熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

財務と経理を分離すべし・・・木村剛

2007年05月25日 | 経営・ビジネス
   内部統制および情報セキュリティのセミナーで、木村剛氏が「攻めのリスクマネジメント」と言うタイトルで講演をした。
   今巷で演じられている内部統制システムに関する狂騒曲については、会社実務の経験のない弁護士等のアホな指導に従って悪いルールを作れば、そのこと自体が会社にとって最大のリスクだと切って捨てる。
   チェック項目4000、10センチも厚さのある内部統制マニュアルなど言語道断で、本業を圧迫してコストばかり掛かって儲からないような内部統制システムなら、根本的に間違っていると言うのである。

   アメリカでも、SOX法自体が実態に合わないなど問題となっているし、企業文化、経営手法や精神が全く違う日本にそのまま導入して根付く訳がない。
   私も、弁護士、会計監査法人、IT企業などが主導する内部統制セミナーに随分通って勉強して来たが、要するにIT企業が代わる位で学者や専門家(?)は殆ど同じ役者が登場し、金太郎飴でハンを押したように膨大なマニュアルやチェックリストを伴ったセミナーである。
   多くの企業がこれに倣ってシステムを構築しているのなら、金だけかかって殆ど経営には無意味で、末恐ろしい限りであると感じている。
   一昔前に、TQC運動が流行って猫も杓子も狂騒曲を演じて狂奔したが、儲けたのは一部の先生(?)だけで、企業は疲労困憊して結果は惨憺たるモノに終わって、今では忘れ去られてしまっているが、私には、これと同じ現象の再発だと言う予感がしている。
   木村氏は、現在の現象も3年で終わりますよと言っているが、私もそんな気がする。
 
   余談だが、別のイノベーション論で、ジョー・ティッド教授などが、次のように言っているが、良く似ていて面白い。
   ”過去に、競争力を獲得する為に有効だとする見せ掛けの万能薬を沢山見てきた。
   ・先端製造技術(ATM)
   ・トータル・クオリティ・マネジメント(TQM)
   ・ビジネス・プロセス・リエンジニアリング(BPE)
   ・ベスト・プラクティスに対するベンチマーキング
   ・QCサークル
   ・ネットワーキングもしくはクラスタリング
   これらの変革が必ずしも役に立つとは限らず、大きな失望や幻滅を味わうケースが多かった。”
   
   内部統制システムの根本は、企業不祥事が起これば総て経営の最高責任者の責任であると言うこと。
   経営者として内部統制システムを確立して最善を尽くしたが、不祥事を完全に防ぐことが出来なかったと言うことを立証出来なかったら、社長は罪人になるということである。
   IT手法でデータとチェックリストで固められた4000項目もある内部統制システムを社員はおろか役員さえ分かる訳がなく、機能しないので不祥事は起こる。システムの不備は明白。
   内部統制は、「お前を信頼して任せるから総て責任を持ってやってくれ」文化を排除する典型的なシステムで、自分が充分問題を認識して経営を行わない限り不祥事は総てトップの責任と言うシステムでもある。
   
   木村氏は、ニューヨークの大和銀行事件を例に挙げてトップの責任を説明する。
   あの時、頭取は「私は知らなかった。」と言ったが、日本では完璧な答えであっても、アメリカでは、頭取の評価はたった二つ
   white liar(真っ赤な嘘つき)
   incapable manager(無能な経営者)
   即ち、ウソをついていないのなら、不祥事を未然に防ぎ、或いは、不祥事をトップにレポートする内部統制システムさえ確立出来ていない無能な経営者だと言うことである。
   今回の内部統制システムは、このトップの責任を回避する為のシステムの構築だと言えば言い過ぎであろうか。

   今回の木村氏の講演で新鮮で面白かったのは、「財務と経理を分離しろ」と言うポイントである。
   財務部と経理部が分離していても殆どの会社は、その上部管理者が同一人物で両部門を統括していたり、小規模な会社なら同一部門であることが多い。
   一頃、日本の有名企業が引っかかったプリンストン債を例に挙げて、資産調達や運用を担当する財務部門の暴発を、同一人物が、それをチェックして管理する経理部の担当だと、利益相反と同様な現象が発生してチェック機能が働かないと言うのである。
   勿論、同一組織でもチェック機能はいくらでもビルトイン出来るが、これはトレイダーと管理を兼務していて不祥事を起こした大和ニューヨークの井口ケースと同じである。
   問題は、内部統制やリスク管理と言っても、マニュアルや精密なシステム構築ではなくて、統制するメカニズムやプロセスの方が遥かに大切なのだと言うことである。

   コーポレートガバナンスで最も重要なことの一つは、取締役会の機能だと思うが、ごく最近、HOYAとのM&A案件を、ペンタックスの前の社長が、他の取締役に事前に一切知れせずに抜き打ち的に採決したと報道されていた。
   昨年の日航の増資の場合でも、直前の株主総会無視は勿論のこと、取締役に周知徹底せずに取締役会で決議したと言う同様のケースがあった。
   このように事前に取締役に衆知させずに、取締役会での重要な決定事項抜き打ち的に採決すると言う会社組織で最も重要な取締役会を骨抜きにする、日本には、他にも会社法の精神に反する行為が頻発している。
   私の懸念するのは、このような会社法無視の経営が実際に横行していながら、経済社会もメディアも国民も、問題視しないしおかしいとも思わない日本の社会に、何が内部統制かと言うことである。
   前述したが、内部統制は、経営の最高責任者のためのシステム。内部統制が機能するかどうかは、所詮トップ経営者のモラルと経営能力の問題でありこのレベルアップか、さもなければ、カウ・ボーイ社会と同じで徹底的に処罰する、これに尽きると思っている。
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