生物という現象は、たぶん、原初の地球上に発生した無数の原始的な細胞群の一つが、当時の環境事情に一番うまく適合したために、効率的な自己増殖システムの開発に成功して地球全体に広がってしまった、ということでしょう。グローバリゼーションですね。ダーウィンの理論 (一八五九年 チャールズ・ダーウィン「生存競争における適者保存あるいは自然淘汰の作用による種の起源について」 On the Origin of Species by Means of Natural Selection, or the Preservation of Favoured Races in the Struggle for Life,1859)で完全に推測できます。
その拡散過程でDNA情報が少しずつ改変されて無数の多様な生物種に分岐して進化した。そうであれば、私たちが今、目の前に見ている多様な生命現象は、数十億年にわたる微視的なDNA情報の分岐進化が巨視的に投影されたものである、といえます。
「ライフ・イズ・ビューティフル」(La vita è bella 一九九七年 ロベルト・ベニーニ監督作品)のタイトルはレフ・トロツキー(一八七九年ー一九四〇年)晩年の日記から引用、とされています。「人生は美しい。未来の世代には、そこから悪と抑圧と暴力をすべて洗い流させ、その楽しみをつきつめさせようではないか(訳筆者)」
人生。英語ではライフ、生命の意味もある。多くの言語でも生命と人生は同語です。生命保険など、人生の保障です。生命がなければ人生はない。しかし人生がなくても生命はあります。(拙稿74章 「子供にはなぜ人生がないのか」)
たしかに花、たとえばさくらに象徴される春夏秋冬は、人生に伴う時間経過を想起させます。桜の花芽が夏に分化し開花抑制DNAが転写されることにより開花DNAが抑えられた後、冬の長期低温効果で発現する冷風RNA(cool air RNA)が開花抑制DNAに蓋をするようにかぶさることによって抑制を抑制した状態で冬を過ごし、春の気温上昇により開花DNAが抑制なしに転写されることで、突然開花が始まります。このように温帯の生物は季節周期を利用して生存戦略を展開しています。DNA情報を複製拡散していきます。