高橋睦郎『深きより』(13)(思潮社、2020年10月31日発行)
「十三 帰るべきところは」は「鴨長明」。
「神の家」と「帰る」。「家」に帰るのか、「神」に帰るのか。書き出しの三行だけではわからない。
やっと「望み」が叶うかにみえたとき、再び、「望み」を断たれる。「帰る」という「動詞」が断たれた、と読んでおく。
「帰る」は「移り棲む」と言い直される。「家に、棲む」のである。「仮屋」の「仮」が「神」になるかもしれない。「仮」は絶対ではない。「神」が絶対であるとするなら、「仮」は神ではないが、神ではないものを絶対とするからこそ、そこに「個人」の思想(肉体)が動く。だれのものでもない、一人の肉体だけが向き合う絶対が生まれる。
この「絶対的、個人的思想」は、すべてを相対化する。
「都に在るよりも」が相対化の視点をあらわしている。
しかし、私には、この「相対化」が必然の結果なのか、逆に「相対化」をよりどころとして「絶対的、個人的な思想」にたどりついたのか、よくわからない。
「神の家」に帰ろうとしていた鴨長明が「仏」に向かうときの、「転向」の起点がわからない。
途中にある「西の空」と、最終行の「念仏」が「帰る」と、どう結びついているのか、高橋の詩からは読み取ることができなかった。書き出しの「父の死」の「死」が突然「わたくし」を呼んだのか。
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「十三 帰るべきところは」は「鴨長明」。
神の家の裔に生まれ 神に仕へるべく育てられ
父の死によつて突然 神の家から遠ざけられた
いつか神の前に帰ることのみが 望みだつた
「神の家」と「帰る」。「家」に帰るのか、「神」に帰るのか。書き出しの三行だけではわからない。
やっと「望み」が叶うかにみえたとき、再び、「望み」を断たれる。「帰る」という「動詞」が断たれた、と読んでおく。
その望みが全く断たれたときは すでに五十歳
わたくしは はじめて帰るべきところを知つた
方一丈 折り畳める仮屋をつくつて 四つ車に乗せ
都から大原へ さらに日野の外山へと移り棲んだ
「帰る」は「移り棲む」と言い直される。「家に、棲む」のである。「仮屋」の「仮」が「神」になるかもしれない。「仮」は絶対ではない。「神」が絶対であるとするなら、「仮」は神ではないが、神ではないものを絶対とするからこそ、そこに「個人」の思想(肉体)が動く。だれのものでもない、一人の肉体だけが向き合う絶対が生まれる。
この「絶対的、個人的思想」は、すべてを相対化する。
時代の車輪はとどろに響し 確実に動いてゐた
山中では 都に在るよりも明確にそれが聞こえた
「都に在るよりも」が相対化の視点をあらわしている。
しかし、私には、この「相対化」が必然の結果なのか、逆に「相対化」をよりどころとして「絶対的、個人的な思想」にたどりついたのか、よくわからない。
「神の家」に帰ろうとしていた鴨長明が「仏」に向かうときの、「転向」の起点がわからない。
死後を思へば 西の空ひろびろと開けて明るい
わたくしはそれを聞き 念仏申して眠りに就いた
途中にある「西の空」と、最終行の「念仏」が「帰る」と、どう結びついているのか、高橋の詩からは読み取ることができなかった。書き出しの「父の死」の「死」が突然「わたくし」を呼んだのか。
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