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白鳥のブログ - 日々の世界を徒然と

西尾維新 『結物語』&オフシーズン 感想

2017-08-23 20:07:02 | 西尾維新
ずっと積読のままだった、オフシーズン4冊のまとめ読み。
なので、『結物語』と言いながら、その実、多分、オフシーズンまとめての感想、ってことになるかも。
ともあれ、今更な気はするけど、スペース、空けときます。













































なんで、今になってオフシーズンを一気読みしたのか、というと、直接の理由は、この間、『終物語(下)』のアニメを見たから。

で、いまさらながら、ファイナル(苦笑)シーズンの全貌を思い出したから。
てか、あれはあれで、ずいぶんと複雑なプロットだったんだなぁ、と。
その分、今になって、結構、感心したんだよね、ファイナルシーズン。

で、その勢いで、溜めたあったオフシーズンを読み始めた。
見たら、オフシーズン第一作の『愚物語』って2年前の2015年に出てるのだけど、全く触手が伸びなかった。ということは、2年間まるまる、「物語シリーズ」については触れてなかったってことになる。

その理由は、いうまでもなく、あれー、「ファイナル」シーズンって名うっていたのに、まだ続くの?さすがに蛇足じゃない?って、当時、思ってたんだよね。
しかも『愚物語』の最初が、老倉育の話から始まっていたのも悪かった。

実は、ファイナルシーズンの最後の最後で彼女が登場したのが、どうにもご都合主義で嫌だったんだよね、当時。

だって、いかにも取ってつけたような新キャラで、
しかも遅れてきた必敗の「幼馴染ヒロイン」って存在なのだから。

その老倉の「その後」の話から始まるオフシーズンって何よ?って思っていた。
で、そのまま、積読状態に。

けれども、今回の、アニメの「終物語」を見て、前の老倉のエピソードとかを見直すと、これはこれで、忍野扇の「初登場」ネタだったったことの重要性に気づいて、ホント、今更ながら、なるほどなー、と思ったんだよね。

それで『愚物語』から読みだしたら、やっぱりこれは面白い。

もちろん、モンスターシーズンが新たにスタートして『忍物語』が刊行されたから、というのもあるのだけど、オフシーズンって、「オフ」って言葉で騙されていたけど、実は「落穂ひろい」的な後日談ではなく、モンスターシーズンに向けた新たな舞台づくりだったのね。

そこでようやく了解したのが、ファイナルシーズンの「ファイナル」って、化物語シリーズの「最終」ってことではなくて、阿良々木くんを主人公にした彼の「高校=青春劇」が終わった、ということだけだったのね。

要するに、「第一部・完!」ってこと。

でも、当然のことながら、阿良々木君以外にも魅力的なキャラはたくさんいて、彼らをこのまま死蔵させるのは惜しい・・・ということで、始まったのが、第二部としてのモンスターシーズン。

まぁ、モンスターシーズンの位置づけ(の予想)については、『忍物語』の感想で詳しく書くつもりだけど、簡単にいえば、文字通りの「化物語」が、モンスターシーズン以後の第二部ってことだよね。

もはや阿良々木くんはセンターにいるわけではなく、ひたすら、怪異譚が語られていく。
その第二部に向けた布石が、オフシーズン。

なので、
忍の「美し姫」のエピソードが今更ながら触れられ、
そこからスーサイドマスターが新たに登場したり、
(すっかり忌み嫌われていた)千石撫子のいわば「召喚絵師」的デビューや
八九寺の〈八九神〉としての本編復活に伴って斧乃木ちゃんが阿良々木番からは降板し、
かわりに、斧乃木ちゃんは、月火と千石の語り部担当になりそうなルートが示される。

てか、この斧乃木ちゃんの「受難キャラ」へのシフトは、一見、えー???と思うものの、彼女のキャラは「常にブレていた」ことを思うと、この変貌も、また予定調和で面白いなぁ、と。

てか、月火ネタは、神原ネタとともに、ファイナルシーズンでは周縁的に扱われていたのも、あとで、新たなストーリーラインを生み出すためのものだったのだ、ということで納得できたし。

ともあれ、そうしたファイナル・シーズンまでの、阿良々木くん目線から見たとき、周縁的に扱われていた人たちに異なるスポットが当たるように加筆するのが、オフシーズンの狙いの大きな柱だった。

つまり、斧乃木×千石×月火、のいわばスピンオフ的なストーリーラインが一つ新たに生じる。

で、そうした第二部への道筋をはっきり示すために書かれたのが『結物語』だった、ということ。

いきなり阿良々木くんの社会人一年目の話にすることで、少なくとも、この化物語世界には、4年分の時間の経過、という「語られていない世界」が存在することが明らかにされた。

で、その空白の4年間を描くのが、モンスターシーズン。
まぁ、そのことは『忍物語』側で触れるとして。

『結物語』では、阿良々木くんの警察官キャリア組としての将来が描かれるだけでなく、彼の同級生女子3人についても、その将来が記されていた。

で、この部分こそが、『結物語』の白眉たるところだと思うのだけど、
この、阿良々木、戦場ヶ原、羽川、老倉、の四人が、きっと、モンスターシーズン後の新シーズンの主役にまたなるんだろうな、と。

もちろん、その話の中心には、羽川、という「生きた化物」が存在していて、その「旧ツバサ・ハネカワ」が仕掛ける世界的な怪異譚?的物語に、インターポール的な国際怪異デカ(刑事)となった阿良々木くんが、探偵役として絡んでくる。

で、その「旧ツバサ・ハネカワ」と「真・阿良々木くん」との国際的丁々発止の仲立ちをするのが、多分、国際金融資本のプレイヤーとなった「ミズ・ヒタギ」こと戦場ヶ原、ってことなんじゃないかな。

じゃあ老倉は何?ってことになるけど、まさに「幼馴染」キャラとして、そんな国際的な活躍を行う三人のいわば、錨役、つまりは原点としての役割を果たす。そのために彼女は、直江津町役場に勤め、しかもその地に終の棲家まで購入してしまった、ってことでしょ。

もちろん、直江津町には、八九神もいるわけで、これは阿良々木くんからしたら、なくせるはずのない「故郷(ふるさと)」だよね。

少なくとも、『結物語』の後半で書かれていた、阿良々木、戦場ヶ原、羽川、老倉、の四人の物語は、こういう、将来的な役割分担のためのものだったと思う。

そして、この老倉との対比も含めて、羽川は、逆に、直江津町から、彼女自身の痕跡を全て消そうとしたわけで。

つまり、羽川は、いわば地球上を舞台に活躍する「∞(無限大)」の存在になったのに対して、老倉は直江津町に完全に根を下ろすことで、「ゼロ=原点」の存在になった。

その「無限大」と「ゼロ」の間を、あくまでも人間の尺度で右往左往するのが、将来の阿良々木夫妻?。

まぁ、ホントに、阿良々木くんと戦場ヶ原が結婚するかどうかはわからないけどね。

大体、世の中の多くの事実を見れば、高校のときに付き合っていた二人が結婚するなんて、よっぽどの田舎町でもない限り、ありえないわけで。
少なくとも都会的現実とは全くそぐわない

その点で、阿良々木くんが、大学の4年間で、戦場ヶ原と別れては復縁、というサイクルを繰り返した、というのは、適度にリアリティがあってよかった。

そして、そのサイクルに、なぜか老倉が絡んでいたのも。

多分、西尾維新からしたら、羽川を「本当の怪物」にしようとして大学には行かせずに世界の放浪の旅に出させた時点で、本来なら、大学の四年間で羽川が占めたであろうポジションを埋めるために老倉を登場させたのだろうな、と思う。そうして、羽川の足跡を完全に消すことで、逆に、羽川がどんな存在になってもおかしくないものにした。

だってさー、
どう考えても、羽川って、化物語ワールドにおける位置づけって、別格でしょ。

それは、この間、ようやく完成した映画の『傷物語』を見ても思ったけど、そもそも羽川がいなければ、阿良々木くんは忍=キスショットと出会うこともなかったのだから、羽川は化物語という世界のまさに「扇の要」なんだよ。

だからこそ、それこそ扇ちゃんは、羽川を蛇蝎のように嫌ったわけでしょ。

それに、普通に考えたら、『猫物語』の黒白あわせて、途中まで、多くの読者が、阿良々木くんが羽川を(恋人として)選ぶエンドも想像していたでしょ。

てか、羽川の阿良々木くんに対する「想い」の重さについては『業物語』の「つばさスリーピング」でも語られていたわけで。
その羽川が、阿良々木くんと俗世で結ばれなかったのには絶対、意味があるはずだよね。

多分、羽川と阿良々木くんの関係は「恋愛」のような言葉では語れないんだよ。
きっと、羽川と阿良々木くんの関係は、阿良々木くんと忍=キスショットとの関係に近いのだと思う。つまり、「死ぬときは一緒」という関係。

実際、この「阿良々木くんと忍」の関係については、戦場ヶ原もノーコメントのままなんだよね。多分、嫉妬の感情なんかでは表現できない。
でも、それもこれも、忍が吸血鬼という化物だから、許される特権的な、阿良々木くんとの昵懇な関係なわけでしょ。

で、きっと、この忍―阿良々木の関係に近い「絆」を、将来的には、羽川と阿良々木くんの間で、西尾維新は描いてみたいと思っているのではないか。

なんていうのかな。

森博嗣ワールドにおける真賀田四季のような存在に羽川翼を位置づけたい。
あるいは、ちょっとニュアンスは違うけど、ジョジョにおけるディオのような存在に羽川をしたい。

「旧ツバサ・ハネカワ」が、うつくし姫が吸血鬼になったように、ほんとの怪異になる。
その時、阿良々木くんは、ようやく、人の理を離れて、忍と運命を誓いあったように、羽川と添い遂げることができるのではないか

多分、そういう、遠大な計画をもって、『結物語』では、羽川をあのような形で、つまり、シュレ猫的な、どうとでも解釈できる存在として、半ば怪異化した存在として描いたのではないかな。

加えて、真性の怪異となった「旧ツバサ・ハネカワ」という存在に、しかし作中で違和感を抱かないようにするために、わざわざ直江津署の風説課なるセクションをつくり、そこに阿良々木君同様、怪異とともにある「半・人間」を集めてみせたんじゃないのかな。

いってみれば、ジョジョ第三部では特殊能力だったスタンドが、第四部以降、ほとんど誰でももてるような気にさせる能力として位置づけられたようなもの。

阿良々木くんの青春目線で語れば、怪異譚は世界を揺るがすものとして位置づけられていたけど、しかし、大人の世界からみれば、怪異の存在は半ば常識であった。

その世界認識を、大人になった阿良々木くんの目線から明確に宣言されたのが『結物語』だった。

そして以後の「化物語」世界では、阿良々木くんは、刑事として、いわが臥煙さんや忍野のような専門家と似たような立場から、怪異譚を「日常」として語り、日常として解決していくようになる。

・・・ということで、物語シリーズは、西尾維新のライフワークになった、ということ。

モンスターシーズンの後の、ナデコ・シーズンや、ハネカワ・シーズンが、楽しみだよ。
まぁ、多分、10年後とか、20年後とかになるんだろうけどw

そこでは、もう阿良々木くんは絶対的な主人公でないだろうけど、しかし、確実に物語の流を極めるピースのひとつになるんだろうな。

ハネカワvsアララギ、の因縁の頂上対決が今から楽しみだよw

多分、ハネカワは、怪異の王・キスショットも超えるだろうから。

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