熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

人権活動の最前線から・・・ノーベル平和賞シリン・エバディ弁護士

2007年11月22日 | 政治・経済・社会
   小柄で物静かなペルシャ婦人シリン・エバディさんが、イランでの女性と子供のための壮絶な人権運動について、淡々と語りかけて、読売新聞とNHK主催「平和フォーラム東京」で共立講堂に集まった多くの聴衆たちに、平和の尊さを訴えた。
   悪の枢軸とブッシュ大統領が名指しで非難するイランからのノーベル平和賞の闘志である筈だが、語りかける印象も話も全く我々と同じ次元の平和と民主主義の話で、何故あれだけイランが世界から非難されるのか、現実のイラン像は、やはり、アメリカが作り上げた虚像であると言う気がするのが不思議である。

   科学技術は大変な進歩を遂げたが、国によって異なるものの、男女間の権利格差は依然として大きく、最も進んでいる筈の北欧でも男女同権への運動は盛んであると口火を切って、エバディさんは、イスラムでの女性差別について語り始めた。
   サウディアラビアでは、最近まで女性の身分証明書さえなく国民として認められなかったし、今でも女性の社会的活動はダメで運転も禁止されている。
   女性の割礼を行っているイスラム国がまだ残っている。
   バーレンやクウエート等他の国でも、女性は二流市民で、一夫多妻で、男の値打ちは男の子が何人生まれたかによって決まるらしいし、息子の名前で呼ばれる母親も居ると言う。
   余談だが、そう言えば、昔シリアのビジネスマンが日本に来て接客した時に、丁度慶応大の医学部で男女の生み分けが出来る方法を発見したと言う報道があり、その客が、女の子ばかりで男の子を産まなければ男として面子が立たない、男として認められないので是非その方法を詳しく調べて教えてくれと私に懇願したことがあった。
   アホとチャウカと言って相手にしなかったが、継承は男でないとダメだという国がどこかにあるのを思い出して口を噤んでしまった。

   イランの話だが、大学生の65%は女性だと言うのに、女性の選挙権はスイスより早く50年以上も前に認めれれたと言うのに、女性の地位は法律で決められていて、男女差別が激しい。イスラムの教義にも、コーランにも何の根拠もないのにであるとエバディさんは言う。
   妻は4人まで持てて、男は何時でも妻を離縁できる。
   女性の命の価値は男性の半分で、法定の証言や発言でも、どんなバカな男でも一人で出来るが、判事で裁判長まで勤めたエバディさんでも女ゆえに、女二人一組でないと証言できないのだと言う。
   判事の職を追放され秘書に格下げされたので司法試験を受けて弁護士の資格を取ったらしい。女性が裁判官になれないとはイスラムには規定がないことを認めさせるのに13年もかかったが、法律を認めないので判事には戻れないのだと言う。
   女性が仕事や旅行をする為には夫の許可が必要なので、今回の日本への旅行には主人の許可書を貰ったと言う。

   女性の権利伸張キャンペーン、フェミニズム運動だが、指導者も中央組織もなく各家庭組織で戦っているようだが、その効果もあって、離婚した時の子供の親権については、それまで、母親の親権は、男2歳、女歳7歳までだったが、今では男女7歳までとなり、その後は裁判所が諸般の事情を勘案して判断することになったらしい。

   男性中心主義の考え方が間違っているのだが、問題は、何の根拠もないのに宗教のドクトリンだと勝手な解釈をされているので政教分離すべきだと言う。
   女性は、間違った文化の被害者だが、このように考える男を育てているのは女であるから、女は加害者でもあると言うあたりは中々ユニークである。
   女権伸張キャンペーンは、対面方式の署名集めで100万人の署名を集めて世界の世論を動かすのを狙っている。
   インターネットでのキャンペーンも行っているが、政府がすぐにホームページを閉鎖するので又新しく再開するなどイタチゴッコが続いているらしい。
   完全男女同権まで戦い抜くのだと言う。

   エバディさんの強調したのは、いくら合法的に選ばれた大統領であっても、人権尊重の宣言をしない限り、ヒットラーと同じで意味を成さないと厳しい。
   多数の支持で選ばれても、何をしても良いということではなく、人権の尊重と言う枠組みの中でしか権力を振るえない筈だと言うのである。
   あらゆる差別をなくすフェミニズム運動こそ、完全男女同権、人権の尊重を目指す民主主義への戦いだと何度も繰り返していた。

   最後に言いたいと言って、文明の衝突と言うハンチントンの理論は間違っている、文明の衝突が起こっているのは、現実の戦争だけで、アメリカに敵対するタリバンやイスラム急進派を育てたのはアメリカ自身である。
   西洋とイスラムと言った文明の違いや宗教の違いは、絶対に対立や紛争を引き起こす要因ではない。
   この文明の衝突論は、冷戦後の強大な軍事支出を糊塗する為のアメリカの教育に起因するもので、西洋とイスラムの対立はあり得ない、あるなら、サウジアラビアや他の親米イスラム国家が存在するのはおかしい筈だと言うのである。
   私自身は、殆どエバディさんの説に賛成で、イスラム急進派の動きや凶悪テロの原因はアメリカのイスラム・アラブ政策と外交にあると思っている。

   エバディさんの講演の後に、旧ユーゴ戦犯法廷判事であった多谷千香子法政大教授が人権について語り、ドバイでの西洋とイスラムの協調などに触れて文明の衝突について疑問を呈していた。
   更に、旧ユーゴでの、同じ民族でありながらセルビアとイスラム系ユーゴ人との戦いは、本来は小規模の権力闘争が悪徳政治家に煽られて拡大したもので、決してキリスト教徒とイスラム教徒間と言った文明の衝突が原因ではなかったと語っていた。

   両講演者の間に、アグネス・チャンが、日本ユニセフ協会大使として、世界の子供たちの24億人の内11億人が、戦争や貧困の間で如何に悲惨な生活を送っているか、その惨状について実に感動的に聴衆に語りかけた。
   歌手ですからと言って、最後に祈りを込めて歌を披露したが、当時の健気で必死な初々しいアグネス・チャンの雰囲気は今でも健在で、平和大使としての姿は感動的でさえあった。
   元NHKの平野次郎アナウンサーが学習院女子大教授として素晴らしい司会を務めていた。
   
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