シンジケート プロジェクトのJOSEPH S. NYE, JR.の論文American Democracy and Soft Power Nov 2, 2021について考えたい。
バイデン大統領は、COP26で各国の指導者たちから、ドナルド・トランプ大統領によって米国のソフトパワーがどれほどひどく損害を受けたかを尋ねられたが、確かに、トランプが修復必須の民主的規範をないがしろにしたけれど、アメリカ文化は、悲観主義者がしばしば過小評価している大きな回復力源resilience を保持している。ヨーロッパの知人も、アメリカのハードパワーの低下を心配していたが、一方、今、内部で何が起こっているのか、そしてそれがアメリカの外交政策の根底にあるソフトパワーにどのような影響を与えるかについて、もっと心配していたが、その心配は当たっていない、と言うのがナイ教授の見解である。
一部省略しながら、ナイ教授の見解を、まず、紹介すると、
賢い政治指導者は、価値が力を生み出し得るのだと長い間理解してきた。米国のソフトパワーは、他の人にとってそれらが魅力的であるかどうか、アメリカの文化と外交政策に依存している。それはまた、米国人の価値観と国内で民主主義をどのように実践しているかその方法にかかっている。
国際的な世論調査が示すように、ドナルド・トランプ大統領の任期中はアメリカのソフトパワーにとっては好ましくなかった。これは、同盟国や多国間機関を敬遠したトランプのネイティビスト外交政策や、COVID-19パンデミックに対する彼の政権の無能な対応に対する反応によっていた。
しかし、米国のソフトパワーにさらにダメージを与えたのは、2020年の選挙で敗れた後、政治権力の秩序ある移行を混乱させようとしたトランプの所業であった。そして、2021年1月6日、共和党のベン・サッセ上院議員が米国議会議事堂の侵略を述べたように、自由世界の指導者が憲法への誓いの義務を果たすべく、副大統領が宣言を行おうとしたときに、暴徒の乱入で、世界で最も偉大な自治の象徴が蹂躙された。
アメリカの同盟国や他の国々はショックを受け、アメリカの魅力は一気に下落した。米国のソフトパワーは回復できるのかだが、このようなことは初めてではない。
米国は深刻な問題を抱えているが、過去には、それを何度も救った回復力と改革の能力があった。1960年代、アメリカの人種差別のレガシーが大規模な都市暴動を引き起こし、ベトナム戦争に対する抗議が暴力的になった。大学や政府の建物で爆弾が爆発した。州兵はケント州立大学で学生の抗議者を殺した。マーティン・ルーサー・キング・ジュニアと2人のケネディ家の暗殺を眼前にした。ジョージ・ウォレスのようなポピュリズムのデマゴーグが、憎しみの炎をあおった。しかし、10年以内に、議会は一連の政治改革を制定し、ジェラルド・フォードの正直さ、ジミー・カーターの人権政策、ロナルド・レーガンの楽観主義が、アメリカの魅力を回復するために貢献した。
さらに、ベトナムへのアメリカの政策を非難する抗議者が世界中の大通りを行進しても、彼らは「インターナショナル」よりも「We Shall Overcome」を歌う可能性の方が高かった。公民権運動の国歌は、アメリカへの誘いは政府の政策ではなく、市民社会と自己批判と改革の能力に大きく依存していることを示した。
軍事力などのハードパワー資産とは異なり、多くのソフトパワーの源は政府とは別であり、政治にもかかわらず他を魅了する。ハリウッド映画やポピュラー音楽は、自立した女性や権限を与えられたマイノリティを紹介し、他の人を引き付けることができる。アメリカの多様で自由な報道、財団の慈善活動、大学での調査の自由もそうであり、アメリカの企業、大学、財団、教会、抗議運動は、ソフトパワーを開発し、他の人々のアメリカへの国家観を強化する可能性がある。
しかし、平和的な抗議行動はソフトパワーを生み出すことができるが、1月6日の国会議事堂とその周辺の暴徒は平和とは程遠かった。その日の出来事は、トランプが政治的二極化を悪化させた手法の不穏な表れであり、彼は盗まれた選挙の神話を共和党のリトマス試験にし続けている。
確かに、米国は2016年にトランプが選出される以前から政治的二極化の拡大を経験していた。トランプが編み出した新しい手法は、GOPを支配する政治的武器としてネイティビストポピュリズムを利用し、悪化させることであり、彼の支持者からの挑戦の脅威で、議会共和党を苦しめた。多くの人はまだ2020年の選挙に関する彼の嘘に反対することに恐怖を感じている。幸いなことに、連邦制度では、多くの州当局者や議員が、彼らに、トランプ票を探せと脅迫するトランプの努力に立ち向かった。一部の悲観論者は、これが続くことができるかどうかを心配している。
アメリカの民主主義の終焉を悼む人々にとって、2020年の選挙における前例のない高い投票率が、デマゴーグを蹴落としたことを覚えておくことが重要である。そして、選挙の結果は、トランプの任命者の一部を含む独立した司法によって監督された60以上の裁判で支持され、そして、最終的に議会によって認定された。
これは、すべてがアメリカの民主主義がうまくいっているという意味ではない。トランプ大統領は様々な民主的規範を侵した。二極化は続き、ほとんどの共和党議員は選挙に関する彼の嘘を信じている。ソーシャルメディアのビジネスモデルは、ユーザーの「エンゲージメント」を引き出すことで利益を得るアルゴリズムに頼ることによって、既存の二極化を悪化させ、FacebookやGoogleのような企業は、世論や議会の公聴会からの圧力を受けて、ゆっくりだが、それに対応し始めている。
同時に、アメリカの文化には、過去の悲観主義者が過小評価してきた回復力の源が、まだ残っている。報道の自由、独立した裁判所、平和的な抗議の権利は、アメリカのソフトパワーの最大の源の一つである。誤った政府の政策がアメリカの魅力を低下させるとしても、自己反省と自己修正の能力は、より深いレベルで他の人にとって魅力的である。私が懐疑的なヨーロッパの友人に言ったように、価値観は世代とともに変化し、若い世代は希望の源である。
と、ナイ教授は締めくくっている。
これまで、このブログで、ナイ教授の見解について何度も書いてきたが、徐々に、覇権の後退とアメリカンパワーの凋落を感じさせてきており、外交政策の変更を色濃く感じる。
以前には、ハードパワーや同盟関係についてもアメリカ優位を論じ、ハードパワーとソフトパワーが上手く調和したスマートパワーについての著作を著していたが、今回の論文では、ソフトパワーに集中している。
さて、現在は、世界の歴史観は勿論のこと、文化文明論も総て欧米中心で展開されているのだが、5千年の歴史を持つ中国が、起死回生を図り、インドが蘇ることに成功すれば、ギリシャローマ文化文明やキリスト教文化も、一気に影が薄くなるであろう。
アンガス・マディソンが説く如く、18世紀中葉までは中国インドの天下であって、欧米文化文明が覇権を握ったのはほんの一瞬、
現在は、欧米からアジアへと中心が回帰しつつあると言う。
李白、杜甫を掘り起こすだけでも、中国のソフトパワーは、並の欧米文化を凌駕する筈。
中国の2149年の100年マラソン計画の実現は、もう、目の前である。
バイデン大統領は、COP26で各国の指導者たちから、ドナルド・トランプ大統領によって米国のソフトパワーがどれほどひどく損害を受けたかを尋ねられたが、確かに、トランプが修復必須の民主的規範をないがしろにしたけれど、アメリカ文化は、悲観主義者がしばしば過小評価している大きな回復力源resilience を保持している。ヨーロッパの知人も、アメリカのハードパワーの低下を心配していたが、一方、今、内部で何が起こっているのか、そしてそれがアメリカの外交政策の根底にあるソフトパワーにどのような影響を与えるかについて、もっと心配していたが、その心配は当たっていない、と言うのがナイ教授の見解である。
一部省略しながら、ナイ教授の見解を、まず、紹介すると、
賢い政治指導者は、価値が力を生み出し得るのだと長い間理解してきた。米国のソフトパワーは、他の人にとってそれらが魅力的であるかどうか、アメリカの文化と外交政策に依存している。それはまた、米国人の価値観と国内で民主主義をどのように実践しているかその方法にかかっている。
国際的な世論調査が示すように、ドナルド・トランプ大統領の任期中はアメリカのソフトパワーにとっては好ましくなかった。これは、同盟国や多国間機関を敬遠したトランプのネイティビスト外交政策や、COVID-19パンデミックに対する彼の政権の無能な対応に対する反応によっていた。
しかし、米国のソフトパワーにさらにダメージを与えたのは、2020年の選挙で敗れた後、政治権力の秩序ある移行を混乱させようとしたトランプの所業であった。そして、2021年1月6日、共和党のベン・サッセ上院議員が米国議会議事堂の侵略を述べたように、自由世界の指導者が憲法への誓いの義務を果たすべく、副大統領が宣言を行おうとしたときに、暴徒の乱入で、世界で最も偉大な自治の象徴が蹂躙された。
アメリカの同盟国や他の国々はショックを受け、アメリカの魅力は一気に下落した。米国のソフトパワーは回復できるのかだが、このようなことは初めてではない。
米国は深刻な問題を抱えているが、過去には、それを何度も救った回復力と改革の能力があった。1960年代、アメリカの人種差別のレガシーが大規模な都市暴動を引き起こし、ベトナム戦争に対する抗議が暴力的になった。大学や政府の建物で爆弾が爆発した。州兵はケント州立大学で学生の抗議者を殺した。マーティン・ルーサー・キング・ジュニアと2人のケネディ家の暗殺を眼前にした。ジョージ・ウォレスのようなポピュリズムのデマゴーグが、憎しみの炎をあおった。しかし、10年以内に、議会は一連の政治改革を制定し、ジェラルド・フォードの正直さ、ジミー・カーターの人権政策、ロナルド・レーガンの楽観主義が、アメリカの魅力を回復するために貢献した。
さらに、ベトナムへのアメリカの政策を非難する抗議者が世界中の大通りを行進しても、彼らは「インターナショナル」よりも「We Shall Overcome」を歌う可能性の方が高かった。公民権運動の国歌は、アメリカへの誘いは政府の政策ではなく、市民社会と自己批判と改革の能力に大きく依存していることを示した。
軍事力などのハードパワー資産とは異なり、多くのソフトパワーの源は政府とは別であり、政治にもかかわらず他を魅了する。ハリウッド映画やポピュラー音楽は、自立した女性や権限を与えられたマイノリティを紹介し、他の人を引き付けることができる。アメリカの多様で自由な報道、財団の慈善活動、大学での調査の自由もそうであり、アメリカの企業、大学、財団、教会、抗議運動は、ソフトパワーを開発し、他の人々のアメリカへの国家観を強化する可能性がある。
しかし、平和的な抗議行動はソフトパワーを生み出すことができるが、1月6日の国会議事堂とその周辺の暴徒は平和とは程遠かった。その日の出来事は、トランプが政治的二極化を悪化させた手法の不穏な表れであり、彼は盗まれた選挙の神話を共和党のリトマス試験にし続けている。
確かに、米国は2016年にトランプが選出される以前から政治的二極化の拡大を経験していた。トランプが編み出した新しい手法は、GOPを支配する政治的武器としてネイティビストポピュリズムを利用し、悪化させることであり、彼の支持者からの挑戦の脅威で、議会共和党を苦しめた。多くの人はまだ2020年の選挙に関する彼の嘘に反対することに恐怖を感じている。幸いなことに、連邦制度では、多くの州当局者や議員が、彼らに、トランプ票を探せと脅迫するトランプの努力に立ち向かった。一部の悲観論者は、これが続くことができるかどうかを心配している。
アメリカの民主主義の終焉を悼む人々にとって、2020年の選挙における前例のない高い投票率が、デマゴーグを蹴落としたことを覚えておくことが重要である。そして、選挙の結果は、トランプの任命者の一部を含む独立した司法によって監督された60以上の裁判で支持され、そして、最終的に議会によって認定された。
これは、すべてがアメリカの民主主義がうまくいっているという意味ではない。トランプ大統領は様々な民主的規範を侵した。二極化は続き、ほとんどの共和党議員は選挙に関する彼の嘘を信じている。ソーシャルメディアのビジネスモデルは、ユーザーの「エンゲージメント」を引き出すことで利益を得るアルゴリズムに頼ることによって、既存の二極化を悪化させ、FacebookやGoogleのような企業は、世論や議会の公聴会からの圧力を受けて、ゆっくりだが、それに対応し始めている。
同時に、アメリカの文化には、過去の悲観主義者が過小評価してきた回復力の源が、まだ残っている。報道の自由、独立した裁判所、平和的な抗議の権利は、アメリカのソフトパワーの最大の源の一つである。誤った政府の政策がアメリカの魅力を低下させるとしても、自己反省と自己修正の能力は、より深いレベルで他の人にとって魅力的である。私が懐疑的なヨーロッパの友人に言ったように、価値観は世代とともに変化し、若い世代は希望の源である。
と、ナイ教授は締めくくっている。
これまで、このブログで、ナイ教授の見解について何度も書いてきたが、徐々に、覇権の後退とアメリカンパワーの凋落を感じさせてきており、外交政策の変更を色濃く感じる。
以前には、ハードパワーや同盟関係についてもアメリカ優位を論じ、ハードパワーとソフトパワーが上手く調和したスマートパワーについての著作を著していたが、今回の論文では、ソフトパワーに集中している。
さて、現在は、世界の歴史観は勿論のこと、文化文明論も総て欧米中心で展開されているのだが、5千年の歴史を持つ中国が、起死回生を図り、インドが蘇ることに成功すれば、ギリシャローマ文化文明やキリスト教文化も、一気に影が薄くなるであろう。
アンガス・マディソンが説く如く、18世紀中葉までは中国インドの天下であって、欧米文化文明が覇権を握ったのはほんの一瞬、
現在は、欧米からアジアへと中心が回帰しつつあると言う。
李白、杜甫を掘り起こすだけでも、中国のソフトパワーは、並の欧米文化を凌駕する筈。
中国の2149年の100年マラソン計画の実現は、もう、目の前である。