イワン・クラステフ , スティーヴン・ホームズ 著「模倣の罠――自由主義の没落 The Light that Failed: Why the West is Losing the Fight for Democracy」は非常に興味深い本である。
中公をそのまま引用すると、
”冷戦に勝利した後、なぜ西欧世界は政治的均衡を失ったのか。西側を模倣しようとして失敗した東側諸国では極右政党が伸張。トランプのアメリカもこの流れの中にある。自由主義の試練を描く。”
ソ連が崩壊して冷戦が終結し、自由主義資本主義が全面勝利したとして、フクヤマが「歴史の終わり」を宣言した。共産主義のくびきから解放された多くの旧共産圏諸国は、雪崩を打って自由主義モデルを模倣したが、夢見た理想郷へは程遠く、徐々にその政治経済社会体制が暗礁に乗り上げた。幻滅した中東欧諸国では、反動的に、権威主義が勢いづき始めて、勝利を収めたはずの自由主義が一気に後退して行った。更に、中国の台頭やソ連の専制的な強権政治が勢いを増し、手本であった先進諸国でさえ、「模倣の罠」に捕われた諸国同様、民主主義と自由主義を標榜した政治社会経済システムが窮地に直面して、自由主義の没落が顕著になってきた。さて、自由な民主主義を守るためにどうするか。
これが、この本のテーマだが、これまでのように本のレビューや書評と言うことではなく、私自身が注目したトピックスに触れて、コメントを続けることにする。
今回は、ヨーロッパへの移民難民問題によって引き起こされている中東欧で猛威を振るっている人口動態のパニックについてである。
先にブックレビューしたダグラス・マレー 著「西洋の自死」で展開されている「激しい移民難民の流入でヨーロッパ文化がイスラムに乗っ取られて自死するという英仏独の恐怖」とは全く違って、
中東欧など移民が殆どいない地域でありながら、激しい移民排斥運動が起こっているのは、何故か。それは、土着の住民の出生率の低さと大量の人口流出が組み合わさって人口が激減し、出生率の高い侵入者である非ヨーロッパ人を受け入れれば、ナショナル・アイデンティティを希薄化させ国民の一体感を弱めて、人口動態が崩壊するという恐怖に対する防衛反応だというのである。
因みに、この人口崩壊だが、1989~2017年には、ラトヴィアでは人口の27%が、リトアニアでは22.5%が、ブルガリアでは21%が流出し、東ドイツではベルリンの壁崩壊後200万人が西独へ移住し、ルーマニアでは、EU加盟した2007年以降340万人が出国した。出国したのは、その殆どが40歳以下の若い世代で、高度な学問を修得した頭脳流出も多いという。
高齢化、低出生率、何時までも続く移民の流入が組み合わさって、中東欧の人口動態パニックの原因となっている。
EU域内では、人ものカネの移動は自由であり、ヨーロッパ文化が絶え間なく対話する国境が開かれた世界では、新たなメディア環境が、祖国の出来事との繋がりを失うことなく国外で生活できるので、西洋先進国に移住して、より良い生活を追求しようとする若者の流出は止めようがない。
最も生産性が高くて若い有能な頭脳流出を必死に止めようと、ハンガリーのオルバーンなど民族主義を鼓舞して必死だが、独裁的で強権的な保守反動政治をやっていて、誰がそんな戯言を聞くか、と言うところが興味深い。
私は、ベルリンの壁崩壊後、しばらく、ロンドンにいたが、庭仕事や雑用を頼んだ若い女性は東欧からで、業務上付き合っていたエンジニアの何人かはリトアニアなどのバルト3国の出身者であったし、結構移民の人たちとの交流があった。世界中に植民地を作って大英帝国を築き上げたイギリスは、かなり、移民には寛容な筈だったが、移民流入拒否で、ブレクジットに走らざるを得なかったのは、政治経済社会体制の制度疲労であろうか。
いずれにしろ、ヨーロッパは、オープンな民主主義国故に、移民難民の流入に、その文化社会が問われている。
水と油なのか、塩水や砂糖水のように混合液なのか、ヨーロッパ文化と異文化との鬩ぎ合いが、ヨーロッパを悩ませている。
考えるべきは、日本はどうするのか。である。
中公をそのまま引用すると、
”冷戦に勝利した後、なぜ西欧世界は政治的均衡を失ったのか。西側を模倣しようとして失敗した東側諸国では極右政党が伸張。トランプのアメリカもこの流れの中にある。自由主義の試練を描く。”
ソ連が崩壊して冷戦が終結し、自由主義資本主義が全面勝利したとして、フクヤマが「歴史の終わり」を宣言した。共産主義のくびきから解放された多くの旧共産圏諸国は、雪崩を打って自由主義モデルを模倣したが、夢見た理想郷へは程遠く、徐々にその政治経済社会体制が暗礁に乗り上げた。幻滅した中東欧諸国では、反動的に、権威主義が勢いづき始めて、勝利を収めたはずの自由主義が一気に後退して行った。更に、中国の台頭やソ連の専制的な強権政治が勢いを増し、手本であった先進諸国でさえ、「模倣の罠」に捕われた諸国同様、民主主義と自由主義を標榜した政治社会経済システムが窮地に直面して、自由主義の没落が顕著になってきた。さて、自由な民主主義を守るためにどうするか。
これが、この本のテーマだが、これまでのように本のレビューや書評と言うことではなく、私自身が注目したトピックスに触れて、コメントを続けることにする。
今回は、ヨーロッパへの移民難民問題によって引き起こされている中東欧で猛威を振るっている人口動態のパニックについてである。
先にブックレビューしたダグラス・マレー 著「西洋の自死」で展開されている「激しい移民難民の流入でヨーロッパ文化がイスラムに乗っ取られて自死するという英仏独の恐怖」とは全く違って、
中東欧など移民が殆どいない地域でありながら、激しい移民排斥運動が起こっているのは、何故か。それは、土着の住民の出生率の低さと大量の人口流出が組み合わさって人口が激減し、出生率の高い侵入者である非ヨーロッパ人を受け入れれば、ナショナル・アイデンティティを希薄化させ国民の一体感を弱めて、人口動態が崩壊するという恐怖に対する防衛反応だというのである。
因みに、この人口崩壊だが、1989~2017年には、ラトヴィアでは人口の27%が、リトアニアでは22.5%が、ブルガリアでは21%が流出し、東ドイツではベルリンの壁崩壊後200万人が西独へ移住し、ルーマニアでは、EU加盟した2007年以降340万人が出国した。出国したのは、その殆どが40歳以下の若い世代で、高度な学問を修得した頭脳流出も多いという。
高齢化、低出生率、何時までも続く移民の流入が組み合わさって、中東欧の人口動態パニックの原因となっている。
EU域内では、人ものカネの移動は自由であり、ヨーロッパ文化が絶え間なく対話する国境が開かれた世界では、新たなメディア環境が、祖国の出来事との繋がりを失うことなく国外で生活できるので、西洋先進国に移住して、より良い生活を追求しようとする若者の流出は止めようがない。
最も生産性が高くて若い有能な頭脳流出を必死に止めようと、ハンガリーのオルバーンなど民族主義を鼓舞して必死だが、独裁的で強権的な保守反動政治をやっていて、誰がそんな戯言を聞くか、と言うところが興味深い。
私は、ベルリンの壁崩壊後、しばらく、ロンドンにいたが、庭仕事や雑用を頼んだ若い女性は東欧からで、業務上付き合っていたエンジニアの何人かはリトアニアなどのバルト3国の出身者であったし、結構移民の人たちとの交流があった。世界中に植民地を作って大英帝国を築き上げたイギリスは、かなり、移民には寛容な筈だったが、移民流入拒否で、ブレクジットに走らざるを得なかったのは、政治経済社会体制の制度疲労であろうか。
いずれにしろ、ヨーロッパは、オープンな民主主義国故に、移民難民の流入に、その文化社会が問われている。
水と油なのか、塩水や砂糖水のように混合液なのか、ヨーロッパ文化と異文化との鬩ぎ合いが、ヨーロッパを悩ませている。
考えるべきは、日本はどうするのか。である。