この本は、イノベーションの推移を追いながら経済革命が如何に人類の歴史を翻弄してきたか、そのイノベーションが、労働置換型技術か労働補完型技術かによって、大きく明暗を分けている歴史を活写して、テクノロジーの世界経済史を説いている。
その中でも、重要な役割を演じているのは、「エンゲルスの休止」現象である。
産業革命時に、労働置換型技術の台頭によって、職人は、機械と子供でも出来るような仕事に置き換えられて、賃金は一気に下がり、技術がもたらした利益の大半を事業家が手にして、それを新たに工場や機械に投資して増殖し、
事業者が、「大多数の賃金労働者を犠牲にして裕福になった」とエンゲルスが指摘した。資本家が労働者を収奪する構造である。
職人たち労働者は、あっちこっちで機械を取り壊して対抗するラッダイト運動を巻き起こして激しく抵抗した。
しかし、英国政府には、貿易における競争優位を維持するためには機械の効率改善が必要であり、かつ、ギルドの政治的影響量を抑えることが必須であるという思惑があり、また、事業家・資本家たちが政治的にも権力を持ち始めた時期でもあり、参政権さえなく政治的影響力のない労働者の運動を叩き潰した。
尤も、大分時間を経てからだが、蒸気機関が導入され機械化が高度化するにつれて高度な技術が必要となり生産性が加速的に伸び、さらに、技術進歩が、労働置換型から労働者のスキルを高める労働補完型に転じ、成長の原動力が、次第に物的資本から人的資本に切り替わり実質賃金は上昇していった。
この時期を、大分岐の時代だとして、その後、
19世紀の後半から、ブルーカラー労働者の生活水準が上がり始め、工場の動力源の電化や自動車時代の到来で大量生産時代に突入し、ホワイトカラーの台頭などで、中流階級が重要な役割を果たす経済成長期に入り、大平等の時代として論じている。この間は、総体として、エンゲルスの休止は起こらなかった。
二回の世界大戦と未曽有の大恐慌があったが、長期トレンドとしては成長軌道で、戦後の成長発展は著しく、特にアメリカは中産階級が活躍して平等社会と民主主義を謳歌した。
この状態が1970年半ばくらいまで続いたが、
インフレと不況が同時進行して、経済はスタグフレーションに突入して、暗転した。
優勢であったケインズ経済学に取って代わって、レーガノミクスで代表されるような、新自由主義経済が台頭してきた。
経済活動に関する規制の撤廃と緩和による自由競争の促進、通貨供給量に基づく金融の引き締めと緩和・戦略防衛構想(SDI)の推進などによる軍事支出の増大・大規模な減税によって経済刺激を策するサプライサイド経済学が優位に立った。
米欧日の先進資本主義国において、やや過熱気味に、弱肉強食の自由市場メカニズムが暴走して、経済格差・地域格差が拡大して、中産階級の崩壊によって民主主義が後退し、経済社会は、大反転を来した。
グローバル化による脱工業化と地域・所得格差が問題となっているが、はるかに影響力の強い自動化とデジタル技術革命とが相まって、ラストベルトのような地域経済崩壊や雇用の縮小による新たなラッダイト運動とも言うべきトランプ現象を惹起した。
長期的には、社会を上げ潮に導いた汎用技術であった蒸気機関のように、同じく革命的な汎用技術であるデジタル革命が経済社会を繁栄に導くのかどうかは分からないが、
果たして、未来の雇用にAIはどのように作用するのか。
今、岐路に立っているという認識で、著者は過度な悲観論を戒め、どんな世界を築くかは我々の行動次第だと訴えて、その対処方法と説いている。
AIによる自動化の荒波を乗り切るためには、スキル教育等教育制度の大改革、移住を支援するバウチャー制度、転職を阻む障壁の緩和、社会や経済の格差に繋がる建築規制の撤廃、税制控除を通じた低収入所帯の所得底上げ、機械に仕事を奪われた人々への賃金保障、次世代への悪影響を緩和する幼児教育への投資等々、詳細に亘って処方箋を説いていて興味深い。
最初の産業革命も、第二次産業革命も、紆余曲折はあったが、最終的にはすべての人が恩恵に与った。
だが、今の所は、「今回は違う」ことを示すデータがなく、違うと想定しても、今後の課題は、テクノロジーの分野ではなく、政治経済の分野にあることは変わりなく、新しいテクノロジーが仕事を殆ど生み出さず、莫大な富を生む世界では、分配が課題となる。と言う。
今様「エンゲルスの休止」現象によって、既に、危機的状況となっている経済格差・地域格差を、さらに、AIなどのデジタル技術が増幅させるとなると、人類社会が危うくなると言う深刻な懸念である。
これまで、何度も技術革新で悲劇も経験してきたが、総べて長期的には上手く行って人類社会は進歩してきたので、AI革命もほっておいても良いと言う考え方もあるが、今や、時代が違う。
弱者の救済は喫緊の緊急事態であって、一刻も猶予を許さないと言うくらいの態度で臨まないと人類社会は救えないと言う認識に立つべきだと言うことである。
その中でも、重要な役割を演じているのは、「エンゲルスの休止」現象である。
産業革命時に、労働置換型技術の台頭によって、職人は、機械と子供でも出来るような仕事に置き換えられて、賃金は一気に下がり、技術がもたらした利益の大半を事業家が手にして、それを新たに工場や機械に投資して増殖し、
事業者が、「大多数の賃金労働者を犠牲にして裕福になった」とエンゲルスが指摘した。資本家が労働者を収奪する構造である。
職人たち労働者は、あっちこっちで機械を取り壊して対抗するラッダイト運動を巻き起こして激しく抵抗した。
しかし、英国政府には、貿易における競争優位を維持するためには機械の効率改善が必要であり、かつ、ギルドの政治的影響量を抑えることが必須であるという思惑があり、また、事業家・資本家たちが政治的にも権力を持ち始めた時期でもあり、参政権さえなく政治的影響力のない労働者の運動を叩き潰した。
尤も、大分時間を経てからだが、蒸気機関が導入され機械化が高度化するにつれて高度な技術が必要となり生産性が加速的に伸び、さらに、技術進歩が、労働置換型から労働者のスキルを高める労働補完型に転じ、成長の原動力が、次第に物的資本から人的資本に切り替わり実質賃金は上昇していった。
この時期を、大分岐の時代だとして、その後、
19世紀の後半から、ブルーカラー労働者の生活水準が上がり始め、工場の動力源の電化や自動車時代の到来で大量生産時代に突入し、ホワイトカラーの台頭などで、中流階級が重要な役割を果たす経済成長期に入り、大平等の時代として論じている。この間は、総体として、エンゲルスの休止は起こらなかった。
二回の世界大戦と未曽有の大恐慌があったが、長期トレンドとしては成長軌道で、戦後の成長発展は著しく、特にアメリカは中産階級が活躍して平等社会と民主主義を謳歌した。
この状態が1970年半ばくらいまで続いたが、
インフレと不況が同時進行して、経済はスタグフレーションに突入して、暗転した。
優勢であったケインズ経済学に取って代わって、レーガノミクスで代表されるような、新自由主義経済が台頭してきた。
経済活動に関する規制の撤廃と緩和による自由競争の促進、通貨供給量に基づく金融の引き締めと緩和・戦略防衛構想(SDI)の推進などによる軍事支出の増大・大規模な減税によって経済刺激を策するサプライサイド経済学が優位に立った。
米欧日の先進資本主義国において、やや過熱気味に、弱肉強食の自由市場メカニズムが暴走して、経済格差・地域格差が拡大して、中産階級の崩壊によって民主主義が後退し、経済社会は、大反転を来した。
グローバル化による脱工業化と地域・所得格差が問題となっているが、はるかに影響力の強い自動化とデジタル技術革命とが相まって、ラストベルトのような地域経済崩壊や雇用の縮小による新たなラッダイト運動とも言うべきトランプ現象を惹起した。
長期的には、社会を上げ潮に導いた汎用技術であった蒸気機関のように、同じく革命的な汎用技術であるデジタル革命が経済社会を繁栄に導くのかどうかは分からないが、
果たして、未来の雇用にAIはどのように作用するのか。
今、岐路に立っているという認識で、著者は過度な悲観論を戒め、どんな世界を築くかは我々の行動次第だと訴えて、その対処方法と説いている。
AIによる自動化の荒波を乗り切るためには、スキル教育等教育制度の大改革、移住を支援するバウチャー制度、転職を阻む障壁の緩和、社会や経済の格差に繋がる建築規制の撤廃、税制控除を通じた低収入所帯の所得底上げ、機械に仕事を奪われた人々への賃金保障、次世代への悪影響を緩和する幼児教育への投資等々、詳細に亘って処方箋を説いていて興味深い。
最初の産業革命も、第二次産業革命も、紆余曲折はあったが、最終的にはすべての人が恩恵に与った。
だが、今の所は、「今回は違う」ことを示すデータがなく、違うと想定しても、今後の課題は、テクノロジーの分野ではなく、政治経済の分野にあることは変わりなく、新しいテクノロジーが仕事を殆ど生み出さず、莫大な富を生む世界では、分配が課題となる。と言う。
今様「エンゲルスの休止」現象によって、既に、危機的状況となっている経済格差・地域格差を、さらに、AIなどのデジタル技術が増幅させるとなると、人類社会が危うくなると言う深刻な懸念である。
これまで、何度も技術革新で悲劇も経験してきたが、総べて長期的には上手く行って人類社会は進歩してきたので、AI革命もほっておいても良いと言う考え方もあるが、今や、時代が違う。
弱者の救済は喫緊の緊急事態であって、一刻も猶予を許さないと言うくらいの態度で臨まないと人類社会は救えないと言う認識に立つべきだと言うことである。