熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

新生日本の課題・・・伊藤元重教授

2007年02月22日 | 政治・経済・社会
   日経の「経営者未来塾」が経団連ホールで開かれ、伊藤元重東大教授が「新生日本の課題」と言うテーマで75分間ほど熱弁を振るった。
   
   要旨は、大略次のようなものであった。
   これまで、金融政策で異常な低金利を続け、財政では毎年30兆円と言う膨大な赤字を続け、為替では大変な円安基調であり、日本は、経済政策ににおいてはアクセルを過剰に踏み続けて大変な事態に至っている。
   高度成長から成熟へと日本の経済社会体制が大転換を遂げてしまった今日、かって経験したような高度成長は望むべくもないが、この変化の中で、多くの課題を抱えた日本の経済社会をどうすれば再生できるのか真剣に考えなければならない。
   需要サイドの促進には多くを期待出来ないので、供給サイド、サプライ・サイドを活性化することによって経済成長を促進することが大切である。
   ①日本の持てる資源をフル活用すること
   ②日本人一人一人の能力を高める・人的資源のパワーアップすること
   ③外国の力を活用すること
   が有効な方策として考えられる。
   東京で六本木のミッドタウン・プロジェクトなど大規模な開発が行われているが、これは、不動産の証券化・流動化の賜物であり、また、情報通信関係の分野では、ブロードバンドの普及等大変な革新が進んでおり、経済社会の構造改革によって、新産業の創出等明るい未来が見えつつある。

   冒頭、円安等外国為替の動きについての巷の経済評論家のいい加減な説明に噛み付いた。
   円金利が安いので、円を借りてドルに転換して日米金利差を利用して稼ぐ円キャリートレードが円安の原因だと説明している人がいるが、これは経済学では逆であり、それに、円転する必要があるので同じだと言ってのけ、ケインズが指摘したように外為の動きは美人投票と同じで、人びとの思惑によって動くのだと言う。
   かって貿易黒字が拡大すると円高になると言っていたが、今や異常な貿易黒字なのに円安である。金利差が問題なら、ドルより金利の低いユーロが何故高いのか。と畳み掛けて、巷の経済評論の誤謬を突く。
   同じ様なことを、WBSで経済学者がファンダメンタルが悪いので円安だと解説していたのを、大前研一氏が、これまで為替がファンダメンタルで動いた為しがないと切り捨てていたが、要するに、為替は色々な要因が重なって、多くの人びとの思惑で、上がりそうだと思えば上がり、下がりそうだと思えば下がるということなのである。
   ガルブレイスが、「悪意なき欺瞞」と言う著書で、主流経済学理論に如何に欺瞞が多いかを論破していたが、兎に角、経済学ほど黒白をつけ難い学問も少ない。

   伊藤教授は、これまで日本経済の基調であった低金利、財政赤字、円安が、今後も続くのかと言う問題を論じて、円安基調の崩壊が一番可能性が高くて心配だという。
   現在の円レートを、実質実効為替レート(Real Effective Exchange Rate 物価変動を考慮した世界全体の通貨との比較レート)に直すと、1985年1月時点の円レート、即ち、1ドル240~5円に等しいのだと言う。
   もしそうなら、これは非常に円安レートで、円高に動く可能性が強くなる。
   円高に大きく振れるとなるの、回復基調の日本経済の動きは微妙になってくる。
   確かにそう言われれば、私自身、イギリスと比べて、いくら金融で経済が持ち直したからと言っても、イギリスの物価が円換算で異常に高くなっているのには驚いている。EUもそうである。

   さて、日本の活性化のための戦略だが、とにかく、ケインズの影響が強すぎたのであろうか、経済をGNP、即ち、三面等価のうち国民所得統計の需要サイドから分析して、その構成要素である個人消費や設備投資、公共支出、貿易収支等の浮沈のみから経済を語っていた。
   そのために見えなかったのだが、要するに、別な供給サイド、分配サイドから見れば、全く違った経済像が現れて、新しい戦略戦術が浮かび上がってくる。
   伊藤教授の理論のみならず、供給サイドから見れば日本の産業構造が見えて来るし、分配サイドから見ればワーキングプアーや労働分配率の問題なども明確になってくるなど政策の視点や質も当然変わってくる。

   日本の資源のフル活用だが、伊藤教授は、まず、放棄されている農地(東京都の面積の1.7倍)を、農業の株式会社化等やる気のある人びとに活用してもらう施策を考えるべきだと言う。
   東京駅前の中央郵便局は資源浪費の最たるもので、超一等地で郵便の仕分けなどモッテのホカだという。大前研一氏も、IT時代に膨大な面積の駐車場をそのままにして土地の有効利用を阻害するのみならず、大型車を出し入れして交通事情を悪化させていると噛み付いていた。

   人的資源のパワーアップだが、intangeble assetの有効活用は、大量生産方式の経済構造が有効であった時期にはスペアーパーツのような互換性の利く単質の人材の育成は日本が得意だったが、知識情報経済社会にマッチした人材の育成の為には、日本の教育・訓練システムを根本的に変えなければならないであろう。

   外国パワーの活用だが、製造業においても、ある程度、アメリカのようにオフショアリングやアウトソーシングをもっと促進して、デザインやブランディング、マーケティング等知的ワークに人材の活用を図る必要があろうが、これも程度問題で、アメリカが心配しているように知的ノウハウや知財まで外国に移転してしまって空洞化してしまうという心配もある。
   
   最後に、政府税調の会長人事で名前が挙がったが、申し出があったわけでもなく全くのマスコミのでっち上げで、讀賣の記者など一日中張り込んでいたようだが、もっと、考えなければならない大切なことがある筈なのに、とぼやいていた。
   この世の中、どうでも良いことに皆が精力を注ぎ過ぎて、大切なことを見失っていると言う事を言いたかったのであろう。
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