熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ミュージカル:ウーマン・イン・ホワイト・・・青山劇場

2007年11月23日 | 観劇・文楽・歌舞伎
   ニューヨーク・タイムズが、「オペラ座の怪人」と「レ・ミゼラブル」の再来と称したアンドリュー・ロイド=ウェーバーの新しいミュージカル「ウーマン・イン・ホワイト The Woman in White」が日本版で青山劇場で上演されている。
   1860年に、ウィキー・コリンズが著したビクトリアン・スリラーの傑作と言われた「白衣の女」が底本だが、出版と同時に友人のディケンズが絶賛し、ベストセラーとなってそれ以降ずっと再版され続けていると言う。
   私自身は読んだことがないけれど、岩波で3巻本で発売されているが、時の首相グラッドストーンが夢中になり、白衣の女香水や時計、ボンネット等が売り出され、はては、白衣の女ワルツ、カドーリールまで現れ熱狂的な人気を博したという。
   とにかく、ロイド=ウェーバーの中でも極めつきに素晴らしい音楽で、最初から最後まで甘美な美しいメロディーが聴衆を魅了する。

   ロンドン版はトレーバー・ナンの演出と言うことで人気を博しているが、青山劇場では松本祐子演出で、写真では雰囲気が大分違うようだが、パネル様式のバックを上手く使いながらテンポの速い舞台展開で、十分に19世紀のイギリスの雰囲気を出した素晴らしい舞台である。
   私自身は、ロンドンに居た時に、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーに通って「冬物語」などトレバー・ナンの絵のように美しい素晴らしい舞台を楽しんでいたので、是非、ロンドンに行って、まして、オペラ座の怪人を初演したと言うロイド=ウェーバーの劇場パレス・シアターで、オリジナル版を見たいと思っている。

   次女が好きだったので、マジェスティク・シアターへ、オペラ座の怪人を見に3回ほど通ったことがあるが、私自身は、ロンドンで「キャッツ」、ロサンゼルスで「エヴィータ」くらいしかロイド=ウェーバーの作品を見ていないが、ロンドンでは、何かとマスコミなどでウェーバーのニュースは聞えてくるので親しみを感じていたが、やはり、あれだけ素晴らしく美しい音楽を生み出せるのは流石だと思っていた。

   タイムズの公演評など見ていると、「ミュージカルを遥かに超えた、ロマンティックで壮大な、途轍もないオペラ。尊大で爆発するようなヴィクトリア朝のメロドラマ。逆巻く愛と陰謀の物語による視覚芸術の饗宴。偉大で・・・」とべた褒めだが、それほどでもないとしても、とにかく、2時間半のミュージカルとしては十分に楽しめる素晴らしい舞台である。

   貧乏画家のウォルター・ハートライト(別所哲也)が、地方地主フェアリー家の姉妹・異父姉マリアン・ハルカム(笹本玲奈)と妹ローラ・フェアリー(神田沙也加T)に絵を教えるためにやって来るが、途中で、白衣の女(山中カナコ)に出くわす。
   ハートライトは、ローラに恋するが親の決めた許婚パーシバル・グライド卿(石川禅)が居るので、諦めてロンドンに帰る。
   二人は結婚するが、グライド卿はフェアリー家の遺産が目的で悪友の医師・フォスコ伯爵(上條恒彦)と共謀して、ローラを白衣の女にすり替えて精神病院に送り込み、白衣の女をローラの身替りにして殺し遺産を相続する。
   二人の悪巧みを知ったマリアンが、ロンドンの貧民街にいたハートライトと協力して精神病院のローラを探し出してグライドの悪を暴き出し追い詰める。逃げるグライドは汽車に轢かれて死ぬ。
   白衣の女は、ローラの父が召使に生ませた異母姉で、グライドに母子とも秘密裏に預けられたが、グライドは母を殺して娘・白衣の女を精神病院へ送り込んでいたのである。
   こんな筋書きだが、実際のコリンズの小説からは多少脚色されているようである。

   ところで、この舞台を支えていたのは、正に主役マリアン・ハルカムを演じた笹本玲奈である。容姿も声も、それに演技も舞台栄えがして中々素晴らしい。
   数ヶ月前、「マリー・アントワネット」でマルグリットを歌ったのを見て注目していたのだが、やはり溌剌としてパンチの利いた素晴らしい舞台で、それに、恋を知り染め少し女の雰囲気を醸し出して来た憂いを帯びた表情が何とも言えず魅力的で、日本のミュージカルを背負って立って行く歌手だと感じた。
   欲を言えば、まだ荒削りで不安定なところがあり、このブログでも書いたが、このまま上り詰めると、素質と能力がありながら日本の舞台だけでは限界が見えているので、今のうちに野村萬斎のようにロンドンかブロードウエィに行ってみっちり他流試合を経験して芸を磨いた方が良いと思う。

   ローラの神田沙也加だが、松田聖子に良く似たイメージが邪魔をするのか、歌も演技も可なりしっかりしていて、お母さんよりは芸術家ハダシだとは思うのだが、可愛さが先に立って、このミュージカルの実質的な主題である主役・富裕な地方地主フェアリー家の唯一の後継者としての風格なり威厳に欠けるので、舞台に重みがなくなっている感じがした。
   どうしても、あの頃のビクトリア朝のジェントルマン階級のイメージとしては、ブロンテ姉妹の嵐が丘やジェーン・エアーのようなどこか陰鬱な陰に籠もった独特の女の雰囲気が欲しいと思ったのだが、神田沙也加嬢だけに期待するのは酷であろうか。
   昨年末の大地真央との紫式部物語の中宮彰子からは、大分芸にふくらみが出てきた感じである。

   ハートライトの別所哲也は、実に美声で歌も演技も上手くてさすがだが、如何せん、一寸大人の画家の雰囲気で、若くて溌剌とした二人の姉妹とのラブロマンスのムードに欠けるのが難点であった。
   グライド卿の石川禅だが、レ・ミゼラブルのマリウスやマリー・アントワネットのルイ16世などと言ったいい男を見ているので、灰汁の強い極悪人を如何に演じるのか楽しみであったが、あの虫も殺さぬような紳士然とした姿が一転して邪悪な金の亡者に変身するあたりなど胴に入っていて上手かった。
   悪徳医者の上條恒彦だが、やはりベテランの味で、緩急自在の演技が冴えていてボリュームのあるバリトンが心地よかったが、もう少しあくどさを強調しても良かったのではないかと思った。

   ローラの叔父で後見人のフェアリーの光枝明彦は、劇団四季のやはりベテランで存在感十分。
   暗い所ばかりの出で気の毒な白衣の女の山本カナコだが、雰囲気のある歌の上手い歌手で、中々美人でありもっと表に出て活躍できるのではないかと思った。

   幕が開くとガード下のトンネルの雰囲気で、その上の二階の位置にオーケストラがあって途切れることなく素晴らしい演奏をしていたが、音楽監督・指揮の塩田明弘の活躍あってのロイド=ウェーバーであることも忘れてはならない。
   とにかく、美術・照明・衣装等々多くの人々の協力あっての三拍子も四拍子も揃った楽しい舞台であった。
   
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