東方のあけぼの

政治、経済、外交、社会現象に付いての観察

ブロードバンド時代の総会:管理組合という悪文化(8)

2006-07-25 08:51:35 | マンション管理組合

このシリーズのはじめで管理組合の実態に関する社会学的調査が無いことを嘆いた。管理組合というのは日本に残る劣悪な部分が象徴的に露出している好個の研究対象である。社会学的調査というのは、法制面の調査ではなく、管理組合を構成する人々の意識、行動様態の原始性を調べることである。管理組合の実態ほど地域差(民度といってもよい)を反映するものは無い。フィールド・スタディの求められるゆえんである。大学の社会学部の学生には最適の実習テーマである。

マンションに居住すると、総会の委任状攻勢になやまされる。それも総会は大切ですから是非出席しましょう、とまず慫慂されるなら、まだ分かる。大体出席しないことを前提にして委任状を出せと迫ってくる。それも白紙委任状を見ず知らずの人間(議長)に出せという。ふざけるなよ、ということ。頭を冷やして考え直すことだ。

選挙の例を考えるとわかる。選挙が近づくと地方自治体の広報カーやら選挙管理委員会の車が町を流して選挙に行きましょうと訴える。そこまでだ。選挙に出ないなら投票権を返せとか委任状を出せなどと狂ったようなことをいわない。

どこでも、総会への出席率は低い。だから活動家は死に物狂いになって手段を択ばないのだろう。どのマンションにも総会フェチというのがいる。管理組合の存続だけがいのちというわけだ。自己目的化している。幼稚園のホームルーム・コンプレックスを引き摺っているようなものだ。とにかく、出席を呼びかける工夫、努力が先だ。間違っても、白紙委任状をいきなり要求してはならない。問答無用でカネを出せと言う強盗とかわりがない。

ところでマンション法を読むと、総会の決議の方法は集会によるもののほか、書面によって採決を取ることが出来る。集会の決議は原則として多数決だが書面による場合は全員の同意が必要だ(マンション法第45条)。

先月末は株主総会の集中開催日だったが、最近では出席を促す通知とともに、各議題についてはがきで賛否を回答できるようにしているところが多い。聞くところによるとインターネットを通しても賛否を各議題ごとに回答できるようになっている会社もあるという。

書面による決定と言うのは、昔から広く行われている。全員が出席できない時にはよく取られている。閣議でも持ち回り閣議というのがある。議案を順繰りに各閣僚のところに回して署名をとる。会社の取締役会でも持ちまわり稟議というのがある。町会でも回覧板に順繰りにハンコを押していくとか似たようなのがあった。

ブロードバンドの普及した時代、新しいマンションには光ファイバーが最初から入っていることが多い。また、よほど辺鄙なところでない限り、ADSLは容易に導入できる時代だ。持ち回り決議の電子版を総会の活性化のために工夫したらよかろう。総会が大事なら、出席への労を惜しまぬ呼びかけ、インターネットなどの利用による活性化などに努力すべきだ。間違っても委任状、委任状と叫ぶべきではない。

各議題についてもよく整理して、賛否が表明出来るようにしておかなければならない。大体、文章の意味がとれない議題とか、満足な説明もない議題が多すぎる。賛成も反対もしようがない、チンケな議題が多すぎる。

それから議題に不適切なものもある。管理会社の会計報告など、管理組合総会の承認案件にすべきではない。会計士でもない普通の区分所有者、居住者が会計報告書の承認など出来るわけが無い。メクラ判を押すだけだが、それでその報告の正当性が確立されてしまう。おかしなことだ。

会計報告は必要だが、区分所有者は「読み捨て」にしておけばよい。何年かたって、篤志家で専門能力のある人が会計報告をチェックして誤りを発見したら追及すればよい。時効がくるまでには相当の年数の余裕があろう。


マンション法第32条原始規約:管理組合という悪文化(7)

2006-07-23 04:28:06 | マンション管理組合

ペットを飼いたい人は必読。あなたがマンションを購入した時にたくさんの書類にハンコを押しただろう。立派に印刷されたデコボコ・マンション管理規定集といった表題がついている書類を渡されて同意書に書名捺印を求められたのではないだろうか。

マンションの管理規定の標準版なのだろう。首尾結構の整った一人前の体裁を整えている。建前では最初の管理組合総会で承認され(必要なら改訂されて)正式の管理規約となることになっている。

あてがい扶持で、一式整っている定食みたいなものだ。大体それを食う。便利には違いない。ところでマンション法では分譲業者は管理規約のプロトタイプのようなものを作成することが出来ると定めている。第32条だ。明記してある、決めることが「出来ること」は次の四つである。すなわち

a 規約共用部分のさだめ

b 規約敷地の定め

c 分離処分を禁止する定め

d 各専有部分と一体化される敷地利用権の割合に関する定め

である。

しかし、通常購入者が渡される書類はこの規定にとどまらない包括的なものであることは冒頭に述べた。法律で「出来る」と対象が明示してある場合、ジャー、それ以外はできないのかというと、はっきりしないことが多い。「出来ない」とか「禁止する」とか書いていない場合は出来ることがおおい。もっとも司法労働者の都合によって臨機応変に恣意的に「できない」と解釈してしまうこともあろう。法律の恐ろしいところだ。

司法労働者に限らず役人と言うものは業界優先根性が染み付いているから法律の解説書なんかを彼らに書かせると、「実際にはそれ以外の規定も含まれているようである」と実態を追認するようなことを書く。

業者はこうしておけば、分譲後速やかに自分のイキのかかった管理会社が自動的に管理業務を開始できるからラクチンである。購入者は銀行のローン書類だとか、税務書類だとか、いい加減ノイローゼ気味になっているから、管理規定なんて害になることも書いてはあるまいとメクラ判を押すのである。

業者の用意する原始規約がマンション法の定める権限外のことを規約に盛り込んでいると、時々妙なことがおこる。ペットを飼えるかどうかという問題がある。もし、原始規約に禁止してあれば、ペットを飼いたい人は最初の管理組合の集会で規約を改正するように要求して、しかるべき数の賛成を得る必要がある(この規定もマンション法にある。第31条。たしか組合員の四分の三以上)。そうしないと、業者の用意した規約が有効になって、ペットが飼えなくなる。いずれにせよ、業者の持ってくる管理規約の同意書には簡単に判を押さずに保留したほうがよい。それでマンションを売らないということも出来まい。

断っておくが、これは分譲マンションのはなしで、賃貸マンションの場合は入居者に規約を作成する権限はない。大家にペットは禁止です、と言われれば従わなければならない。

おかしなことがあった。マンションを買ったときに業者からペットを飼っていいと口頭でいわれたと主張する人間がいるが、もともと業者にはそんなことを決める権限はないのだ。

ペット飼育者に有利なことを書いたが、私自身はペットを飼う人間を好まない。ひとこと追加しておく。ペット飼育者を好まない理由はペットがかわいそうだからである。標準的なマンションはペットにとって好ましい環境とはいえないからである。つまり動物愛護の観点からペットのマンション飼育に反対する。

次回はブロードバンド時代の総会のあり方を考える。


マンション法第三条:管理組合という悪文化(6)

2006-07-20 07:45:56 | マンション管理組合

改正区分所有法(通称マンション法)第三条にこうある。

引用ハジメ

区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び付属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。

引用オワリ 以下省略

第一の問題。“全員で(A、B、C、D)を出来る”という構文だと推測されるが、問題はA,B,C,D間の関係だ。つまり各項をアンドでつなぐかORでつなぐかということ。判然としない。

第二の問題は「全員で」が何処にかかっているか、ということだ。

第三は「出来る」という表現。随意ということだ。「結成しなければならない」ではない。当たり前のことだ。しなければならないと書けば上位法に抵触する。

この法律はズボラな表現でよくわからないところが多い。今日は第三条を取り上げる。いずれにせよ、全員で団体を構成することが出来るという、この団体というのはいわゆる管理組合のことだろう。この法律で管理組合の結成に触れているところは他にないようだ。

とすると、共有関係にある(民法252条)うちの一人でも管理組合に加入しなければ管理組合は成立しないことになる。あるいは一人でも退会すれば管理組合は解散しなければならない。

共有部分に関わる問題には全員あるいは多数の合意が必要であれば、それは管理組合が仕切らなくて、いくらでも意見を集約する方法はある。規約は管理組合がなくても作成できる。

管理組合に必ず入らなければいけないと言うのは、共有関係者が30人以上であっても、民法、憲法という上位法のみならず、社会理念、社会通念、人権にも反することであろう。

区分所有法の妙なところは、包皮、間違えた法匪にとっては絶妙なところということになろうが(ワードのフロントエンドプロセッサーは包皮のほうが好きらしい)、管理組合に関するまとまった規定がないことだ。規則とか規約と言う言葉はやたらと出てくる。まともなら、管理組合という章があって、組合の結成、解散に関する規定が明確に規定されていなければならない。

次回は32条、業者の作成するいわゆる原始規約について


白鵬のタオルさばき:指導すべき二人の大関(2)

2006-07-19 08:17:13 | スポーツ

前回は千代大海の崩壊した更正美談を紹介したわけであるが、ひとつ間違えた。ジタンではなくてジダン選手らしいね。タバコと間違えた。

さて、白鵬であるが5月場所について書いた本欄の「白鵬の優勝を無効にせよ」も参照していただきたい。汗ヌルでそれも無理やり発汗させた形跡のある油を塗ったような体をタオルで拭かずに雅山のぶちかましを無効にした頭脳プレイを批判した。

今場所であるが、白鵬はあの手を使うのは大一番にとってあるらしくまだ見かけない。しかし、最後の仕切りに入る前にタオルを使わないことが多い。汗や汚れがないなら別にかまわないが、その態度である。

係りが両手でタオルを差し出している。他の力士は使わない場合には軽く会釈して「いらない」旨を土俵下の係りに伝える。あるいは片手を上げて合図をして謝絶する。白鵬はまったく係りのほうを向かず、合図も会釈もせずにしきりに入ることが多い。

この間はタオルを使ったが、そのタオルを係りの顔も見ずに放り投げた。他の力士は相手を見ながら確実に渡している。それが当たり前だから気にもつかない行為であるが、白鵬の特異な行為は他の力士との違いを改めて際立たせる。

無礼な態度で視聴者に非常な不快感を与える。千代大海が観客やテレビの前で「なんだ、オラ」と不良のような態度を取るのとおなじ不快感を与える。二十歳やそこらの外国人にしつけをするのは至難の技であろう。それをいえば大相撲が国技を気取るのは、もう限界ではあるまいか。

相撲の本質は一言であらわせば、「興行」である。スポーツでもない。伝統でもない。国技でもない。文部科学省の庇護を謝絶して、大いに面白くやってほしい気もする。


露鵬はジタンだ:指導すべき二人の大関(1)

2006-07-18 06:39:17 | スポーツ

露鵬と千代大海の一番を見ていたが何が起こったのかよく分からなかった。きっかけは千代大海が作ったように見えたが解説がないのでよく分からない。仕切りの間のにらみ合いが関係ありそうだが、最近のNHKは歌うたいのゲストに小学生のように稚拙な人生論を語らせたりして仕切りをじっくりと中継しないから雰囲気がわからない。

露鵬が三日間の出場停止になった。ところが千代大海は相変わらずひょこひょこと土俵に上がっているのには驚いた。喧嘩両成敗は日本の国技的美風である。これに反したから赤穂義士の吉良邸討ち入り騒動になった。

相撲ジャーナリストは御殿女中のようなのが多い。超自主的報道規制をする。いつまでたっても歯切れの悪い解説しか紙面にあらわれない。それらを総合すると部分的に次のようなことが分かった。

千代大海が露鵬を突き出した後、土俵下まで降りていき「なんだ、オラ」と露鵬に言ったらしい。余計なことをしたものだ。町の与太者が因縁をつけるのとかわりがない。地回りがすごんでいるみたいだ。大関の品格に欠けるのは明瞭である。千代大海は大分かどこか、高校生の頃はオートバイを乗り回していた暴走族の番長だったというが、地が出たのだろう。

何が、「なんだ、オラ」なのか分からない。仕切りのときの目つきが気に食わないのか。相撲協会は厳しく千代大海も指導しなければならない。衆人環視の国技館で、テレビ中継のカメラの前でこのような醜態を演じた千代大海を罰しないのはおかしい。サッカー、ワールドカップのジタンの頭突きを思い出す。露鵬はジタンだ。千代大海はイタリアのマサラッテイというところか。

もう一人厳しく指導しなければならない大関がいる。白鵬である。以下次号


最大の受益者は誰か:管理組合という悪文化(5)

2006-07-17 08:16:01 | マンション管理組合

マンションの価値は管理のよさだという。要するに住民に負担をかけないで安心して管理を任せられる管理会社かどうかということだ。事毎に管理組合がやれ総会だ、臨時総会だ、理事会だと煩わされなくて済むことだ。

マンションのよさは一戸建ての場合には避けようも無く、悩まされる管理のわずらわしさから開放されることである。管理会社がしっかりしていればそれは管理費のみではなくてマンションの価格にも反映されてしかるべきである(管理費のあまりに安いマンションは購入を再検討したほうがよい)。

だいたい、自分のマンションの管理会社が信用できないからと、事毎に疑惑の目で細かいことまで管理組合がその能力もないのにチェックするなどというのは悲しいではないか。

自分のマンションが劣悪であると表明しているようなものだ。もっとも色々な管理会社があるようだから「心配ごもっとも」な場合もあろう。ご愁傷さまである。

管理会社が提出する会計書類など公認会計士でも税理士でもない一般住民がチェックできるわけがないではないか。それが総会の承認事項になっている。承認すればお墨付きを与えるようなものだ。世にこれをめくら判を押すという。こういう書類は受け取って「読み捨て」ておけばそれでよいのだ。たまたま専門的な技能のある人が問題を見つければ何年前のものでも、問題を発見した時点で追及すればよい。

区分所有法に基づく管理組合の存在の最大の受益者は横着な管理会社であろう。だから管理会社は例外なく管理組合を奨励する。業界の機関紙は管理組合の崇高な意義を強調する。業者が訳知り顔で顧客に説教をする問題ではないよ。

居住者の要望、意見に個別に誠実、迅速に対応せず、すべて管理組合という機動力の無い会議体の窓口を通してしか受け付けなければ管理会社は楽チンモードである。「それは管理組合マターですので」というのが管理会社の得意技である。

管理人も管理会社から派遣されているから当然管理組合にしか目が向いていない。管理人は住民すべてにサービスするもので常駐している利点を生かして迅速に住民個人のニーズに対応できるはずなのに、「まず管理組合に話してください」なんて言う。管理人は管理組合の理事とか活動家のご機嫌をとっていれば自分の首は安泰という態度が露骨である。

地域特性にもよるが、管理組合を仕切ろうとする活動家がいるものだ。こういう連中と管理会社の思惑があいまって管理組合を善良なる住民の始末に負えないものとしている。信じられないことだが、こういう連中が住民に説教したり、強制しようとしたりする。場合によっては、これらの活動家が主義者であったり、KM党のようなカルトの背景をもっていたりするから危険だ。


FW日本オフサイドぎりぎり

2006-07-16 07:52:09 | 社会・経済

北朝鮮制裁決議は国連憲章第七章に基づかない非難決議が採択された。日本はオフサイドトラップにかかった。オフサイド覚悟で紙面のトップを飾るのも一案であったが、アメリカの前衛軍に仕立てられたようだ。心得ていてあうんの呼吸で前衛を勤めたならそれでよい。将来の布石になろう。7月5日から10日間以上これだけ日本の主張が世界のマスコミに報道され、中国の態度が世界にさらされたのは大きな効果ではないか。

共同提案国イギリスとフランスの軟化はイラン核制裁への中国の譲歩が理由といわれるが、前に述べたようにいまやEUの重要なお得意になった中国からエアバス不買の脅しがあったに違いない。

中国の首相か主席がこの春ワシントンを訪問した時にもジャンボの大量購入を契約したり、IT関連の大型商談をばら撒いたが、今回それがようやく、きいてきたようだ。またイスラエル周辺がきな臭い。アメリカはこれにも気を取られたろう。

日本はアメリカがマカオの金融制裁で急所をついたように、独自に工夫しなければならない。中国に対しては円借款は即座に中止だ。どうせ北朝鮮援助に行く。償還期限が来ている借款が多額にのぼろう。ゆすり大国の中国は借り倒して返す気は最初からないが、きびしく取り立てるべきだ。北朝鮮に対してはマンギョンボウ号の入港は永久に禁止すべきだろう。手はいろいろある。


いい酒は水の如し:管理組合という悪文化(4)

2006-07-15 09:54:12 | マンション管理組合

いい酒は水のごとし。空気の如し、ありがたく、命のみなもとなれどその存在を意識させない。管理組合もまたかくありたい。

管理組合というのは分譲マンションにある。賃貸マンションにはない。当事者には自明のことだが、これからマンションをあがなおうかという若い諸君のために一言述べておく。

マンション管理会社というのがある。これは分譲にも賃貸にもある。分譲の場合は管理組合があれば管理組合がいろいろ折衝するたてまえになっている。賃貸の場合は大家が管理することもあるし、大家が管理会社に委託する場合もあるのだろう。

管理会社というのは建物の掃除、点検、維持をする。またエレベータの定期点検などを専門の外部会社に発注したりする。管理人がいるところでは、管理人を派遣したり、監督したりする。

管理組合というのは分譲マンションの購入者で構成する。区分所有者と呼ばれているのが分譲マンションの購入者(所有者)だ。区分所有法という法律があって、管理組合に関する規定はこの法律にある。

さて、管理組合といっても分からない人が大部分だろうからと、ざっと書いてみたが今回はつまらないものになった。足りない部分もあるだろう。今後説明が必要なおりに随時触れていくつもりだが、皆さんもコメントなどでどんどん指摘してもらいたい。退屈なことを紹介しているうちに今回の紙数が尽きた。以下次号。


どぶさらい遺伝子:管理組合という悪文化(3)

2006-07-14 08:37:14 | マンション管理組合

永井荷風の次はユングだ。目をまわさないでもらいたい。江戸耽美趣味から精神分析だ。集団的無意識の教養が必要だ。めまぐるしく引き回して申し訳ない。しばらくご辛抱を。

父親からオチンチンをちょん切られる恐怖を世界の基礎にすえる壮大な偏執気質のフロイトには到底付き合えないが、ユングの集合的無意識というのは結構つかえる。後天的に獲得した形質も遺伝するというラマルクの説は否定されている。いわんや心理的な性向は遺伝しないとされている(常識の世界では)。

しかしだね。そうともいえないのだ。ユングの集合的無意識というのはそういう常識に対する反論でもある。ユングの考えているスパン(集合的無意識が人類の脳基底に沈殿染着する期間)は万年単位だが、わずか2,3百年でも集合的無意識が形成され遺伝する事例をユングにたいするオマージュとしてお示ししよう。

場末の長屋では夏になると住人総出でどぶを浚ったものだ。藪蚊が大量に発生するし、不衛生だからだ。長屋の強迫観念となっていた。そういう父祖の思い出は現代の住民にも遺伝している。場末、下町のマンションでは配水管の清掃作業が管理会社によって行われるが、留守をしていて協力しないと村八分にされる。鍵を預けていけと怒鳴られる。見ず知らずのマンションの住民にだよ。

マンションの掲示板には「不届き者」の名前が掲示されるという恐ろしい目にあう。どぶさらい遺伝子健在なりだ。とにかく、現代版どぶさらいの時期になると無性に住民は張り切るのだ。お屋敷町のマンションでも定期的に配水管清掃は行われる。しかし、ここまでヒステリックな盛り上がりは見られない。粛々と行われるのだ。たかが、どぶさらい、されど、どぶさらい、だ。こんなつまらないことにも社会学、遺伝学そして精神分析学の貴重な観察例があるのだ。学問の楽しみのたねはつきない。