採集生活

お菓子作り、ジャム作り、料理などについての記録

シャーナーメ:12.ロスタムの七つの試練(下)

2023-07-11 | +シャー・ナーメあらすじ(挿絵付き)

ロスタムのマザンダランでの試練の続きです。
前回、苦戦の末に白鬼を倒したのですが、その血でシャーたちの盲目を直すことができました。
で、みんなで楽しく故郷に帰る・・・のではなく、なんかオトナの展開があります。
児童文学育ちの私には、目からウロコといいますか。
当時の読者は当然イラン側に純粋に肩入れして楽しく読んでいたのだと思いますが、現代感覚では、むしろ引いてしまいます(繰り返される歴史に即しているといえばそうなのですが)。
(タイムリーな意味で)戦争ってこういう風にこじれて、そして誰にも止められなくなっていくんだなと勉強になります。
いや、今回は書いていてつらかった・・。


次は、久々に女性登場! 悪女だけど、戦争よりマシのはず。

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12.ロスタムの七つの試練(下)
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■登場人物
ロスタム:白髪のザールの息子。
ラクシュ:ロスタムの愛馬。黄色地に斑点模様。

マザンダラン(地名):人間とともにディヴ(鬼)や魔術師が住む国。架空の土地で、現在のマザンダラン地方(カスピ海南岸)とは無関係。
ウラド:マザンダランの辺境地の領主。Ūlādウーラード/Owlad/Olad
マザンダランの王: 魔法が使える。

 

■概要(あらすじはホントに身もふたもないですが、親書のやりとりとか、読むと結構興味深いのでよかったら本文も読んで下さい)
(前回までのあらすじ:傲慢なイランのシャー、カイ・カヴスは思いつきで軍を率いマザンダランに侵攻したのですが、大敗を喫します。シャーと主要な武将は、白鬼の魔術により盲目にされ、囚われていました。
彼らは助けを求める手紙をザールに送り、ロスタムひとり、幾つもの試練を乗り越えて、彼らのもとにやってきました。)

ロスタムは退治した白鬼の肝臓をもってシャーたちのもとに戻り、その血で彼らの盲目を癒すことが出来ました。
目が治った彼らは、まず囚われていた街やその周辺都市を略奪・殺戮して回り、復讐心を満足させます。
そして、マザンダラン王に、イランに臣従するように親書を送ります。
マザンダラン王は全くとりあわなかったため、より苛烈な2通目の親書を持って、ロスタムが遣わされます。
ロスタムが威力を見せつけたことで、王に非戦・服従を勧めた武将もいましたが、やはりマザンダラン王は受け入れません。

マザンダランとイランは戦争することになりました。
(イラン側はシャーほか少数の側近がマザンダランで囚われていた状態なので、そんなに沢山の兵士はいなかったはずですが、本国から軍団を呼び寄せたということか?)
七日間の長く激しい戦いの末、ロスタムはとうとうマザンダラン王に迫り、彼を長槍で突いたのですが、その瞬間王は魔法で石に姿を変えました。
カヴスの玉座の前で、石になった王を脅したところ、王は再び人間の姿に戻りましたが、カヴスによって処刑されます。
ロスタムの願いで、シャーはオラドをマザンダラン王の地位につけてイランに帰還します。
イランに戻ったロスタムは、シャーから沢山の褒美を貰い、父ザールのいる故郷シスタンに戻ります。

■ものがたり

□8□カヴスの視力が回復する

ロスタム達はカヴスのもとにたどり着き、皆は喜びの声を上げました。
そして、数え切れないほどの感謝と賛辞を込めて、彼のもとに駆け寄りました。
ロスタムは言いました。
「シャーよ、知識の探求者よ!喜んで下さい。汝の敵は倒されました。
私は白鬼の肝臓を切り取りました。マザンダラン王はもはや彼の働きを期待することはできないでしょう。」

カヴスはロスタムを大いに祝福し、肝臓の血を絞って自分と戦士達の目に注がせました。

●ロスタムがカヴスの目を治す(Bayerische Staatsbibliothek, BSB Cod.pers. 10, f. 87v)


すると彼らの目は輝きを増し、世界は彼らにとって薔薇の花園になりました。
象牙の玉座が運ばれ、その上に王冠が吊るされ、王はロスタムや他の戦士たち(トゥース、ファリボルス、グダルズ、ギーヴ、ロハム、ゴルギン、バフラム)に囲まれてマザンダランの支配者としてその場に座りました。こうして、葡萄酒と音楽で一週間が過ぎ、カヴス達は喜びと楽しみを満喫しました。

8日目、王と戦士達は馬に乗り、巨大なメイスを持ち、マザンダランに散っていきました。彼らは王の命令に従って、火が乾いた葦を焼き尽くすように素早く走り、いくつもの都市に火と剣を持ち込んだのです。
彼らの鋭い剣によってディヴたちは血が川となるほどたくさん殺されました。
夜が明けると、戦士たちは皆休息し、カウスは宣言しました。
「罪に対する正当な復讐がなされ、殺戮をやめる時が来た。
今、我々は、マザンダランの君主に働きかけよう。
威厳と威圧感のある人物、状況に応じて即答と時間稼ぎを使い分けられる賢明な使者が必要だ。」

ロスタムや他の諸侯たちは、マザンダラン王にメッセージを送り、その暗愚な魂に光をもたらすという考え方に同意しました。

 

□9□カヴスがマザンダランの王に手紙を送る

熟練した書記が白絹に書いた手紙には、慇懃と苛烈、希望のほのめかしと恫喝が入り交じっていました。まずあらゆる善の源である神への賛美から始まり、こう続きました。

「汝が高潔であり、汝の信仰が純粋であるならば、全ての人が汝を賞賛するだろう、しかし、汝が不誠実で敵対的であるならば、天の呪いが汝に降りかかるだろう。
公正な神は掟を破らない。
神が、犯された罪への罰として、ディヴや魔術師を塵に帰したことを見よ!
もしかれらの運命の知らせが汝に届いたならば、そして心と知恵が汝の監視者であるならば、汝、王位を辞し、マザンダランから,他の臣民と同様に,わが宮廷に来て臣従を誓え。我らが要求する税や貢ぎ物を支払うのだ。
そうすれば汝はルスタムとの闘いを免れ、或いは王座を維持することもできよう。 
しかし、この申し出を拒否するならば、汝もまた白鬼やアルザンの運命を辿るであろう。」

手紙は完成し、シャーは麝香と香料を混ぜた封蝋に印章を押し、ファルハドを呼びました。
「この忠告の手紙を、束縛から逃れたあの男に届けよ 」
と。
彼は大地に接吻し、シャーの手紙を持って、勇敢な騎馬民族ナムルパイの土地にたどり着きました。都を逃れたマザンダランの君主は、いまこの民族と共に住んでいたのです。ファルハドは、人を遣わして王に自分の来訪を告げました。

王は、使者を畏怖させるため、勇壮なディヴの軍勢を出迎えにやりました。
彼らは威圧的な様子で揃い立ちました。そしてディヴの隊長の一人がファルハドに近づくと、彼の手を掴み、強い力で揉みしだき、彼を痛めつけようとしましたが、ファルハドは顔色を変えることなく涼しい顔で耐えました。

王の前に通されたファルハドは挨拶の後、シャーからの親書を渡しました。
王はこれを書記官に渡し、読み上げさせました。
内容を聞いた王は、アルジャンと白鬼の殺害を嘆き、彼の目は血の涙で満たされました。そしてロスタムの強さに密かに畏怖しました。
王は使者を戦士や名士たちの間で3日間もてなし、4日目にこう言いました。

「あの厚顔無恥な青二才のもとに帰りこの回答を伝えよ。
『貴様は葡萄酒と海水の区別もつかないのか。
我輩は貴様に脅されて服従するような存在ではない。
”土地と王座と国を捨て、私の宮廷で臣従を誓え” などとよく言えたものだ。
我が輩の宮廷は貴様のそれよりも格が上であり、私の宮廷には千の千倍もの軍隊があり、魔力を持つ彼らは、小石も香りすらも残さずにどこにでも戦いに赴くことが出来る。
すぐに備えるがいい。
私は獅子のような軍勢を率いて、貴様の頭を甘い眠りから呼び覚ましてやる。
我が輩は1200頭の戦象を持っているが、貴様には何もなかろう。
丘と谷が一つに見えるまで、イランから暗い塵を舞い上がらせてやる。』」

ファルハドは、彼の反感と自尊心、そして傲岸さを察知しました。
返書を受け取るや急いで戻り、見たこと、聞いたことをシャーに話しました。
「王の自尊心は天よりも高く、その目的はそれに劣らず高いようです。
彼は私の話を聞こうとせず、彼の目には世界は何の価値もありません。」


そこでカヴスはロスタムを呼び、ファルハドの報告を繰り返しました。
ロスタムは言いました。
「私は我が国を恥辱から救い出します。
雷雲のような苛烈なメッセージを持って、私自身が使者として彼のもとへ参ります。私の言葉で、川には血が流れるでしょう。」
シャーはこう答えました。
「大使でありかつ戦士でもあるそなたあってこそ、イランの王冠と印章が輝くであろう。」

 

□10□カヴス王がマザンダランの王に二度目の手紙を送る


シャーは書記を呼び、矢尻をペンにしてこう書きとらせました。
「そのような議論は無駄であり、冷静に考えれば愚策である。
もし汝がその傲慢な頭を冷やすことができるならば、奴隷のように命じられたとおりにすべきであろう。
汝は自分の領域を破壊することなく、私に貢物を払い、戦争に煩わされることなく、マザンダランを楽しみ、ロスタムに脅かされることなく命を長らえるだろう。
しかし、王よ。もし汝がこれを拒むなら、私は大軍をもって進軍しよう。そして、汝のお気に入りだった白鬼の魂が、汝の脳をついばませるためにハゲタカを連れてくるだろう。」
王は手紙に封をすると、ロスタムは巨大なメイスを鞍に掛け、マザンダランの王の元へ出発しました。


カヴスがもう一人の使者を遣わしたという知らせが王に届きました。
「豪胆な大男で、六十巻きの投げ縄を持つ男です。」
これを聞いた王は、数人の武将を選び、新しい使者を歓迎するために軍勢を送り出しました。

ロスタムは彼らの姿を見ると、道の傍らに広がる木を見つけ、2本の枝を掴み、力強く木の周りをねじり、木を根こそぎ引き抜いて、槍のようにそれを構えました。そしてすべての軍隊が驚いて見ているなか、その木を投げ飛ばしたのです。
その枝に何人もの騎兵が隠れてしまいました。

●ロスタムが木を引っこ抜いて投げつける(Bayerische Staatsbibliothek, BSB Cod.pers. 10, f. 89v)


騎馬のロスタムは近づいて行き、ディヴの騎士たちとの挨拶は長く続きました。
ひとりのディヴの騎士がロスタムの手を掴んで強く握りしめ、英雄を傷つけようとしました。ロスタムは涼しい顔で微笑んで、彼の手を握り返しました。その持ち主は青ざめ、痛みのために気を失い、馬から地面に倒れ込みました。

そしてまた、コラーヴァルという勇猛な戦士も、ロスタムに優位を示そうと考えていました。
コラーヴァルは威圧するような猛々しい様子でロスタムに手を差し出し、ロスタムの手を、あざができるほどに強く握りしめました。ロスタムは無表情のまま、お返しにコラーヴァルの手を握ると、コラーヴァルの指から爪が木の葉のようにハラハラと落ちたのです。

コラーヴァルは、その手を無為に垂らしたまま、王に報告し、その手を見せながら言いました。
「畏れながら、あの男と戦うのはお止め下さい。彼らの条件を受け入れ、マザンダランを守るためにイランに貢物を納めましょう。大小の税金に分配すればこの重い労苦も軽くできましょう。」

その時ロスタムが宮廷に入ってきました。王は彼を名誉ある席に案内させ、道のりの苦労などを訪ね、そして聞きました。
「そなたがロスタムか?その見事な胸と肩は、かの勇者に相応しい。」
ロスタムは答えました。
「私は奴隷です。勇者ロスタムのがいるところでは、私のようなものは役立たずです。
神が世界を創造して以来、彼ほど強い戦士は現れませんでした。」

そしてシャーからの断固とした書状を渡しました。
王はその手紙を聞いて驚き、怒り、ロスタムに言いました。

「そなたの王にはこう伝えよ。
『貴様の言葉で私を屈服させようとする傲慢な試みは、軽蔑に値する。
お前がイランの君主であるように、吾輩はマザンダランの偉大な王である。
冠を頂く吾輩を呼びつけて服従させようとは、全くもって不条理であり高貴な者の振舞ではない。
よく考えよ。他の王達の王権に野心を抱いてはならない。そのようなことをすれば汝に不名誉が降りかかるだろう。
高慢の次に来るのは転落である。今すぐ引き返せ、イランに帰れ、慣れ親しんだ土地に帰れ。
もし吾輩が軍を率いて出陣すれば、お前は敗北し、追い返されるだろう。
賢明になり、弓を捨てるがよい。もし吾輩がお前と対面すれば、お前は話すことも闘うことも出来ないだろう。』

そして使者殿よ、ロスタムにも伝えてくれ。
『高名な戦士よ! カイ・カウスがそなたに与えるものが何であれ、私はその百倍を与えよう。
そなたを武将たちの長にし、望むままに富ませ、そなたの頭を日月より高くし、私の全軍の指揮をそなたに与えよう』と。」

しかし、ロスタムは、玉座、護衛、宮廷を冷ややかに見渡し、王の演説を意に介しませんでした。そして憤慨してこう答えました。
「浅はかな王よ! おめでたいことだ。
ロスタムという高貴なパラディンが、あなたの財宝や軍隊を欲しがるとでも思うのか。ザールの息子はニムルズの君主であり、並ぶものはいないのです。
だから、あなたの舌を振るのをやめなさい、さもなければ、彼はそれを摘み取るでしょう。」

王は頭に血が上り、激昂して叫びました。
「この使者を捕らえよ!」

即座に衛兵がロスタムに近づき、彼の手首を掴み、その椅子から引きずり降ろそうとしました。
しかし、ロスタムは衛兵の手首をつかみ、逆に引きずり寄せて彼を投げ倒し、片脚を踏みつけて抑えつけました。
そしてもう一方の脚を掴んで、男を引き裂いてしまいました。
ルスタムはこう言い捨てました。
「もし私にシャーからの許しがあれば、いまここであなたの軍と戦い、あなたを哀れな境遇に追い込むのだが。」
彼は血走った目で宮廷から出て行きました。 

王はその言葉と力に震え、衣服、馬、金の贈り物を用意してルスタムに差し出しましたが、彼は何も受け取りませんでした。


彼は闘争心に燃えてシャーのもとに戻り、マザンダラン王とその宮廷のことを報告して言いました。
「少しも心配することはありません。勇気を示し、ディヴと戦う準備をしましょう。
私は彼らを一粒の塵とも思いません。このメイスが彼らの悩みの種にして見せます。」

 


□11□マザンダランの王はカヴスやペルシャ人と戦争を起こす

ロスタムが去ると、魔術師たちの王は戦争の準備を始めました。彼は全軍を率いて平原に導いていきました。象と兵士達が巻き上げた塵は太陽を覆い隠し、海も山も平原も見えなくなる程でした。
悪魔の軍勢が近づいてきたと聞いたカヴス王もまた戦いの準備を命じました。彼らはマザンダランの砂漠に宿営地を構えました。

マザンダランには、ジュヤという名高い戦士がいました。
勇猛でメイスの扱いがうまく、朗々たる声、手甲は燦然と輝き、剣の火花が地面を焼く、威風堂々たる騎士でした。
彼はペルシャ軍の前に現れ、山や平原に響き渡る声で呼ばわりました。
「誰が私と戦うものはいないか?」

イランの戦士たちは静まり返り、まるで全軍がジュヤの姿を見て枯れてしまったかのようでした。そのときロスタムは手綱を引き、槍を振りかざして王のもとに駆け寄って言いました。
「陛下、わたくしにこの悪魔との対決を命じて下さい。」
カヴスは答ました。
「お前に任せよう。創造主がお前をお助け下さるように。」

ロスタムは長槍を握りしめ、ラクシュを前に促しました。彼は戦場に駆け出て、手綱を引き、鬨の声を上げると、平原全体が震え、砂煙が空に舞い上がりました。彼はジュヤに呼びかけました。
「お前の運命は今決まった。お前を産んだ女はお前のために泣くだろう!」
ジュヤは答えました。
「戦士ジュヤとその冷酷な剣を舐めない方がいい。お前の母胸は張り裂け、涙でお前の鎧と袈裟を洗うだろう!」
ロスタムはこの返事を聞くや、雄叫びをあげて、まっすぐジュヤに向かって突撃していきました。ジュヤは回り込んで避けようとしましたが、ロスタムは素早く追随し、長槍をジュヤの腰に打ち込みました。

ロスタムの槍は鎧を切り裂き、腰帯の留め具をはじけ飛ばし、そしてジュヤの胴体を貫きました。そして彼を鞍から引きずりおろし、地面に投げつけてしまいました。

●ロスタムとマザンダランの戦士ジュヤとの闘い(Staatsbibliothek zu Berlin, Ms. or. fol. 3380, f.80v)

マザンダランの戦士たちはこれを見て青ざめ、戦場にはざわめきが広がりました。
マザンダランの王は全軍に呼びかけました。
「頭を上げよ。我々は豹のように戦うのだ。」

合図の太鼓の音と喇叭の音が左右に鳴り響き、舞い上がる塵で空は暗くなり、緋色、黒色、紫色の旗が空中を埋め尽くしました。
戦士達の叫び声、太鼓の轟音、馬の嘶き、武器の衝突音が固い大地を揺るがし、打ち合わされる剣やメイスの火花は稲妻のようでした。
地上を覆う戦士の波は、うねり、砕け散り、沈み込み、激しい打撃で砕けた盾や鎧兜が降り注いで、秋風に舞い散る葉のようになりました。

戦いは1週間続き、8日目の朝、カヴス王は王冠を頭から外し、泣きながら神に祈りを捧げました。
「偉大なる真実の主、正義と純潔の創造主よ、どうかこの恐るべき悪魔の戦士たちに勝利させて下さい。そして王の王の座を私に与えて下さい。」
そして、兜をかぶり、部隊に合流しました。

この日も日暮れまで激烈な戦闘が繰り広げられました。

日が落ちたとき、ロスタムは手勢を率いてマザンダラン王の陣営に攻め入っていきました。そこは近衛兵と何頭もの象で守りを固められていましたが、ロスタムの怒号とメイスで、象は混乱して逃げ惑い、打ち斃され、兵士達も皆死体の山となったのです。

ロスタムはメイスを長槍に持ち替え、王に突撃していきました。
槍が王の帷子を貫くかと見えた瞬間、皆の目前で、王はその魔術で巨石と化したのです。
ロスタムは驚いて長槍を構え直し、石をみつめました。

●マザンダランの王が魔術で石に姿を変える(Bodleian Library MS. Ouseley Add. 176, fol. 73r)


その時、象と軍鼓を従えたカヴス王とその部下達がやってきました。
彼はロスタムに向かって訪ねました。
「偉大な英雄よ、これほど長い間、じっと見ているのはどうしたことか?」
ロスタムは答えて言いました。
「マザンダラン王の護衛達を倒し、そして王に長槍を打ち込もうとしたのですが、あやつはその瞬間、この花崗岩の岩に姿を変え、槍から逃れたのです。」

イラン陣営の力自慢の者は皆、この岩を持ち上げようとしましたが、その場からずらすことも出来ませんでした。
そこでロスタムは両手を広げ、その重さを確かめることもなく、岩を持ち上げて歩き出しました。
大勢の男たちが彼の後に続いて、彼に祝福の言葉をかけ、金貨や宝石を撒き散らしました。
彼はそれを王の天幕の前の広場に運び、それを投げ捨てました。

彼は岩に向かって言いました。
「汝の黒い魔術で、汝の正しい形を作れ。さもなくばこの鋭い鋼と戦斧で、この岩を打ち砕いてくれよう。」
すると岩は霧のように溶け、兜と手甲をつけた王が現れました。

ルスタムは王を縛り上げ、シャーの前に連れて行きました。
「あの岩の破片をお目にかけます。私の斧を恐れ闘いを諦めたようです。」

●シャーの前に出たロスタム(f127v)


シャーが改めてマザンダラン王の顔を見ると、彼は短躯猪首で醜い容貌であり、王冠に似つかわしい人物には思えませんでした。
彼は今までの苦しみを思い出し、心は憎しみで満たされ、処刑人にこの男を切り刻むようにと命じました。

 

●マザンダラン王、処刑される(f127v)

シャーは部下を敵陣に遣わして、そこにある銭、玉座、冠、帯、馬、鎧、金などの富は何でも分捕ってくるように命じました。そして兵士達を集め、各人に相応の褒美を与え、最も苦労した者に最も多く褒美を与えました。
そして、ディヴの残党を全て捕まえ、その首を切り落とし、その死体を道端に撒くよう命じました。

そして、祈りの場所に行き、7日の間そこにとどまり、ひれ伏して祈り、神を賛美しました。
「正義の裁判官よ! あなたは私の願いを満たさないままにせず、私に魔術師たちを征服させ、私の輝かしい財産を復活させました!」
8日目には、宝物庫の扉を開いて、不足している者全てに物資を配りました。

そしてこの宵、彼らは竪琴奏者と給仕人を呼び、ルビーで飾ったゴブレットで葡萄酒を飲んで過ごしました。
宴のさなか、シャーはロスタムに言いました。
「英雄の中の英雄よ! そなたは至る所でその腕前を披露してきたが、今、私はそなたから王座を受け取ったのだ。汝の忠誠に報いたい。」
するとロスタムは答えました。
「すべての人にはその役割があります。
私がしたことは、私の忠実な案内人であるウラドのおかげです。
私は彼に、マザンダラン王の地位を約束しました―全てうまくいった場合ですが―。
陛下はマザンダランの君主として、厳粛な契約と印章によって、彼に任命権をお与え下さい。そして次に他のすべての首長が彼に敬意を表するようにさせて下さい。
彼は陛下の忠実な家来となり、陛下に貢ぎ物を送るでしょう」。

シャーは忠臣の望んだ通りにし、そしてパースへの帰路につきました。



□12□カヴスはイランに戻りルスタムの任を解く 

さて、カヴスがイランに入国すると、行軍の塵が空を覆い、彼の帰還を祝う男女の歓声が響きわたりました。国中が彼のために飾られ、至る所で人々は葡萄酒と吟遊詩人を呼んで楽しみました。王が生まれ変わったことで世界は一新され、イランの上に新しい月が昇ったのです。
カヴスは勝利と喜びのうちに王座につくと、古代の宝庫を解き放ち、財宝を貧しい人に分配しました。

象のようなロスタムが王宮に入城すると歓声が上がり、軍のすべての隊長たちが王の前で喜びました。
ロスタムは、シャーの前に跪き、父ザールのもとへ戻ることを許すよう頼みました。

シャーは彼に高価な贈り物をしました。
トルコ石で飾られた雄羊の頭の玉座、宝石をちりばめた王冠、豪華な金襴緞子の衣、見事な首飾りと腕輪、そして黄金の帯を持った月のような顔の100人の少年、麝香の髪をした百人の愛らしい乙女たち、 黄金の馬具をつけた百頭の高貴な馬、 ルーム(ビザンチン)やチン(中国)の最高級の錦織の梱を積んだ、黄金の馬具をつけた百頭の青毛のラバ、金貨でいっぱいの100個の財布、ルビーのゴブレットに入った麝香、トルコ石のゴブレットに満たされた薔薇水、あらゆる香水、装身具・・・・・。。
そして、麝香、葡萄酒、流涎香、アロエのインクで絹に書かれた勅令もあり、その中でロスタムはシスタンの唯一の領主であることが確認されました。
そうしてロスタムは、鐘とクラリオンが鳴り響き、花輪で飾られた街を通って旅立ちました。


「シャーは法律と慣習で世界を照らし、その正義によって地上を文明化し、その正義において豊穣を心に留める」と国民は称えました。
そしてイランのマザンダランへの勝利は異国でも話題になりました。 
忠実な人々は贈り物と供物を持ち、君主の門の前に整列し、世界は楽園のように飾られ、富と正義で満たされました。

 

 

 

■シャー・タフマスプ本の細密画

ずっと知りたいと思っていた画家の情報がわかりました。過去の表にも追記する予定です。

サムネイル ページ番号 画のタイトル※ タイトル和訳 所蔵館と請求番号 画像リンク先 備考
f127v 127 VERSO  Rustam brings the div king to Kay Kavus for execution  ルスタム、ディヴの王をカイ・カヴスに連れて行き処刑する  MET, 1970.301.19 MET ミール・ムサッヴィール、カシム・イブン・アリのアシスト

 

 

■その他の写本の細密画

タフマスプ本には挿絵は1点でしたが、他の写本も見ていくと、いろいろと見つかりました。

サムネイル 連番 画のタイトル※ タイトル和訳 所蔵館と請求番号 画像リンク先 備考
BSB-Cod-pers-10 他36 87v -- カイ・カヴスの目に薬を塗る ⑧Bayerische Staatsbibliothek, BSB Cod.pers. 10 1560-1750
BSB-Cod-pers-10 他37 89v -- ロスタムが木を投げつける ⑧Bayerische Staatsbibliothek, BSB Cod.pers. 10 1560-1750
SbBerlin-Ms-or-fol3380 他38 080v Rustam fights the Mazandaran champion Juya ロスタムがマザンダランの戦士ジュヤと闘う ⑮Staatsbibliothek zu Berlin, Ms. or. fol. 3380 15XX、1670 年代
SbBerlin-Ms-or-fol3380 他39 fol. 73r The King of Mazandaran turns himself into a rock マザンダラン王が石に姿を変える ⑰Bodleian Library MS. Ouseley Add. 176 1420–1440    ティムールの孫、シャー・ロクの息子であるエブラヒム・ソルタン (1394 ~ 1435 年) が依頼
SbBerlin-Ms-or-fol3380 他40 081v The King of Mazandaran is executed マザンダラン王の処刑 ⑮Staatsbibliothek zu Berlin, Ms. or. fol. 3380 15XX、1670 年代

 

■細密画解説(本や所蔵美術館の解説より適宜抜粋)、メモ

●カイ・カヴスの目に薬を塗る
〇Fujikaメモ:
ロスタムがシャー・カヴスの目を治すシーン。
このあと宴会の日々があって、うんうん、そうだよねー、と読んでいたら、次にみんなで復讐のために略奪と虐殺に出かける、とあって愕然としました。
だってそもそもマザンダランに勝手に攻めて来て、その結果ひどい目にあわされたその復讐のために市民から略奪するなんて・・。


●ロスタムが木を投げつける
〇Fujikaメモ:
大木をねじねじとねじって引っこ抜いて投げつける、というこのシーンは荒唐無稽で面白いです。
これは絶対挿絵が欲しいと思っていましたが、絵がみつかってよかった!


●ロスタムがマザンダランの戦士ジュヤと闘う
〇Fujikaメモ:
ジュヤとの一騎打ちの部分は省略してしまおうかと思ったのですが、折角この挿絵がみつかったので省かないことにしました。前にも一騎打ちのシーンがありました。大合戦の嚆矢として一騎打ちがあるのは、定番なのでしょうか。
この絵は、ジュヤの頭とその下あたりに、切り貼りの痕跡があります。なんででしょう・・。
あと、ジュヤの馬の後ろ足がどこかよく分からないです。


●マザンダラン王が石に姿を変える
〇Fujikaメモ:
マザンダラン王が石に変身するというのは、うんざりする戦争シーンで一番楽しい部分でした。
今回みつかったのはこの絵だけでしたが、通常は単なる大岩が描かれるところ、この絵では馬と人間の形そのままの石になっていて、個性的なのだそう。
ラクシュが石の馬にかじりついているところが、血気盛んなラクシュらしくて可愛いです。

 

●127 VERSO  Rustam brings the div king to Kay Kavus for execution  ロスタム、ディヴの王をカイ・カヴスに連れて行き処刑する 
〇Fujikaメモ:
マザンダラン王は何だか気の毒です。
そもそも意味もなく侵攻されて、白鬼がちょっと痛い目にあわせて捕虜にしておいたら逆襲されて、お前は暗愚だから自分たちに臣従しろ、と理不尽なことを言われ、当然イヤだと言ったら戦争になって、(醜い外見だと蔑まれ)結局殺されてしまって・・・。
特に悪いことはしていないのですが負ければ賊軍、ということでしょうか。
むしろ理不尽な行動をしていたイランのシャーは、結果的に国民そして外国からも賞賛されています。勝てば全ての愚策が許されるということか・・・。
(泣いて神に祈っている間に、皆が離反しちゃったら面白いのに)
いっぱい戦利品を持ち帰ったことで皆が潤う、というのもあるのかな。

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シャーナーメ:12.ロスタムの七つの試練(中)

2023-06-22 | +シャー・ナーメあらすじ(挿絵付き)

ロスタムのマザンダランでの試練の続きです。
白鬼を倒して、めでたしめでたし、かと思いきや、次、さらにオトナの展開が待っています。
日本語がなんかうまくこなれていないのですが、次の(下)は更に難しいので、ここはこのくらいにして、ひとまず次にいきます。

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12.ロスタムの七つの試練(中)
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■登場人物
ロスタム:白髪のザールの息子。
ラクシュ:ロスタムの愛馬。黄色地に斑点模様。

マザンダラン(地名):人間とともにディヴ(鬼)や魔術師が住む国。架空の土地で、現在のマザンダラン地方(カスピ海南岸)とは無関係。
ウラド:マザンダランの辺境地の領主。Ūlādウーラード/Owlad/Olad
アルザン・ディヴ:マザンダラン首都域(?)の護衛隊長。
白鬼:マザンダラン最強のディヴのひとり。カイ・カヴスらを魔法で盲目にした。 ホワイトディヴ/Div-e Sepidディーヴ・エ・セピド ここでは端的に呼べる「白鬼」としました。 

 

■概要
ロスタムの旅は続きます。マザンダランの領主ウラドを捕虜にし、案内役にしてアルザン・ディヴを倒します。
そして洞窟の白鬼とも死闘を繰り広げ辛くも勝利し、視力を回復させる魔力があるというその肝臓を持ってカイ・カヴス一行のもとに向かいます。

■ものがたり

□5□ロスタムの第五の試練:ウラドを捕まえる

ロスタムは夜を徹して、疾走するように旅を続け、黒人の顔のように黒い、星も月もない濁った夜にたどり着きました。
彼はラクシュに手綱を任せて歩みを進めましたが、闇夜のために地面の高低も川も見えないほどでした。

やがて明るくなってあたりを見ると、地面は緑の絹のようで、耕された土地には小麦の若芽が輝き、あちこちに小川が流れている土地でした。

ロスタムの衣服は汗で濡れそぼち、休息と睡眠が切実に必要でした。
彼は虎皮の胴衣を剥ぎ取り、兜も脱いで日干しにしました。そしてラクシュの手綱を外し、若麦の中を気ままに歩かせました。虎皮と兜が乾くと再びそれを身につけ、獅子のように草むらに寝そべり、盾を枕に、剣の柄に手をかけて一眠りしました。

麦畑の番人は、作物の中にラクシュがいるのを見て、色めき立って駆け寄り、棒で勇者の足を強く叩き、ロスタムに言いました。
「このアーリマンめ、あんたは自分の馬を麦畑の中に放って、自分に何の害もなさない人の財産を台無しにしている!」

ロスタムはその言葉に激怒し、答える代わりに立ち上がって男の耳を掴んで捻り、頭から引きちぎってしまいました。男は地面から耳を拾い上げ、ロスタムのしたことに驚き狼狽して泣き叫びました。

この土地の所有者はオラドと呼ばれる男で、立派で勇敢な若者でした。怪我をした番人は頭と手を血まみれにし、耳を持って彼のもとへ行って泣きながら報告しました。 
「黒い鬼のような男がいたのです!虎皮の胴衣と鉄の手甲をつけた完全なアーリマンでした。私は彼の馬を麦畑から追い払おうとしたのですが、彼はそれを望まず、私を見ると、何も言わずに立ち上がり、私の耳をもぎ取ってまた眠ったのです。」

●ロスタムに耳を千切られた麦畑の番人(Bayerische Staatsbibliothek, BSB Cod.pers. 10, f.84v)

 オラドは貴族の一団と草原に狩りに出ていたところでしたが、番人の報告を聞いて麦畑に向かい、そこに大男の足跡をみつけました。
番人が言っていた場所にその男を探しに行ったところ、ロスタムはラクシュに乗り、光り輝く剣を抜いて、まるで雷雲のように威嚇しながら向かってきました。

両者は近づき、互いに問いかけました。
「何者だ?」
ウラドも言いました。 
「お前こそ何者だ?どの王に忠誠を誓っているのか? 諍いを起こす乱暴者はここを通す訳にはいかない。
なぜお前は私の番人の耳を引き裂き、馬を麦畑の間に放したのか?
お前の世界はここで黒くなり、兜は塵に帰すであろう。」

ロスタムは言いました。 
「私の名前は、雲、とでもいおうか。獅子の鉤爪をもち、槍や剣を振るって戦士の頭を切り落とす雲だ。私の名を知ればお前の血を凍らせるだろう。
『強弓と投げ縄の使い手、ロスタム』とは私のことだ。
お前のような息子を産んだ母親を何と呼ぶか知っているか?『屍衣の縫い子』か『泣き女』だ。
取り巻きを連れてきて戦わせるつもりかもしれないが、ドームにクルミを投げて壊そうとするのと同じくらい無意味なことだ。」

そして、彼は投げ縄を鞍にかけ剣を抜きました。そしてその剣の一撃で、2つの首を切り落としました。

f121v

●ロスタムが斬ったウラドの取り巻きの二人(f121v)

平野は散り散りになった騎士たちの塵で埋め尽くされ、彼らは山や洞窟に逃げ込みました。ロスタムはオラドに追いつくと、投げ縄を投げつけて彼の頭を縛り上げました。そして馬から引きずり下ろし、腕を縛り上げて、命令しました。 
「白鬼の居場所、それからカヴスの幽閉場所を教えろ。もしお前が本当のことを言い、お前の中に嘘がないと分かったら、このメイスでマザンダランの王を退位させたのち、お前が代わりにここを統治するのだ。しかしもし嘘をついたり裏切ったりすれば、後悔することになる。」

f121v

●ロスタムに捕らえられたウラド(f121v)

ウラドは言いました。 
「どうか落ち着いて下さい。望むものはすべて私から得られます。白鬼の住む場所、そしてカヴスが幽閉されている場所への道を教えます。そして更にマザンダランの王が座すところも。その地には六十数万の騎士たちが闊歩し、皆立派な鎧を支給され報酬を得ており、不満を持つものは一人もいません。彼らは千二百頭の戦象を持ち、都市には彼らのための場所がないので郊外で飼っています。
道のりは険しく、道中には無数のディヴが待ち構えているでしょう。鉄のようなあなたですが、たった一人で、彼らを相手にするのは厳しいかもしれません。」

この言葉はルスタムを笑わせました。
「私と共に来るならば、私と対峙した戦士たちがどうなるかを見ることができる。彼らが最初に私の強さと威力を垣間見るとき、そして私が振るう巨大なメイスを見るとき、彼らは無様に敗走し、手綱がもつれ、恐怖に怯えるだろう。
私が望むのは、お前がカヴスのもとへ案内してくれることだ。さあ、今すぐ出発だ。」

こう言って、彼はラクシュに飛び乗り、ウラドを横に従えて風のように速く駆け出しました。そしてディヴたちがカヴスを倒したイスプルズ山に着くまで昼も夜も休まず走り続けたのです。

山裾で休んでいると、真夜中、平原から叫び声が上がり、狼煙があがって至る所で松明を灯しているのが見えました。
ロスタムはウラドに尋ねました。 
「あの火は何だ?」
ウラドは答えて言いました。
「あそこがマザンダランへの入り口です。
夜が更けるにつれ、誰も眠れないほどに騒がしくなります。ディヴ・アルザンが守備隊の隊長です。」
ルスタムたちは再び眠りました。

夜が明けるとロスタムはウラドを連れ出し、木に縛り付けてておきました。

f124r

●縛り付けられたウラド(f124r)

そして鞍に祖父が愛用していたメイスを掛け、自信と策略に満ちて出発しました。

 

□6□ロスタムの第六の試練:アルザンとの闘い

彼は隊長のアルザンを探すために出発し、ディヴの軍勢に遭遇すると、轟くような声をあげました。この叫びを聞いたアルザンが天幕から飛び出してきました。 ロスタムはそれを見て馬を進め、炎のように彼に襲いかかり、彼の頭と耳と首をつかみ、もう片方の手で肩をつかんだのです。

f122v

f122v

●アルザン・ディヴにつかみかかるロスタムと加勢するディヴたち(f122v)

そしてロスタムは、猛獣のようにアルザンの首を引きちぎって彼の軍隊に投げつけました。
大将の首とロスタムの鉄のメイスを見て、ディヴたちは恐怖に震え、誰も彼も、土地や作物のことを忘れて逃げ去ってしまいました。

 

日没後、彼は全速力でイスプルズ山に戻りました。ウラドの縄を解いて、高い木の下に座ってシャー・カヴスがいる街に行く方法を尋ね、早速オラドに先導させて足早に向かいました。

彼らがその街に到着すると、ラクシュは雷のような嘶きをあげました。これを幽閉場所で聞いたカイ・カヴスは仲間のイラン戦士たちに言いました。
「ラクシュの嘶きが聞こえた! 私の心と精神は歓びで若返ったようだ。
カイ・クバドがトゥランの王と戦ったとき、あの馬はこのように嘶いたのだ。」
戦士たちは密かに語りあいました。
「王の心は、あまりの苦難に遭って、正気を失ってしまったのだ・・。」

やがてこの場所にロスタムがやってきて忍び込みました。
彼はシャーの前に跪き、彼の長い苦難を思って激しく泣きました。
グダルズ、トゥース、勇敢なギーヴ、獅子バフラム、シャウーシュ、グスタハムら、高貴な戦士たちも見えない目で、次々に集まってきました。

f123r

●盲目にされ捕らわれているイランの戦士たち(f123r)

カヴスはロスタムを抱きしめて、ザールのことを尋ね、ロスタム自身の旅の苦難を尋ねました。

f123r

●ロスタムを抱きしめるカヴス(f123r)

そしてシャーはロスタムに内密に言いました。
「ここのディヴたちにラクシュを見せるな。『アルザンは死に、ロスタムはカイ・カヴスと共にある』と奴らに知られれば、軍勢が集まり行く手を阻むだろう。密かに白鬼の住処を探し当て、そこで闘うのだ。
汝はディヴの軍勢の総本山、七ッ峯まで行かなければならぬ。そこにある恐るべき洞窟が白鬼の住処である。
どうか汝に彼を仕留める力があるように。彼はあの軍の長であり、要なのだから。

我が兵士たちの目は悲しみで曇っており、私も暗闇の中にいる。
そして我々の薬師は白鬼の体内から抽出した血液に望みをかけている。賢明な薬師が言ったのだ。『彼の血液を3滴、涙のように目の上に降らせれば、盲目を退けることが出来る』と。」

ロスタムは出発する際にイランの戦士達に語りかけました。
「楽観はできません、私が立ち向かうのはあの恐ろしい白鬼なのです。
もし奴が私を打ち負かすならば、この惨めな窮状がずっと続くでしょう。しかし、もし神と私の良き星が私を助けるなら、この王家の木が再び実を結び名誉が回復されるでしょう。」

 

□7□第七の試練:白鬼との闘い

彼は戦いと復讐のために身支度を整え、ウラドを連れ、ラクシュを風のように進ませました。
七ッ峯に到達すると、ロスタムは深淵な洞窟の様子を伺ってみました。猛々しいディヴの軍勢が警戒にあたっているのを見て、ロスタムはウラドにこう語りかけました。
「お前はこれまで私が尋ねたことにすべて正直に答えてくれた。しかし、これからがディヴたちとの本格的な戦いだ。この先どうすればいいのか秘密を知っていれば教えてくれないか。」
ウラドは言いました。
「太陽が暖かくなるとディヴたちは眠ります。今は夜ですから、殆どのディヴが座りもせずに警護しています。日が高くなり、神があなたの味方であるならば、あなたは彼らに勝利することができましょう。」

ロスタムは先を急ぐことなく、太陽が高くなるのを待ちました。
そして、オラドをまた投げ縄で縛っておき、ラクシュに跨がり剣を鞘から抜いて出発しました。
彼は雷のように自分の名を咆哮し、眠りこけるディヴの集団の中に降り立ち、彼らの首を切り落としました。誰一人として彼に挑もうとする者はいませんでした。

ロスタムは張り詰めた様子で白鬼を探しに前へ進みました。そこには地獄のような洞穴がありましたが、暗闇の中で白鬼の姿は見えません。
ロスタムは剣を握ったまましばらくそこに立っていました。目を凝らして穴の暗闇を覗き込むと、そこに山のようなものがあり、穴の中を隠しているのがわかりました。それは夜の色をしており、髪は雪のように白く、世界はその大きさと広さで満たされているように見えました。

さて、ルスタムは眠っている白鬼を殺すのではなく、獣のような咆哮で彼を呼び起こしました。
鉄の兜と鎧を身にまとった白鬼は、石槌を手に取り、覆い被さる煙のようにルスタムに襲いかかってきました。
ロスタムはうろたえました。
「もはやこれまでか!」

しかしロスタムは気持ちを奮い起こして突進し、鋭い剣で白鬼の体に斬りかかり、その一撃は片脚の太ももを切断したのです。

白鬼は傷ついた体で彼に襲いかかり、残った片脚で洞窟を蹴り壊したので、石塊が降り注ぎました。2人は象と獅子のように組み合い、互いに肉を引き裂き、地面は血でぬかるみと化しました。

f124r

●白鬼とロスタムの死闘(f124r)

組み合いながら、ロスタムはこう思いました。
「今日、この時を生き延びれば、永遠に生き続けられよう。」
そして白鬼も思っていました。
「もはや長らえても仕方あるまい。たとえこの龍の魔の手から逃れても、片脚を失い傷ついた姿ではマザンダランでの私の権威は失われてしまうだろう。」
それは彼の惨めな慰めでした。
しかし、それでも白鬼は血と汗を流しながら格闘し、ロスタムは神の力を借りて応戦しました。しかし傷だらけのロスタムはついに、手を伸ばして白鬼の胴体を掴み、首の高さまで持ち上げて、息が止まるほどに彼を地面に叩きつけました。
そして短剣で彼の心臓を刺してとどめを刺し、腹を開いて肝臓を抜き取りました。洞窟内はすべて白鬼の巨体で満たされ、地面は血の海になりました。


ロスタムは洞窟から出てきて、ウラドを縄から解放し、投げ縄をまた巻いて鞍に括り付けました。
彼はウラドに白鬼の肝臓を持たせ、2人はカヴスのもとに向かって出発しました。
ウラドは言いました。
「無敵の勇者よ!私の体にはまだあなたの縄の跡が残っています。束縛の中で考えていたのですが、かつてあなたは私に報酬の希望を与えてくれました。気高い戦士に相応しく、約束を守ってもらえるのでしょうか。」
ロスタムは答えました。
「そうだ、マザンダランはお前のものだ。
しかし、この先もまだ試練の日々が続き、その中で幸運も不幸も訪れるだろう。マザンダランの王を玉座から引きずり下ろして葬り去り、その軍勢にも対処せねばならない。それが無事に済んでからだ。
しかしもしそうでなくとも、私はお前に誠意を尽くそう。」

 

 

■シャー・タフマスプ本の細密画

ずっと知りたいと思っていた画家の情報がわかりました。過去の表にも追記する予定です。

サムネイル ページ番号 画のタイトル※ タイトル和訳 所蔵館と請求番号 画像リンク先 備考
f121v 121 VERSO  Rustam's fifth course : the capture of Owlad  ルスタムの第五の試練:オウラドの捕獲  Tehran Museum of Contemporary Art, Tehran, Iran Hollis アブド・アル・ヴァハブ、ミール・ムサッヴィールの監督
f122v 122 VERSO  Rustam's sixth course: he slays Arzhang  ルスタムの第六の試練:アルザンを倒す  Tehran Museum of Contemporary Art, Tehran, Iran Hollis アブド・アル・ヴァハブ
f123r 123 RECTO  Kay Kavus and Rustam embrace  カイ・カヴスとルスタムの抱擁  MET, 1970.301.18 MET カディミ
f124r 124 RECTO  Rustam's seventh course: he kills the White Div  ルスタムの第7の試練:彼はホワイトディヴを殺す  Cleveland Museum of Art, Cleveland (Cuyahoga county, Ohio, United States) (inhabited place) 1988.96 CMA / Hollis アブド・アル・ヴァハブ、ミール・ムサッヴィールの監督

 

 

■その他の写本の細密画

サムネイル 連番 画のタイトル※ タイトル和訳 所蔵館と請求番号 画像リンク先 備考
BL-Add-MS-18188

他19

93r Rustam capturing Ūlād. 第五の試練:ウラドの捕獲 ②British Library, Add MS 18188
カタログ

1486, Turkman/ Timurid 様式

BSB-Cod-pers-10 他20 84v -- 第五の試練:麦畑の番人がウラドのところに戻る ⑧Bayerische Staatsbibliothek, BSB Cod.pers. 10 1560-1750
BL-Add-MS-18188

他21

93v Rustam fighting Arzhang. 第六の試練:アルザンを斃す ②British Library, Add MS 18188
カタログ

1486, Turkman/ Timurid 様式

NYPL-Spencer-Coll-Pers-ms-3 他22 Rustam's Sixth Feat: he kills the dîv Arzhang. 第六の試練:アルザンを斃す ⑬The New York Public Library, Spencer Coll. Pers. ms. 3 1616-07、シラーズ?
SbBerlin-Ms-or-fol3380 他23 077r Rustam's sixth labour: he kills Arzhang 第六の試練:アルザンを斃す ⑮Staatsbibliothek zu Berlin, Ms. or. fol. 3380 15XX、1670 年代
BL-Add-MS-18188

他24

94v Rustam killing the White Dīv. 第七の試練:白鬼を斃す ②British Library, Add MS 18188
カタログ

1486, Turkman/ Timurid 様式

SbBerlin-Ms-or-fol-359

他25

124v Rustam's seventh labour: he kills the White Div 第七の試練:白鬼を斃す ③Staatsbibliothek zu Berlin, Ms. or. fol. 359

15XX

BL-IO-Islamic-3540-f71v

他26

71v Rustam and the White Demon.  第七の試練:白鬼を斃す ④British Library, IO Islamic 3540
カタログ

15XX, シラーズ

LM-Ryl-Pers-910 他27 76v Rustam's seventh labour: he kills the White Div, Painter B. 第七の試練:白鬼を斃す ⑤Library of Manchester, Ryl Pers 910 1498?/1518?/
1570?
LM-Ryl-Pers-932-f87v 他28 87v Rustam's seventh labour: he kills the White Div. 第七の試練:白鬼を斃す ⑦Library of Manchester, Ryl Pers 932 1542、シラーズ
BSB-Cod-pers-10 他29 87r -- 第七の試練:白鬼を斃す ⑧Bayerische Staatsbibliothek, BSB Cod.pers. 10 1560-1750
PECK-shahnameh 他30 62v (p124) Rustam Kills White Div 第七の試練:白鬼を斃す ⑨Princeton Univ. Library, Peck shahnameh 1560-1750
SbBerlin-Diez-A-fol-1-102v 他31 102v Rustam's seventh labour: he kills the White Div 第七の試練:白鬼を斃す ⑩Staatsbibliothek zu Berlin, Diez A fol. 1  1593
SbBerlin-Ms-or-fol-4251 他32 208r Rustam's seventh labour: he kills the White Div 第七の試練:白鬼を斃す ⑫Staatsbibliothek zu Berlin, Ms. or. fol. 4251 1605,イスファハン
NYPL-Spencer-Coll-Pers-ms-3 他33 Rustam's Third Feat: he kills a dragon. 第七の試練:白鬼を斃す ⑬The New York Public Library, Spencer Coll. Pers. ms. 3 1616-07、シラーズ?
FWM-Ms-311 他34 59r Rustam's seventh labour: he kills the White Div 第七の試練:白鬼を斃す ⑭Fitzwilliam Museum, Ms 311 1620 - 1621
SbBerlin-Ms-or-fol3380 他35 078r Rustam's seventh labour: he kills the White Div 第七の試練:白鬼を斃す ⑮Staatsbibliothek zu Berlin, Ms. or. fol. 3380 15XX、1670 年代

 

■細密画解説(本や所蔵美術館の解説より適宜抜粋)、メモ

●121 VERSO  Rustam's fifth course : the capture of Owlad  ルスタムの第五の試練:ウラドの捕獲
〇Fujikaメモ: 
この節、児童文学の英雄の冒険ではありえない、大人の展開で、思わずぎょっとしてしまいました。
他人の麦畑に勝手にラクシュを放し、咎めてきた人の耳を千切ってしまうなんて・・・。
ここで捕虜にした辺境の農場主ウラドが、マザンダラン中央のことをなんでもよく知っているというのはずいぶんラッキーです。
シャータフマスプ本ではウラドは歩いた状態で縄をかけられていますが、このあと「ウラドを横に従えて風のように速く駆け出した」とあり、まさか駆け足のはずもなく、ウラドも馬で同行しているはずです(重たい軍装なしとはいえ名馬ラクシュについていくなんて割といい馬ですよね)。
ウラドの馬は省略されることが多いですが、(他19)では、騎馬のウラドが捕まっているし、(他24)(他25)では、洞穴の外にラクシュともう一頭、馬が描かれています。

●122 VERSO  Rustam's sixth course: he slays Arzhang  ルスタムの第六の試練:アルザンを倒す 
〇Fujikaメモ: 
文章では割とあっさり闘って勝つだけですが、この絵(f122v)はとても綺麗です。
金色の地面にサックスブルーの青い空。もふっとした木やうねうねとうねる灌木、綺麗な花も咲いています。地面の金と、ロスタムやラクシュの赤茶色を背景に、アルザン・ディヴの鮮やかな青(空とは違う青色)が綺麗です。
奥にはいろいろの容姿のディヴがいます。
(他21)は、まさにアルザンの首をもぎとりかけているところ。流血シーンです。

●123 RECTO  Kay Kavus and Rustam embrace カイ・カヴスとルスタムの抱擁
〇Fujikaメモ: 
盲目にされたカイ・カヴスと戦士たちが囚われているところにロスタムが訪ねて行くシーンです。
絵では優雅なテラスにいますが、このとき彼らは、少なくとも軟禁状態のはずですよね。なのでロスタムは護衛をどうにかするか、もしくはこっそり忍び込む必要がありますが、原文にはそのあたりの詳しい記載がありません。護衛を殺したりすると追手がかかったりするはずでややこしいので、忍び込んだということにしました。

●124 RECTO  Rustam's seventh course: he kills the White Div  ロスタムの第7の試練:白鬼を斃す 
〇Fujikaメモ: 
暗い洞窟の中で白鬼とロスタムが闘うシーンで、七つの冒険の章のクライマックスです。
他の写本にも挿絵が多く、今回調べた写本のうちほぼ全てにこのシーンの挿絵があります。(14冊中12。(他24)~(他35)。)
白鬼は片脚(版によっては片腕と片脚)を切り落とされたという文章があるため、そのような姿で描写されています。
洞穴の外には、ウラドが木にしばりつけられており、ラクシュもまた近くにつながれています。
ウラドは、だいたいどの絵でも何重にもぐるぐる巻きにされていますが、これはロスタムの投げ縄がとても長い(つまり力が強い)からです。
12枚の挿絵は、洞穴、白鬼、ロスタムと、似ているようでそれぞれ個性的できれいです。よかったらサムネイルをクリックして拡大してみてください。
(他25)は、洞窟の中に何故か若い女性が!?。文中にはそういう描写はないのですが・・・。洞窟の外にはいろいろなディヴたちがいます。
だいたいは、ロスタムが短剣でとどめを刺しているシーンですが、(他30)と(他34)は、白鬼の脚をずばっと斬りつけているシーンです。
(他24)(他25)は画面に大小の黒い穴が描かれていますが、小さい方が洞穴の入り口の描写、大きい方は洞穴内の格闘を描くための描画上の便宜的な開口部、ではないかと思います。

 

 

コメント
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シャーナーメ:12.ロスタムの七つの試練(上)

2023-06-14 | +シャー・ナーメあらすじ(挿絵付き)

だいぶ間があいてしまいましたが、ロスタムがイラン王カイ・カヴスを救出に行く際の冒険のお話です。
獅子や龍と闘うというシンプルなストーリーなので、他の写本の挿絵も見てみたいよね~、と、約14冊分ほどの写本の挿絵を集めてみました。
同じ龍退治の話でも、いろいろなパターンがあってそれぞれ綺麗だし面白いです。
が。
このとりまとめが大変で。
読んで下さっている方にも少しでも面白いと思って頂けるといいのですが・・・。


====================
12.ロスタムの七つの試練(上)
====================

■登場人物
ロスタム:白髪のザールの息子。
ラクシュ:ロスタムの馬。黄色地に斑点模様。

マザンダラン(地名):人間とともにディヴや魔術師が住む国。架空の土地で、現在のマザンダラン地方(カスピ海南岸)とは無関係。

 

■概要
軽率で傲慢なイラン王カイ・カヴズは、アーリマンにそそのかされて魔術師とディヴ(鬼)の国マザンダランを侵略しに行きましたが、兵士ともども捕らえられ魔法で目が見えなくされてしまいました。
ザールは息子ロスタム(と愛馬ラクシュ)に、救出を命じました。
マザンダランへの最短の道は、数々の苦難が待ち受ける道程でした。
獅子、水のない砂漠、龍、魔女をなんとかクリアして更に進みます・・・。

 

■ものがたり

□1□第一の試練:ラクシュと獅子の闘い

シスタンを出発したロスタムは興奮で顔を紅潮させ、暗い夜も明るい昼もラクシュを走らせ、2日分の旅を1日で終わらせました。
疲れて空腹になると、前方に野ロバがたくさんいる平原が見えてきました。
彼はラクシュを駆り、野ロバに追いつきました。どんな動物もラクシュの速さとロスタムの投げ縄を逃れることはできません。ロスタムが投げ縄を投げると、その縄は勇敢な野ロバの頭を捕らえたのです。
そして、矢の先で火を熾し、その上に茨と屑を積み上げ、獣を殺して皮を剥ぐと、その炎の中で調理しました。彼はすっかり肉を平らげ、骨だけがのこりました。

彼はラクシュの手綱を外し、近くの草原を自由に歩き回らせました。
ロスタムは葦藪のひとところに寝床を作りましたが、実はその場所は安全ではありませんでした。葦の中には獅子の住処があったのです。

明け方、この獅子は巣に戻ってきました 。 
彼は象のような大男が葦原でぐっすり眠っているのを見ました。

f118r

●眠るロスタム(f118r)


そして、その前に一頭の馬が起きて立っているのを見ました。 
「馬の乗り手に爪を立てるには、まず馬を倒さねばならないだろうな。」
獅子はラクシュに向かって突進し、襲いかかりましたが、ラクシュはライオンの頭に前足のひづめを打ちつけ、鋭い歯を背中に食い込ませました。
そして獅子を地面に投げ捨て、引き裂いて、この野蛮な動物を無害にしました。

f118r

●獅子と闘うラクシュ(f118r)

ロスタムが目を覚ますと、獅子が死んで横たわっています。
彼はラクシュに言いました。 
「お前、なんという無茶を。誰が獅子と戦えと言ったか?
もしお前が殺されていたら、この兜、虎皮、弓、投げ縄、剣、そして巨大な棍棒を持って、どうやってマザンダランに行くことができようか?
私を起こしてくれれば、獅子との闘いは短かったはずだ。」

 

□2□ロスタムの第二の試練:ロスタムは泉をみつける

山の頂から陽が昇ると、ロスタムは甘い眠りから目を覚ましました。
ラクシュの体をこすり、鞍をつけ、行く道の無事を神に祈りました。

この日の道程は、暑く、乾ききった土地でした。
水のない砂漠は、鳥が粉になるほどの暑さで、平野と廃墟は焼け野原のようでした。
ラクシュは疲れ果て、ロスタムの喉は渇ききってしまいました。
ロスタムは馬を降りると、長槍を杖にしてよろめきながら進みました。
彼は救いを求め、天を仰いで言いました。
「おお神よ。あなたが我が頭上に全ての苦難をもたらし、我が苦痛に喜びを見出すならば、私の寄与は大きいはずです!
私は、神がカヴス王に慈悲を与え、神の命に従ってイラン人をディヴの手から解放することを願って旅をしています。彼らは罪を犯しあなたに見捨てられましたが、それでもあなたの奴隷であり崇拝者です。どうか私に任務を果たさせて下さい。」

ロスタムの舌は乾いてひび割れ、灼ける大地に倒れてしまいました。
やがて、目の前をよく太った雄羊が通り過ぎていくのを見ました。
彼は思いました。
「この羊はどこで水を得ているのだろう。このような時にこの動物を見せてくれるとは、これは神の慈悲に違いない。」

彼は右手に剣を握り、力を振り絞って立ち上がりました。片手に剣、もう片方の手でラクシュの手綱を引いて雄羊の後を追いました。

f119v

●ロスタムが追いかけた羊が水場に辿り着く(Bayerische Staatsbibliothek, BSB Cod.pers.10, f.83r)

雄羊は彼を小川に導き、ロスタムは顔を空に向け神に感謝しました。
「慈悲深き神よ!この羊は水辺に足跡を残していません。これは生身の砂漠の羊ではないのですね。」
そして神秘の雄羊に祝福を与えました。
「お前の牧草地が常に緑で、豹がお前を獲物と思わないように。お前を射ようとする者の弓が折れ、その矢が逸れるように。ロスタムはお前によって生き延びたのだから。
お前がいなければ、私は今頃自分の屍衣を準備していただろう。」

そして、ラクシュの馬具をはずし澄んだ水で全身を洗うと、ラクシュは太陽のようにきらきらと輝きました。
そして、ロスタムも渇きを癒やし、力を取り戻して、矢筒をいっぱいにしてラクシュに跨がり、大きな野ロバを倒しました。
皮を剥ぎ足を落とし、内臓をとりだして小川で洗い、炎の中で調理しました。

彼は手で骨を引き裂きながら食事に没頭し、また小川に戻って喉を潤しました。
彼はもう眠ろうとし、ラクシュに言いました。
「今夜は誰とも戦うなよ。もし敵が現れたら、私を起こすように。魔物や獅子にひとりで立ち向かうことはない。」
そして、横になって唇を塞いで眠り、ラクシュは夜中まであちこちの草を食みながら歩き回っていました。

 

□3□ロスタムの第三の試練:龍との闘い

眠るロスタムのもとに、近くの荒れ野に棲む龍が近づいてきました。
その龍はどんな象も逃がしたことがなく、魔物でさえもその荒れ地を通ることを恐れる程でした。
龍は、眠っている人間と、そのそばにいる馬を見て怒り狂いました。
「こいつらは何だ? 誰がわざわざこんなところで休もうとしているのか?」
というのも、魔物も象も獅子も、龍を畏れてこの道を避けていたからです。
龍は艶やかなラクシュに牙を剥きました。
ラクシュは急いでロスタムのもとへ駆け寄り、蹄で地面を踏みしめ、激しく嘶きました。
ロスタム目を覚まし荒野を見渡しましたが、周囲に何も見つけられず、自分を起こしたラクシュを叱りました。
彼は眠り、再び龍が暗がりから近づいてきました。ラクシュはロスタムの寝床に駆け寄り、大地を蹴って踏み鳴らしました。
眠っていたロスタムは目を覚まして辺りを見回しましたが、静かな暗闇のほかは何も見えません。彼は愛情深く見守っているラクシュに言いました。
「お前は夜の闇を見通すことができないのに、また私をせっかちに起こしたね。
もしこれ以上邪魔をするならば、私の鋭い剣でお前の首をはね、兜と巨大な棍棒を徒歩で運ぶことにするよ。
私は『獅子が迫ってくるなら立ち向かう』と言ったが、『夜中に駆けつけてくれ!』とは言っていないだろう。どうか私を眠らせてくれ。」
そして三たび、虎皮の胴着をかけて眠りにつきました。

恐ろしい竜は更に近づき、唸って火を噴きました。
ラクシュはすぐに牧草地を離れましたが、ロスタムに近づくのをためらいました。
彼はロスタムも龍もどちらも畏れて心を乱しましたが、やがて主君への愛情に駆られ、ロスタムの側に素早く駆け寄り、嘶いて騒ぎ、その蹄で地面を激しく踏み荒らしました。
ロスタムは甘い眠りから覚め、ラクシュを叱りつけようとしましたが、しかし今回は神が龍を見ることを望みました。ロスタムは闇の中で龍を見つけ、剣を抜いて龍に向かって大声で叫びました。
「そなたの名前を教えよ! 世界はもはやそなたのものではない。しかし名も知らずにそなたを殺すのは忍びないのだ。」
恐るべき竜は鷹揚に言いました。
「誰も私を侮ることはできない。
何世紀もの間、この荒れ地は私の家であり、私の大空であった。鷲が飛び越えることもなく、星もこの上では瞬かない。
そなたの母親はそなたのために泣くであろう。名を名乗れ。」
戦士は答えました。
「私はロスタム、ザールの息子で、ナリマンの家系のサームの孫だ。
私は戦士であり、勇敢なラクシュと共に闘う。そなたは我が武勇を見よ。そなたの頭を塵に帰すであろう。」

龍はロスタムに飛びかかりました。
ラクシュはその強靱な巨体がロスタムに迫っているのを見ると、耳を寝かせ、竜の肩に歯を食い込ませました。そして獅子のように竜の肉を引き裂き、ロスタムはその勇気と強さに驚かされたのです。
ロスタムは鋭い剣の一打ちで竜の頭を切り落とすと、頸から毒が川のように流れ出しました。

f119v

●龍と闘うロスタムとラクシュ(f119v)

くずおれた龍は大地を覆い、暗い砂漠には血と毒が溢れていました。
すさまじい光景にロスタムは恐れおののき、何度も神の名を唱えました。
彼は小川に入り、体を清めて祈りました。
「偉大なる神よ、あなたは私に力と知性と技を与えて下さいました。
しかし、敵は多く、時間はあまりありません。」

 

□4□ロスタムの第四の試練:ロスタムが魔女を殺す

ロスタムは感謝の気持ちを込めてラクシュに馬具をつけ、彼にまたがって魔術師が住む世界に乗り込んできました。
長い間馬に乗っていた彼は、夕暮れになって草木や小川が流れる風景を目にしました。
雉の目のようにキラキラ輝く小川があり、その横には葡萄酒を満たした黄金の杯がありました。また、山羊の丸焼きやパンもあり、近くには塩壺や砂糖漬けの果物もありました。それは魔術師たちの宴会場だったのですが、彼が近づいてくるのを聞いて姿を消してしまったのです。
ロスタムは馬を降り、ラクシュから馬具をほどきました。
彼は山羊肉とパンを見て驚き、小川のほとりに腰を下ろして宝石をちりばめた杯を葡萄酒で満たしました。そのかたわらにはリュートが置いてあり、まるで砂漠が宴の場であるかのようでありました。

f120v

●小川の傍らの楽器や酒器、盃(f120v)


ロスタムはリュートを手に取るとつま弾いて、自分のことを歌い始めました:

「ロスタムの歌を歌おう。
 彼はまだ故郷を遠く離れ、喜びの日々はなく、
 ありとあらゆるの悪鬼に狙われ、
 ひとときの安らぎもない。
 闘いにあけくれ、寝床は丘の中腹か砂漠の砂。
 悪魔やドラゴンが日々の獲物で、
 魔物や砂漠が彼の疲れた道を塞いでいる。
 かぐわしい花や葡萄酒、緑の草木が茂る麗しい土地、
 それらは彼のためのものではない。
 鰐と格闘している最中から、豹がつぎの闘いを待ち構えている。」

彼の歌は魔術師の一人である魔女の耳に届きました。彼女は春のように美しい若い娘に変身し、香水をつけ美しく着飾り、にこやかに挨拶してロスタムの隣に座りました。
ロスタムは密かに神に感謝しました。マザンダランの平原で、このようなご馳走と葡萄酒に出会えたこと、そして今、若く美しい女性の酌婦にも出会えたことを。
彼は彼女の手に葡萄酒の杯を置き、すべての善きものの創造者である神をともに賛美しようとしました。
しかしこのとき女の態度が変わりました。
彼女の魂はそのようなことを理解できず、彼女の舌はそのような賞賛を口にすることができません。神の名を聞いただけで、彼女は青ざめてしまいました。

ロスタムはこれを見て風のように素早く投げ縄を彼女に巻きつけ、あっという間に彼女を巻き綱で縛り上げて問いただしました。
「お前は一体何者だ!? 正体をあらわせ!」
すると投げ縄の中に、悪意に満ちて、皺だらけの醜い老婆がいました。
ロスタムは短剣で彼女を二つに切り裂き、それを見た他の魔術師たちの心は恐れおののきました。

f120v

●魔女を斬るロスタム(f120v)

 



■シャー・タフマスプ本の細密画

ずっと知りたいと思っていた画家の情報がわかりました。過去の表にも追記する予定です。

サムネイル ページ番号 画のタイトル※ タイトル和訳 所蔵館と請求番号 画像リンク先 備考※
f118r 118 RECTO  Rakhsh Slays a Lion ルスタムの第一の試練: ラクシュがライオンを倒す  The Museum of Fine Arts, Houston, Texas, United States. LTS1995.2.48 画カディミ
f119v 119 VERSO  Rustam's third course: he slays a dragon  ルスタムの第三の試練:ドラゴンを倒す  The Khalili Collections, MSS 1030, folio 119 Khalili 画アブド・アル・ヴァハブ
f120v 120 VERSO  Rustam's fourth course: he cleaves a witch  ルスタムの第四の試練:魔女を薙ぎ倒す  MET, 1970.301.17 MET

p149
画カディミ

※画家の情報は、次の本より。

The Shahnama of Shah Tahmasp : the Persian book of kings
Sheila R. Canby ; [edited by Marcie M. Muscat]
Metropolitan Museum of Art , Distributed by Yale University Press, c2014

 

 

■その他の写本の細密画

段取りのせいかどうか、とりまとめにめちゃ時間がかかりました。
写本ごと、ではなくストーリーに沿って、たとえば「獅子との戦い」がまとまっていて、比較しやすいようになっています。
サムネイル、もしくはリンク先をクリックすると大きな画像が見られますので、よかったら見てみて下さい(リンク先の方が勿論解像度がいいですが、ちょっと遅いときがあります)。

サムネイル 連番 フォリオ番号、タイトル タイトル(日本語) 所蔵館と請求番号 画像リンク先 備考
BL-Add-MS-18188

他1

90v Rakhsh attacking the lion while Rustam sleeps. 第一の試練:ラクシュがライオンと闘う ②British Library, Add MS 18188
カタログ

1486, Turkman/ Timurid 様式

LM-Ryl-Pers-910 他2 73r Rustam's first labour: Rakhsh kills a lion, Painter B. 第一の試練:ラクシュがライオンと闘う ⑤Library of Manchester, Ryl Pers 910 1498?/1518?/
1570?
CB-Per-277.22 他3 277.22 Rustam's horse Rakhsh fights a lion while Rustam sleeps, 第一の試練:ラクシュがライオンと闘う ⑪Chester Beaty,  Per 277.22 1590-1600
FWM-Ms-311 他4 056r Rustam's first labour: Rakhsh kills a lion 第一の試練:ラクシュがライオンと闘う ⑭Fitzwilliam Museum, Ms 311 1620 - 1621
SbBerlin-Ms-or-fol3380 他5 074r Rustam's first labour: Rakhsh kills a lion 第一の試練:ラクシュがライオンと闘う ⑮Staatsbibliothek zu Berlin, Ms. or. fol. 3380 15XX、1670 年代
BM 他6 第一の試練:ラクシュがライオンと闘う ⑯Blitish Museum 1948,1211,0.23 1515-1522, タブリーズ
(シャータフマスプ本のために描かれたが使われなかった?)
BSB-Cod-pers-10 他7 83r --- 第二の試練:砂漠で泉をみつける ⑧Bayerische Staatsbibliothek, BSB Cod.pers. 10 1560-1750
BL-Add-MS-18188

他8

91v Rakhsh helping Rustam defeat the dragon. 第三の試練:龍と闘う ②2British Library, Add MS 18188
カタログ

1486, Turkman/ Timurid 様式

LM-Ryl-Pers-910 他9 74r Rustam's third labour: he kills a dragon, Painter B. 第三の試練:龍と闘う ⑤Library of Manchester, Ryl Pers 910 1498?/1518?/
1570?
AKM100 他10 RUSTAM KILLS THE DRAGON 第三の試練:龍と闘う ⑥シャーイスマイル二世のシャーナーメ、Aga Khan Museum, AKM100 1576–77、カズウィン
SbBerlin-Diez-A-fol-1-99v 他11 99v Rustam's third labour: he kills a dragon 第三の試練:龍と闘う ⑩Staatsbibliothek zu Berlin, Diez A fol. 1  1593
SbBerlin-Ms-or-fol-4251 他12 205r Rustam's third labour: he kills a dragon 第三の試練:龍と闘う ⑫Staatsbibliothek zu Berlin, Ms. or. fol. 4251 1605,イスファハン
NYPL-Spencer-Coll-Pers-ms-3 他13 Rustam's Third Feat: he kills a dragon. 第三の試練:龍と闘う ⑬The New York Public Library, Spencer Coll. Pers. ms. 3 1616-07、シラーズ?
FWM-Ms-311 他14 57r Rustam's third labour: he kills a dragon 第三の試練:龍と闘う ⑭Fitzwilliam Museum, Ms 311 1620 - 1621
SbBerlin-Ms-or-fol3380 他15 75v Rustam's third labour: he kills a dragon 第三の試練:龍と闘う ⑮Staatsbibliothek zu Berlin, Ms. or. fol. 3380 15XX、1670 年代
BL-Add-MS-18188

他16

92r Rustam killing the witch woman. 第四の試練:魔女と闘う ②British Library, Add MS 18188
カタログ

1486, Turkman/ Timurid 様式

BSB-Cod-pers-10 他17 85r -- 第四の試練:魔女と闘う ⑧Bayerische Staatsbibliothek, BSB Cod.pers. 10 1560-1750
SbBerlin-Ms-or-fol3380 他18 76r Rustam's fourth labour: he thorns a sorceress 第四の試練:魔女と闘う ⑮Staatsbibliothek zu Berlin, Ms. or. fol. 3380 15XX、1670 年代

 

■細密画解説(本や所蔵美術館の解説より適宜抜粋)

●118 RECTO  Rakhsh Slays a Lion ロスタムの第一の試練: ラクシュがライオンを倒す 
〇Fujikaメモ:
愛馬ラクシュが、ロスタムが眠っている間にひとりで獅子を退治するシーンです。
シャー・タフマスプ本では、あっさりした色の背景をバックにロスタムが眠っていて、手前の川と葦・草の茂みの上で獅子とラクシュが闘っています。
(他6)はタブリーズの様式。タフマスプ本のために準備されたけれど採用されなかったとも言われる絵です。このふたつを比べると、(他6)は特に背景というか地が濃密な描き込み、f118rはすっきりあっさり、ずいぶん雰囲気が違います。
13冊のうち5冊について、このシーンの挿絵が描かれています。
構図も色合いも、様々ですよね!
でも、ロスタムはどの絵でも、前腕と脛の防具や兜などほぼフル装備のまま、盾を枕に寝ています。

●ロスタムの第二の試練:砂漠で泉をみつける
〇Fujikaメモ:
この部分を絵にしている本は少ないようで、12冊のうちひとつだけ絵がみつかりました(他7)。バイエルン州立図書館の本です。
雄羊の後をついていったら小川がみつかり、ロスタムは天を仰いで感謝する、という場面です。文章だと、ロスタムはよろよろ歩いてラクシュの手綱をひいている様子なのですが、この挿絵では、ロスタムは騎馬の状態ですね。
あと、ロスタムを導く動物は、私が読んでいる英語資料では、well-fed Ramよく肥えた雄羊/ram with fat haunches脂肪ののった臀の雄羊、とあって、すっかり普通の家畜の羊(羊毛がモコモコの)かと思っていたのですが、この絵をみると、毛は短くて野生のガゼル?鹿?のようにも見えます。砂漠に突然、家畜の羊が一頭だけあらわれるよりも、野生動物があらわれる方が自然かもしれません。


●119 VERSO  Rustam's third course: he slays a dragon  ロスタムの第三の試練:ドラゴンを倒す 
〇Fujikaメモ: 
ロスタムとラクシュが協力して龍を退治する名シーンです。
タフマスプ本の挿絵は、薄紫の地面を背景に、ゴールドの龍に、茶色(ブチはあまり目立たない)のほっそりりしたラクシュがかみついて、そして、わりとずんぐり小さいロスタムが龍の首を落とそうとしています。
ロスタムがずんぐりしていることで、龍が相対的に大きく見えます。
すぐ背後の枯れ木?が異様にウネウネして、この場面の躍動感を表現しています。
(ペルシャ細密画は、人物は概してクールに無表情だけれど場面のエモーショナルさを植物が表現したりするのだそうです)

その他写本では、12冊中、(他8)~(他15)の8枚の挿絵がありました。相当人気の場面ですね。うち3つがロスタムが騎馬のままですが、残り5つは馬から下りた状態です(文章では馬にのっていない模様)。
龍の意匠で変わっているのは(他12)。鮮やかな青で、皮膚にヒダが寄っている感じで、かなり中国風?
(他15)は、是非拡大してみて下さい。龍が小さめですが、構図の効果かな、なんとも迫力がある絵だと思いました。

●120 VERSO  Rustam's fourth course: he cleaves a witch  ロスタムの第四の試練:魔女を薙ぎ倒す 
〇Fujikaメモ: 
魔術師たちが席を外したすきに、ロスタムが彼らの宴会のごちそうやお酒を勝手に頂いちゃって、そして特に明確な悪意があった訳でもなさそうな魔女を殺してしまうというのは、現代的な感覚からはちょっと・・・という気もしますが、深く考えないことにしましょう(なにしろこれから先、もっとすごいオトナの展開が・・・)。

ロスタムに伐られる魔女は、シャータフマスプ本では、全身の肌が黒く、しぼんだ乳房でしわしわの半裸の老婆(黒人をイメージ?)。背後にいる仲間の魔術師も老人です。
他の写本では、3枚の絵がみつかりましたが、シャー・タフマスプ本の絵がいちばん特徴的です。(他16)や(他18)はツノが生えていたり耳がとがっていたりして異形の姿ですが、(他17)は見た目的には普通の女性ぽいです(歯をむき出しにした表情で、美女ではなさそうということはなんとなく分かる・・・)。
それにしても、そろそろ自分が年取ってきて、「まんが日本むかし話」でも、(いじわる)ばあさんとか山んばの方に共感できるようになってきました。老婆だからといって斬り捨てられちゃうなんて、ひどいわ・・・。

コメント
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シャーナーメ:12. カイ・カヴスのマザンダラン侵攻

2023-05-22 | +シャー・ナーメあらすじ(挿絵付き)

慢心した若い王カイ・カヴスが、悪魔にそそのかされてイラン軍を率いてマザンダランに侵攻し、窮地に陥る、という話です。
こういう王様なので、イラン軍を再び編成する訳にもいかなかったのか、助けを求められたザールは、息子ロスタムひとりを救援に向かわせます。次からがその冒険、「ロスタムの7つの労働」になります。

「豊かなあの国の○○が欲しい」から進軍するなんて胸糞悪いの極みですが(ムッカーとしてしばらく頭を冷やすために作業を中断したりしてました)、そのようなことは歴史上今に至るまで無数に繰り返してきた訳ですし、そもそもこれは神話ですし、桃太郎が鬼ヶ島に攻め入ったのを無条件に受け入れるように、これもお話として読みましょう・・・。

この部分は、シャー・タフマスプ本には挿絵はないです。
ほかの写本で使えそうなものがないか探しているところです。絵になりそうないいシーンもあると思うのだけれど・・。

====================
12. カイ・カヴスのマザンダラン侵攻
====================

■登場人物
《イラン側》
カイ・カヴス:イランのシャー。父王はカイ・コバド。
トゥース:ノウザルの息子。イラン王族で武将。Tus。兄弟はゴスタハム。
キシュバド ー グダルズ  ー[ギーヴ、バフラム、ロハム]:イランの戦士。祖父、父、子、の関係。  Kashvad, Goudarz, Giv, Bahram, Roham ギーヴには ホジルHojir という兄弟もいる
ケラッド Kharrad:イランの戦士
ミラド mirad ーゴルギン Gorgin/Gurgin:父、子の関係。ミラドはイランの大臣で遠征中の城代、息子ゴルギンは武将。

《マザンダラン側》
マザンダランの君主:
アルジャン:マザンダランの将軍 Arzhang
サンジェ:マザンダランの廷臣 Sanjeh
白鬼:マザンダランのディヴの武将のひとりで、王に協力する。White Div / Div-e Sepid
プーラド:マザンダランのディヴ。グンディの息子。Pulad son of Ghundi

■概要
傲慢な若いシャー、カイ・カヴスが、悪魔にそそのかされたために、ザールの助言も聞かず、軍団を率いてディヴ一族の国マザンダランを侵略することになりました。美しく豊かな土地に住む人々を殺戮し、財産や宝物を略奪していきました。
しかしマザンダランのディヴたちは手強く、白鬼の魔法によってシャーと戦士達はみな目が見えなくなり、捕虜になってしまいます。
シャーはザールに助けをもとめました。ザールは息子ロスタムひとりを、シャーと軍勢を助けるために遣わしました。
ロスタムとラクシュの旅が始まります。

 

■ものがたり

□□カイ・カヴスが即位し、マザンダラン侵攻を誘惑される

カヴスが父の跡を継いだとき、世界はすべて彼の奴隷となりました。玉座、王室のトルク(首飾り)とイヤリング、碧玉をあしらった黄金の冠、高いうなじのアラブ馬の種馬、全ての宝が自分のものであり、地上の富で自分にかなう者はいないと思いました。

ある日、黄金で飾られた宮殿で、イランの諸侯や指揮官たちと葡萄酒を飲み交わし、大小さまざまな事柄について話し合いながらこう語りました。 
「私は世界の頂に立つシャーである。この私には誰も口出しできないだろう。」

そこに、吟遊詩人に扮し、竪琴を携えた悪魔が宮廷にやって来て、侍従長に王への謁見を求めました。
「私はマザンダランでその甘い声で有名です。もしお許しを頂ければ、王の御前で歌わせて下さい。」
侍従長は王に吟遊詩人の来訪を伝えました。
カヴスは彼を入れるように命じ、彼を楽器とともに座らせました。彼は竪琴の調律をすると、歌い始めました。

「マザンダラン、私の故郷。永久に栄えよ。
 その庭園には一年中薔薇が咲き、
 野生のヒヤシンス、無数のチューリップが山の斜面に咲き乱れる。
 その大気は甘く澄んでいて、
 暑くもなく寒くもなく、常春。
 その芳しい空気は魂を蘇らせ、
 「その山の流れには薔薇水が流れている!」と人は言う。
 夜鳴鶯(ナイチンゲール)は庭で歌い、
 谷間には鹿が歩き回る。
 小川の水は絶えることなく一年中さざめき、
  鷹狩りでも弓矢でも、猟の獲物に恵まれないことはない。
 この地は金貨や錦織、素晴らしい特産品で飾られ、
 娘たちは美しい偶像のように黄金の冠をかぶり、
 戦士達は黄金の帯を締めている。
 この地にいるものは、計り知れない歓びを味わう。」

この歌はカイ・カヴスを奮い立たせ、自分の軍隊でマザンダランを征服することを思いつきました。彼は戦士たちに言いました。
「我々は宴と美食に明け暮れ、勇気を忘れ、怠惰に慣れてしまったのではないだろうか。
わたしの幸運、恩寵、王権は古のジャムシードやザハク、父王カイ・コバドを超えているのだから、武勇においても彼らを追い越さなければならない。
王たる者は世界を征服する野心を持つべきだ。」

彼の話を聞いた貴族たちは、皆黙り込んで顔を見合わせて、眉をひそめるばかりでした。
トゥース、キシュバド、グダルズ、ギーヴ、バフラム、ケラッド、ゴルギン、は面を伏せてこう答えることしかできませんでした。

「我々はあなたの奴隷であり、仰せの通りにいたします。」

しかし、その後、彼らは一緒に座って、王の言葉について話し合いました。
「なんという災難だろう。王が杯のもとで言ったことが忘れられなければ、我々もイランも破滅だ。
王冠と封印の指輪で鳥や魔物(ディヴ)を従えたジャムシード王でさえ、マザンダランの魔物たちと戦うことなど考えもしなかった。また、魔法に長けたファリドゥンも、そのようなことは考えもしなかった。」

トゥースは皆に提案しました。
「勇敢な諸侯よ、百戦錬磨の指揮官諸君よ、解決策は一つだろう。ザボレスタンのザール殿に使者を送り、出来るだけ急いで来て貰うのだ。ザール殿ならば王に賢明な助言を与えることができるはずだ。
マザンダラン侵略の考えを植え付けたのはアーリマンであり、悪魔が待つ扉を開けてはいけないと、ザール殿から告げてもらおう。
万一彼が王の考えを変えさせることが出来なければ、我々の運命は終わりを告げることになる。」

そして彼らはザボレスタンに急使を派遣しました。使者がザールのもとに到着すると、彼はトゥース達からのメッセージを伝えました。

ザールは、使者の言葉を聞き、王家の木がこのように萎れつつあることを知って深く嘆きました。
「カヴスは苦労知らずの傲慢で頑固な若造だ。
そのような王者が私に従わないとしても、それは不思議ではない。
彼が耳を傾けないならば、私が悲しく思うだけでなく、神もイラン中の戦士たちも、私を恨むだろう。
私はカヴスに会いに行き、助言を提供しなくてはいけない。 
もし彼がそれを受け入れれば、事態は安泰だが、もし彼が自分の計画に固執するならば、我々はシャーに従うほかなく、我々の運命は破滅に続くだろう。」

ザールは長い夜を考え込んで過ごし、太陽が地平線から顔を出すと、族長たちとともに王のもとへ出発しました。

ザールがイランに近づき、その旗が見えてきたという知らせが、トゥース、グダルズ、ギーヴ、バフラム、ロハム、ゴルギンに届きました。指揮官たちは彼を迎えに出て、彼に祝福を下し、宮廷に案内しました。トゥースの歓迎と感謝の言葉に、ザールは答えました。
「古の教訓は私のようなうるさい老人によって繰り返し語り直されるものであり、後になって天の摂理がその行いに報いるものでしょう。
カヴスには確かに助言が必要であり、私たちはカヴスに助言を差し控えるべきではありません。
もし、私たちが提案する知恵を無視すれば、彼は後悔することになるでしょう。」

□□ザールがシャーに助言する

一行は宮廷に入り、ザールが先に、他の貴族たちは彼に続きました。
ザールはカヴスが玉座に座っているのを見ると、両腕を胸元で従順に曲げ、頭を下げて言いました。 
「世界の主よ、あなたの歳月が勝利と繁栄で満たされ、あなたの心が常に知識で満たされ、あなたの頭が知恵で満たされますように。」
王は彼を丁重に迎え、ザールを横に座らせました。王はザールに、旅の困難さ、国の英雄の知らせ、ロスタムについて尋ねました。

ザールは王に言いました。
「世界の君主よ、あなたは強者たちの王座と王冠を受け継いでいます。
あなたの幸運はすべての臣民を繁栄させ、彼らはあなたの後援を喜びます。あなたはシャー・ファリドゥンの後裔であり、この時代があなたからその愛を奪うことがありませんように。

今、私は陛下がマザンダランを狙うという重大な知らせを耳にしました。
あなたの偉大な先達は誰もそのような旅は考えていませんでした。
マヌチフルは死に際して多くの富と宮殿をここに残し、ザヴ、ノウザル、カイ・クバドもそうでした。皆、武勇にすぐれ強大な軍勢を持つ王だったと我々の記憶に残っています。
しかし、彼らはマザンダランを試みませんでした。そこは呪術師たちの故郷であり、誰も解くことのできない呪いの国です。あの土地は、剣で征服することはできないし、知恵と財宝で手に入れることもできないのです。
その地に行くこと、あるいは行こうと思うことだけでも不運であるとされます。
陛下がその地を侵略してはならないのは、どのシャーもそれを良しとしなかったからです。
もし攻撃すれば、そこに費やした金も戦士達も、二度と見ることはできないでしょう。
この戦士たちはあなたの臣下ですが、あなたと同じように、彼らはすべて神の奴隷なのです。彼らの高貴な血を流さないで下さい。欲望のために野心という邪悪な種を地に植えないで下さい。その木は憎しみという果実を養うのです。」

カヴスは答えました。 
「そなたの助言は有り難く聞こう。
しかし私の勇気と恩寵、富は、ジャムシードやファリドゥン、マザンダランを攻めることを考えなかったマヌチフルやカイ・コバドを凌駕している。私自身とその軍勢はより偉大であり、世界は私の鋭利な剣の下にあるのだ。
そなたもかつて剣を抜いて世界を勝ち取った。今度は私がその力を見せつける時だ。
私はマザンダランに行き、卑しく浅ましいディヴと魔術師達を捕らえ、そして彼らに多額の税金をかけるか、皆殺しにするだろう。 
そなたは、地上から彼らが一掃されたという知らせを聞くであろう。

そなたとロスタムはイランの摂政となり、眠らないようにせよ。
神は私の助け手であり、ディヴの王子は私の獲物である。
そなたは私と共に行かないのだから、私の玉座の上で気を揉まないでくれ。」

ザールはこれを聞き、深い失望と無力感に襲われつつも答えました。 
「陛下はシャーであり私たちはその奴隷です。善悪は別として、あなたの意志に従って動き、呼吸しなければなりません。
私は言うべきことを理性に従ってお話させて頂きました。
誰も、至高の権力者ですら、死を根絶することはできないし、運命の目を針で縫うことも、節制によって欲望から逃れることもできません。
この輝く世界が陛下に繁栄をもたらし、陛下が私のこの言葉を思い出すことがありませんように。
陛下ご自身の行いが御身に後悔を与えませんように。陛下の心と信仰と支配が輝いていますように。」 

ザールは王の決心に心を曇らせながら、早々にいとまを告げました。宮廷を去るとき、彼の目の前には太陽と月が暗く見えました。
指揮官達はザールを見送りに出ました。ギーヴはザールに言いました。
「神が我々を導いて下さいますように! もしカヴスがシャーでないならば私は彼を無価値と見なすのですが。
貪欲や死や欠乏があなたから遠ざかり、あなたの敵があなたに危害を加えることができなくなりますように。私たちはどこにいても、どこに行っても、あなたの賛美を聞くことができます。そして神の次に、私たちのために尽力して下さったあなたを信頼します。」
ザボレスタンへの帰路につくザールを、一人一人が抱きしめました。

カヴスはザールが去るとすぐに、トゥースとグダルツに軍団を準備させ、マザンダランに向かう軍を先導するように命じました。

 

□□カヴス、マザンダランに到着

夜が明けて戦士たちがマザンダランに向かうとき、カヴスはイランを大臣ミラドに託し、封印の指輪と権限、国庫の鍵を与えました。
彼は言いました。 
「敵が現れたら戦いの剣を抜け。ロスタムとザールはどんな災難からも逃れられる。」

翌日、太鼓の音が鳴り響き、トゥースとグダルツが軍団の先頭を切って進軍しました。カヴスも続き、軍勢の行進に華を添え、日が暮れるとイスプルーズ(アスプルーズ)山の前に陣を敷きました。

カヴスの玉座には金の布がかけられ、空気は葡萄酒の良い香りに満ちていました。指揮官たちは皆、カヴスの前に座り、葡萄酒と楽しい会話で一夜を明かしました。
夜が明けると、彼らは起き上がり、兜と帯をつけて王の前に控えました。
王はギーヴに命じました。
「戦士の中から二千人のメイス使いを選び、マザンダラン方面へ進め。出会う者を皆殺しにし、すべての集落を焼き払って昼を夜に変えろ。気づかれないうちに魔法使いを殺害するのだ。」

ギーヴは命じられたとおりに兵士たちと共にマザンダランの国境まで行進し、そこで住民に剣とメイスの雨を降らせました。
女も子供も杖をついた老人も無慈悲に斬り捨て、町を焼き払い略奪し、住民の生活に癒しではなく毒をもたらしました。

あたりを見て回ると、彼らがやってきたのは、まるで楽園のような美しい街だということが分かりました。
どの通りにも、街角にも、首飾りや耳飾りをつけた無数の奴隷がおり、さらに、月のように輝く兜や面をつけた奴隷もいます。あらゆる場所に宝物が蓄えられていて、ここには金、あそこには宝石がありました。周囲の田舎には無数の家畜の群れがいました。
彼らはこの地の栄光と華麗さをカヴスに伝えました。
「マザンダランは天国に匹敵します。この街のすべてがチンの錦と薔薇の花輪で神殿のように飾られ、ここの女性は天女(ハウリ)のようで、その薔薇色の頬は天国の番人からザクロの花を浴びせられたかのようです」と。

カヴスはこれを聞いて、
「マザンダランの素晴らしさを教えてくれたあの吟遊詩人に感謝しよう!」
と叫びました。
イラン軍による略奪は一週間続き、そして一旦止みました。

マザンダランの君主はこの知らせを受け、心は痛み、頭は不安でいっぱいになりました。
君主は廷臣の一人、サンジェというディヴに言いました。
「急いで白鬼のもとへ行き、イランの王カヴス率いる大軍がここに到着し、マザンダランを略奪していると伝えよ。もし彼が助けに来なければ、この地で生きている者がいなくなるのが目に見えていると言ってくれ。」

サンジェは王のメッセージを白鬼に伝えると、白鬼は答えました。
「絶望することはない。私が軍を率いて奴らをマザンダランから追い出す。」
そして巨大な白鬼は立ち上がったのですが、その頭は巡る空に届くほどでした。

白鬼はイラン軍の頭上に真っ黒な煙の天幕を広げました。世界はアフリカ人の顔のように暗くなり、大地はまるでピッチ(タール)の海のようで、すべての光は隠れてしまいました。
そして闇の中、黒い空からは石と矢が降り注ぎ、イラン軍は逃げ惑い、多くの者がカヴスの所業に腹を立ててイランに逃げ戻りました。
その日が終わる頃には、シャーとその戦士のほとんどが盲目になっていました。
カヴスはこの悲惨な状況の中で悔やみました。
「賢明な助言者は財宝に勝るのだ。情けないことに、私はザールの助言を受け入れなかったのだ。」

イラン軍は1週間もこのように苦しみ、今では誰一人として目が見えなくなってしまいました。
8日目、白鬼が声を轟かせました。

「カヴスよ、柳のように実を結ばない役立たずよ。
貴様がイランの王座に就いてから、知恵はお前を見捨て、良識は飛び去った。
そして自分の軍隊がマザンダランを侵略できると考え、実際に多くの者を虐殺したのだ。
ここで、自分の野望の罰を受けよ!」

そして、短剣で武装した1万2千のディヴを選び、イラン人捕虜をきつく縛り上げ、監視させました。捕虜たちには日々生きていくのに足るだけの食物は与えられましたが、心は屈辱と悲しみに苛まれました。
白鬼は、紅玉とトルコ石で飾られた王冠を含むイラン軍の宝物をすべて奪い、マザンダランの軍司令官アルジャンに引き渡して言いました。 
「悪魔のような侵略者たちについては片がついた、と王に伝えよ。
イランのシャーとその軍隊は、二度と明るい太陽と月を見ることはないだろう。私は彼を死で脅したのではなく、運の浮き沈みを教えたのだ。彼は悩みを乗り越えて賢くなり、今後は誰もそのような策略に耳を貸さなくなるだろう。」

アルジャンは、イランの捕虜や彼らの財宝や立派な装身具をつけた馬などの略奪品の行列とともにマザンダランの王のもとに旅立ちました。

 

□□カヴス王、ザールへ事態を伝える

打ちひしがれたカヴスは、ザヴォレスタンのザールのもとにひとりの戦士を使者として遣わし、このようなメッセージを送りました。
「私の王冠と王座は塵と化し、私の財産と春の薔薇のように華麗な軍隊はディヴのものとなってしまった。今、アーリマンの魔の手にかかり、私の目は暗く、運勢は混乱し、疲れ果てて傷つき、私の哀れな体は魂を捨ててしまった。
あなたが私にくれた忠告を思い出すと、私の中から冷たいため息がもれる。私は賢明に行動せず、あなたの助言に従わず、私の知恵のなさが災いをもたらしたのだ。
今、あなたが助けに来てくれなければ、これまで得たものはすべて失われてしまうでしょう。」

使者はザールに自分の知っていること、見聞きしたことをすべて話しました。
ザールの慧眼は、運命がカウスにもたらす災いを彼に示しました。
彼は悲しみのあまり皮膚をかきむしりましたが、誰にも相談しませんでした。

彼はロスタムひとりを呼び出して、言いました。
「世界の王がアーリマンに捕らわれてしまった。王は龍の息の中にいて、イランに災いが訪れようとしている。もはやぐずぐずしていられない。
息子よ、どうかお前がラクシュに乗って、復讐のために剣を握ってくれ。運命は、この日のためにお前を育てたのだ。」

拝命したロスタムは尋ねました。
「父上、マザンダランへの遠い道を、兵士を伴わずにどうやって行きましょうか?」
ザールは言いました。
「この王国から行くには2つの道がある。ひとつは安全だが遠い、カヴスが通った道である。
もう一つはより近道であり2週間の旅だが、ディヴや獅子や怪物の巣窟であり、あらゆる暗黒の世界だ。
汝は短い方を選び、その驚異を見よ。神がお前を助けるであろう。険しい道だが、ラクシュを道連れにすれば、その危険も乗り越えられるだろう。

暗い夜、夜が明けるまで、私は神に祈ろう、再びお前の肩と胸を見ることができるように。しかしもし神の意志で悪魔がお前の日を暗闇に変えるなら、それは避けようがないことなのだ。永遠にこの世に留まれる者はなく、世界に名声を誇るものですら最後には別の場所に召喚されるのである。」

ロスタムは父に答えました。
「私は父上の命に従う覚悟で帯を締めています。
無謀で見込みのない試みかもしれませんが、私はどんなことにでも遭遇する準備ができておりますし、神以外に味方を求めません。
私は王のために身も心も捧げ、魔術師たちからまだ生きているペルシャ人を救出します。
世界を創造した唯一神によって誓います。
ロスタムは、白鬼とサンジェを倒し、アルジャンの腕を岩のように結んで肩に軛を乗せ、ラクシュがプーラドの頭と脳を蹄の下に踏みつけるまで、ラクシュから降りることはありません。」

ザールはロスタムを抱きしめ、その頭に多くの祝福を呼びかけました。
ロスタムは虎の皮の兜をかぶり、胴衣をつけて背筋を伸ばし、そして決意を固め、ラクシュにまたがりました。

ルーダーベとザールは、涙に濡れた頬で息子を見送りました。

■シャー・タフマスプ本の細密画

なし。

■他の写本の細密画

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シャーナーメ:11. ロスタムとカイ・コバド(下)

2023-04-23 | +シャー・ナーメあらすじ(挿絵付き)

後半です。
カイ・コバドをシャーに頂いたイラン軍がトゥラン軍と戦います。
イランは勝利を治めトゥランは敗走します。
総大将アフラシヤブは父王パシャンに和平を訴え、パシャンから和平条約と贈り物がおくられます。
(パシャンの講和の文言は21世紀の今でも教訓に満ちています。1000年前に亡くなった作者フェルドウスィー氏(934-1025)に、人類はもう戦争から卒業しました、と言えたらよかったのに。終わらない戦争はないし必ず痛みを伴うのだから、始めてはだめですよね・・・)

シャーナーメの三大悪役はザハク、アフラシヤブ、あとだいぶ後で登場するイスファンディル(アレクサンダー)なのだそうです。
でも、これまで見てきたトゥランのイラン侵攻では、2回ともパシャンが行けと命じているし、元凶はパシャンではないかと・・。
特に今回(2回目の侵攻)、パシャンはイグリラスの殺害に腹を立てて長いことアフラシヤブを無視したり、とても傷つくような仕打ちをして(9.イランとトゥランの戦いの始まり(下)の15章)、アフラシヤブは父の許しを得るためにも頑張ってしまったのではなかろうか・・・。

老いたカイ・コバドの言葉「私はまだ、アルボルツ山脈から仲間たちと楽しそうにやってきたあの若者のような気がする」という部分がとても好きです。時空を超えて若かりしある日が蘇ることってありますよね。その日が曇りなく輝いていればなお。

次回からは、名君カイ・コバドの跡を継いだカイ・カヴスに関わるお話です。
カヴスは慢心して軽率なところがあり、そのせいで窮地に陥り、それを助けるためロスタムとラクシュが「7つの冒険(労働)」をすることになります。神話らしさのある面白いお話かなと思いますので、お楽しみに・・・(作業はこれからなのでだいぶ先かも・・)

====================
11. ロスタムとカイ・コバド(下)
====================

■登場人物
ザール:ザボレスタンの王。生まれつきの白髪。
ロスタム:ザールの息子。 Rustam
カイ・コバド:イランのシャー。ファリドゥンの末裔。アルボルツ山脈に隠棲していた。Kay Kawad / Kay Qobad
カレン、ケルダド、ケシュバド、バルジン、ガズダホム:イラン武将

アフラシヤブ :パシャンの息子。イラン軍総大将。
パシャン:トゥラン王

 

■概要
カイ・コバドをシャーに頂き、イランとトゥランの戦闘が始まります。
イラン軍戦士たちは奮闘し、優勢となります。初陣のロスタムは敵の大将アフラシヤブの帯を掴んで持ち上げるという快挙をなしとげますが、金具が千切れてアフラシヤブを逃がしてしまいます。
大損害を受けたトゥラン軍は散り散りに敗走し、帰り着いたアフラシヤブは父王に和平を提案します。
パシャンはカイ・コバドに和平の条約と贈り物を贈り、オクサス川を国境として退却します。
カイ・コバドは100年の間、正義と寛容の統治を行い、息子カイ・カヴスを次の王に指名し、世を去ります。


■ものがたり

3□□カイ・コバドの即位とトゥランとの闘い

8日目には象牙の玉座が用意され、その上に王冠が高く掲げられました。カイ・コバドは玉座に座り、宝石で飾られた王冠を頭に乗せました。ザール、カレン、ケルダド、ケシュバド、バルジンなどの指揮官たちが集められ、新しく戴冠した王の上に宝石をばらまきました。

新しいシャーは、アフラシヤブの侵攻についての話を聞き、自らの軍隊を閲兵しました。
翌日、王宮から準備の音が聞こえ、コバドが軍を率いて出てきました。
ロスタムは鎧を身につけ、気迫に満ちたイランの隊列は、埃をもうもうと上げながら進軍しました。
一方の翼はカボルの王ミフラーブ、もう一方はガズダホムが率いていました。カレンは中央で、破壊者ケシュバドと共にいました。

ザールはカイ・コバドと共にその後に続き、まるで彼の片側に火があり、もう片側に風があるかのようでした。軍勢の前にはカビアニの旗がはためき、世界を緋色、黄色、紫色に染め上げ、まるで海上の波間に浮かんだ船のようでした。

平野や山の斜面は盾の塊となり、剣は松明のように光り輝き、世界の端から端までが真っ黒な海のようで、その上を10万本のロウソクが煌々と照らしているようです。喇叭の音と軍隊の騒音で、太陽が道を踏み外すのではないかと思うほどでした。

4□□ロスタムとアフラシヤブの闘い

戦いが始まると、カレンはすべての突撃に参加し、ある時は左へ、ある時は右へ走り、血の雨を降らせました。ロスタムは彼の強烈な戦いぶりを見て、父のもとに行って聞きました。
「アフラシヤブはどこにいるのでしょうか。彼の装束は? 彼の旗は部隊のどこにはためくのでしょう。あの輝く紫色の旗は彼のものでしょうか? 私は今日、奴を捕らえ持ち上げてやりたいのです。」
ザールは答えました、
「よく聞け、息子よ、初陣の今日は自分のことをよく考えろ。アフラシヤブは戦闘時には火を噴く竜であり、災いを降らせる雲だ。その旗は黒く、その鎧も黒く、その腕は鉄に包まれ、その兜は鉄でできている。その鉄の鎧の表面はすべて金で装飾され、その黒い旗は兜にとりつけられはためいている。
気をつけろ、彼は勇敢で運にも恵まれている。」
ロスタムは言いました。
「私のことは心配いりません。創造主は私の味方であり、私の心、剣、腕が私を守ります。」
喇叭が鳴り響くと、ロスタムは鉄の蹄のラクシュを駆って駆けだしました。

アフラシヤブはその姿に目をとめると、この未熟な若者を不思議に思って立ち止まりました。彼は周りの戦士たちに聞きました。
「解き放たれた竜のようなあれは誰だ?初めて見るが。」
部下が答えました。
「あれはザールの息子です。サームのメイスを持っているでしょう。彼は若く、勝ち星を挙げることを熱望しています。」

アフラシヤブは波頭に乗って高く持ち上げられた船のように、軍勢に先駆けて進みました。ロスタムは彼を見ると、太ももでラクシュを強く挟みつけ、重いメイスを肩に担ぎ上げました。アフラシヤブとの距離を縮めると、メイスを王の鞍にぶつけ、さらに手を伸ばしてアフラシヤブの腰帯を掴み、ヒョウ皮の鞍からアフラシヤブを持ち上げて掲げました。

Ryl-Pers-932-f078r
●ロスタムがアフラシヤブの帯を掴んで持ち上げる Ryl-Pers-932-f078r

彼は初陣の戦利品としてアフラシヤブをコバドのもとに持ち帰ろうとしましたが、彼の力とアフラシヤブの重さに耐え切れず、帯の留め金が折れて千切れ、アフラシヤブが頭から地面に落ちてしまい、騎兵がすぐに彼の周りに集まって舞い上がる砂埃に彼を隠してしまいました。

敵の大将をこのように逃してしまったため、ロスタムは激しく悔しがって自分の手の甲を噛みました。
「なぜ、帯を掴むのではなく、自分の腕の中に押さえ込んでおかなかったのか!」

ロスタムがトルコ軍の中央を破り、トゥランの大将の帯を掴んで地面に投げ捨てた、という快挙が伝わると、象の背中から鐘がや太鼓の音が一隊に鳴りわたりました。この快挙に、コバドとイラン軍は勢いづき、軍隊は風に煽られた波のように前へ前へと押し寄せていきました。
あちこちで武器のぶつかり合う音、短剣のきらめき、木と鎧のぶつかり合う衝撃が響きました。
あたりはまるで雲が魔法で朱を降らせ、大地を赤い染料で染め上げたかのようでした。1,160人の勇敢な戦士が殺され、トゥラン人は散り散りにダムハンに退却し、そこからオクサス川に向かいました。
打ちひしがれ、疲れ切って、鎧は砕け、帯は緩み、喇叭や太鼓の先触れもなく、敗走したのです。

5□□アフラシヤブが父パシャンと会う

アフラシヤブは川岸に逃げ込み、7日間そこに留まり、8日目に準備を整え、怒りと悲しみに満ちて父のもとへ戻って報告しました。 
「高貴な王よ、この復讐を始めたのは間違いでした。過去の勇者たちは、その王にこのような不信感を抱くことはありませんでした。しばしの間イランの王座は空位でしたが、イラジの種はこの地から根絶やしにされておらず、この毒に効く解毒剤も見つかってはいません。一人が去れば、また新たな者がその座に就き、今はコバドが出て王冠をかぶり、新しい戦いの道を切り開きました。

そして、サームの種族から一人の騎士が現れ、ザールは彼をロスタムと名付けたのです。彼は剣とメイスであらゆる場所を攻撃し、空気はメイスの打撃音で満たされ、私の魂は彼の力の前では握りこぶしほどの価値もありませんでした。
彼は私たちの軍を粉々にし、私の旗を見つけると、メイスを私のヒョウ革の鞍に打ち付け、私の帯を掴んで、まるで蚊ほどの重さしかないように私を持ち上げました。帯が千切れたので私は彼の手から地面に落ち、部下が私を引きずって連れて帰ったのです。

和平を結ぶという選択肢しかないでしょう。あなたの軍隊は彼の猛攻に耐えられないのですから。
かつてファリドゥンがトゥールに与えた土地が、我々に与えられたものです。その他の土地への古くからの執着と復讐の念を捨て去るべきです。

イランとの戦争は、父上にとっては戯れのように思えたかもしれませんが、父上の軍隊にとっては全く違いました。我々の、黄金の兜と黄金の盾、黄金の手綱をつけたアラブ馬、黄金の鞘をつけたインドの剣、勇敢な戦士たち。どれほどが失われたか考えてみてください。
更に悪いことに、名誉と評判も回復しようがない程に貶められてしまったのです。
どうか過去の恨みを忘れ、カイ・コバドとの和解に努めて下さい。さもないと四方から軍勢が押し寄せてきます。
一方からは、情け容赦のない炎天のようなロスタムが。
もう一方からは、敗北を見たことのないカレンの軍勢が。
そしてアモルを攻め落とした黄金の兜のケシュバド。
最後に、ザールの軍を率いるカボルの領主、4人目のメーラブ。」

 

6□□パシャンが講和を求める 

トゥランの王は、アフラシヤブの言葉を黙って聞きながらその目に涙を浮かべました。
彼は書記に紙と、麝香から作ったインクを持ってくるように言いました。この男が書いた手紙の書法は、名人にふさわしいほど美しく、様々な色と図像で飾られているのでした。

パシャンは口述しました:
「日月を統べ、我らに讃美の力を与えた御名においてこれを記す。
我々の祖先の縦糸と横糸であるファリドゥンの魂にその祝福がありますように。
かつてトゥールは、王冠と王座に関わる問題で、祝福されたイラジに災難をもたらした。そしてイラジの復讐は、マヌチフルの手によってなされた。
しかしそもそもファリドゥンは正当な配分を企図して最初の取り決めを行ったのである。この分割を承諾し、先例を踏襲するのは私たちにとって良いことであろう。

トランスオクシアナからオクサス川を境界とする土地までが我々の分け前である。そしてイラジとその血族はイランを与えられた。
この協定を破って争いを起こせば、自分たちの生活を苦しくし、自らの剣で自分たちを傷つけ、神の怒りを買うことになり、この世でも来世でも何も受け継ぐことはできない。
ファリドゥンがサルム、トゥール、イラジの間に作った分割を尊重し、今後友人となりましょう。

私たちの頭は雪のように白くなり、地面は我らの戦士たちの血で朱に染まった。
しかし、詰まるところ人は自分が横たわる大地しか所有できない。麻布を衣に、墓を家として5キュビトの長さの土地を所有するだけである。これを超えた野望は、このかりそめの宿に悲しみと苦しみをもたらすだけである。

もしカイ・コバドが我々の条件を受け入れ、彼の賢明な心が正義に傾くならば、我々の誰もオクサス川を渡ることを夢にも思わなくなり、イラン人は挨拶と平和のメッセージを届ける以外はここに来なくなるだろう。こうして我々の二つの国は繁栄し幸せに暮らすことができるであろう。」

王はその手紙を封印して、カイ・コバドに遣わしました。
使者は金色の馬具で飾られたアラビア馬、銀の鞘に入ったインドの剣、宝石、そして最も良い自国の品々とともに手紙を渡しました。

カイ・コバドは答えました、 

「先に攻撃したのは我々ではない。かつてイラジを殺して最初に罪を犯したのはトゥールであり、我々の時代にはアフラシヤブがオクサス川を渡ってイランに攻め込んで来た。
彼がノウザル王に何をしたか、野の獣さえも彼を嘆いたことをあなたは聞いたでしょう。また、賢者アグリラスに対する振る舞いは、名誉ある人物にふさわしくありません。
もしあなた方が悔い改めるのであれば、我々は和平の契約を更新しましょう。しかし、私は復讐をすることもできますし、万が一のために武装しています。
オクサス川の向こう側の土地は、あなた方のものです。アフラシヤブ殿が満足することを期待しています。」

そして、シャーは新しい条約を書き記しました。
使者が豹のような速さで手紙をパシャンに持っていくと、パシャンは荷物をまとめて行進し、砂煙を巻き上げ、風のようにオクサス川を渡って退却しました。

この知らせはカイ・クバドに届き、もはや戦いがないことを歓びました。
しかし、ロスタムは彼に言いました。
「陛下、この和解は真のものでしょうか。これまでずっと、我々は彼らの攻撃から休むことはありませんでした。私のメイスが彼らを一時的に退かせただけではないでしょうか。」
王は答えました。
「わたしは正しさに勝るものを見たことがありません。
パシャンはファリドゥンの孫であり、十分な経験と知恵から争いを避けるでしょう。
叡智ある者は、猜疑の心から離れなくてはいけません。
しかし、ザヴォレスタンとカボルの、両軍の槍を研いでおくように。
王というものがいるところには戦争があるものだ、大地はかくも広いのだが。」

そしてシャーはザールとロスタムの働きに報い、誰も見たことがないような贈り物と広い領地を与えました。
ザールには、金襴の衣と、ルビーとトルコ石をあしらった帯と王冠を。
5頭の象の上には、ナイル川の水よりも華麗に輝くトルコ石をあしらった象駕籠を置き、そこには金襴の布をかけました。そしてこう告げました。 
「もっと立派な贈り物を送りたかった。
もし私が長寿に恵まれれば、そなたの願いをこの地上で満たさないままではいないでしょう。」 

そして、カレン、ケシュバド、バルジン、ケラッド、プラッドに、金貨、銀貨、剣、盾、王冠、ベルトなど、ふさわしい贈り物を配りました。

 

7□□カイ・コバドの治世とその終わり

カイ・コバドは宝物庫があるパースを目指しました。彼はイスタクルの宮殿ーカヤン族の歴代の王が栄華を誇った場所ーに入りました。
叡智と華麗さ、そして慣習に則って統治する彼に、世界中が敬意を表しました。彼は貴族たちに言いました。
「世界は端から端まで世界は私のものである。
もし象が蚊と争う[弱いものいじめ/侵略行為ということか]ならば、これは正義と信仰に反することである。神の怒りは災いをもたらすことになる。
大地と水こそが宝であり、勤勉と公正が平穏をもたらす。

同盟諸王は私の護衛であり、私は市民と軍隊を同等に扱う。
神を拠り所とし、賢く、平和に暮らせ。富を持つ者はそれを楽しみ、分かち合い、そして私がそれを可能にすることを私に感謝するように。
また、飢えている者、労働によって自らを養えない者は、私の宮廷がその牧場になり、私のもとに来る者をすべて迎え入れるだろう。」 

カイ・コバドは過去の名君に倣い、その正義と寛容さで世界を繁栄させました。世界に彼に匹敵する王がいたでしょうか。

彼には4人の賢い息子がいました。1人目はカイ・カヴス、2人目はカイ・アラシュ、3人目はカイ・パシン、4人目はアシュカといいました。

彼が100年統治したとき、彼の力は衰え始め、人生の緑の葉が枯れつつあることを知りました。彼はカヴスを呼び寄せ、正義と寛大さについて説きました。
そして言いました。
「私は最後の旅に出る準備ができた。私の棺を地面に下ろし、お前が王座に就いてくれ。
私はといえば、アルボルツ山脈から仲間たちと楽しそうにやってきたあの若者のような気がするのだが。
運命とはなんというものだろう、何の前触れもなく私たちを置き去りにする!それを崇拝する者たちは知恵がない。
もし、お前が正しく支配するならば、お前は天界への旅に出ることになるだろう。もし、欲と野心に心を奪われるならば、お前はお前に対して使われることになる暗い剣の鞘を解くことになるだろう。」 

彼は話し終えると、宮殿を棺桶に換えて華麗な世界から旅立ちました。

 

 

■シャー・タフマスプ本の細密画

サムネイル ページ番号 画のタイトル※ タイトル和訳 所蔵館と請求番号 画像リンク先 備考
f112v 112 VERSO  Rustam's first encounter with Afrasiyab  ルスタムとアフラシヤブとの最初の出会い  Tehran Museum of Contemporary Art, Tehran, Iran 非公開  

 


■他の写本の細密画

サムネイル ページ番号 画のタイトル※ タイトル和訳 所蔵館と請求番号 画像リンク先 備考
Ryl-Pers-932-f078r 78 Recto  Rustam lifts Afrasiyab by the belt ルスタムがアフラシヤブのベルトを掴んで持ち上げる John Rylands University Library of Manchester Ryl Pers 932 カタログ 

078r
1542年シラーズ
Ryl-Pers-932-f069r 69 Recto  Rustam lifts Afrasiyab from the saddle ルスタムがアフラシヤブのベルトを掴んで持ち上げる John Rylands University Library of Manchester Ryl Pers 910 カタログ 

069r
1498?/1518?/
1570?
Ms-or-fol4251-f198r 198 Recto  Rustam hebt Afrāsiyāb aus dem Sattel ルスタムがアフラシヤブのベルトを掴んで持ち上げる Staatsbibliothek zu Berlin Ms. or. fol. 4251

198r

1605

 

 

■細密画解説(本や所蔵美術館の解説より適宜抜粋)

●112 VERSO  Rustam's first encounter with Afrasiyab  ルスタムとアフラシヤブとの最初の出会い 
●ロスタムがアフラシヤブの帯をつかんで持ち上げる
〇Fujikaメモ:専門家による解説がないので、私が勝手に感想を書いてしまいます。 
アフラシヤブの身なりは、文中では次のようになっています。
・黒い小旗が兜にとりつけられはためいている
・鎧は黒。金で装飾。
・腕は鉄に包まれている(腕の防具)。表面は金で装飾。
・兜は鉄でできている。表面は金で装飾。
・鞍は白豹の毛皮

文中に掲載したRyl Pers 932は、ロスタムが童顔なこと、アフラシヤブが金模様の黒い鎧(服?ちょっと柔らかそうなのよね)を着ていることで選びました。ズボンの表現方法のせいかどうか、アフラシヤブが丸みを帯びていて、悪役ならではの格好良さには欠ける気がします。

表にのみ掲載したRyl Pers 910は、黒い兜に黒い小旗がついていたり、弓や刀の鞘が黒でコーディネイトされているところは文章にあっていていいな、と思いましたが、ロスタムがひげを生やした成年男性なのがちがうような・・。これが初陣で、若いはずと思うのです。

Ms. or. fol. 4251も、ロスタムは髭がない凜々しい若者で、アフラシヤブは黒い服。
こちらのアフラシヤブの方が格好いいかも。
(ちょっと絵のタッチが好みと違うのですが)のちほどこちらに入れ替えるかもしれません。

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シャーナーメ:11. ロスタムとカイ・コバド(上)

2023-04-22 | +シャー・ナーメあらすじ(挿絵付き)

前回、ロスタムが愛馬ラクシュと出会いました。
そして今回から、ロスタムとラクシュの活躍が始まります。これ以降のロスタムは、ほぼどの絵にも共通して白豹の頭の兜、茶色の虎皮の上着を身につけています(こういう、キャラ独特の衣装があるのはロスタムくらいです)。
この章は、隠棲していたカイ・クバドが見いだされ帝位につき、イラン・トゥランが闘って、和平を結ぶという内容ですが、ちょっと長いので上下2編に分けました。

====================
11. ロスタムとカイ・コバド(上)
====================

■登場人物
ザール:ザボレスタンの王。生まれつきの白髪。
ロスタム:ザールの息子。 Rustam
カイ・クバド:イラン王ファリドゥンの末裔。アルボルツ山脈に隠棲している。Kay Kawad / Kay Qobad

アフラシヤブ :パシャンの息子。イラン軍総大将。
パシャン:トゥラン王
クルン:トゥランの戦士。Qulun

 

■概要
イランのシャー・ガルシャスプ(治世9年)の死後、帝国の王座が空位になったのを好機とみて、トゥラン王パシャンが再び息子アフラシヤブをイランに侵攻させます。
迎え撃つザールは、準備万端戦力を整え、戦場で位置につきますが、部隊の要となるシャーがやはり必要だと考えます。
そこで息子ロスタムら騎兵をアルボルツ山脈に送り、予言者の示したカイ・コバドを探させます。
ロスタムは道中出会ったトゥラン兵を難なく蹴散らして進み、アルボルツ山麓の水と緑に恵まれた場所に、楽しげに暮らすカイ・コバドとその朋輩をみつけ、ザールのもとに連れ戻ります。
帰途、トゥラン戦士クルンの率いる軍勢と出会い、ロスタムはクルンを槍で刺して持ち上げるという見事な勝利を収めます。
カイ・コバドは、イラン貴族、諸侯たちの合議で認められ、シャーに即位します。
そしてただちにトゥランとの戦いの準備にとりかかります。

■ものがたり

1□□ザールの出陣

ザールが象の背中から、ザボレスタンの平原の何キロも先まで聞こえるような鬨の声をあげました。太鼓や喇叭、インドの銅鑼、象の嘶きが鳴り響き、まるで大地が死者に「起きろ」と叫ぶ審判の日がやってきたようでした。
ロスタムが先陣を切り、熟練した戦士たちが続きました。彼らが出発したのは春で、世界は花々で満たされていました。

アフラシヤブは、宴と休息の日々から目覚め、小川と葦の間の草原に沿ってレイのカールを目指して進軍しました。

イラン軍は砂漠を出て戦場に向かい、両軍の間は2里だけとなりました。ザールは老練な指揮官たちの会議を招集し、彼らに言いました。
「知恵あるもの達よ、練達の戦士達よ。我々はここに十分な軍勢を配し、有利な条件を備えている。しかし、王座にシャーがいないため、私たちは以前のように心を一つにすることができない。王位につき、権威の帯を締める王家の血筋の者が必要だ。
ある司祭が、そのような王について教えてくれた。ファリドゥンの子孫であるカイ・コバドだ。彼は優雅で気高く、正統な権利を兼ね備えている、と。」

そして、ザールはロスタムに向かい、こう言いました。
「今すぐメイスを持ち、仲間を選び、アルボルツ山脈へ急行せよ。
カイ・コバドを探し、丁重に挨拶し『全軍があなたを求めており、王位を用意しています』と言いなさい。そしてなるべく早く戻るのだ。」

2□□ロスタムがアルボルツ山からカイ・クバドを連れてくる

ロスタムはひれ伏してまつ毛で地面を掃き、ラクシュの背に乗り、仲間とともにカイ・クバドを探しに勇んで駆け出しました。

トゥラン人の前衛部隊が道を堅く守っていましたが、ロスタムは勇敢な部隊を率いて立ち向かいました。
ロスタムは雄叫びを上げて牛頭のメイスを振るい、多くのトゥラン兵を打ちのめしました。
彼らは怯えて逃げだし、アフラシヤブのもとに戻り涙ながらに事の次第を報告しました。

アフラシヤブはこの件を憂い、手練れの戦士クルンを呼び、彼に言いました。
「精鋭の騎兵を選び、その軍勢を阻め。ただし慎重に見張って進むのだ。あの鬼畜のイラン人は不意打ちをかけてくる。」
クルンは手強い敵の行く手を塞ぐため、戦士達と力強い象を従えてトゥランの本陣から出発しました。

ロスタムは新しい王を探しに進みました。そしてアルブルズ山から1マイルほどのところに、水と豊かな樹木がある素晴らしい住処を見つけました。若衆たちのための家です。
川辺には、薔薇水と純粋な麝香で飾られた玉座が置かれていました。
月のような若者が日陰の玉座に座り、色とりどりの衣服を着て腰に帯を巻いた多くの貴人が楽しげで優雅な雰囲気を醸しだし、楽園のような宮廷を形成していました。

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●玉座に座る若者

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●花が咲き乱れる川辺で楽を奏で楽しむ貴人たち 110v

ロスタムが近づいてくるのを見て、彼らはにこやかに挨拶に来て言いました。
「誉れ高い戦士よ、通り過ぎてはいけません。我々はもてなし役であり、貴方は我々の客人です。
下馬して、我らと愉快に歓談しましょう。高名な戦士であるあなたに葡萄酒で乾杯させて下さい。」
しかし、ロスタムは答えました。
「畏れながら申し上げます。私はアルブルズに人を探しに参ったのです。
イランには敵が迫り、民の嘆きは避けられません。急がねばならないのです。私は王座が空白である間は楽しむことはできません。」
彼らは言った。
「もし、あなたがアルブルズへ向かうのなら、誰を捜しているのか教えて下さい。私たちは、その地から来た騎兵であり、貴方を案内できるかもしれません。」

ロスタムは答えました。
「我らがシャーがそこにいるのです。その名はカイ・コバド。ファリドゥンの種から生まれた、正義と繁栄の男です。もし知っているのなら、私を彼のところに案内してください。」

月の若者が言いました。
「私はカイ・コバドのことを知っています。もし、あなたが私たちの宴席に加わって下さるならば、私はあなたをその人のもとに案内しましょう。」

これを聞いたロスタムは風のように馬を降り、水辺に急ぎ、人々が日陰に座っているところに向かいました。若者は金の玉座に座り、ロスタムの手を握ってゴブレットを満たし、「自由に乾杯!」と言いながら飲み干しました。そして杯をロスタムに渡し、こう言いました。
「誉れ高き戦士よ、先程あなたは私に尋ねましたが、コバドについて、その名をどこで知ったのですか?」
ロスタムは答えました。
「イランのパラディンたちが、カイ・コバドを国王に指名したのです。
もしあなたが何か知っているならば教えて下さい。彼を急いで連れて行かなくては。」

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●カイ・コバドについて訊くロスタムと玉座の若者 110v

王座の青年は微笑みながら答えました。
「私がカイ・コバドです。ファリドゥンから続く父祖の名前を、皆言うことができます。」

ロスタムはこれを聞くや、座っていた椅子から立ち上がり、ひれ伏して公式の口上を述べました。
「全ての統治者を統べる者よ。勇者の庇護と長者の滞在よ、イランの王座が貴方の意思を待ち、大象と軍隊が貴方の命を待っています。
汝の右の座は王の中の王の座であり、恩寵と栄光が汝のものでありますように!
領主であり勇敢なパラディンであるザールから、地上の王への挨拶を持ってきました。
もし今、国王がこの奴隷ロスタムに話すよう命じるならば、私はザールのメッセージから解放されます。」

カイ・コバドはロスタムが語る間、席を立ちその言葉に集中しました。
若い王子は胸を躍らせながら「杯を持て」と命じ、ロスタムの健康を祈り、ロスタムも君主の命を祈って葡萄酒を飲み干しました。

楽器が奏でられ、赤葡萄酒が回って、若々しいシャーは頬を上気させてロスタムに言いました。
「かつて私は夢の中で2羽の白い鷹がイランから近づいてきて、太陽のように明るい王冠を持ってくるのを見たのです。彼らは優しく羽ばたいて私のところにきて、頭にその冠をかぶせました。
私はその明るい王冠と白い鷹のおかげで希望に満ちて目覚め、この川辺に王が持つような宮廷を作ったのです。
そして今日、その白い鷹のように、比類なきロスタムが私が戦士の冠をかぶるという知らせを携えてやってきました。」
ロスタムはそれを聞いて言いました。
「その夢は予言だったのでしょう。さあ、立ち上がってイランと指揮官たちのところへ旅立ちましょう。」
カイ・クバドは火のように素早く立ち上がり馬に乗りました。ロスタムもまた風のように武具を身につけて、一行は誇らしげに旅立ちました。

昼も夜も彼らは進み、トゥラン人の前線基地まで来て対決することになりました。

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●トゥランの軍勢 111v

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●イランの軍勢 111v

戦士クルンが彼らの来訪を知り、戦おうと進んできました。
カイ・コバドは戦いの態勢を整えようとしましたが、ロスタムが彼に言いました。
「シャーよ!これはあなたのための戦いではありません。この赤銅のラクシュに跨がってメイスを持った私に、誰が立ち向かえるでしょう?」

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●カイ・コバドを制して進むロスタム 111v


そしてロスタムは拍車をかけ、メイスの一撃で敵のひとりを馬上から突き落としました。
その強靱な手は次から次にメイスを振るい、落馬した敵は頭や首や背中を砕かれ、ひとりは脳みそが鼻孔から流れるほどでした。

メイスを手にし、鞍に投げ縄をつけ、解き放たれたディヴのように駆けるロスタムを見て、クルンは風のように彼に突進し、槍で彼の帷子の留め金を突き破りました。しかしロスタムは、クルンが油断した隙にその槍を掴んでもぎ取り、彼に槍を突き立てました。
そして雷鳴のようなうなり声をあげ、その槍を持ち上げて彼を鞍から宙に持ち上げ、槍の尻を地面に突き立てました。
クルンはまるで串に刺された鳥のように見えました。

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●ロスタムがクルンを串刺しにする 111v

勝利者はラクシュに乗り、彼を踏みつけて死に至らしめました。
トゥランの騎馬隊はクルンを戦場に残し、逃げ出していきました。

ロスタムらは前哨基地を通り過ぎ、丘に向かって急ぎました。
ロスタムは草と水のある場所に降り立ち、夜が明けるまでに、王者にふさわしい衣服、馬、冠を用意し、そうしてからザールにカイ・コバドを紹介しました。

一週間の間、ザールと神官や指導者達は会議をしました。そして「コバドの右に出る者はいない」というのが全員の一致した意見でした。7日間、彼らはコバドと共に喜び宴を楽しみました。

 

■シャー・タフマスプ本の細密画

サムネイル ページ番号 画のタイトル※ タイトル和訳 所蔵館と請求番号 画像リンク先 備考
f110v 110 VERSO  Rustam finds Kay Qubad  ロスタムは(ファリドゥンの子孫)カイ・コバドを見つける  個人蔵 Hollis 本のp145
f111v 111 VERSO  Rustam spits Qalun on his own spear  ロスタム、トゥラン戦士クルンに自分の槍を突き刺す Tehran Museum of Contemporary Art, Tehran, Iran Hollis  

 

 

■細密画解説(本や所蔵美術館の解説より適宜抜粋)
●110 VERSO  Rustam finds Kay Qubad  ルスタムは(ファリドゥンの子孫)ケイ・クバドを見つける 
 この鮮やかな彩色の細密画は、アカ・ミラクの作と推定される。アカ・ミラクは、10年ほど後に、1539-43年の大英博物館のカムセーに、同様のデザインと彩色の絵を制作している。この作品では、スルタン・ムハンマドによるこのプロジェクトのためのスケッチに匹敵する、やや単純化されたスタイルで描かれています。音楽家が演奏する中(左)、歓迎されるルスタム。虎皮の衣の肩には陽と陰のマークが描かれていますが、このモチーフは大英博物館のカムセ(ニザミ)にも描かれており、シャー・タフマスプの廷臣に扮したケイ・クバードの従者(上)が、野外で人生を楽しんでいる様子が描かれています。

〇Fujikaメモ:
清らかな水が流れ、草花が咲き乱れそこここに木陰がある場所で、気の合う若い男性だけで酒を飲み音楽を奏で語らって楽しく暮らす、というのは、イラン的に理想郷のようなものだと思われます(日本でもかな?)。
この絵はそんな理想郷の雰囲気がよく出ている気がします。(ほぼ全員がひげのない若者です)
(カイ・コバドは、晩年、この仲間たちと都に入ったときのことを懐かしみます。)

玉座に座っているのがカイ・コバドで、ロスタムは、そのそばに立つ人物。この絵で初めて、ロスタムのトレードマーク、白豹の頭の兜、茶色の虎皮の上着を身につけています(こういう、キャラ独特の衣装があるのはロスタムくらいです)。

カイ・コバドが名乗った後は、もっとひれ伏している気がするので、その直前、「カイ・コバドを探しているのですが」と言う場面かな、と思いますが、違うかな。
この場面でのロスタムは、本来はまだ初陣前の若い(ひげのない)状態だと思うのですが、この絵ではヒゲをもった成年に描かれています。(次の絵ではヒゲがなくなる)
描かれている食べものは、小姓が掲げているザクロ(コバドの左手側に座る貴人達の前にも)、そして画面右下で焼いている、鶏?の丸焼き、でしょうか。鶏丸焼きのそばでは、配膳係?が青花模様の磁気の皿とフタを持って控えています。
玉座の足許付近の地面、ザクロをかかげている青年の前方に、大きなお盆があって、白い三角形の山盛りのものが3つ?ありますが、これは何でしょうね。

f110v

●111 VERSO  Rustam spits Qalun on his own spear  ルスタム、イラン戦士クルンに自分の槍を突き刺す
〇Fujikaメモ:専門家による解説がないので、私が勝手に感想を書いてしまいます。 
前景には銀(いまは黒)の小川と密に生えた草花、その後ろは砂色の地面に、ぽつぽつと花。
これを背景に、白豹の兜、虎皮の鎧に身を包んだロスタムがクルンを槍に刺して持ち上げています。
(ここでのロスタムは童顔)
その後ろにはイラン、トゥランの両軍。
どちらがどちらかよく分かりません・・・。一応、右側のロスタムの後ろ(赤い旗)がイラン、左側のクルンの後ろ(黒い旗)がトゥランとしましたが、逆かも・・。

ところで、右側の軍勢の中に変わった風貌の人が。

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この絵の中央左。顔色が薄紫色1? 顔の形もゴツゴツして他のひととは違ってるし(妙にエラが張ってる?)、画像が悪いせいかもしれませんが目もよく分かりません。
この人だけ、ある民族の人をリアルに描いたのかもしれませんが、それにしても顔色が紫・・。

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シャーナーメ:10.ロスタムとその馬、ラクシュ

2023-04-02 | +シャー・ナーメあらすじ(挿絵付き)

シャーナーメの英雄、ロスタムがパートナーとなる馬ラクシュをみつけるお話です。
戦士とその馬、というのは、バットマンとバットモービル、関羽と赤兎馬、ラインハルトとグリュンヒルデ(銀英伝)、(乗り物じゃないけど)ルパン三世とワルサーP38、のように、一心同体の間柄のようです。
通常の馬の寿命はともかく、このラクシュは、英雄ロスタムの神話的に長い生涯をずっとともにします。
ロスタムが投げ縄でラクシュをつかまえるこの場面はとても有名なシーンで、いくつかの写本でも挿絵が描かれています。
ラクシュの模様、「サフランの地に薔薇を散らしたような」というのは、金茶に赤、のような色合いでしょうか。(花びら?葉? 葉っぱだったら、薔薇でなくてもいいような・・?それくらいの大きさということ?)
ラクシュの体格描写を見ると、騎馬民族(といっていいのかな)が何をもっていい馬としていたのかがうっすら分かるような気がします。日本でTVとかで目にできるのはサラブレッドくらいですが、闘うための馬はまた違う特徴があるのでしょうね。(農耕馬(?)のペルシュロンとか、蹄あたりがフサフサでが大きい馬はまた、かわいいんだよなあ)
ラクシュを手に入れて、試乗してみて心が昂ぶり、そして大事な大事な愛馬を守るために香草を焚いて守ろうとするところは、現代人が新しいバイクや車にを手に入れ、乗り回してワクワクしたり、ひまさえあれば眺めたり磨いたりするのに通じているかもしれません。

(来週はお出かけするため更新お休みです。ネタが集まるとよいのですが・・)

====================
10.ロスタムとその馬、ラクシュ
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■登場人物
ザール:ザボレスタン領主。生まれつきの白髪。ロスタムの父。Zal
ロスタム:ザールの息子。生まれたときから大きかった。Rustam / ルスタム 
ラクシュ:ロスタムの馬。Rakhsh

アフラシヤブ:敵方トゥランの指揮官。王子。

■概要
イランのシャー、ガルシャスプの没後、空位となったのを好機とみて、再びトゥランが侵攻しようとしていました。防衛戦の要となるザボレスタンの領主ザールは、高齢のために息子ロスタムに後を継がせようと考え、彼の考えを聞きます。
そしてまた彼に必要な馬を、ザボレスタン中から集めてきて探すことにします。
ロスタムはあまりに大きく力も強いので、通常の馬では不足ですが、ようやく、赤茶の色に斑模様のラクシュという飛び抜けて立派な子馬をみつけます。
そしてこの馬は、特別な神の加護により、ロスタムの今後の長い一生をずっと共にします。

■ものがたり

□□ザールの後継者ロスタム

ザールはロスタムに言いました。 
「お前はとても背が高くなり、糸杉のような体は、我々から頭一つ、抜きん出ている。しかしお前はまだ少年で、戦うには十分な年齢ではない。お前の心はまだ遊びと楽しみを求めており、唇にはまだ乳の匂いがする。獅子や強者との戦いにお前を送り込んでもいいものだろうか。どう思うかね。」
ロスタムはザールに答えました。 
「父上、覚えておいででしょうか、私が獰猛な象を倒し、またシパンド山でも蛮族を退治したことを。
今、アフラシヤブに怖じ気づくようでは、私は名声を失うでしょう。」

ザールは更に言いました。 
「勇敢な若者よ。白象とシパンド山のことは勿論素晴らしかった。しかしその戦いに簡単に勝ったので、私はむしろ恐れているのだ。アフラシヤブとその企みが私の眠りを奪っている。しかし彼のように勇猛な者と闘うためにお前を送ることができるだろうか。お前はまだ遊び盛りであり、今は宴を開き琴を鳴らし、酒を飲み、武勇伝を楽しむ時ではないだろうか。」

ロスタムは答えました。
「歓楽とワイン、饗宴と休息は、私には関係ありません。戦争や戦場での苦難も、神が私を助けてくれるなら、決して屈しません。今こそ戦うべき時であり、逃げるべき時ではありません。
ペルシャの地を守るトゥランに対抗するには、私にふさわしい、山のような大きさと重さを持つ馬が必要です。そして山のかけらのような巨大なメイスも。そのメイスで彼らの頭を砕くならば、誰も私に立ち向かう勇気がないでしょう。」

ザールは息子の言葉に感動し、天にものぼる心地でした。
そして父サームがマザンダランでの闘いで使った形見のメイスをロスタムに与えました。

 

□□ロスタム、ラクシュを選ぶ

ザールは自分の馬の群れをザヴォレスタン中から集め、またカボルからも集めました。
牧人は、それぞれの馬の烙印を呼ばわりながら、馬たちをロスタムの前に走らせました。
ロスタムは時折よさそうな馬を投げ縄でつかまえ、背を押さえてみましたが、どの馬も、ロスタムのあまりの強い力に、馬の腹が地面についてしまうのでした。

やがて、斑模様の馬の群れが通りかかり、その中に、足は短く俊足の灰色の雌馬がいました。獅子のような胸と鋭い短剣のような耳を持ち、肩が豊かで胴体が立派でした。
彼女の後ろには、彼女と同じくらい体高が高く、尻と胸も同じくらい広く、切れ長の黒い瞳、鹿毛の粕毛、漆黒の睾丸、鋼鉄のように固い蹄の子馬が来ました。 
その体型は美しく、斑模様はサフランの地に薔薇の花びらを散らしたようであり、目を見張るほどです。
彼は、夜、2里も先の黒い布の上の蟻の足を見分けることができる鋭い視力を持っていました。駱駝の体格で象のような強さを持ち、獅子のような気概を持っていました。

ロスタムは雌馬が通り過ぎるのを見届けると、象のようなこの子馬を見て、投げ縄を巻き、
「その子馬を群れから遠ざけよ」
と言いました。馬を運んできた老牧夫は、「閣下、他人の馬を奪ってはいけません」と止めました。
ロスタムは、その馬の尻に焼き印の跡がないことから、その馬の持ち主を尋ねました。
牧夫は言いました。 
「焼き印はないのです。でもこの馬にはたくさんの云われがあり、”ロスタムのラクシュ(雷)”と呼ばれているのです。3年前から鞍を付けて、多くの貴族が彼を選ぼうとしましたが、彼の母馬は騎手の投げ縄を見るたびに、獅子のように襲いかかったのです。」

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●ロスタムに説明する老牧夫 109r

 

ロスタムは王家の投げ縄を振りかざし、素早く馬の頭をその縄で捕らえました。

f109r
●ロスタム、ラクシュに投げ縄をかける 109r

 

母馬は怒れる獅子のように前に出てきて、まるで彼の頭を噛み切ろうとするかのようでした。しかし、ロスタムは野獣のように咆哮し、その声が雌馬の足を止めました。
そして、その肩の部分に一発の衝撃を与えて、彼女を地面に叩きつけました。
彼女はよろめき、またよじ登り、向きを変えて、他の群れに合流するために駆け出しました。
ロスタムは縄を締めて子馬を自分の方に引き寄せ、英雄の力を込めて子馬の背中を押してみましたが、背中はびくともせず、まるで子馬がロスタムの手に気づかないかのようでした。
ロスタムは自分に言い聞かせるように言いました。
「この馬が私の馬だ。これで仕事を始めることができる。鎧、兜、棍棒の重さと、私の巨体に耐えられるだろう。」
彼は風のように素早く馬に乗り、赤毛の馬は彼と共に疾走しました。

彼は牧夫に尋ねました。
「この暴れん坊の値段を知っている者はいるか。」
牧夫は答えました。 
「あなたがロスタムなら、この馬は閣下のものです。この馬の値段はイランの平原全てに値します。この背に乗ってイランを救って下さい。」
ロスタムは珊瑚の唇で微笑み、「神の行いに幸いあれ」と感謝しました。

彼はラクシュに鞍を乗せ、武具・武器も全てつけて試乗してみました。馬の強さと速さに彼の闘志も燃え上がり、目が眩むほどでした。
ロスタムは、この大切な馬のため、毎晩、魔除けのために野のヘンルーダを彼の周囲で燃やしました。
どこから見ても、ラクシュは魔法の生き物のように見え、戦いでは機敏で、口が柔らかく、泡が飛び散り、腰はたくましく大きく、利口で、歩調が整っていました。 

ラクシュとその立派な乗り手は、ザールの心を蘇らせ、春の喜びをもたらしました。
ザールは宝物庫の扉を開き、今日も明日も気にせず、金貨を配りました。

 

 

■シャー・タフマスプ本の細密画

サムネイル ページ番号 画のタイトル※ タイトル和訳 所蔵館と請求番号 画像リンク先 備考
f109r 109 RECTO  Rustam lassos Rakhsh  ロスタム、ラクシュを投げ縄で捕らえる  The Museum of Fine Arts, Houston, Texas, United States, LTS1995.2.47 flickr / 1


■他の写本の細密画

サムネイル ページ番号 画のタイトル タイトル和訳 所蔵館と請求番号 画像リンク先 備考
f025v 85 RECTO  Rustam catching Rakhsh ロスタム、ラクシュを捕まえる Add MS 18188 (Oriental Manuscripts, British Library) f85r Copied in 891/1486

(あとで追加・年代順に表にする予定)
・プリンストンシャーナーメRustam Chooses His Horse, Rakhsh, folio 54a from the Peck Shahnama, 1589-1590
・Persian MS 910(マンチェスター)ノウザル処刑シーンもあり
https://www.digitalcollections.manchester.ac.uk/view/MS-PERSIAN-00910/139
・ニューヨーク州立https://digitalcollections.nypl.org/items/5e66b3e8-b63f-d471-e040-e00a180654d7
・Diez A fol. 1(ベルリン州立図書館)(カタログ・挿絵リスト(リンク付き)
https://digital.staatsbibliothek-berlin.de/werkansicht/?PPN=PPN671782010&PHYSID=PHYS_0183

■細密画解説(本や所蔵美術館の解説より適宜抜粋)
●109 RECTO  Rustam lassos Rakhsh  ロスタム、ラクシュを投げ縄で捕らえる 
〇Fujikaメモ:専門家による解説がないので、私が勝手に感想を書いてしまいます。 
ロスタムが自分の馬を探して捕まえる、という短いシーンですが、この馬とは一生のパートナーになります。
この絵でのロスタムは、羽つきの冠(兜)で、頬はすべすべとして丸く若い雰囲気が出ています。
父ザールの結婚がマヌチフル時代。ノウザル即位直前または直後に生まれたとすると、治世がそれぞれ。ノウザル7年、ザヴ5年、ガルシャスプ9年なので、21歳プラスマイナス、くらい。
ん、唇に乳の匂いが、という程は若くないですね。(14~16歳くらいかと勝手に思ってました)


■参考情報
●馬の毛色について
bay roan horse (栗粕毛)の画像
bay:鹿毛。明るめ~ダークな栗色、尻尾やたてがみ、足先は黒くなる。
roan:粕毛。いわゆるこまかいブチ。
piebald:ホルスタイン牛のような大柄の黒白二色(茶白の場合はSkewbald。両方を総称してcoloured(米語だとまたちょっと違う))

馬の各部の名称

●ヘンルーダについて
The Wild Rue
by Bess Allen Donaldson(1938)
イランでの邪視よけとヘンルーダについての本
全文英語で閲覧可。(IMDB)
ヘンルーダは、古代ギリシアプリニウス以来、視力の回復と保持等に効果があるとされる苦い薬草。
シェイクスピアの戯曲にも出てきます。
(視力に関連しているのかどうか)イランでは邪視除けのためいろいろな場面でその種子を焚いたりする模様です。

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シャーナーメ:9.イランとトゥランの戦いの始まり(下)

2023-03-27 | +シャー・ナーメあらすじ(挿絵付き)

この後半は、場面があちこち移って、なかなか興味深い展開です。
この後は、ロスタムの馬探しとか、もうちょっとわかりやすい物語が出てきますので、
これに懲りずまた読んで下さい。

====================
9.イランとトゥランの戦いの始まり(下)
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■登場人物
《イラン側》
マヌチフル:イラン王ファリドゥンのひ孫、イラジの孫。兄達(サルムとトゥール)がイラジを殺した敵をとってイラン王位を継いだ。Manuchehr
ノウザル:マヌチフルの息子 Nozar / Nowzar/ Naudar
カレン:イラン軍最高司令官
トゥースとゴスタハム:武将。ノウザルの息子。Tus  Gostaham/Guzhdaham
ザール:サームの息子でザボレスタンの領主。イラン防衛の要。
ミフラーブ:ザボルの支配下のカボルの領主でザールの義父。一時的にザボルの城代。

《トゥラン側》
パシャン:トゥールの孫で、トゥランの将軍。Pashang。父はザドシャム/ ザダシュム/ Zadashm(トゥールの子)。兄弟に、ヴィセViseh がいる。
アフラシヤブ:パシャンの息子。ここでは長男とした。Afrasiab / Afrasyab
アグリラス:パシャンの息子。ここではアフラシヤブの弟とした。Agriras 。
ガルシワズ:パシャンの息子。ここではアフラシヤブの弟とした。Garshivaz / Garsivaz 。
ヴィセ:トゥランの武将。パシャンの弟。Viseh 
バルマン:トゥランの武将。ヴィセの息子。兄弟にピラン、ホウマンがいる。

■概要
ノウザル王を捉えたアフラシヤブとヴィセは、バルマンとカレンが戦ったことを知りました。その戦場に来て、大勢のトゥラン兵とバルマンの死を知ったヴィセはカレンに追いつき復讐戦をします。しかしカレン軍は強く、ヴィセ軍は多数の将兵を失い退却します。
一方で、ザボレスタンの都ザボルにもトゥランのシャマサスとカズバランが攻め入ろうとしていました。
ザボル城代ミフラーブの機転により時間稼ぎをし、ザールの軍はカズバランを斃し、シャマサスを退けます。
退却途中のシャマサスは、カレンの隊と出会い、ここでも戦って、這う這うの体で敗走します。

バルマンの死を知ったアフラシヤブは復讐のためノウザルを斬り捨てますが、ノウザルと同行して捕虜になった一行はアグリラスの助言により殺さず、幽閉することにしました。

ザールはノウザル王の復讐戦を企図しますが、捕虜はアフラシヤブの更なる報復を恐れ、寛容なイグリラスと手を結びザールにもその作戦を伝え、平穏裡にザールの軍に引き渡してもらうことに成功しました。
しかしこれを知ったアフラシヤブは激怒し、弟イグリラスを殺してしまいます。

ノウザルの後には高齢のザヴが王位につきました。
干ばつと飢饉で戦線は膠着し、トゥランとイランは講和を結び、トゥランはオクサス川の対岸に戻りました。

ザヴの治世の5年間、そして次の王ガルシャスプの治世の9年間は戦争はありませんでしたが、ガルシャスプの死後、トゥランが再び動きました。トゥラン王パシャンは王子アフラシヤブを再び送り込み、イラン王位奪取を試みます。
防衛の主力となるザボレスタンの領主ザールは、自分の老いのため、息子ロスタムに戦わせることを提案します。そのためにも相応の武具、そして馬を手配する必要があるのです・・・。

■地図
これまで見て見ぬふりができた地名ですが、今回ばかりはこの地名の羅列を何も分からず読むのはあまりにもつらいので、いくつかの資料を見つつ、ざっくりとした位置関係が分かるような模式図マップを作ってみました。
「アフラシヤブ×ノウザル」など対戦者名がある場合は、先に書いた方が北側、後に書いた方が南側のイメージです。(イラン側とトゥラン側、色分けした方がよかったかな?)

https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/52/b9/ba237d910198efb6d194cd1c67196ce2.jpg
※地名がでてきた場合、それが町・都市と思う(しかない)のですが、レイとパースは、もしかしたら「○○地方」「みちのく」「上方」のような意味かもしれません。(もやは理解には絶望的です)
※今回、アフラシヤブがレイで王冠を頂いたので王都レイ、としましたが、違うかも。
イラン王族の子女はパースにいたようで、レイが政治の中心地?で、パースは、別荘?何? 夏の都と冬の都、とかあるのかなあ。

■ものがたり

9□□息子の死を知ったヴィセとカレンの戦い□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

ヴィセは兵を率いて出発したところ、カレンと包囲軍の闘った場所に来ました。無数のトゥランの戦士が倒れており、息子バルマンもその中にいました。旗は破れ、太鼓は倒れ、胴衣はチューリップのように赤く、顔は血で朱に染まっていました。
[パースまでたどり着いていたカレンは]ヴィセの隊が自分達を追撃していることを知り、早馬をザヴォレスタンに送り、残りの兵と共にパースから平原に出て待ち受けました。砂塵の中から黒い旗が浮かび上がり、その先頭にいるのはトゥラン軍司令官ヴィセです。両軍は互いに前進し、兵の中央からヴィセが呼びかけました。
「イラン王はもはや我らの手にある。カヌジからザヴォレスタンの国境まで、そこからボストとカボルに至るすべての土地もわれらのものだ。どこに逃げていくのかね。」
カレンは答えました。
「私は恐怖や噂のために去ったのではない。私はそなたの息子と戦った。復讐を望むなら、そなたとも闘おう。」

喇叭が鳴り響き、騎馬の戦士たちが駆け寄って、舞い上がった塵で空は薄暗くなりました。戦士たちは激しくぶつかり合い、血しぶきが飛び散りました。最終的に、カレンの軍はヴィセの軍に勝ち、ヴィセは退却しました。多くの部下が殺されましたがカレンは彼を追いませんでした。ヴィセは息子の死を嘆きながら、アフラシヤブのもとへ帰っていきました。


10□□シャマサスとガズバラン、ザボレスタンに迫る□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

アフラシヤブがザボレスタン方面に派遣したアルメニア人の将軍はシャマサスといいました。彼はカズバランとともに3万の軍勢を率いてオクサス川を渡り、[ゴルグザラン、そしてニムルズを陥とし]いま剣とメイスを携えてザボレスタン国境のヒルマンド川まで進軍してきました。
この頃、ザールは喪に服して父の墓を建てており、ミフラーブは彼の代わりに政務を執っていました。
トゥラン軍の接近を知り、ミフラーブはシャマサスに使者を送り、メッセージと贈り物を託しました。

「トゥラン軍の司令官に栄光あれ。
私はアラブ王ザハクの子孫であり、ザールの支配に大きな愛情はありません。私が彼の一族と手を組んだのは、自分の命を守るため、仕方がなかったからです。今、この城とザヴォレスタンはすべて私の手の中にあります。ザールは父を悼んでいるが、私の心は彼の悲しみで元気づけられます。
どうかアフラシヤブ公に早馬の使者を送るために時間をください。同盟したいという私の希望を知れば、手間を省けましょう。私は王にふさわしい贈り物を何でも送ります。拝謁を命じられれば、私は彼の玉座の前に立ち、主権も富もトゥラン王に譲り、彼の戦士たちを煩わせることはないでしょう。」

こうしてミフラーブは、トゥランの戦士たちの心をつかむと同時に、時を稼いで彼らの脅威から逃れる道を探りました。
彼はザールに使者を遣わし、こう言いました。
「鳥のように素早く飛んで行って、ザールに急いで戻るよう伝えよ。豹のような2人の戦士がトゥランからここにやってきて、我々に戦争を仕掛けてきたと。
彼らの軍隊はヒルマンド川のほとりに陣取り、今のところ私が贈った金貨が彼らの足を絡め、進行を妨げている。しかし、もしあなたの対応が遅れれば敵は彼らの望むことを実現するだろう。」


11□□ザール、ザボルに戻り闘う□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

使者からの知らせにザールの心は火のように燃え上がりました。彼は軍を率いてミフラーブのもとに向かい、言いました。
「あなたは賢く行動した。私はあなたがしたことすべてに拍手を送る。
 さて、夜の闇の中で、私は彼らに私の能力を見せに行こう。私が戻ってきたことを彼らはすぐに知るだろう。」

ザールは弓を肩にかけ、その矢の一本一本は木の枝のように重厚でした。彼は敵の陣地を見定めると3つの場所に矢を放ちました。夜が明けると、兵士たちは矢を囲んで大騒ぎしています。この矢はザールのものに違いない、彼以外の猛者はこんな矢を弓で射ることはできない、と。

シャマサスは言いました。
「カズバランよ、もしあんたがそんなに富を求めなければ、今頃ミフラーブは残っておらず、軍隊もなく、略奪する財宝もなく、こうやってあんたを怖がらせるザールもなかっただろうよ。」
カズバランは平静を装って答えました。
「彼は一人の男で、アーリマンでもなければ、鉄でできているわけでもない。心配する必要はない。」

輝く太陽が空に昇り始めると、平原に太鼓の音が鳴り響き、街の中でも太鼓や喇叭、シンバルやインディアンチャイムが鳴り響くようになりました。
ザールは大勢の兵と象を引き連れて平野に現れ、遠くから見ると舞い上がる砂埃で平野に黒い山が生まれたように見えました。

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●対峙するトゥラン軍とイラン軍 f104r


メイスと盾で武装したカズバランがザールに襲いかかり、メイスをザールの胸に振り下ろしました。胸当てが砕け散り、カボルの戦士たちに守られてザールは一旦引き返しました。彼は新しい鎧を身につけ、獅子のように戦いに戻りました。
彼の手には父のメイスがあり、彼の頭は怒りで満たされ、心臓には血が滾っていました。彼は牛頭の棍棒をカズバランの頭に振り下ろすと、地面は飛び散った血しぶきで豹の皮のようになりました。

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●ザールがカズバランに牛頭槌を振り下ろす f104r

ザールはカズバランを投げ飛ばし、無残な姿で放置すると、両軍の間にある平原に向かいました。
彼はシャマサスを呼びました。
「出てきて戦え、臆病者!」
しかし、シャマサスはザールのメイスを見ると、兵の中に身を隠しました。ザールは戦塵の中、弓に矢をつがえて別の戦士、鎧をまとったゴルバドに迫りました。矢はゴルバドの腰と鎧を貫いて、ゴルバドを鞍に釘付けにしてしまいました。
シャマサスは色を失いました。
トゥランの軍勢が無秩序に敗走するのをザールとミフラーブが猛追し、あたりには多くの兵士が倒れて足の踏み場もないほどでした。


[ニムルズに]退却しようとするシャマサスの一行が砂漠にたどり着いたとき、カヴェの息子カレンが遠くに現れました。彼はヴィセの軍隊と闘ったあと、ザヴォレスタンに向かっているところでした。

カレンは、相手が誰なのか、なぜザヴォレスタンに来たのかを知っていました「ヴィセと闘う直前に送った早馬からザヴォレスタンの状況を知ったのです]。
彼は喇叭を鳴らし、両軍は戦闘を開始しました。シャマサスの兵士の多くが負傷し、他の兵士は捕虜となりました。シャマサスは数人の兵を連れ、戦いの埃の中から逃げ出しました。


12□□アフラシヤブによるノウザル処刑とイラン王位の簒奪、捕虜とイグリラスの交渉□□□□□□□□□□□□

アフラシヤブは辿り着いたヴィセから将兵たちの死を知り、怒り狂って立ち上がり、言いました。
「ノウザルはどこだ? ヴィセの軍の仇を討ってくれよう。」
ノウザルはこれを聞いて、自分の命運が尽きたことを知りました。

兵士の一団が噂をしながら彼を探しに来て、両腕を縛ったままアフラシヤブの前に引きずっていきました。ノウザルが近づいてくるのを見ると、アフラシヤブは失った将兵達、そして先祖トゥールの悲憤を思い、言いました。
「自業自得だろうな。」
そして剣を抜き、ノウザル王の首を一撃で切り落とし、その亡骸を地面に投げ捨てました。
このようにしてわずか7年の治世ののちマヌチフルの後継者は死に、イランの王位は空白となったのです。

次にノウザルと共に捕らえられた捕虜たちが連れてこられました。彼らは必死で命乞いをしました。アグリラスは、彼らを弁護してアフラシヤブに提案しました。
「丸腰の捕虜をこれほど多く殺すのは、高貴な行為ではなく、卑しい行為です。私が彼らを鎖につないで洞窟に閉じ込めておきましょう。そこで惨めに死ぬことになるでしょうが、無駄に血を流すことはありません。」

アフラシヤブは弟の求めに応じて捕虜を引き渡し、彼らは泣き叫びながらサリに連行されました。

□□アフラシヤブのイラン支配

アフラシヤブは、デヘスタンからイランの王都レイまで全速力で馬を駆りました。そしてそこでカヤン王国の王冠を頭に載せました。
そして宮廷を開き、イランの宝物庫を開け、自分の手下に金貨を配りました。

f105r
●イラン王を僭称するアフラシヤブ   f105r

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●金を分配するアフラシヤブの手下たち   f105r

[女子供を連れてアルボルツ山脈を越えていた]ゴスタハムとトゥースは、ノウザル王が処刑されたという知らせを受けました。戦士たち、女たちもみな嘆き悲しみました。彼らはザヴォレスタンに向かい、王のことを語り、悼みました。
彼らはザールの宮廷で言いました。
「イランの守護者、国家の支柱、世界の王よ!
我々は剣に毒をつけ、その不当な死を復讐する。ザボレスタンもともに嘆き闘ってください。」
ザールの宮廷の皆、一緒に泣きました。
ザールは言いました。
「審判の日まで、私の剣はその鞘を見ることはない。馬は私の王座であり、足は鐙以外のどこにもなく、冠は私の兜である。私は復讐を果たすまで休むことはなく、川の水は私の流す涙より少ないだろう。」

サリにいるイラン人の捕虜に、ザールとその仲間たちが反撃の準備をしているという知らせが入りました。彼らはこの知らせに動揺し、不安で食事も睡眠もとれませんでした。彼らはアフラシヤブの報復を恐れ、アグリラスにメッセージを送りました。
「公正で善良なる閣下、私たちはあなたの言葉によってのみ生きています。あなたはザヴォレスタンにザールが君臨し、カボルの王ミフラーブ、カレン、バルジン、ケルダド、キシュワドといった戦士たちとともにそこにいることを知っています。彼らはイランの防衛のために躊躇なく力を発揮する偉大な英雄であり、戦場に乗り込むと、長槍の突きで人の目を突き刺すことができます。
もし彼らが反撃してくれば、アフラシヤブはそれに激怒して怒りを我々捕虜に向けるでしょう。もしアグリラス閣下が私たちを解放して下さるならば、私たちは永遠に閣下を称賛し、神の加護を祈ります」。

賢明なアグリラスは応えました。
「それはできません。そのようなことをすれば、兄アフラシヤブに対する私の敵意が明白なものとなり、彼は激怒することでしょう。しかし、私は別の方法で、兄を刺激しないように、あなた方を助けようと思います。
もしザールの軍が攻めてきたら、サリに近づいたところで、あなた方をザールに引き渡し、戦わずにアモルから撤退することにします。私が面目を失いましょう。」

イランの貴族たちはひれ伏して彼に感謝の気持ちを伝えると、サリからザールへの伝言を伝える使者を派遣しました。そのメッセージにはこう書かれていた。
「神は我々に慈悲深く、賢明なアグリラスは我々の同盟者となった。彼は、イランからザールの代理として2人の男が来た場合、戦わず、アモル周辺から撤退し、彼の軍をレイに向かわせると誓っている。もしそうしなければ、あの竜アフラシヤブの爪から逃れる者は一人もいない。」

このメッセージを聞いてザールは言った。
「さあ、我が戦士の豹たちよ、戦で心が黒くなった君たちの中で、この任務を引き受け、太陽に向かって頭を上げるのは誰だ?」
ケシュバドは胸に手を当て志願しました。ザールは彼に祝福を与えて送り出しました。

ザヴォレスタンからアモルに向かって軍隊が出発し、その知らせがアグリラスに届きました。アグリラスは、喇叭を吹かせて全軍をレイに向かわせ、すべての捕虜たちをサリに残していきました。ケシュバドはサリに着くと捕虜たちを解放し、それぞれに馬を与え、一行はザボルへの帰路につきました。ザールは彼らを歓待して都に招き入れ、ノウザルに仕えていたときのように身分を保障しました。 

13□□アグリラス、兄に殺される。ザールの決起□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
 
アグリラスがアモルから王都レイに到着したとき、アフラシヤブは彼のしたことを知り、激しく叱責しました。
「殺せと言ったはずだ、慎重さや高邁な考えで行動している場合ではないと。知恵など戦士が戦いで栄光を得るためのものではない。」
アグリラスは静かに答えました。
「少々の恥や名誉の精神は場違いなものではないでしょう。勝っているときこそ神を恐れ、無闇に危害を加えないことです。王冠と王帯はあなたのような人をたくさん見てきましたが、長くは続かないものです。」
激昂したアフラシヤブは答えのために剣を抜き、そして弟を腰への一撃で二つに切り裂きました。

ザールはアグリラスに起こったことを聞いて言いました。
「アフラシヤブの幸運は翳り、王座は荒れ果てた。」
彼は漆黒のラッパを吹き鳴らし、太鼓を戦象に括り付け、雄鶏の目のように色とりどりに輝く大軍を率い、怒りに燃えてパース[を経由してレイ]に向かいました。
アフラシヤブはザールが軍を動員したことを知ると、王都レイの防衛に備えました。
両軍の前線部隊は昼夜を問わず戦い、砂塵にまみれて全てが同じ色に変わりました。多くの戦士や首領が両軍で殺されました。
このようにして2週間が過ぎ、馬も戦士も闘いに疲れ果ててしまいました。

ある夜、ザールは指揮官たちと話し合って言いました。
「我ら戦士は十分な勇気と幸運を持っているが、古の伝承に精通している王族のシャーが必要だ。
軍隊は船のようなもので、玉座に座る王は風であり、船の操縦者でもある。
ゴスタハムもトゥスも立派な戦士だが、どちらも王冠と王座にはふさわしくない。幸運に恵まれ、神から王威(ファール)を授かり、知恵のある王が必要だ」。

彼らはファリドゥンの子孫の中から、王位にふさわしい人物を探しました。それはファリドゥンの血筋、タフマスプの子ザヴでした。カレンは、神官や諸侯とともに、王位継承の吉報を彼に伝え、ザヴはそれを受け入れました。


14□□タフマスプの子ザヴの治世□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
 
ザヴは吉日に即位し、ザールは彼に忠誠を誓いました。ザヴは80歳の老人でしたが、その治世の間に、彼は正義と善意で世界を若返らせました。
軍隊が犯罪を犯すのを止め、軍が勝手に人を逮捕して殺すのを防ぎ、心の中で神と交信しました。
その頃、日照りが続き、地面は乾燥し、植物は枯れ、世界は飢饉に苦しんでパンは金に等しい価値がありました。両軍は8ヶ月間対峙していましたが、飢饉のために戦力が低下しており戦うことはありませんでした。将兵たちは「この災いが天から降ってきたのは、私たちのせいだ」と言い合いました。両軍から飢えの叫びが聞こえ、アフラシヤブからザヴに講和の使者が遣わされました。
「この儚い世界での我々の運命は、苦痛と悲しみだけである。国土を分割し、互いに神の加護を呼び起こそう。将兵たちは戦争で疲弊している。この飢饉は、和平を結ぶのを遅らせてはいけないという意味だ。」

彼らは、心の中で互いに憎しみを抱かないこと、先例に従って正当に土地を分割すること、過去に遡って互いに恨みを抱かないことを誓い合いました。オクサス川を越えて中国とホータンまではアフラシヤブのものであり、ザヴとザールはトゥラン人の天幕が張られている国境を越えず、トゥラン人はイランに進出することはない、と。

ザヴは老いていましたが、彼の統治で世界は一新され、彼は軍を率いて[戦場であったレイから]パースに向かい、ザールはザヴォレスタンに戻りました。
ほどなくして山々の頂は雷鳴に包まれ、小川は水の流れで満たされ、世界は再びの色と香りを取り戻しました。もし男たちが虎のような性質を持たなければ、大地は若い花嫁のように美しく、彼らに手ひどい仕打ちをすることもないのです。
ザヴは貴族たちを集めて神に感謝しました。各地で祝祭が催され、人々は怒りや恨みの心をすべて空にしました。そして、5年の歳月が流れました。ザヴが86歳になったとき、その太陽のような顔は翳り、高潔な男は死に、イランの幸運は失われました。
 

15□□シャー・ガルシャスプの死をトゥランが知る□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
 
ザヴにはガルシャスプという息子がいて、王位を継ぎました。彼は威厳と優雅さをもって支配しました。
ザヴが世を去ったという知らせがトゥランに届いたとき、アフラシヤブは好機再来とみて出兵を考えました。しかしトゥラン王パシャンからの沙汰はありませんでした。
パシャンは、アフラシヤブの撤退以来、政をおろそかにし剣を錆びつかせて、イグリラスの死を悲しんでいたのです。アフラシヤブは月々に使者を派遣しましたが、何ヶ月も何年も、パシャンはそれを拒絶しました。一度だけ出した返答はこのようなものでした。
「どんな王子が王位に就いても、イグリラスのような思慮深い腹心がいれば、彼に利益をもたらしたはずだ。私はお前を敵との戦いに送り出したのに、お前は弟を殺し、鳥に育てられたあの野蛮人から逃げ出した。二度と会うことはない。」

こうして、しばらくの間、月日は流れました。
9年の治世の後、ザブの子ガルシャスプが世を去ったとき、「王の座は空位である」という知らせがすべての耳に届きました。
そしてパシャンが投げた石がアフラシヤブに届けられました。
「オクサス川を越えよ。王座が満たされないうちに。」

オクサス川とシパンジャブ平原の間で、アフラシヤブは軍備を整え、壮麗な軍勢は戦場へ向かいました。
アフラシヤブが王位を主張したという知らせがイランに届くと、人々はザールに向かい、厳しい口調で話しかけました。
「あなたの統治はずいぶんと手ぬるかったのではないでしょうか。サーム殿が亡くなりあなたがザボレスタンの王者になってから、私たちは一日も幸福な日を知らない。
軍隊がオクサス川を渡り、私たちに迫っています。この危機を解決する方法があるのなら、それを実行に移してください。トゥランの指導者はすぐにやってくるでしょう。」

ザールは貴族たちに言いました。
「初めて剣帯を締めて以来、私は日夜戦ってきた。誰も私の剣やメイスを振るうことができないほど、比類ない騎士であった。たったひとつを除き恐れるものは何もなかったが、とうとう、それ―老い―により背中が曲がり、かつてのようにカボルの短剣を振り回すことができなくなってしまった。
今、ロスタムは背の高い糸杉のように成長し、栄誉ある騎士章を授かるにふさわしい。彼には軍馬が必要なのだが、アラブ馬よりも遥かに大きな馬を探さなければならない。私はあらゆるところに問い合わせてみるつもりだ。ロスタムに私の計画に同意するかどうか尋ね、彼がトゥールの一族と戦うために生まれてきたことを思い出させる。彼がその任務に耐えられるかどうか、見てみよう。」

イランのすべての都市は彼の言葉を聞いて喜び、ザールは四方八方に使者を送り出し、ロスタムのために鎧を作らせました。

 

■シャー・タフマスプ本の細密画

サムネイル ページ番号 画のタイトル※ タイトル和訳 所蔵館と請求番号 画像リンク先 備考
f102v 104 RECTO  Zal slays Khazarvan  ザールがカズヴァランを斃す MET, 1970.301.15 MET  
f105v 105 RECTO  Afrasiyab on the Iranian throne  アフラシヤブ、イラン王位につく  MET, 1970.301.16 MET 本のp140

 

■細密画解説(本や所蔵美術館の解説より適宜抜粋)
●104 RECTO  Zal slays Khazarvan  ザールがカズヴァランを斃す
〇Fujikaメモ:
ザールとカズヴァランの対戦が中心にあって、わかりやすい構図です。
ザールが、心なしか若いような。この14年後に引退を考えるので、もうちょっと顎髭のある壮年に描いてもいいような。
カズヴァランの着ている濃いグレーの服は、もとは銀色の鎖帷子ではないかと思います。
双方、馬もフルの防具をつけています。

●105 RECTO  Afrasiyab on the Iranian throne  アフラシヤブ、イラン王位につく 
この細密画は、このプロジェクトでは手数の少ない画家E、バシュダン・カーラBashdan Qaraによるもので、この画家の古風で硬い作風の典型的なものです。確かに彼は熱心で熟練した職人であり、その装飾は素晴らしい。しかし、その人物描写には、例えばスルタン・ムハンマドの作品に見られるような活力がない。画家Eの顔は全体的に似ていて、目も焦点が定まっていないように見えることが多い。

〇Fujikaメモ:
アフラシヤブの金色の玉座は、ちょっと装飾が少なめでさっぱりしています。
その分、天蓋の内側のアラベスクとフェニックスの模様が繊細で豪華。天蓋の垂れ布は大柄なのですね。



コメント
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シャーナーメ:9.イランとトゥランの戦いの始まり(上)

2023-03-26 | +シャー・ナーメあらすじ(挿絵付き)

因縁の間柄、イランとトゥランの間にとうとう戦争が起こります。
結構複雑で込み入った状況で、(戦記物が得意ではない私でも)読みながらなるほど~、とは思いました。
でも、挿絵が少ないのよね・・・。面白いかというと・・・。
せめて分かり易さだけでもと、地図を描いてみました。
(この地図がまた曲者で・・・)
上・下に2編わたる長さですが、読んでくれる人いるかなあ。
この章は、何週間もネチネチと直し続けて(なるべくテンポよく読めるように刈り込んだりとか)本当に時間がかかりました。これ以上いじくり回していても仕方がないので、ひとまずアップして次にいきたいと重います。
ほかの写本の挿絵とかがみつかれば足したいです。
(イグリラスは結構印象的なキャラだと思うのだけど絵がないのよね・・・)

====================
9.イランとトゥランの戦いの始まり(上)
====================

■登場人物
《イラン側》
マヌチフル:イラン王ファリドゥンのひ孫、イライの孫。兄達(サルムとトゥール)がイライを殺した敵をとってイラン王位を継いだ。Manuchehr
ノウザル:マヌチフルの息子 Nozar / Nowzar/ Naudar
サーム:マヌチフルに忠誠を誓ったシスタンの前王であり、息子(ザール)に国を譲り辺境のゴルグザランを統治。
カレン:イラン軍最高司令官
クバド:武将。カレンの兄弟。ここでは兄とした。
トゥースとゴスタハム:武将。ノウザルの息子。Tus  Gostaham/Guzhdaham
ガルシャスプ:武将。王族。

《トゥラン側》
パシャン:トゥールの孫で、トゥランの将軍。Pashang。父はザドシャム/ ザダシュム/ Zadashm(トゥールの子)。兄弟に、ヴィセViseh がいる。
アフラシヤブ:パシャンの息子。ここでは長男とした。Afrasiab / Afrasyab
アグリラス:パシャンの息子。ここではアフラシヤブの弟とした。Agriras 。
ガルシワズ:パシャンの息子。ここではアフラシヤブの弟とした。Garshivaz / Garsivaz 。
ヴィセ:トゥランの武将。パシャンの弟。Viseh 
バルマン:トゥランの武将。ヴィセの息子。兄弟にピラン、ホウマンがいる。

■概要
かつてイラジの仇トゥールを討ったマヌチフル王が亡くなります。
後継者はノウザル。このノウザルの未熟な統治を好機とみて、トゥールの恨みを晴らすべく、トゥラン軍が侵攻してきます。
トゥラン軍の最高司令官は勇猛かつ冷酷な王子アフラシヤブ。
3度の会戦で、イラン軍は窮地に立たされ、デヘスタン城塞に籠城することになります。
ノウザルは覚悟を決め、せめてイラン王統の血筋を守ろうと別の場所(パース)にいる王族の子女を救うため二人の戦士を遣わしますが、最高司令官を含むほかの武将も女子供を守るためノウザル王には告げずそちらに向かってしまいます。
これを知ったノウザル王は動顛して、将兵らと共に彼らを追ってデヘスタンを脱出しますがアフラシヤブに捉えられてしまいます。

■地図
今回、戦がメインの物語で、戦場が複数箇所あったりすることもあって、結構沢山地名が出てきます。
これまでは見て見ぬふりができた地名ですが、今回ばかりはこの地名の羅列を何も分からず読むのはあまりにもつらい・・。
いくつかの資料を見つつ、ざっくりとした位置関係が分かるようなマップを作ってみました。実際の地名とは対応できないし距離感もちぐはぐのため、架空の地図と思って下さい。
「アフラシヤブ×ノウザル」など対戦者名がある場合は、先に書いた方が北側、後に書いた方が南側のイメージです。

https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/52/b9/ba237d910198efb6d194cd1c67196ce2.jpg
※イラン王族の女子供を連れて超えたというアルボルツ山脈の位置がどうにも合わないです。パースに彼女たちがいて、それを連れて逃げるので、比較的近く、敵からは遠ざかる方向のはず、ということでパースの南西に山脈を置きました。でも現実のアルボルツ山脈は、カスピ海南岸沿い・・・・。でもパースからまた北を目指すのは違う気がする・・・。

■ものがたり

□□1マヌチフルの最期の日々□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

120年の治世の後、占星術師たちはマヌチフルのもとにやってきて、空のしるしを告げました。王の日々はもう続かない、という苦い知らせです。
「彼岸に発つときが参りました。旅立ちの前に必要なことをなさって下さい。」
占星術師の言葉を聞いたマヌチフルは、宮中の堅苦しい慣例を変え、神官や賢者に心の裡を打ち明けました。そして息子ノウザルを呼んで最後の話をしました。

マヌチフル王は言いました。
「この王座は幻影であり、永遠に心を縛るようなものではないと知りなさい。私がかつて満月の頬だった頃、ファリドゥンの栄光が私を奮い立たせ、サルム、トゥールと戦い、祖父イラジの死に対する復讐を果たした。即位してのち百二十年もの間、危険や困難と闘い、地上から不幸を取り除き、都市と要塞を築いた。
しかし、今、私は何事もなしえなかった気持ちであり、審判の日が過ぎて闇の中にいる。生とは葉も果実も毒の木のようであり、今の私は痛みと悲しみに耐えるばかりである。
今、王位と王冠をお前に授ける。曽祖父フェリドゥンが私に与えたように。
お前が世界を経験し、それが過ぎ去ったとき、お前はより良い場所に戻ることになるが、お前の残す痕跡は長い年月続くことを知りなさい。決して神の道から外れないように。
私が去った後、汝の前には困難が立ちはだかるだろう。トゥールの孫のパシャンとトゥランの軍勢は汝の悩みの種となるだろう。問題が起こったときは、わが息子よ、ザールやサーム、そしてザールの根から芽生えた新しい木(ロスタム)に助けを求めるがよい。」

ノウザルはそばについて永訣を嘆き悲しみました。
そしてシャーは、病からも痛みからも解き放たれ、最後の冷たいため息をついて目を閉じ、息を引き取ったのです。

□□2ノウザル王の治世□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

父の喪が明けると、ノウザルはマヌチフルの玉座に座り、民を呼び寄せ、富を分配しました。しかし、彼の心が不正に傾くのにそれほど長い日数はかかりませんでした。
世間は、この新しい王が富と金にのみ心を奪われ、神官や助言者に残酷な仕打ちをし、すべての人を蔑ろにしていることに嫌気がさし、各所で不平不満が噴出しました。
農民の反乱が起こり、王位継承を主張する者たちが現れ、抗議の声が広がって世の中が混乱すると、この不義の王は恐れて、ゴルグザラン遠征中のサームに使者を送り、お世辞を並べて助けを求めました。 

この手紙がサームに届くと、彼は冷たい溜息をつきました。それでもサームはゴルグザランの国から、緑の海を凌駕するほどの大軍を率いてきました。サームが都に近づくと、貴族たちが彼を出迎え、サームにノウザルの不義を長々と語りました。

「彼の圧政によって世界は破滅しました。彼は知恵の道に従わず、王威(ファール。王たるものに備わる威光)も失せました。
お願いでございます、閣下。英雄サームが王座に就けば何の問題もなくなります。イランとその国民は閣下を支持し、我々は皆、閣下の意志に従います。」

しかし、サームは彼らに答えました。
「神はお認めになるだろうか? 王家の血筋を引くノウザルが王座にいるのに、私が王冠をかぶるなどということはあり得ない。
ノウザルの専横は長く続いてはいない。鉄はまだ、その輝きを取り戻せないほど錆びついてはいない。私は彼の神々しいファールを復元し、世界を再び彼の愛に目を向けさせよう。
このような考えを捨て、王への忠誠を再確認せよ。神の慈悲と王の愛を得なければ、ノウザルの怒りが世界を炎に包んでしまう。」
貴族たちは自分の言ったことを悔い、ノウザルに再び従うことにしました。

そしてサームは国王の前に着くと、地面に口づけして挨拶をしました。
シャーは王座から降りて勇者サームを抱き、王座に座らせ、挨拶と限りない賛辞を送りました。

f96v
●ノウザル王、サームを歓迎する 96v 

サームは道を踏み外した君主に理非を説き、族長たちの心を彼に向けさせ、秩序と平和な統治が戻りました。各州からは、怒れる戦士サームを恐れて、税や貢ぎ物がやってきました。
ノウザルは栄光に満ちて王座に座り、そして心乱されることなく眠れるようになりました。
そしてサームはノウザルからさまざまな褒美を授けられ、ゴルグザランに戻りました。


□□3トゥラン王パシャンがマヌチフルの死を知り出兵する□□□□□□□□□□□

しかし運命は転回しつつありました。
マヌチフルの死の知らせはトゥランに届き、ノウザルの乱れた治世が噂されました。
これを聞いたトゥランの王パシャンは、イランへの侵攻を決意しました。彼は、祖父トゥールがマヌチフルに討たれたこと、そして父ザドシャムの不遇について恨みを募らせていたのです。

彼は、弟のヴィセ、息子のアフラシヤブとイグリラス、ガルシワズ、そしてアクヴァスト、バルマン、ゴールドバッドといった国の司令官や貴族、戦士を招集しました。
パシャンは戦士たちに向かって言いました。
「イランに対する復讐心を衣の下に隠してはならない。彼らのかつての行いについて、心が騒がない者はいない。今こそ、復讐、反抗、そして容赦ない戦争の時だ!」

父のお気に入りの勇猛なアフラシヤブは奮い立ち、叫びました。
「私はノウザルを必ずや斃す!
もし先王ザドシャムが戦いの剣を抜いていたら、世界はイランの君主に支配されることはなかっただろう。しかし、孫である私がいま、復讐を行うのだ。混乱の時こそ好機である!」

獅子の肩と象の力、どこまでも続く影、鋭い舌鋒、泡立つ海のような心を持つアフラシヤブを見て、パシャンの戦意は燃え上がりました。
彼は息子に、剣を抜いてイランに対抗する軍を率いるよう命じました。彼は、アフラシヤブは立派な指揮官であり、自分の死後、王国を継承して父の名声を守り続けてくれると考えたのです。
アフラシヤブは復讐に燃え、出陣して国庫を開き、戦士たちに豊富な装備を与えました。

戦いの準備が整う頃、アフラシヤブの弟アグリラスが懸念を抱いて父のもとにやって来ました。
「父上、偉大なトゥラン人の王よ。あなたはトゥールとサルムが、マヌチフルやその軍勢にどんな目にあわされたかをおっしゃいました。
しかし、先王のザドシャムは、その兜が月に触れるほどの名君でありましたが、そのような戦争について一言も語らず、平和の時に復讐の書物を読んだことはありませんでした。
このような狂気は国を混乱させます。私たちは自制した方がよいのではないでしょうか。」

パシャンは言いました。
「あの獰猛なクロコダイル、アフラシヤブを見よ。狩りの日のライオンのようであり、戦いの時の象のようではないか。それに比べ、祖父の恥辱を晴らそうとしない孫は、その血統にふさわしくない。お前もすぐに出発して、大小の問題でアフラシヤブを助けてやれ。
雨が荒野を濡らし、山の斜面や砂漠が馬のための良い牧草地に変わり、植物が英雄の高さまで成長し、世界が春の植物で緑色に変わるとき、それは平野に陣を敷く時だ。
そして軍を率いてオクサス川に向い、デヘスタンとゴルグザランを騎馬隊の蹄で踏み潰し、その川の水を血で赤く染めるのだ。そこはマヌチフルが我が祖父トゥールに復讐するために旅立った場所なのだ。
イラン軍の拠り所はマヌチフルであり、彼亡き今、イラン軍は一つまみの塵にも値しない。若くて未熟なノウザルは恐るるに足りぬ。カレンやガルシャスプは手ごわい敵となろうが。
お前たちの勝利で父祖の魂を喜ばせ、敵の心を屈辱の炎で燃やしてくれ。」

アグリラスはうつむいて答えました。
「彼らの川を復讐の血で染めましょう。」

□□ 4アフラシヤブのイラン侵攻□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

春の新緑が平原に絹のような表情を見せる頃、トゥラン軍は戦いの準備を整えました。トゥランとチンから軍隊が集まり、西方からはメイスで武装した戦士が加わりました。あまりの大軍に中央も端もありません。

トゥラン軍がオクサス川に接近しているという知らせが届き、イラン軍はカレンの指揮の下、デヘスタンを目指して出発し、ノウザルが後方を追いました。
世間は戦の噂でもちきりで、軍勢がデヘスタンに近づくと、太陽は彼らの塵で見えなくなってしまいました。一行はしばしの滞在の後、デヘスタンを出て、郊外の平原に陣を構えました。

アフラシヤブはアルマンで部隊を分け、シャマサスとカズバランという二人の武将を選び、三万騎の軍勢を与えて[ゴルグザランと]ザヴォレスタン方面を侵攻させました。
使者が来て、[ゴルグザランでの]戦闘の最中サームが死に、ザールが墓を建てていると伝え、アフラシヤブは大いに喜びました。

アフラシヤブはオクサス川を渡って進軍し、デヘスタンの町から2里ほどのところに陣を構えました。その軍勢は40万、山そのものが彼らの存在で沸き立つようで、砂漠はすべて戦士で埋め尽くされていました。

ノウザル王は14万人の軍勢を擁し、騎乗して戦いに備えていました。アフラシヤブは敵軍を見渡し、日暮れ時に使者を遣わしてパシャンに書簡を送りました。
「もはや勝利は我々の手の届くところにあります。ノウザルの戦力をみると、彼らは我々にとって容易い獲物です。
何よりサームはもはや王のために戦うことはできません。息子のザールは父を弔い墓を作るのに忙しく、我々に対抗する力はありません。将軍シャマサスはすでにザヴォレスタンの北、ニムルズを陥落させました。この好機を逃さず攻撃を続けます。」
使者は翼が生えたようにトゥランの王に向かって疾走しました。


□□5バルマンと老クバドの一騎打ち、そして一回目の両軍の会戦□□□□□□□□□

夜明けが山の端に見えた頃、両軍は総ての装備を固め、2里離れたところに位置していました。 偵察に出たトゥラン軍のバルマンは司令官のところに戻り、報告したのちに申し立てました。
「いつまで待機しているのでしょうか。もしお許しを頂ければ、私は彼らの一人に一騎打ちを挑みます。」

慎重なアグリラスは兄に進言しました。
「バルマンが敗れれば、我が前線軍は意気消沈してしまいます。我々は、無名の戦士を選ばなければならない。そうすれば結果に歯噛みすることもないでしょう。」 
これを聞いたアフラシヤブの顔は恥辱で紅潮し、憤激してバルマンに命じました。
「鎧をつけ、弓を張れ!歯の出番などない!」

バルマンは戦場に戻るとカレンに向かって叫んだ。
「ノウザル軍の戦士よ、誰か、私と一騎打ちをしようではないか!」

カレンは部下を見回し募りましたが、名乗りを挙げたのは古参の戦士コバド―カレンの兄 ― だけでした。
カレンはコバドの行動に動揺し、軍勢に向かって怒鳴りました。
「若い戦士の大軍がいて、老人に戦わせるのか!」

そして皆の前でコバドに向かって言いました。
「バルマンは若く屈強な戦士です。兄上はこの軍の重要な指導者であり、王の助言者でもある。もしあなたの白い髭が血で赤く染まるようなことがあれば、我が戦士はみな動揺し絶望してしまいます。」
コバドは兄に答えました。
「運命は私にもう十分なものを与えてくれた。弟よ、私は戦士だ。偉大なるマヌチフル王のために戦っていたときから覚悟は出来ていた。戦場で、自分の寝台で、人は必ず死ぬのだ。
もし私がこの世を去ったとしても、剛健な弟が残る。どうか私の頭を樟脳と麝香と薔薇水で包み、立派な墓で永遠の眠りにつかせてくれ。
許してくれ。さらばだ、君が世界で活躍するように。」
彼は話し終わると、槍を握りしめ、狂った象のように戦場へ駆けて行きました。

バルマンは彼をみとめて大呼しました。
「さてさて、ようやく来たのは老人か!
 そろそろ寿命なんだからおとなしく待っていたらどうだ!」
コバドは応えました。
「私はとうに天命を全うした。いつでも死ぬ準備は出来ている!」
こう言って彼は黒い馬を走らせ、戦いの魂に休息を与えることはありませんでした。

夜明けから影が長くなるまで、2人は死闘を続けました。
ついにバルマンの投げた長槍がコバドの背中に突き刺さり、コバドの背骨を砕きました。彼はゆっくりと、鞍から地面に落ち、動かなくなりました。
老いた英雄はこうして死んだのです。

(画像なし)
●トゥラン軍のバルマン、老クバドを斃す 100r

バルマンは顔を輝かせてアフラシヤブのもとに戻り、誰も見たことがないような栄誉の衣を授けられました。

コバドが討たれたその時、カレンは全軍を率いて出撃しました。
両軍はまるで二つの大海が交わるように出会い、大地が揺れ動くような勢いでした。
カレンは突進し、トゥランの側からはガルシワズが同じく突進してきました。馬の嘶きと舞い上がる砂埃が日月を遮り渦を巻き、燦めく鋼鉄の武器は血に染まりました。
カレンは馬を駆り、剣を火のように振り回したので、まるでダイヤモンドが珊瑚の雨を降らせるかのようでした。
アフラシヤブはその腕前を見て、部下を率いて彼のもとに向かい、二人は山々に夜が明けるまで戦い続けましたが、彼らの復讐心は満たされることはありませんでした。

f98v
●イラン軍とトゥラン軍のごっちゃごちゃの激闘 98v 

夜になると一旦の休息が得られました。
カレンは軍勢を率いてデヘスタンに向かい、兄の死に心を痛めながらノウザルの陣にやって来ました。ノウザルは彼を見て、眠れぬ目から涙を流して言いました。
「戦士サームの死以来、私の魂はかくも嘆くことはなかった。コバドの魂が太陽のように輝くように。そして、そなたが永遠にこの世にとどまる運命であるように。」

カレンは答えました。
「ファリドゥン王がこの頭に 兜をかぶせて以来、私は帯を緩めず、剣を脇に置くこともなく戦ってきました。
今、威厳と知恵に満ちた兄が死に、この戦が私の最期となるでしょう。
今日、アフラシヤブが牛頭槌を持った私を見て、追いかけてきました。私は彼と目が合うほど近づいて闘いましたが、彼は魔法の呪文を唱え、私の目はかすみ、すべてが昏くなりました。もはや槌を振るう力は残っていませんでした。私たちは塵と闇の中で戦いから引き下がらなければなりませんでした。」

6□□ 2回目の会戦、ノウザルがトゥースとゴスタハムを送り出す□□□□

両軍とも休息し、二日目の朝、戦闘が再開しました。□□両軍とも隊列を組んで進み、太鼓の轟きと喇叭の音で大地は揺らめき太陽が砂塵に曇りました。
鬨の声がこだまするなか両軍の応酬が始まり、戦士たちは組み合い、カランが突き進む場所には血の川が流れました。
アフラシヤブが他を引き離して先頭を駆けていたところにノウザルが迫り、その槍を互いにぶつけあって、蛇のように絡み合って争いました。

戦いは日暮れまで続き、トゥランが優勢になりました。
イラン将兵の多くが負傷しましたが、トゥランの攻撃は止まず、彼らは前線の野営地を踏み捨ててなすすべもなく敗走しました。
 
戦場に太鼓の音が聞こえなくなると、本陣にいたノウザルは、息子たち、戦士トゥースとグスタハムを呼びました。
ノウザルは沈痛な面持ちで言いました。
「父王マヌチフルが臨終のときにおっしゃったのだ。『トゥランとチンから強大な軍隊がイランに侵攻してくる。お前の軍隊は敗れるだろう』と。今、父上の言葉は現実のものとなった。これほどの大軍勢のことを記した書物は誰も読んだことがない。
トゥースよ、お前は密かにパースに行ってくれ。そしてそこで宮殿や後宮の女子供―王族や武将たちの妻子―を集めてアルボルズ山脈のラベクーに連れて行ってくれないか。この退避を傷ついた兵士達が知れば、更に消沈してしまうだろう。しかし、そうすることでファリドゥンの血筋の誰かがこの無数の敵の群れから救われるかもしれない。
この企てのために、我らが再び相まみえることはないかもしれない。
偵察を欠かさないようにせよ。もし我が軍の、そして私についての悪い知らせを聞いても悲しまないでくれ。天はいつも、ある人を塵に帰し、別の人に幸福と冠を与えてきたのだ。」
そして、息子たちを抱きしめて泣きました。
トゥースとゴスタハムも頬を涙で濡らし、魂を不安で満たしたまま、出立しました。

7□□3回目の会戦、イラン軍のデヘスタンへの籠城、カレンの脱出□□□□□□

2日間の休戦ののち、3日目の夜明けとともに事態が動きました。

トゥラン軍はこの間、昼も夜も休まず、軍備を整え剣や槍を研いで備えていました。そしてこの朝、陣幕の中には喇叭やインディアンベルが鳴り響き、闘いの鬨の声が上がりました。本陣の天幕の前でシンバルが鳴り響き、兵士たちは鉄兜を被って待機しました。
闘志が漲り沸き立つようなアフラシヤブは、怒濤の軍勢を率いてノウザルの軍に襲いかかっていったのです。
谷間は重いメイスを持って進む兵で埋め尽くされ、山の斜面も平原も消えました。

カレンは王を守るために軍の中央に位置し、タリマンは左翼を、ナストゥレの子シャプールは右翼を指揮しました。夜明けから日暮れまで、山も海も平原も見えません。しかし、槍の影が長くなる頃にはイラン軍は崩れていき、トゥラン軍が優勢になりました。シャプールの軍隊は敗走し、シャプール自身は討たれてしまいました。

イラン軍は後退しデヘスタンの城塞に立てこもりました。城塞への進入路はわずかであったため、昼夜を問わず懸命に防御することで、彼らはしばらくの休息を得ることが出来ました。

イラン軍が籠城しているためトゥラン軍は攻めあぐね、将兵に余裕がありました。そこでアフラシヤブは、カラカンというトゥラン人に一隊を率いさせ、砂漠の道を通ってパースに行って、王族やイラン武将たちの子女を襲うように命じました。
これを知ったカレンは、怒りが収まらず、豹のようにノウザルのもとにやってきて言いました。
「卑怯者のアフラシヤブめ!彼は我々の妻子のもとに軍勢を送り込みました。もし彼女たちが捕らわれるようなことがあれば、我々の面目は丸潰れです。私はこのカラカンを追いかけなければならない。ここには食料があり、水も流れていて、兵は陛下に忠実です。この城塞でお待ち下さい。」
しかし、ノウザルは反対しました。
「それはならぬ。汝が第一の司令官だ。トゥースとゴスタハムが夜明けにすでに出発した。彼らは女性たちに追いつき、適切に世話をしてくれるだろう」。
カレンと指揮官たちはシャーの寝所に招かれ、しばし、悲しみを紛らわすために葡萄酒を飲み交わしました。

宮廷を後にした勇者たちの目は、冬の雲が雨を降らせるように涙で満たされていました。そしてカレンの宿舎に皆集まり、議論を重ね、合意に至りました。
「やはりパースに行かなければならない、王の決定は受け入れられない。もし私たちが戦うことなく妻子を捕虜にされたら、誰がこの平原で再び槍を振るう勇気があるだろうか、誰が休んだり眠ったりすることができるだろう。」

カレン、シルイ、キシュワドの3人が、この企てについて協議し、夜半過ぎ頃、彼らは出撃の準備を整えました。夜明けになって城塞を出る道のひとつ、人々が "白い城"と呼んでいる場所に到着しました。そこでは、城主グズダハムが、包囲軍に悩まされていました。
城塞を包囲して道を塞いでいたのは、カレンの兄クバドを一騎打ちで倒したバルマンとその隊でした。

カレン達が脱出すると、バルマンの隊は砂漠までずっと追ってきました。
イラン軍は夜の砂漠で追手を待ち受けました。

f102v
●デヘスタンを脱出したカレンの隊 f102v


兄クバドの復讐を切望していたカレンはバルマンに狙いを定めました。カレンの槍はバルマンの鎧と腰帯を貫き、彼の背骨は砕け、バルマンは馬の背から真っ逆さまに落ちていきました。

f102v
●カレンがバルマンを槍で突く f102v

シルイ、キシュワドも追手に痛手を負わせました。

f102v
●槍で突かれるバルマンの将兵 f102v


バルマン軍が混乱して逃げ惑うなか、カレンとその軍はパースに向かって突き進んだのです。

□□8ノウザル、アフラシヤブに捕らえられる□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

ノウザルはカレンらの出発を知ると、動顛してカレンを追いかけました。
アフラシヤブは包囲が破られたことを知ると、兵を集めて本陣から追撃に出ました。夜を徹して追撃し、ついにノウザルが千二百人の兵と共に捕らえられました。捕虜たちは鎖につながれてアフラシヤブの前に連れて行かれました。
アフラシヤブは[ノウザルとカレンが同行していたと思い]カレンを捕まえるため、近くの洞窟、山、砂漠、川をくまなく捜索するように命じましたが、捕虜の証言により、カレンはイランの女たちを案じ、ノウザルに先んじて出発したのだと告げられました。そして追撃したバルマンと包囲軍を打ち破ったと。
アフラシヤブは息子の死を嘆くバルマンの父ヴィセに言いました。
「豹でさえカレンを襲うのをためらうが、追いかけて息子の仇を取ってやれ。」

(下に続く)

■シャー・タフマスプ本の細密画

サムネイル ページ番号 画のタイトル※ タイトル和訳 所蔵館と請求番号 画像リンク先 備考
f096v 96 VERSO  Shah Nowzar embraces Sam  (イラン王)ノウザール王、サムを歓迎する  Tehran Museum of Contemporary Art, Tehran, Iran Hollis  
f098v 98 VERSO  The first clash with the invading Turanians  侵略者トゥラン人との最初の衝突  Tehran Museum of Contemporary Art, Tehran, Iran Hollis  
f100r 100 RECTO  Barman slays old Qubad  トゥラン軍のバルマン、老クバドを斃す Tehran Museum of Contemporary Art, Tehran, Iran 非公開  
f102v 102 VERSO  Qaran slays Barman  カランがバルマンを斃す The Sarikhani Collection fitz / Hollis / Wiki 本のp137

 

■細密画解説(本や所蔵美術館の解説より適宜抜粋)
●96 VERSO  Shah Nowzar embraces Sam  イランのノウザル王、サームを歓迎する 
〇Fujikaメモ:専門家による解説がないので、私が勝手に感想を書いてしまいます。
ひげのないノウザル王が玉座から降りて半白髭のサームを抱擁して迎えています。
とりまきの従者たちは、それぞれの集団ごとに顔を見合わせていて、ノウザルへの反感を表現しているのかもしれません。

●98 VERSO  The first clash with the invading Turanians  侵略者トゥラン人との最初の衝突
〇Fujikaメモ:専門家による解説がないので、私が勝手に感想を書いてしまいます。
この絵は、たぶんものすごく手間暇はかかっているのだと思います。
数えきれないくらいの人物・馬が、ごっちゃごちゃに入り乱れて戦っています。
メインキャラどころか、イラン、トゥランもよくわからないくらい・・・。
象に乗っているのが総大将だとすると、左の白象の上がひげのある人物=アフラシヤブ、右の普通の象の上はひげのない人物=若いノウザル、でしょうか。
(贔屓チーム(イラン)に聖なる白象をもってきそうな気もするけど・・・)自身ありません。

●100 RECTO  Barman slays old Qubad  バルマン、老クバドを斃す
〇Fujikaメモ:
詳細画像がみつかりません。
クバドは白髪・白髭で描かれていることが多いようです。
兄弟のカレンの髪は白くない絵があったので、ここではクバドは兄としました。

●102 VERSO  Qaran slays Barman  (イラン軍の指揮官)カランが(トゥラン軍の)バルマンを斃す
この戦闘シーンは、不気味な夜色の色調で、写本の一連の絵の中でスルタン・ムハンマドのものと断定できる最後の絵であり、彩色には、第二世代の巨匠の一人である若い画家ミール・サイード・アリが協力したようである。多くの人物の顔や、馬やその装具の扱いには、若い画家の手が加わっていることがわかる。スルタン・ムハマンドが登場人物に必ず生命を与えるのに対し、優れたデザイナーであり、奇跡的ともいえるほど優れた職人であった若い男は、人物や動物を静物画として描いている。その後、ミール・サイード・アリーはインドに渡り、ムガル派絵画の創始者のひとりとなった。
太鼓が鳴り、トランペットが鳴り響く中、イラン軍とツラン軍が激突する。
3人のトゥラニア人が戦場から追い出される。彼らの服装はイラン軍と同様同時代化されており、サファヴィー朝時代の敵であるオスマン・トルコの頭飾りをつけている。

〇Fujikaメモ:
空には星と月。そして地面の色がほかにはない、明るい青緑色です。一度見たら忘れられない印象的な色です。
かぶりものから見て、左がイラン側、右がトゥラン側。
画面中央の、上(奥)でも下(手前)でも槍で突くシーンです。手前がカランがバルマンを突いているところ。奥側で逃げているまだらの馬二頭がとてもきれいで印象的です。こういう白茶や白黒の二色の大柄の斑のことをパイボールドpieboldというようです(ホルスタインとかも)。

■参考情報
ペルシャ絨毯産地の各都市
シャーナーメとは直接に関係はありませんが、全くなじみのないイランの都市名とその土地土地のすてきな絨毯が結びついて出てくるので、興味深いです。
まだ全部は見ていませんが、シャーナーメに関係ある地名も少しはありそう。

メトロポリタン美術館のイスラムの武器と鎧
本文は英語ですが写真が多数あります。
このシャーナーメに描かれている時代(16世紀)の武器、武具の実物が見られます。
やはり遺物として残りやすい金属製のものが多いですが、細工が綺麗・・。
布・革などの素材であまり残っていない弓矢や馬の鎧もきっと綺麗だったのだろうと思います。

シャーナーメの地図
19世紀のイランとトゥランの地図
19世紀のイランとトゥランの地図

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シャーナーメあらすじ:8.ロスタムの誕生

2023-03-06 | +シャー・ナーメあらすじ(挿絵付き)

白髪のザールとルーダーベの間に、息子ロスタムが生まれます。これはシャーナーメ中盤、ずっと活躍するヒーローです。
今回は、シャー・タフマスプ本ではなくて、他の写本から3つの挿絵を持ってきました。
挿絵がないと、文章を訳したり書いたりするやる気もでないということが分かったので、これからも足りない挿絵は他から借りてこようかと思います。
(シャー・タフマスプ本には白象退治の挿絵があるのですが、詳細画像で使えるものがなかったのです)

====================
8.ロスタムの誕生
====================

■登場人物
ザール:サームの息子で生まれつきの白髪。ザブリスタンの若い王。Zal
ルーダーベ:カボルの王女でザールの妻。Rudaba/Rudabeh
シンドゥクト:カボル王妃。ルーダーベの母。
ロスタム:ザールとルーダーベの息子。ルスタム/Rostam/Rustam
サーム:ザールの父でザブリスタンの先王。今は別の領地を治めている。Sam/Saam
ミフラーブ:ザールの領地内にあるカボルの領主。ルーダーベの父。
霊鳥シムルグ:ザールの幼少期の育ての母。

■概要
白髪のザールの妻ルーダーベは身ごもりましたが、大変な難産でした。
そこでザールは霊鳥シムルグを召喚し(シムルグと別れるときに、いざというとき助けに来ると約束した)、その助言で手術により息子を無事に授かることができました。
その赤子は生まれたときから途方もない大きさで、沢山の乳と食べ物を食べてぐんぐん成長して立派な体格になりました。
祖父サームは孫に会いにザブリスタンを訪問し、立派な孫に歓びました。
またその後、ロスタムは暴走する戦象をひとりで退治しました。
(なお、象退治のあと、ロスタムがシパンド山に行って蛮族を退治して、曾祖父ナリマンの敵を討つ場面もありますが、ここでは省略)

■ものがたり

□□ロスタムの誕生

ルーダーベの糸杉のようなほっそりした体型が変わり始め、腹は膨らみ、体は重く、薔薇色だった顔はサフランのように黄色くなってきました。
母シンドゥクトが訪ねました。
「可愛い娘、顔色が悪いわ。とても具合が悪そうです。」
ルーダーベは答えました。
「時が来たのに、私の中の重荷を産むことができないため一日中苦しんでいます。 私のおなかはまるで石を詰めたような、鉄の塊のような感じです。」
ルーダーベの苦しみは続き、眠ることも休むこともできませんでした。
ついにある日、ルーダーベは気を失ってしまいました。
侍女たちは悲鳴をあげ、シンドゥクトは取り乱しました。
ザールもなすすべがなく、彼女の枕元にやってきて涙を流して嘆きましたが、その時、育ての母、霊鳥シムルグの約束を思い出しました。
彼は気を取り直して少し微笑み、シンドゥクトに「心せよ」と告げ、火鉢を持って来て火をつけ、シムルグの羽を燃やしました。
するとたちまち空気が暗くなり、暗黒の雲から真珠の雨が降ってくるように鳥が現れました。シムルグが彼を助けるために来たのです。
ザールはシムルグの前に跪き、彼女を褒め称えました。
シムルグは彼に言いました。
「どうして私の獅子の目は涙で濡れているのでしょう。この銀の糸杉から、名声を求める子があなたのもとに生まれるのです。彼の声が鳴り響けば、豹はおびえて恐怖の中でその鋭い爪を噛み、戦場では鉄の勇気の戦士を震えさせます。糸杉の背丈、マンモスの力。彼の槍の飛翔は2マイルにもなるでしょう。
その赤子の誕生は自然なものではありません。善を与える方がそう望まれるのです。

彼をこの世に誕生させるためには、鋭いナイフと呪文に精通した呪術師を連れてこなければなりません。まず、ルーダーベを葡萄酒で酔わせ、彼女の心から恐怖と心配を追い払うのです。彼女は呪術師が呪文を唱え始めるのを見てはなりません。その者はルーダーベの腹を切り裂きますが、彼女は痛みを感じないでしょう。そして呪術師は赤子を引き出したあとに傷口を縫わなければならない。私が教える薬草を牛乳と麝香で練り、日陰で乾燥させなさい。これを傷口に塗って擦り込めば、一日で治るでしょう。そして私の羽で彼女の体を撫でると、その影が良き兆しをもたらすでしょう。
この大樹を与えたのは神であり、この大樹は日毎に大きな幸福をもたらします。いまこのような事態になっても悲しまないでください。あなたの尊い苗木は実を結ぶのです。」
彼女は翼から羽をむしり取って落とし、上空に飛んで行きました。
ザールはその羽を拾い、シムルグに言われたとおり、呪術師を探しに行きました。
シンドゥクトは、どうやって横から赤ん坊を出すのだろうかと気を揉み、涙を流しながらルーダーベに付き添いました。
ここにようやく腕のいい呪術師がやって来て、ルーダーベに葡萄酒を飲ませました。そして彼女の脇腹を切り裂き、赤ん坊の頭を開口部の方に向けると、苦痛を感じることなく赤ん坊を取り出しました。このような不思議なことは誰も見たことがないほど、呪術師は無痛で子供を取り上げたのでした。

BL3540
●ルーダーベが手術により子供を産む
(IO Islamic 3540, f. 54r, British Library)

その子は獅子のように立派な男の子で、大きくて凜々しく、見るからに愛らしい子でした。生まれて一日なのに、12ヶ月の子ほどの大きさでした。この巨大な赤ん坊を見た者は皆、思わず驚きの声をあげ、驚嘆して彼を見つめるのでした。
母親は一昼夜、ワインの効果で眠り続け、何が起こったのか知りませんでした。呪術師は彼女の傷を縫い合わせ、シムルグが説明した塗り薬を傷跡に擦り込みました。
彼女が眠りから覚めてシンドゥクトに話しかけると、居合わせた人々は神に感謝し、宝石や金貨を彼女に浴びせ全能の神を称えました。
彼女は自分の立派な赤ん坊を見て、その中に王としての栄光の兆しを見たので微笑み、
「私は危険から逃れ、私の苦しみは終わりました」と言い、その男の子をロスタムと名付けたのです。

彼らは、生まれたての赤子と同じ大きさの絹の人形を縫い、セーブルの毛皮を詰めました。その顔は太陽や宵の明星のように輝いていました。その上腕に龍を描き、手には獅子の前脚を描き、腕の下に槍を挟み、片手に棍棒、片手に手綱を握らせました。そして、召使いに囲まれた馬の上に座らせ、このロスタムの像を祖父サームのもとに送りました。
ザボレスタンからカボルまで祭りが行われ、平野はすべて喇叭の音と葡萄酒を飲む声で満たされ、王国のいたるところで百人の客を招いた宴会が開かれました。カボルではミフラーブがその知らせを喜び、貧者に銀貨を浴びせかけました。ザボレスタンには音楽家がいたるところにいて、平民と貴族は一つの布の縦糸と横糸のように親しげに混じり合って座っていました。

使者が赤ん坊のロスタムの姿をサームに見せると、サームの髪は喜びでツンツンと逆立つほどでした。
「この人形は私に似ているではないか。もし彼の体がこの半分の大きさでも、彼の頭は雲に触れるだろう。」
そして、使者を呼び寄せると沢山の褒美を与えました。サームは酒と楽人を呼び、貧者に銀貨を配り、マザンダランとカルグザランの地を飾り立て、太陽と月が驚いて見下ろすほどの宴会を開きました。
そしてザールの手紙への返答を使者に告げました。
まず創造主、そしてザール、ルーダーベの二人にもたらされた幸運を祝福しました。そして贈られたこの人形を愛し気に見つつ、
「息子をそよ風もあたらないほど大切にするように。
私は全能の神に、汝の種からなる息子を無事もたらすよう、昼も夜も密かに祈ったのだ。 この祈りが叶った今、この子が立派な勇士になるのを見る日まで自分が生きるよう祈るばかりだ。」

ロスタムに乳を与えるために、10人の乳母が用意されました。
やがて乳離れしたロスタムの食事はパンと肉で、大の男五人分を食べ、人々はその食欲に驚きました。 彼の身長が8(諸説あり、8スパンだとすると180cm、8歳の可能性もある)の高さになると、まるで立派な糸杉のようで、顔は星のように輝き、世間は驚きの目で見ていました。顔つき、体格、知恵、勇気など、サームそのもののようでした。

 

□□サームがロスタムに会いに来る 

「ザールの息子が獅子のように成長し、その戦士のような資質を持った若者を世界の誰も見たことがない」という知らせが勇者サームに届くと、サームの心臓は鼓動を早め、その少年に会いたいと思いました。彼は軍を指揮官に任せ、ザールの息子への愛情に導かれて、経験豊かな戦士の分隊と共にザボレスタンに向かいました。

ザールは父の接近を知ると、カボルの総督ミフラーブや、大勢の兵士たちと共に歓迎隊として出発しました。
大軍勢に囲まれて一頭の象が黄金の玉座を運び、その上に糸杉のような背丈と大きな肩と胸を持つザールの息子が座っていました。その頭には冠をかぶり、腰には帯を締め、体の前に盾を持ち、手には重い棍棒を持っていました。

サームの隊列が遠くに現れると、軍は2列に分かれ、ザールとミフラーブ―若者と熟練の戦士―は馬を降り、地面に頭を下げ、英雄サームに祝福を呼びかけました。
サームは象の背に乗った獅子の子を見ると、顔が花のようにほころびました。なんと立派に育ったことか。
彼は少年を象に乗せたまま近くまで来させ、その冠と王座をじっと見つめました。そして勇者サームは
「我が仔獅子、比類なき子に長寿と幸福を!」
と祝福の言葉をかけました。

BL3540
●ザールの一行がサームを出迎える
(Persian MS 910, f56b, The John Rylands Library, The University of Manchester)

ロスタムは象から降りてザールの鞍に口づけをし、新しい表現で祖父を褒め称えました。
「偉大なるわが主に栄えあれ。あなたという丈夫な根から、私ロスタムという新しい芽が生まれました。私はお祖父様の献身的な奴隷です。私が生きている間、美食、睡眠、快適さは私を惑わさないでしょう。兜、鎧、弓、鞍、馬、棍棒と剣、敵と戦うためのこれらのものが私の人生のすべてです。
偉大なる閣下、私の顔はあなたに似ていると言われます。願わくば、戦うときの決してたじろぐことのない力もあなたに似ていますように。」 

象もシンバルも静止して静かになったなか、サームは彼の手を取り、目と頭に口づけをしました。
そして一行は笑顔で語り合いながらザブリスタンの宮殿に向かいました。到着すると黄金の玉座に座り、幸せのうちに宴を開きました。宴はひと月の間続き、その宴席では音楽が奏でられ、皆が順番に歌いました。

壇上の一角にはザール、反対側には棍棒を手にしたロスタム、そして二人の間には王家の栄光を意味するイヌワシの羽を王冠に差したサームが座っていました。サームはロスタムのすばらしい体格を感嘆して見つめ、ザールに向かって言いました。
「百代を問うとも、このような生まれ方をした者の話は聞かない。彼ほどの美男子も、彼のような背丈と肩を持つ者も、この世にはいないだろう。 さあ、この幸福を祝い、憂いを忘れて葡萄酒を飲もう。この世界は隊商宿だ。古い客は去り、新しい客がその場所を取る。」

ミフラーブはたっぷり飲んで、大いに酔って語りました。
「ザール殿やサーム殿、イランのシャーも、王冠も恩寵も、どうでもいいのだ。
私とロスタム殿、そして私の剣と馬シャブディズ、どんな雲も我々を覆い隠さない。向かうところ敵なしだ。
私は先祖ザハクの流儀を復活させ、この足の下にある塵を純粋な麝香に変えよう。そして金に糸目をつけず、彼の武器を手に入れるのだ。」
もちろん彼は冗談で言ったのです。ザールとサームはその言葉に喜びました。

ひと月の滞在の後、サームは自分の領地に戻ることにしました。
出発の日の明け方、彼はザールに言いました。
「私の息子よ、公正で、イランのシャーに忠実であれ。富よりも知恵を選び、常に悪い行いから離れ、日々に神の道を求めよ。公の場でも私的な場でも、必要なことは一つであることを知るがよい。私がかつて犯した過ちとやり直しを見て、正しい道を歩んでくれ。」
こう言って、息子と孫に別れを告げ、その言葉を忘れないようにと諭しました。
鐘と喇叭が鳴り響くなか、サームは西に向かって旅立ちました。
息子と孫は、従順な気持ちで頬を涙で濡らしながら三行程を共にし、またシスタンに戻りました。


□□ロスタムが白象を退治する□□

ある日のこと、庭で酒宴が開かれ、ハープの弦が甘い音色を奏でる中、戦士たちは皆、陽気に騒ぎ、おおいに酔うまで水晶の杯で葡萄酒を飲んでいました。機嫌がよくなったザールは息子にこう言いました。
「我が子よ、太陽のように優美な子よ!汝の戦士のために栄誉の衣を用意せよ。高位の者には駿馬を与えよ。」
ロスタムは戦士たちに黄金とアラブ馬、そして他の贈り物も与え、皆は喜びに浮かれて帰って行きました。
その夜、ザールはいつものように涼しい東屋を探し、ロスタムは自分の部屋に引き返し、横たわって眠りました。
突然、ドアの外では、叫び声が上がりました。
「王の白い戦象が暴れて逃げた!民衆が危険にさらされている!」
それを聞いたロスタムは、祖父サームの棍棒を持ち出し、通りに向かって走り出しました。
門番は彼に反対しました。
「お止め下さい!この暗い夜に象が暴走しているのです。殿が行くことは認められません。」
その言葉に怒った無敵のロスタムは彼のうなじを叩き、彼の頭は転がってしまいました。
ロスタムが他の守衛を見やると、皆、背を向けて逃げて行きました。そこでロスタムは大胆に門に駆け寄り、激しい打撃で鎖やボルトを打ち壊し、勇ましく棍棒を肩にかついで風のように出て行きました。

彼は、山が轟き、その下の地面が煮え立つ鍋のように揺れるのを見ました。道にいる戦士や貴族たちが散り散りに逃げるなか、彼は海のように咆哮し、勇敢に立ち向かって行きました。
その獣は山のように彼に襲いかかり、鼻を持ち上げて激しく襲いかかってきました。
しかし、ロスタムがその頭に棍棒で一撃を加えた次の瞬間、巨大な象は力を失いうずくまりました。そして体全体を震わせると、鼻で弱々しく力のない一撃のそぶりを見せたあと、崩れ落ちました。

MS932-f64r
●白象に槌を打ち下ろすロスタム 
(Persian MS 932, f64a, The John Rylands Library, The University of Manchester)

こうして、あの咆哮する象は倒れ、無敵のルスタムは再び自分の場所に戻り、眠りました。

さて、太陽が東から昇り、麗しい娘の頬のように空が明るくなったとき、ザールはロスタムの昨晩の行いを聞きました。
荒れ狂う象に立ち向かい、一撃でその首を折り、その体を地面に投げ捨てたことを。
彼は叫びました。
「何ということだ。その強大な戦象は、かつて戦場で紺碧の海のように咆哮していた。その強い獣は何度突撃して敵の軍勢を打ち負かしたことか! しかし戦場で如何に征服しようとも、我が息子はそれに勝ったのだ!」

 




■シャー・タフマスプ本の細密画

サムネイル ページ番号 画のタイトル※ タイトル和訳 所蔵館と請求番号 画像リンク先 備考
f092v 92 VERSO  Rustam slays the white elephant  ロスタム、白象を退治する  Tehran Museum of Contemporary Art, Tehran, Iran 詳細画像非公開Hollis  

 

■それ以外の写本からの細密画

サムネイル ページ番号 画のタイトル タイトル 所蔵館と請求番号 画像リンク先 備考
BL3540 f.54r The birth of Rustam. ロスタムの誕生  British Library, IO Islamic 3540 カタログ
f. 54r
 
BL3540 f.56v The young Rustam, crowned, armed, and mounted on an elephant, meets his grandfather Sam, Painter A. ロスタムが象の上から祖父に挨拶する  The John Rylands Library, The University of Manchester, Persian MS 910 カタログ
f. 56b
 
BL3540 f.64r Rustam kills Zal's white elephant. ロスタムがザールの白象を退治する  The John Rylands Library, The University of Manchester, Persian MS 932 カタログ
f64a
 

■細密画解説(本や所蔵美術館の解説より適宜抜粋)
●92 VERSO  Rustam slays the white elephant ロスタム、白象を退治する
〇Fujikaメモ: 
詳細画像がみつからなくて残念。

●ロスタムの誕生
〇Fujikaメモ:
このシーンで呪術師として出てくるのは(文面からは男性かと思ったのですが)この絵を見るとおそらく女性ですね。
粗末な服で、赤ちゃんを引っ張り出している年配の女性がその呪術師だと思われます。
(他の写本では、男性のような人が赤ちゃんをとりあげているのもありました。男性が後宮に入るのは相当ハードルが高そうですが・・)
出産は女部屋の内部でのイベントのようで、夫のザールは左側の塔の上にいて、立ち会うことはできないようです。

文章からすると出産時にはシムルグはいませんが、この絵にシムルグを描き込んでいるものもありました。
あと、(ザールがいて?)シムルグの羽根を描いていたり。
この写本には、シムルグの痕跡は何もない感じです。

●ロスタムが象の上から祖父に挨拶する 
〇Fujikaメモ:
そんなに名シーンではない気がしていたのでこれの挿絵があってびっくりでした。
跪いている二人のうち、ひげと眉が灰色(白)なのがザール、そうでない方がミフラーブでしょうか。
馬上で手をさしのべているのがサーム。
象の上のロスタムは、りりしく若々しいです。
文中では、ロスタムはあっという間に8スパン(180cm)に育ったとありますが、原典では、「8」とだけあって、「スパン」としたのはとある注釈者だそう。8歳の大きさ、という意味にもとれるのかもしれません。
この絵では、180cmではなく、もうちょっと子供らしいサイズ感です。
馬の蹄や横顔は割とリアルっぽいですが、象の足先がなんか肉球っぽくなってしまっているのが、かわいいです。

●ロスタムがザールの白象を退治する
〇Fujikaメモ:
これは、いろいろな写本に挿絵が描かれている名シーンです。
(象が可哀そうとかそういうことはここではおいておきましょう)
ロスタムがはだしで、とるものもとりあえず出てきた感じになっています。
他の写本では、象が鈴や布で飾られていたり、ロスタムがもっとちゃんとした服を着ていたりするものがあります。
あと、この絵は建築物が全く見えない屋外(郊外)ぽいですが、他のものでは、室内では?と思うような挿絵もありました。



■■他のシャーナーメ写本
ケンブリッジ大学のシャーナーメプロジェクトのロケーションインデックスで、各国の蔵書の概要が分かります。
ただし、オリジナルサイトへのリンクがないので、いくつか整理してみました。
(おそらくシャーナーメプロジェクトの方が成立が古いため)
基本的に、1500年代(16世紀)前後のものに着目しています。

■ブリティッシュライブラリーのシャーナーメ写本
挿絵があって、webで見られるのは次の二つのようです。
Add MS 18188
カタログによる解説:
「序文なしのシャーナーマ。Ghiyās al-Dīn Bāyazīd Ṣarrāfによって 891/1486 年に複製され、Turkman/Timurid 様式の 72 のミニチュアで描かれています。」
このカタログに挿絵のリストとリンクあり。
私の勝手な呼び名:「キリンブチのラクシュのシャーナーメ」

●IO Islamic 3540
カタログによる解説:
「かつてウォーレン・ヘイスティングス (1732-1818)が所有していた Firdawsī の Shahnāmah の精巧で華麗に装飾された写本。4つのイルミネーション。57 ミニチュア」
このカタログに挿絵のリストとリンクあり。
私の勝手な呼び名:「すっきり眉毛のシャーナーメ」

●そのほか、写本全体はデジタル化されていない挿絵について、キーワードで検索できます。
検索結果はダウンロード可ですが、高解像度のものは有償(ええっ!)。
British Library Images Online


■マンチェスター大学ジョン・ライランズ図書館のシャーナーメ写本
挿絵があって、webで見られるのは次の二つのようです。

Persian MS 910
カタログによる解説:
「100 のイラストを含む優れたコピー。16 世紀前半と後半の 17 世紀初頭のサファヴィー朝の画家の 2 つのグループによって完成された多くのシーンには、多くの歴史的な修復と合わせて、おそらくインドで行われたように思われる塗り直しの兆候が見られる。」
私の勝手な呼び名:「素朴だが後半充実のシャーナーメ」

Persian MS 932
カタログによる解説:
「この壮大な写本は、おそらく 1542 年にシラーズで完成し、ジョン ライランズ図書館に保管されている 9 部のうちの 1 部であり、38 枚の挿絵を特徴としており、そのうちのいくつかは通常の描写スキームから逸脱しています。ペルシア語翻訳者のターナー・マカン (1792–1836) は、以前この巻を所有しており、 1829 年にテキストの最初の重要なペルシア語版を出版したときに彼が参照したいくつかのコピーの 1 つです。」
私の勝手な呼び名:「白地面にかわいい花のシャーナーメ」

■ニューヨーク公共図書館
Spencer Coll. Pers. ms. 3
17世紀初頭。シラーズで作られたものか。
私の勝手な呼び名:「小さい挿絵のシャーナーメ」

■プリンストン大学のシャーナーメ写本
Islamic Manuscripts, Third Series no. 310(通称The Peck Shahnama)
カタログによる解説:
「45 の高品質のフルページのミニチュアと 998 H [1589 または 90] の日付のシーラーズ派の 3 つの見開きページの構成を含むシャーナーマの贅沢に装飾されたコピー。シーラーズでサファヴィー朝の王族のために作られたと思われる。」
挿絵の一覧は整理されていないようなので(書籍になってるかも)、見てもどのシーンかわからないものもあります。
このビューワーではフォリオ番号は分からないです。
左側に縦に並んだサムネイル群から挿絵を探すことができます。
うち12枚分の画像タイトルとフォリオ番号

私の印象では、物語、つまり人物表現に重きを置いて、不必要な背景の草花や調度品等は省略気味です。
シャー・タフマスプ本にある、「ここまでしなくても」という密度の高さはあまりなし。
噴水を囲む赤御影石の、小豆色に白い結晶が散らばる様子を、規則的な白点で表現してしまっているところは、師匠によるアシスタントの監督不足かと思ったり。

■ドイツのシャーナーメ写本
図書館横断東洋写本検索サイトQalamos による「Firdausī」の検索結果

Ms. or. fol. 359(ベルリン州立図書館蔵)
16世紀制作。
私が勝手に名付けたのですが、「小花柄シャーナーメ」。
絨毯や壁のアラベスク模様が、地色や描画色を変えつつ、ほぼ一種類の模様でまかなわれていて、それが小花柄のように見えます。
こういう柄が流行っていたのかしら?省力化? とはいえ、これがひとつの個性になっています。(下図、丸印四か所は柄が同じ)

Msorfol359-f105v

BSB Cod.pers. 10 (ミュンヘン、バイエルン州立図書館蔵)
1560-1750頃制作。
さまざまな時代の多くの (約 215) の素晴らしいミニチュアを含む非常に素晴らしいコピー。
215 のイラストを含むこの写本は、ペルシャの王の書であるシャーナーマの最大の絵のサイクルの 1 つ。さまざまな時期に働いていた何人かの画家がその細密画に関与した。したがって、ミニチュアはスタイルが均一ではない。4 つの異なるグループが識別でき、2 つの最も古いグループは 16 世紀のもの。最初のグループの細密画は、多くの人物を含む大規模な構成を示しており、鮮やかな色を使用して詳細に実行されている。2 番目のグループの細密画は、構図と人物画に関して品質が劣る。3 番目のグループは、17 世紀初頭に追加された、イスファハンの宮廷様式の 2 つの原寸図で構成されている。しかし、4番目のグループは、イランの伝統とは関係がないと思われるミニチュアで構成されており、インド起源の可能性がある。この写本の最良のイラストのいくつかは、1565 年以前にマシュハドのスルタン イブラーヒーム ミルザーの宮廷で描かれた可能性がある。

 

 

コメント
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