熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

トマ・ピケティ , マイケル・サンデル「平等について、いま話したいこと」

2025年01月28日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   当代一の経済学者トマ・ピケティ と政治哲学者マイケル・サンデルが相まみえて、真の「平等」をめぐり徹底的に議論する!対話篇「平等について、いま話したいこと」

   まず、私が意識したのは、先日ブックレビューした斎藤幸平の「人新世の資本論」で、ピケティが、「飼い馴らされた資本主義」ではなく、「参加型社会主義」を意図した社会主義者に「転向」したと書いてあったので、主義信条がどのように変わったのか、新しい価値観に興味を持ったことである。
   この対談でも、ピケティは、わたしが標榜しているのは民主社会主義、連邦制の国際社会主義です。と発言しており、世界連邦にまで言及している。世界連邦については、もう70年以上も前中学生の頃に入れ込んで勉強した政治機構なので懐かしい限りだが、稿を改めたい。

   所得と富の不平等を説いたピケティが、冒頭で、世界中で多くの不平等が存在するものの、長期的に見れば常に平等へ向かう動きがあったことを強調している。社会運動や政治的要求、基本的財である教育、保健医療、選挙権などの機会を得る権利、民主的な参加への権利の平等や自治への意欲などが原動力になっている。と言う。
   不平等が問題である理由は、一つ目はすべての人による基本的な財の利用機会、二つ目は政治的平等、三つめは尊厳。二人の意見が一致して、これらの問題について議論を進めており、
   不平等の大きな制約要件となっているのは、第一は、学歴格差の問題で、高等教育に平等主義を実現しようとする意欲的な目標が事実上放棄されていること、第二は、世界の南北問題で、繁栄の大部分は国際分業によるものだが、残酷な北による実質的な南の資源の搾取(天然資源と人的資源の搾取)で、その代償として地球の持続性が脅かされている。言う。

   能力主義が機能していないとして、サンデルは、ハーバードなどアイビーリーグ大学の入学者を決めるのに、「くじ引き」を提言している。一定の入学適正基準を設けて、点数や成績がその基準を上回った出願者を入学定員の10倍に絞って、その10%を合格者とする方法である。
   これに、マーコヴィッツの「親の所得が国の下位の3分の2の学生が半数以上になる」など階級構成を変えて利用機会をもっと公平にするなど考えている。
   この考え方を政治にも適用して、二院制の立法府や議会を改革し、一方の議会は選挙制度で構成し、もう一方の議院は、古代ギリシャの発想にさかのぼって、くじ引きで選ばれた市民で構成される議会にするという。

   いずれにしろ、学歴偏重主義が、最後まで容認されている偏見で、トランプやルペン現象は、労働者や大卒でない人たちの多くが、エリートに見下されている、自分たちの仕事の価値をないがしろにされているという感覚の現れ、
   全体的な問題について、仕事の尊厳を肯定し、経済や共通善に――仕事や子育てやコミュニティでの活動を通じて――貢献している人々の生活をもっとよくすることに重点を置くべきだと説く。

   南北問題の最たる温暖化対策については、南の環境保全技術に必要な投資額が著しく不足しているので、階級闘争的に、最富裕層の億万長者や多国籍企業にグローバル税を課し、その税率の一定割合を特定名目分に定めて、人口や気候変動の影響に応じた割合で南側諸国に直接分配する必要がある。必要なのは、発展する権利、自治の権利、自決の権利について、基本的視点に立ち返ることだと、ピケティは、国際社会主義論を展開している。

   この対談で、最後の論点”尊厳”が最も重要で、この側面が政治的にも倫理的にも最も影響が大きく、経済と政治における不平等を減らすためには、より平等な承認、敬意、尊厳,尊重を実現する条件を整えることだと、結んでいる。

   私など、経済格差の拡大、経済的不平等が、一番の関心事であったので、多岐にわたった不平等の存在と深刻さに教えられた。
   私事ながら、私もアイビーリーグ大学の卒業生なので、受験当時を思い出したが、TOEFLとATGSBのテストを受けて、履歴書や推薦書、それに、結構多くの論文を添付して入学願書をウォートン・スクールに送った。どのような判定で入学が許可されたのか分からないが、点数だけではなく、卒業大学だとか職歴なり、それに上り調子の日本企業の経営についての論文なり、総合評価だという。

   ところで、この本、小冊子だが、結構示唆に満ちていて、左派リベラルのサンデルの見解などが垣間見えて面白かった。
   気付いたのは、斎藤准教授の「人新世の資本論」の世界と非常に近い理論展開であったことである。 
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