雑誌「正論」が日米問題の別冊を出した。巻頭論文をざっと読んだ感想である。この論文で論じているのはどの辺からかがはっきりしない。昭和の初めごろかららしいが、それ以前のことは全く触れていない。歴史を書くときにどこから書き始めるかということは非常に重要なことである。
対日戦争に持って行ったのはアメリカではなくてイギリスであるというのが論旨のようだ。イギリスの繊維産業の競争力が新興の日本に比べて致命的に衰えたのが対日挑発の原因であるという。最近そういう研究もあるそうだ。それもそうだろう。しかし非常に一面的な見方だ。
大きな起因をあげるなら日英軍事同盟の失効から始めるべきだろう。日英同盟が延長されていたら、イギリスはあのような行動はとれない。あらゆる条約と同様に日英同盟も期限があった。延長規定もあるが。それが二回目の延長(正確には三回目かな)はされなかった。
大きな理由はアメリカのイギリスへの猛攻勢である。それに日本は外交戦争で敗れたのだ。ほぼ歴史の軌道はこの時に敷かれたとみていい。
日英同盟は維新の元老山形有朋の功績である。満州事変から二二六事件で確立した軍事官僚専制体制を是とするなら日英同盟延長失敗を持ち出すことは出来ない。なぜなら、条約の是非よりもそれが元老山県につながっていると言うので右翼も条約の延長には反対したからである。
ようするに山県の功績につながるから、日英同盟の維持という政策にも反対するのである。本末転倒であるが、このいきさつがあるから昭和前期の日本の軍事外交政策を是とする諸君は日英同盟の問題をさけるのである。
昭和前期の高級軍事官僚および右翼の諸君の誤りは日英同盟の重要性を理解できなかったこと、日英同盟失効の結果として動き出したアングロサクソン・プラス・チャイナの策動をさばききれず無能をさらけだしたことである。
付言すれば現在の日米安保条約は日英同盟の重要性とはまったく異なる。むしろ日本にとっては有害な条約であり、改正ないし破棄されるべきものである。
かっての日英同盟と現在の日米安保を同一視していると第二のカタストロフィーに見舞われるだろう。