牛乳が値上がりする。輸入穀物価格の高騰のせいだと、消費者は説明される。都会生活の友人などは、「乳牛は草てべて乳出してるのでないのか」と訝る。乳牛に大量の穀物を与えることは、経済性のなせる結果である。乳はたくさん出るし、餌をたくさん買ってくれる。農協も業者も喜ぶ。ところが牛はぼろぼろである。不健康な牛から、健康食品が生産される。
北海道の根室地方の場合、酪農家の受け取る乳価がおおむね1キロ当たり7円ほど上がる。現在70円程度だから、77円程度になる。ここで”ほど”とか”程度”と表現したのは、乳価が極めて複雑な計算方式から成り立っているためである。
一般消費者は牛乳といえば飲むもの(飲用)とまず思うことであろう。その他、チーズやバターなど(加工用)として、あるいは給食用として販売される。これらの価格がそれぞれ全く異なるのである。一番高いのが飲用で次が加工用で、最も安くなっているのが給食用である。さらに、乳脂肪など乳成分などにより価格が設定されている。
中央酪農会議によると、現在最も高い乳価は沖縄で1キロ当たり112円60銭であるが、最も安い北海道は69円20銭とのことである。消費地に近く、飲用乳だけの地方が最も高いことになる。
牛乳は生鮮食品である。他の農産物と大きく異なるのが、互いに混ざり合うということである。牛乳は、牛それぞれによって量も異なれば成分も異なる。餌によっても異なるし季節変動もある。何より農家間で異なる、給餌方法が量にも成分にも関係する。
困ったことに、これらの牛乳が混ざりあってそれぞれ飲用になったり加工されたりするのである。他の農産物と異なり、農家が個別販売が困難な商品である。消費者もこれらの選択は困難である。チーズなどを加工する農家とが最近増えているが、それでも個体までは特定できない。この牛の牛乳の牛乳を飲みたいや、チーズをを食べたいは難しい。
前述のように、酪農家の乳価は7円程度上がるが、これまでの経過をみると店頭では少なくとも20円ほどは高く販売されることになる。そこで消費者は、酪農家が苦しいので飲用の牛乳が20円上がったと、報道から理解することになるであろう。
仮に、20円上昇としているがこの20円の中に占める農家の受け取り部分は、流通が受け取る部分より少ない。乳業会社をはじめとする、加工業者たちは台所の苦しさを強調するであろうが、とりわけ酪農家からの要求があったことばかりが残ることになるだろう。
見方によっては酪農家の乳価だけを表に見せて、加工流通業者はそれ以上に便乗値上げをすることになる。今までそうだったから、多分そうなるだろう。妙なからくりである。