レバノンのベイルート、貧民街で家族と暮らす少年は、両親が出生届を出さなかったため、無戸籍だ。学校にも行けず近所の商店で小間使いをしながら日銭を稼ぐ日々。そんな中、まだ幼い妹を両親が無理に結婚させたことに反発して家を飛び出した少年は、町中で出会った乳飲み子を抱えるエチオピア人女性の元に身を寄せることになる。
しかし不法就労の女性は突然拘束され戻ってこない。
彼女の子供を抱えた少年は、一人で子供を守ろうとする。
貧しさから子供を嫁に出さねばならない両親。
何もわからずに嫁に出されることを嫌がり泣き叫ぶ少女。
貧しさ故、劣悪な環境の中で生きねばならない家族。貧しさは子どもの世代にも受け継がれる。そこから抜け出す道はどこにもなく、それに反発した少年が出来ることは、両親の元から離れる事だけだ。そんな少年も都市の猥雑な喧騒の中に埋もれてしまいそうになる。
そんな中、起こる事件と、自分の怒りを外に向けて吐き出そうとする少年。
大半の出演者は映画の中のキャラクターと同じような人生を歩んでおり、少年を演じた彼も路上生活で大きくなり、読み書きも出来ないのだという。
しかし、自分の怒りを外に向けるエネルギーに変えることの出来る少年の言葉には、生きる力を感じる。その生きる力を使える未来はあるだろうか・・・
動き回らないようにビニールプールに入れられていた子供がどんどん大きくなり、あっという間にプールの外に簡単に出てしまうようになる。子供の力強さを感じながらも、この子がこれから自分の境遇をどんな風に理解していくのかと思うと、切なくなる。