
朝日新聞に、簔助さんの追悼の言葉が掲載されていた。
「第一部の城明渡しが終わったところで悲しい知らせを聞き涙が止まらなかった。今日の千秋楽の舞台は、玉男さんに奉げる心で演じました。」と言うことであるが、第二部 七段目の「祇園一力茶屋の段」の由良助は、玉男の魂が乗り移って大変な名演であった事だろうと思う。
私が始めて聴いて観た文楽が近松門左衛門の「曽根崎心中」で、玉男の徳兵衛と文雀のお初であったから、文楽鑑賞を本当に正当派の最も充実した舞台からスタートしたので幸せであった。
55年に、全く途絶えていた「曽根崎心中」をゼロから復活上演して、今日ある素晴らしい舞台に仕立て上げ、徳兵衛は1100回もの舞台を務めているとか、戦後の混乱期から今日の世界文化遺産としての隆盛まで文楽に貢献した玉男さんの功績は大変なものである。
4年以上前になるが、山川静夫さんが吉田玉男さんとのインタヴューでまとめた素晴らしい本「文楽の男 吉田玉男の世界」を読んで感激した。
その時の感想を、AMAZONのブックレビューに書いたので、その文章を載録して思い出を新たにしたいと思っている。
「至芸を演じる吉田玉男の文楽の世界」
吉田玉男の文楽を始めて観たのは、ロンドンのジャパン・フェスティバル。ナショナル・シアターでの”曽根崎心中”の徳兵衛で、お初は、文雀が演じていた。シェイクスピア劇や、人形劇と言えばマリオネットに慣れ親しんでいる英国の友人夫妻と共に、痛く感激したのを覚えている。
帰国してからは、趣味のオペラに変えて、歌舞伎と文楽に通っているが、昨年秋、その懐かしい曽根崎心中を、玉男と簑助で演じられてるのを、東京で観て、懐かしくも嬉しく堪能させて貰った。
この山川静夫の本は、玉男との豊かな会話を中心に、多くの舞台写真を活用し、随所に、演目の役作りや、文楽の約束事、歴史等の解説を加えながら文楽の男を語る、楽しい読み物になっている。
さすがに、山川であり、縦横無尽に、玉男から、珠玉のような芸談を引き出していて、簔助の”文楽の女”と共に、この2冊は、人間国宝の貴重な文楽記録になっていると思う。
小学校卒では、会社勤めで出世でけへんので、何でもエエから手に職をつけた方がええと思って、「文楽て、なんや?」と言う少年が、誘われて「そんなら、いっぺん見に行くわ」と言って出かけて、最初に観た文楽で、一度にその気になった話。
主遣いで至芸を演ずる玉男が、「足とか、左とかは、やるだけやってこないとね、左は一生やってもエエいうくらいのもんやからね」と言う話。
一番好きな役は、三悪人だと言う話等々。兎に角、ファンなら、堪らないくらい興味深い話が、宝石のように鏤められている。文楽を知らなくても楽しい、まして、観て知っておれば更に楽しい。そんな貴重な本である。
吉田玉男さんを真近で拝見したのは、ナショナル・シアターのロビーに出て談笑されている時であった。もう15年以上前のことで、玉男さんも文雀さんも若かったし、イギリスなので、幕後、カーテンコールがあり、何度も人形を持って出て来られていた。
カーテン・コールで、文雀のお初が、玉男徳兵衛の額の汗を拭う仕草をすると、少しテレ気味の徳兵衛の姿が印象的であった。
あらためて、吉田玉男さんのご冥福を心からお祈りいたしたい。
「第一部の城明渡しが終わったところで悲しい知らせを聞き涙が止まらなかった。今日の千秋楽の舞台は、玉男さんに奉げる心で演じました。」と言うことであるが、第二部 七段目の「祇園一力茶屋の段」の由良助は、玉男の魂が乗り移って大変な名演であった事だろうと思う。
私が始めて聴いて観た文楽が近松門左衛門の「曽根崎心中」で、玉男の徳兵衛と文雀のお初であったから、文楽鑑賞を本当に正当派の最も充実した舞台からスタートしたので幸せであった。
55年に、全く途絶えていた「曽根崎心中」をゼロから復活上演して、今日ある素晴らしい舞台に仕立て上げ、徳兵衛は1100回もの舞台を務めているとか、戦後の混乱期から今日の世界文化遺産としての隆盛まで文楽に貢献した玉男さんの功績は大変なものである。
4年以上前になるが、山川静夫さんが吉田玉男さんとのインタヴューでまとめた素晴らしい本「文楽の男 吉田玉男の世界」を読んで感激した。
その時の感想を、AMAZONのブックレビューに書いたので、その文章を載録して思い出を新たにしたいと思っている。
「至芸を演じる吉田玉男の文楽の世界」
吉田玉男の文楽を始めて観たのは、ロンドンのジャパン・フェスティバル。ナショナル・シアターでの”曽根崎心中”の徳兵衛で、お初は、文雀が演じていた。シェイクスピア劇や、人形劇と言えばマリオネットに慣れ親しんでいる英国の友人夫妻と共に、痛く感激したのを覚えている。
帰国してからは、趣味のオペラに変えて、歌舞伎と文楽に通っているが、昨年秋、その懐かしい曽根崎心中を、玉男と簑助で演じられてるのを、東京で観て、懐かしくも嬉しく堪能させて貰った。
この山川静夫の本は、玉男との豊かな会話を中心に、多くの舞台写真を活用し、随所に、演目の役作りや、文楽の約束事、歴史等の解説を加えながら文楽の男を語る、楽しい読み物になっている。
さすがに、山川であり、縦横無尽に、玉男から、珠玉のような芸談を引き出していて、簔助の”文楽の女”と共に、この2冊は、人間国宝の貴重な文楽記録になっていると思う。
小学校卒では、会社勤めで出世でけへんので、何でもエエから手に職をつけた方がええと思って、「文楽て、なんや?」と言う少年が、誘われて「そんなら、いっぺん見に行くわ」と言って出かけて、最初に観た文楽で、一度にその気になった話。
主遣いで至芸を演ずる玉男が、「足とか、左とかは、やるだけやってこないとね、左は一生やってもエエいうくらいのもんやからね」と言う話。
一番好きな役は、三悪人だと言う話等々。兎に角、ファンなら、堪らないくらい興味深い話が、宝石のように鏤められている。文楽を知らなくても楽しい、まして、観て知っておれば更に楽しい。そんな貴重な本である。
吉田玉男さんを真近で拝見したのは、ナショナル・シアターのロビーに出て談笑されている時であった。もう15年以上前のことで、玉男さんも文雀さんも若かったし、イギリスなので、幕後、カーテンコールがあり、何度も人形を持って出て来られていた。
カーテン・コールで、文雀のお初が、玉男徳兵衛の額の汗を拭う仕草をすると、少しテレ気味の徳兵衛の姿が印象的であった。
あらためて、吉田玉男さんのご冥福を心からお祈りいたしたい。