この本の原題は、”The Collapse of Western Civilization: A View from the Future” すなわち、”西洋文明の崩壊 未来からの展望”と言う事で、世界文明の終焉を語った本ではなく、むしろ、地球温暖化による地球環境の破壊によって、西洋文明が如何なる推移を辿るのか、その文明の終焉(1540~2093)を、その300年後に立って、展望した学者の本である。
この本では、新自由主義政策の失敗によって民主主義国家が、地球温暖化による壊滅的なカタストロフィーを無視し続けて有効に対応できずに崩壊して、最後には、中央集権主義を貫いて、気候変動による災害を切り抜けた中国が生き残ると言うシナリオを展開しているのだが、世界が終わるなどとは、一言も書いていないし、人類がこの地球上から消えてしまうなどと言ったことは、全く述べていない。
著者のオレスケスは、議会でも証言し、地球温暖化に対する論陣を張る科学史の世界的権威であるハーバード大教授であり、コンウェイは、多くの受賞歴のあるNASAの歴史科学の科学者であり、この本の予測なり預言は、執筆当時知り得た最新かつ正確な科学調査なり知見に基づいているので、science-based fictionであって、絵空事のフィクションではない。
余談だが、これまで、翻訳本、それも、専門書の多くが、如何に、誤った誤訳タイトルをつけて出版されてきたか、
例えば、クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」は、ジレンマに陥るのはイノベーションではなくてイノベーターであって、明らかに、タイトル通りに「イノベーターのジレンマ The Innovator's Dilemma」であるべきだし、
リチャード・S・テドロー著「なぜリーダーは「失敗」を認められないのか」などは、
原題は、「Denial: Why Business Leaders Fail to Look Facts in the Face---and What to Do About It」 で、「否認:何故ビジネス・リーダーは、眼前の現実を見誤るのか、そして、それに対処する方法」、と言うことであって、翻訳本のタイトルは、著者の意図とも中身とも違うので貴重な学術書を台無しにしている。
ヘンリー・フォードが、眼前に胎動する時代の潮流に気付かず無視して、GMの後塵を拝せざるを得なかったと言う迫力のあるストーリーなど、「なぜリーダーは「失敗」を認められないのか」では、意味をなさない。
洋画では、名訳のタイトルもあるが、学術書・専門書では、分からなければ、最近増えているが、原文のカタカナ書きのタイトルの方がましであると思う。
さて、著者たちは、21世紀の西洋文明国家が、現実に自分たちの地球に何が起こっていて自分たちの行動が何を齎すか、予測可能であり知っていたにも拘わらず、それを止めることが出来ずに文明を崩壊させてしまった。と言う前提に立っている。
その原因の最たるものとして、糾弾するのは、炭素燃料複合体(carbon combustion complex)の存在である。
私は、学生時代に強烈な印象を持って聞いていた、アイゼンハワー大統領が退任演説で述べた、軍産複合体(Military-industrial complex)を思い出した。
軍産複合体とは、軍需産業が核となって軍隊や政府機関と一緒になって形成する連合体であって、今後益々、自分たちの利権確保のために、国家社会に過剰な影響力を行使して、議会や政府の政策決定や行政など、国家の政治経済社会に影響を与える可能性が増大して危険性が高まると警告を発したのである。
ところで、著者たちが言う「炭素燃料複合体」は、具体的には、エネルギー会社に原料や技術を提供する産業(掘削業者、油田施設会社、大手建設会社など)、安価なエネルギーに頼っている製造業者(特に自動車、航空機メーカーだが、アルミニュームなど金属の精錬、加工会社も含む)、必要な資金を提供する金融機関、そして製品の販売促進を行う宣伝、広告、マーケティング企業などを含む、有力な産業のネットワークを指す。としていて、政官などを巻き込んだ複合体とは言っていない。
この複合体は、シンクタンクを隠れ蓑にして、科学的調査結果に対抗する見解を発表続けさせて、「市場原理主義」による「市場の失敗」を煽りたて、世論を攪乱した。
「政府は気候変動を悪化させる乱暴を開発を阻止する措置を取る筈」とする良識ある国民の期待に反して、実際には、政府は、むしろ、共謀者となった。次第に増大しつつあった気候変動と化石燃料生産・消費のつながりを否定する論調を政府がさらに煽り、それらの関係を隠蔽しようとしたのは間違いない。と言う。
「炭素燃料複合体」が、有り余る膨大な資金を投入して激しいロビー活動を行って国会議員を味方につけて、政府に強力な圧力をかけているのであるから、当然であろう。
これこそが、アメリカの政治経済社会をスキューして、著者たちが言う「西欧文明の崩壊」を齎した政官財を巻き込んだ「地球温暖化複合体(?)」なのである。
「永久凍土が解けてシロクマが絶滅する」などは、今では、常識のようになっているが、「海面上昇で、地球の大崩壊が起こる」「人口大移動から全生物の7割が死ぬ」と言った近未来の預言を含めて、危機に対処できずに「茹でガエル」状態に陥った人類が、どんどん、文明の崩壊と言う奈落の底に突き進んでゆく姿を活写している。
科学者でありながら、市場原理主義と言う信仰に乗って、どんどん、崩れて行く資本主義や民主主義社会の状態を、かなり克明に描写しているところなどは、地球温暖化や科学者の活動などと絡ませながらの視点が斬新で興味深い。
「海面上昇予想否定法案」の発想や、「シェールガスの狂騒が地球温暖化を更に悪化させた」とか、「何故、中国が、生き残るのか」等々、非常に短い小冊子ながら、示唆に富んだ論述が詰まっていて、面白い本である。
この本では、新自由主義政策の失敗によって民主主義国家が、地球温暖化による壊滅的なカタストロフィーを無視し続けて有効に対応できずに崩壊して、最後には、中央集権主義を貫いて、気候変動による災害を切り抜けた中国が生き残ると言うシナリオを展開しているのだが、世界が終わるなどとは、一言も書いていないし、人類がこの地球上から消えてしまうなどと言ったことは、全く述べていない。
著者のオレスケスは、議会でも証言し、地球温暖化に対する論陣を張る科学史の世界的権威であるハーバード大教授であり、コンウェイは、多くの受賞歴のあるNASAの歴史科学の科学者であり、この本の予測なり預言は、執筆当時知り得た最新かつ正確な科学調査なり知見に基づいているので、science-based fictionであって、絵空事のフィクションではない。
余談だが、これまで、翻訳本、それも、専門書の多くが、如何に、誤った誤訳タイトルをつけて出版されてきたか、
例えば、クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」は、ジレンマに陥るのはイノベーションではなくてイノベーターであって、明らかに、タイトル通りに「イノベーターのジレンマ The Innovator's Dilemma」であるべきだし、
リチャード・S・テドロー著「なぜリーダーは「失敗」を認められないのか」などは、
原題は、「Denial: Why Business Leaders Fail to Look Facts in the Face---and What to Do About It」 で、「否認:何故ビジネス・リーダーは、眼前の現実を見誤るのか、そして、それに対処する方法」、と言うことであって、翻訳本のタイトルは、著者の意図とも中身とも違うので貴重な学術書を台無しにしている。
ヘンリー・フォードが、眼前に胎動する時代の潮流に気付かず無視して、GMの後塵を拝せざるを得なかったと言う迫力のあるストーリーなど、「なぜリーダーは「失敗」を認められないのか」では、意味をなさない。
洋画では、名訳のタイトルもあるが、学術書・専門書では、分からなければ、最近増えているが、原文のカタカナ書きのタイトルの方がましであると思う。
さて、著者たちは、21世紀の西洋文明国家が、現実に自分たちの地球に何が起こっていて自分たちの行動が何を齎すか、予測可能であり知っていたにも拘わらず、それを止めることが出来ずに文明を崩壊させてしまった。と言う前提に立っている。
その原因の最たるものとして、糾弾するのは、炭素燃料複合体(carbon combustion complex)の存在である。
私は、学生時代に強烈な印象を持って聞いていた、アイゼンハワー大統領が退任演説で述べた、軍産複合体(Military-industrial complex)を思い出した。
軍産複合体とは、軍需産業が核となって軍隊や政府機関と一緒になって形成する連合体であって、今後益々、自分たちの利権確保のために、国家社会に過剰な影響力を行使して、議会や政府の政策決定や行政など、国家の政治経済社会に影響を与える可能性が増大して危険性が高まると警告を発したのである。
ところで、著者たちが言う「炭素燃料複合体」は、具体的には、エネルギー会社に原料や技術を提供する産業(掘削業者、油田施設会社、大手建設会社など)、安価なエネルギーに頼っている製造業者(特に自動車、航空機メーカーだが、アルミニュームなど金属の精錬、加工会社も含む)、必要な資金を提供する金融機関、そして製品の販売促進を行う宣伝、広告、マーケティング企業などを含む、有力な産業のネットワークを指す。としていて、政官などを巻き込んだ複合体とは言っていない。
この複合体は、シンクタンクを隠れ蓑にして、科学的調査結果に対抗する見解を発表続けさせて、「市場原理主義」による「市場の失敗」を煽りたて、世論を攪乱した。
「政府は気候変動を悪化させる乱暴を開発を阻止する措置を取る筈」とする良識ある国民の期待に反して、実際には、政府は、むしろ、共謀者となった。次第に増大しつつあった気候変動と化石燃料生産・消費のつながりを否定する論調を政府がさらに煽り、それらの関係を隠蔽しようとしたのは間違いない。と言う。
「炭素燃料複合体」が、有り余る膨大な資金を投入して激しいロビー活動を行って国会議員を味方につけて、政府に強力な圧力をかけているのであるから、当然であろう。
これこそが、アメリカの政治経済社会をスキューして、著者たちが言う「西欧文明の崩壊」を齎した政官財を巻き込んだ「地球温暖化複合体(?)」なのである。
「永久凍土が解けてシロクマが絶滅する」などは、今では、常識のようになっているが、「海面上昇で、地球の大崩壊が起こる」「人口大移動から全生物の7割が死ぬ」と言った近未来の預言を含めて、危機に対処できずに「茹でガエル」状態に陥った人類が、どんどん、文明の崩壊と言う奈落の底に突き進んでゆく姿を活写している。
科学者でありながら、市場原理主義と言う信仰に乗って、どんどん、崩れて行く資本主義や民主主義社会の状態を、かなり克明に描写しているところなどは、地球温暖化や科学者の活動などと絡ませながらの視点が斬新で興味深い。
「海面上昇予想否定法案」の発想や、「シェールガスの狂騒が地球温暖化を更に悪化させた」とか、「何故、中国が、生き残るのか」等々、非常に短い小冊子ながら、示唆に富んだ論述が詰まっていて、面白い本である。