昭和天皇拝謁記というのをNHKがポツンポツンと放送している。原稿(拝謁日記)は初代宮内庁長官の遺族から毎日新聞に持ち込まれたという。毎日新聞は全文(あるいは相当部分)を一挙掲載したのだろうか。私は新聞を読まないからわからない。それが毎日新聞かどうかもメモしていないから誤りかもしれない。短いものであっても中味は濃い。
大戦前後の首相たちに対する寸評は興味深い。時の首相は天皇に状況を上奏したり、決裁を仰ぐわけだから、受けるほうとしては報告がしっかりしていて内容があるものが当然評価がたかくなる。
昭和天皇が事務能力を評価の基準としているのはそういうことである。この点では日支事変の始まりから東条内閣に引き継ぐまでの近衛に対する評価は低い。事務的にあてにならぬ、とある。おもうにお公家さんであった近衛は軍部が担ぐ都合のよい神輿として軍部に本当の情報も与えられずにちゃらんぽらんにやっていたのであろう。
そ れに比べて東条英機の事務能力に対する評価は高い。軍部内部を完全に掌握していて情勢(例えば226のような軍部内の不穏な空気を)を正確に上奏していたものと思われる。ただ、彼には政治判断、外交問題に対する理解判断には問題があったということだろう。注
注:若干の補足が必要と思われる、後便にて補足予定
終戦直後のもっとも困難な時期に首相を務めた芦田均に対する評価も(事務能力評価も)高い。今ではほとんど忘れらえた政治家であるがアメリカ占領軍の圧力、国内での赤化革命の脅威のなかであえなく昭和電工事件で失脚した。いずれにしても昭和天皇好みの首相であった。
一番面白いと思ったのは吉田茂の評価である。
「吉田はカンで動く。人間は難しいね」
これはこう解釈される。「政治的な節目節目で判断がはやい。日本の政治に決定的な影響力を持っていたマッカーサーをうまく操っている。」という意味だろう。ようするにカンで動いても結果オーライだった。戦後日本の復興繁栄のレースを敷いたのは吉田だからね。
さて「人間は難しいね」である。これは吉田は理論も情勢分析もない。あれで首相がつとまるのかね、というのが一番多い感想ではないか。
私はそうは取らない。吉田のカン働きは早いし適切であった。首相というものは被上奏者として事務能力だけで評価できないことが分かった。むずかしいね」とこうなるのであろう。