記においては、クルーグマンの語っていることについて、論じることにして、浜田教授の見解については、我々には殆ど旧知であるので、必要に応じて触れることにする。
まず、TPPに関してだが、自称「どっちつかずの反対者」だと言って、スティグリッツはじめ、リベラルな経済学者でTPPに熱心な人は誰もいない。と言う。
反対理由の詳細は、曖昧で、
TPPの実態は、貿易協定とは言えず、紛争解決と知的所有権に関する協定で、このどちらについても問題がある。金融規制など、アメリカ国内政策の独立性が損なわれる可能性がある。民主党幹部も、経済学者でさえ、何故TPPが重要なのか、きちんと説明できない。などと語っていて、自由貿易の利点は、過去の一連の貿易協定によって、すでに殆ど実現されていて、特に、あらためて論じるまでもないと言うことのようである。
オバマ大統領が、中国による国際貿易のルールの構築を避けるために、TPPによってアメリカ主導の貿易秩序を確立するのだと言う発言とは大分距離があるが、スティグリッツのように、弱肉強食の交易秩序の構築であるから反対だと言う方が分かり易い。
アベノミクスについては、
大胆な金融政策によるハイパーインフレの心配はなく、日本がデフレから脱却するためには必要な処方箋である。
これまで、日本の政策当局は、財政刺激策には金融面でのサポートはなく、金融緩和には税制面でのサポートがないなど、また、「財政再建」の名目で消費税増税で経済を失速させるなど、自分たちで可能性を潰してきた。
デフレから脱却するためには、重力圏から脱出するための「脱出速度」に達することが必要で、まだ、その脱出速度に達していない今、絶対に、消費税を10%に上げるべきではない。と消費税アップの愚策を強調している。
成長戦略の一環である労働不足の解消には、女性の労働市場への参入拡大が必須であり、外人への「ゲスト・ワーカー型プログラム」などを提示している。
また、現在の日本の生産性が、アメリカや休暇の多いフランスなどと比べて非常に低いので、構造改革などを実施して、その向上を図るべきだと言う。
日銀の2%インフレ目標については、政策が妥当であっても「臆病の罠」に堕ちるので、実際に2%のインフレを達成したいなら、インフレを国民に納得させるためには、低すぎるので、目標は4%にすべきだと言う。
いずれにしろ、アベノミクスの成功率は、半々だと言いながら、成功すれば、日本は世界のロールモデルとなり、日本の国債の格付けはAAAであり、自国の紙幣を刷ることが出来る国は、デフォルトリスクがない、と述べている。
浜田教授も、「日本の対外純資産は24年連続で世界一だ」と言って、一顧だにもしていないが、私自身は、日本の国家債務の異常さについては、むしろ、一般論のように心配しており、特に、経済成長の可能性が著しく減退した成熟経済化した日本において、毎年、プライマリーバランスがマイナスで、どんどん、国家債務が増加の一途を辿って減速しないことに危惧を感じている。
窮地に陥れば、どんどん、日本円を刷れば良いのだと言う気にはなれないし、このままでは、どこかで暗礁に乗り上げて経済危機に直面するであろうと思っている。
ギリシャ危機についても、ユーロを導入しながら政治統合を行わなかったEUの蹉跌を論じながら、日本やアメリカのギリシャ化の可能性は杞憂だと一蹴し、ロシアなど国際政治や地政学的な議論をも展開していて、非常に面白い.
カナダについて、「未来」が最初に起こる国だと、経済政策を賞賛しているのは、赤字の脅迫に取りつかれた経済緊縮の通説を真っ向から否定して、通貨政策は勿論、非正統的な経済理論を支持して、財政赤字をものともせずに、財政出動や投資によって需要を拡大したからだと、何時もの持論を展開しているのが面白い。
さて、問題の中国経済については、どう考えるのか、「中国バブルの深度」と言う項で、かなり、悲観的な議論を展開しているので、触れてみたい。
結論から言うと、クルーグマンは、中国は、現在、バブル崩壊期にあって、日本のバブル崩壊を想起させる状態で、しかも、今がピークではなくて、中国特有の問題がいくつもあって、更なる失速がある。と言う。
投資、特に、不動産投資の異常なる過剰、GDPにおける投資50%に消費30%の異常なるアンバランス、シャドウ―バンキングなどの膨大な不良債権の存在、汚職政治の腐敗、・・・列挙すれば限りなく、中国の経済指標などは、全くでたらめで信用できず、このままでは、待っているのは、バブルの完全崩壊へ一直線だと言う。
中国経済のどこかでの躓きの可能性については、私もこれまでも何度か論じてきたが、かっての日本と同様で、まだ、成熟経済化へははるかに遠いので、バブルが崩壊して壊滅的な打撃を受けても、ある程度のリバウンドはあると思っている。
クルーグマンは、中国の実態は、発展途上国で、いまだ「かなり貧しい国」だと言うのだが、しかし、中国経済の世界第二位と言う膨大さに、世界経済がおんぶにだっこで、その果てに、今や、奈落の底へと言わないまでも、世界中が振り回されている。
さて、この本、英語版がないので何とも言えないが、2020年の世界経済の勝者と敗者と言うタイトルだが、この本から行くと、アベノミクスで、正しい経済学(?)を信奉して経済政策を推進している日本が、勝者であって、バブル崩壊の中国や下降一方のロシアなどが、敗者と言うことであろうか。
余談ながら、安倍首相の経済顧問の浜田宏一教授の展開している議論は、夫々、クルーグマンと対比して考えると興味深い。
今回、レビュー出来なかったが、余程叩かれ続けたのか、感情的なほど、「日銀主流論」を糾弾しており、また、安倍首相の「タカ派」姿勢を、ニクソンやレーガンと言ったタカ派大統領に重ねて評価したり、中国への対抗を「ゲーム理論」的なセンスで当たるべきだとか、賛否はともかく、結構、面白く読ませてもらったことを付記しておく。
経済学は、これが正しいと言った決定版がないので、何が正しくて適切かは、時の流れによって推移変化するので、現在の一つの経済論だと思って読めば、面白いし参考になる。
私自身は、これまでに何度も書いてきたが、シュンペーターの創造的破壊によるイノベーション成長論を勉強してきたので、サプライサイドを殆ど軽視して、ディマンドサイドばかりを重視したケインジアン的な理論展開によって経済を論じているクルーグマンに対しては、是々非々と言うか、賛否相半ばしているのだが、インパクトのあるその著作のかなりを、興味を持って読んではいる。
今回の浜田教授との対談形式のこの著作でも、クルーグマンは、殆ど同じ理論を展開しているのだが、現在の国際経済や日本経済について、カレントトピックスを交えた現実的な話を、具体的に語るなど、興味深い。
下記においては、クルーグマンの語っていることについて、論じることにして、浜田教授の見解については、我々には殆ど旧知であるので、必要に応じて触れることにする。
まず、TPPに関してだが、自称「どっちつかずの反対者」だと言って、スティグリッツはじめ、リベラルな経済学者でTPPに熱心な人は誰もいない。と言う。
反対理由の詳細は、曖昧で、
TPPの実態は、貿易協定とは言えず、紛争解決と知的所有権に関する協定で、このどちらについても問題がある。金融規制など、アメリカ国内政策の独立性が損なわれる可能性がある。民主党幹部も、経済学者でさえ、何故TPPが重要なのか、きちんと説明できない。などと語っていて、自由貿易の利点は、過去の一連の貿易協定によって、すでに殆ど実現されていて、特に、あらためて論じるまでもないと言うことのようである。
オバマ大統領が、中国による国際貿易のルールの構築を避けるために、TPPによってアメリカ主導の貿易秩序を確立するのだと言う発言とは大分距離があるが、スティグリッツのように、弱肉強食の交易秩序の構築であるから反対だと言う方が分かり易い。
アベノミクスについては、
大胆な金融政策によるハイパーインフレの心配はなく、日本がデフレから脱却するためには必要な処方箋である。
これまで、日本の政策当局は、財政刺激策には金融面でのサポートはなく、金融緩和には税制面でのサポートがないなど、また、「財政再建」の名目で消費税増税で経済を失速させるなど、自分たちで可能性を潰してきた。
デフレから脱却するためには、重力圏から脱出するための「脱出速度」に達することが必要で、まだ、その脱出速度に達していない今、絶対に、消費税を10%に上げるべきではない。と消費税アップの愚策を強調している。
成長戦略の一環である労働不足の解消には、女性の労働市場への参入拡大が必須であり、外人への「ゲスト・ワーカー型プログラム」などを提示している。
また、現在の日本の生産性が、アメリカや休暇の多いフランスなどと比べて非常に低いので、構造改革などを実施して、その向上を図るべきだと言う。
日銀の2%インフレ目標については、政策が妥当であっても「臆病の罠」に堕ちるので、実際に2%のインフレを達成したいなら、インフレを国民に納得させるためには、低すぎるので、目標は4%にすべきだと言う。
いずれにしろ、アベノミクスの成功率は、半々だと言いながら、成功すれば、日本は世界のロールモデルとなり、日本の国債の格付けはAAAであり、自国の紙幣を刷ることが出来る国は、デフォルトリスクがない、と述べている。
浜田教授も、「日本の対外純資産は24年連続で世界一だ」と言って、一顧だにもしていないが、私自身は、日本の国家債務の異常さについては、むしろ、一般論のように心配しており、特に、経済成長の可能性が著しく減退した成熟経済化した日本において、毎年、プライマリーバランスがマイナスで、どんどん、国家債務が増加の一途を辿って減速しないことに危惧を感じている。
窮地に陥れば、どんどん、日本円を刷れば良いのだと言う気にはなれないし、このままでは、どこかで暗礁に乗り上げて経済危機に直面するであろうと思っている。
ギリシャ危機についても、ユーロを導入しながら政治統合を行わなかったEUの蹉跌を論じながら、日本やアメリカのギリシャ化の可能性は杞憂だと一蹴し、ロシアなど国際政治や地政学的な議論をも展開していて、非常に面白い.
カナダについて、「未来」が最初に起こる国だと、経済政策を賞賛しているのは、赤字の脅迫に取りつかれた経済緊縮の通説を真っ向から否定して、通貨政策は勿論、非正統的な経済理論を支持して、財政赤字をものともせずに、財政出動や投資によって需要を拡大したからだと、何時もの持論を展開しているのが面白い。
さて、問題の中国経済については、どう考えるのか、「中国バブルの深度」と言う項で、かなり、悲観的な議論を展開しているので、触れてみたい。
結論から言うと、クルーグマンは、中国は、現在、バブル崩壊期にあって、日本のバブル崩壊を想起させる状態で、しかも、今がピークではなくて、中国特有の問題がいくつもあって、更なる失速がある。と言う。
投資、特に、不動産投資の異常なる過剰、GDPにおける投資50%に消費30%の異常なるアンバランス、シャドウ―バンキングなどの膨大な不良債権の存在、汚職政治の腐敗、・・・列挙すれば限りなく、中国の経済指標などは、全くでたらめで信用できず、このままでは、待っているのは、バブルの完全崩壊へ一直線だと言う。
中国経済のどこかでの躓きの可能性については、私もこれまでも何度か論じてきたが、かっての日本と同様で、まだ、成熟経済化へははるかに遠いので、バブルが崩壊して壊滅的な打撃を受けても、ある程度のリバウンドはあると思っている。
クルーグマンは、中国の実態は、発展途上国で、いまだ「かなり貧しい国」だと言うのだが、しかし、中国経済の世界第二位と言う膨大さに、世界経済がおんぶにだっこで、その果てに、今や、奈落の底へと言わないまでも、世界中が振り回されている。
さて、この本、英語版がないので何とも言えないが、2020年の世界経済の勝者と敗者と言うタイトルだが、この本から行くと、アベノミクスで、正しい経済学(?)を信奉して経済政策を推進している日本が、勝者であって、バブル崩壊の中国や下降一方のロシアなどが、敗者と言うことであろうか。
余談ながら、安倍首相の経済顧問の浜田宏一教授の展開している議論は、夫々、クルーグマンと対比して考えると興味深い。
今回、レビュー出来なかったが、余程叩かれ続けたのか、感情的なほど、「日銀主流論」を糾弾しており、また、安倍首相の「タカ派」姿勢を、ニクソンやレーガンと言ったタカ派大統領に重ねて評価したり、中国への対抗を「ゲーム理論」的なセンスで当たるべきだとか、賛否はともかく、結構、面白く読ませてもらったことを付記しておく。