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ミステリ感想-『機龍警察 暗黒市場』月村了衛

2018年05月16日 | ミステリ感想
~あらすじ~
警視庁との契約を解除されたユーリ・オズノフ元警部は、幼馴染のロシアン・マフィアと組んで武器密売に手を染める。
一方、市場に流出した新型機甲兵装が龍機兵の同型機ではないかと疑念を抱く沖津特捜部長は、ブラックマーケット壊滅作戦に着手した。

2012年このミス3位、文春9位、吉川英治文学新人賞


~感想~
シリーズ第三弾にして最高傑作。というか超絶傑作。
完璧と言って良いほど、空恐ろしくなるほどに良く出来た、計算され尽くしたストーリー展開。
ほとんど全てのシーンにまるで鏡写しのような二重の意味があり、無駄な描写の一つとて無い。
これまで龍機兵の搭乗員である3人のうち姿とライザの過去が描かれ、今回は期待通りにユーリの過去編なのだが、まさに息つく暇もない緊張感が最初から最後まで続き、徹頭徹尾盛り上がり続ける。
完成度の高さでは前ニ作を圧倒的に上回っており、せっかく過去編が描かれた姿とライザがちょっと気の毒になるほどで、そりゃ完全版で補完したくもなるだろうと納得する。(完全版は前ニ作だけの意向だそうで「暗黒市場」と比べてはどうしても見劣りするから補完したという見立ては間違っていないはず)
完全版商法には興味はなかったのだがこの「暗黒市場」を念頭に置いての加筆修正ということならば読まなくてはなるまい。

驚くべきは、このシリーズの特徴でもあるのだが、話の流れ自体は極めてベタなのだ。
描写も比喩や回想の類が少なく、余計なものを削ぎ落として物語の筋だけを追っており、ともすれば人工的な、あまりに作者にとって都合の良い方向に話が転がりすぎているきらいもあるのだ。
だが圧倒的な、いっそ支配的なストーリーテリング能力でそれらの欠点を読者に一切感じさせないのは、本当にすごい。
またちょっと心配になるほど誤植が多いのだが、これは俗に言う「校正者が読むのに夢中になって見逃してしまうほど面白い」という奴ではなかろうか。

警察、ミステリ、ハードボイルド、ロボットバトル、腹黒い政治的駆け引きに、あふれ出る厨二要素と、元から個人的に大好物ではあったが、まさかここまでの高みに到達するとは。
このシリーズが今後どこまで高く上り詰めていってしまうのかちょっと見当が付かなくなってしまった。


18.5.14
評価:★★★★★ 10
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