軍事用語に「射界の清掃」と言う用語がある。いまの自衛隊で使われる言葉かどうかは知らない。これは対峙するA軍とB軍の間に障害物がある。それは深い森林かもしれない。また密集する民家であってもいい。「シャカイのセイソウ」とは砲撃によって両軍の間にある障害物を焼き払うことである。
もっとも両軍の間の障害物は場合によっては障害ではなくて有利な状況となる場合がある。例を明治十年の西南戦争にとると、西郷軍が政府軍が立てこもっていた熊本城を攻略した時である。城下にはもちろん城下町の民家が密集している。これは薩摩軍にとっては有利となる。近代兵器の乏しい彼らにとっては、民家を盾として政府軍の砲撃を交わしながら城に接近できる絶好の遮蔽物となる。
一方西欧から導入した大砲などの近代的な圧倒的な火力を持つ政府軍にとっては、住民がいる民家を盾に接近する薩摩軍を砲撃できない。やすやすと相手の接近を許してしまう。気がついたら薩摩軍が城下に押し寄せている。そこで政府軍は城下町の住民を立ち退かせたうえで「シャカイの清掃」を行い薩摩軍を砲撃した。
さて、今度のウクライナ戦争の場合であるが、停戦交渉の項目にある「住民の避難回廊」の場合、双方の思惑はどうであろうか。もし住民が避難すれば、あるいは避難したとロシアが例によって「勝手に言い立てれば」、その時こそ、ロシアの圧倒的な火力で大ホロコーストが起こるかもしれない。