神保町の古書店の道端のワゴンに乗っていたので、新古書を買って読みだしたが、アマゾンの古書の方が安いので、その程度の評価なのであろうが、中々内容豊かで興味深く、結構面白かった。
大統領選直後の、トッドのインタビュー記事と、佐藤優の感想文を併記しただけの新書で、帯に大書されているような「歴史的大転換の深層を読む!」などと言った、それ程、大仰な本でもないが、大新聞などのメディアの記事よりは、パンチが利いていて興味深い。
まず、トッドだが、冒頭で、
アメリカ人の生活水準が、この15年で下がり、白人の一部で死亡率が上がった。米国の有権者の4分の3を占める白人たちが、自由貿易と移民が、世界中の働いている人間を競争に放り込んで、不平等や停滞をもたらしたと考えて、その自由貿易と移民の自由を問題にした候補者を選らんだ。これは当然のことで、米国の有権者は全体として理にかなった振る舞いをして、これが、米国が民主主義国だと言うことだ。と述べている。
更に、みんなが結果に驚いているが、上層階級にも、メディアにも、大学生たちにも、何故、現実が見えなかったのか、
選挙戦の終わり頃、米国の最良の大学の経済学者たち370人が声明文を出して、トランプに反対して、自由貿易には反対しなかった内容だったが、(愚の骨頂で)、深刻な問題は、社会の上層部の間違った意識である。と言う。
エスタブリッシュメントと、民意との乖離が、あまりにも深刻だったのだが、アメリカの世論として、はっきりと表出せず、理解さえされていなかったと言うことであろうか。
トランプは、「米国はうまくいっていない」「米国はもはや世界から尊敬されていない」と言い続けていたが、実際にそのとおりで、幻想の中にいたクリントンとは違って、現実に戻った方が諸問題の対処は容易であることを示した。
人口学者であるトッドが、興味深い指摘をしている。
核家族が基本のアングロサクソンの国米英では、不平等の拡大は1980年代から続いていたのだが、不平等に忍耐強く、エリートたちは、人々は非論理的で従順で、だから、統治できると考えていたのだが、これまでは耐えてきた国民が、一気にノーを突き付けた。この15年間で、不平等は拡大し続け、生活水準は下がり、余命は短くなり、アングロサクソンでさえ耐えられなくなった。人類学的な決定論から逃れて、最終的に、経済や階級や利益の対立の方が、社会を動かす上で優位に立った。と言うのである。
もう一つ、トッドの指摘で興味深いと思ったのは、
トランプが支持を広げたのは、長い歴史を持つ製造業の地元で疲弊したラストベルトの諸州で、トランプは、いわば、虐待されたプロレタリアに選ばれたと言うことで、マルクスが生きていたら結果に満足したであろう。と言っていることである。
最も豊かな先進国であるアメリカで、こう言う形で、ルンペンプロレタリア革命の片鱗を見せるとは、・・・何故か、昔見たロンドンのイタリアレストラン「クオバディス」の3階にある暗いマルクスの住居を思い出した。ここから、大英博物館に通って勉強していたのだが、繁華街を通り抜けると、それ程遠くはないので、歩いてみた。
更に、トッドは、アメリカの教育の不平等についても論じ、
最後に、大衆迎合だ、人々の不安や意思の表明をポピュリズムだと言うのは止めよう、トランプを選んだのは民主主義であって、これこそ、民主主義なんだと説く。
トッドは、自由貿易を世界に押し付けてきた国で、自由貿易に異議を唱える人物が政権に就いた、これは思想的に極めて大きいことだ言うことが分かってくる。と指摘する。
TPPについて、スティグリッツは、弱肉強食獣を野放しにするだけだと反対を唱えていた。保護主義貿易には、反対するとしても、野放しの自由貿易が良いのか悪いのか、トランプ貿易論は極論だとしても、考えてみる必要はあるであろう。
もう一つ、自由の意味について、ライシュは、
富者や強者が、自由を隠れ蓑にして資本主義のルールを自分たちの利益のために一気にスキューして格差社会の拡大を策し続けてきた、と筆法鋭く糾弾していた。
自由は、民主主義の根幹だが、もう一度考え直す必要があるのであろう。
さて、この本に、資料として、「トランプ氏 共和党候補指名受諾演説」が掲載されていた。
先入観を排して読むと、非常にまともな演説で、一寸、意外であった。
私など、どうしても、NYTやワシントンポストと言ったトップメディの情報などに影響されているためもあって、トランプに少なからず違和感を感じていたので、トッドの指摘が新鮮であった。
さて、過半を占める佐藤優の”「トランプ現象」の世界的影響、そして日本は”と言う論稿は、視点が違っていて、面白かった。
特に、トランプ大統領以後のアメリカを見極めるための、三つのポイントの指摘。
⓵1941年12月7日より前のアメリカ、非介入主義への回帰
アメリカ・ファーストと言う内向き視点のモンロードクトリンの復活・回帰であり、パクス・アメリカーナを維持すべく世界の警察を任じていたアメリカが、表舞台から退場するとどうなるのか、世界秩序が根底から変わってしまう。
⓶FBIの政治化による自由と抑圧のせめぎあい
クリントンの私用メール問題調査に捜査妨害の圧力を感じたFBIが、クリントンに最もダメージを与えるタイミング、投票日前日に捜査終結を宣言して、あたかも指揮権が発動されたかのように国民に思わせた。トランプを大統領に当選させた最大の立役者は、FBIだと言う指摘を、小沢代表の西松建設事件を東京地検の捜査と絡ませて説明している。
このFBIの立役者コミー長官を、感謝しながら、ロシアゲートで、首にしたトランプ、どうなっているのか、
⓷国内の敵探しが始まる危険な兆候
赤狩りで全米に吹き荒れたマッカーシズム、
マッカーシズムを通してトランプを見ると、「歴史は繰り返す」と言う反復現象が浮かび上がってくるのだと言う。
真実なら、民主主義の根幹に関わる脅威となる。
とにかく、日経やインターネットの記事ばかり見ていては分からない話題満載の小冊子だが、面白かった。
大統領選直後の、トッドのインタビュー記事と、佐藤優の感想文を併記しただけの新書で、帯に大書されているような「歴史的大転換の深層を読む!」などと言った、それ程、大仰な本でもないが、大新聞などのメディアの記事よりは、パンチが利いていて興味深い。
まず、トッドだが、冒頭で、
アメリカ人の生活水準が、この15年で下がり、白人の一部で死亡率が上がった。米国の有権者の4分の3を占める白人たちが、自由貿易と移民が、世界中の働いている人間を競争に放り込んで、不平等や停滞をもたらしたと考えて、その自由貿易と移民の自由を問題にした候補者を選らんだ。これは当然のことで、米国の有権者は全体として理にかなった振る舞いをして、これが、米国が民主主義国だと言うことだ。と述べている。
更に、みんなが結果に驚いているが、上層階級にも、メディアにも、大学生たちにも、何故、現実が見えなかったのか、
選挙戦の終わり頃、米国の最良の大学の経済学者たち370人が声明文を出して、トランプに反対して、自由貿易には反対しなかった内容だったが、(愚の骨頂で)、深刻な問題は、社会の上層部の間違った意識である。と言う。
エスタブリッシュメントと、民意との乖離が、あまりにも深刻だったのだが、アメリカの世論として、はっきりと表出せず、理解さえされていなかったと言うことであろうか。
トランプは、「米国はうまくいっていない」「米国はもはや世界から尊敬されていない」と言い続けていたが、実際にそのとおりで、幻想の中にいたクリントンとは違って、現実に戻った方が諸問題の対処は容易であることを示した。
人口学者であるトッドが、興味深い指摘をしている。
核家族が基本のアングロサクソンの国米英では、不平等の拡大は1980年代から続いていたのだが、不平等に忍耐強く、エリートたちは、人々は非論理的で従順で、だから、統治できると考えていたのだが、これまでは耐えてきた国民が、一気にノーを突き付けた。この15年間で、不平等は拡大し続け、生活水準は下がり、余命は短くなり、アングロサクソンでさえ耐えられなくなった。人類学的な決定論から逃れて、最終的に、経済や階級や利益の対立の方が、社会を動かす上で優位に立った。と言うのである。
もう一つ、トッドの指摘で興味深いと思ったのは、
トランプが支持を広げたのは、長い歴史を持つ製造業の地元で疲弊したラストベルトの諸州で、トランプは、いわば、虐待されたプロレタリアに選ばれたと言うことで、マルクスが生きていたら結果に満足したであろう。と言っていることである。
最も豊かな先進国であるアメリカで、こう言う形で、ルンペンプロレタリア革命の片鱗を見せるとは、・・・何故か、昔見たロンドンのイタリアレストラン「クオバディス」の3階にある暗いマルクスの住居を思い出した。ここから、大英博物館に通って勉強していたのだが、繁華街を通り抜けると、それ程遠くはないので、歩いてみた。
更に、トッドは、アメリカの教育の不平等についても論じ、
最後に、大衆迎合だ、人々の不安や意思の表明をポピュリズムだと言うのは止めよう、トランプを選んだのは民主主義であって、これこそ、民主主義なんだと説く。
トッドは、自由貿易を世界に押し付けてきた国で、自由貿易に異議を唱える人物が政権に就いた、これは思想的に極めて大きいことだ言うことが分かってくる。と指摘する。
TPPについて、スティグリッツは、弱肉強食獣を野放しにするだけだと反対を唱えていた。保護主義貿易には、反対するとしても、野放しの自由貿易が良いのか悪いのか、トランプ貿易論は極論だとしても、考えてみる必要はあるであろう。
もう一つ、自由の意味について、ライシュは、
富者や強者が、自由を隠れ蓑にして資本主義のルールを自分たちの利益のために一気にスキューして格差社会の拡大を策し続けてきた、と筆法鋭く糾弾していた。
自由は、民主主義の根幹だが、もう一度考え直す必要があるのであろう。
さて、この本に、資料として、「トランプ氏 共和党候補指名受諾演説」が掲載されていた。
先入観を排して読むと、非常にまともな演説で、一寸、意外であった。
私など、どうしても、NYTやワシントンポストと言ったトップメディの情報などに影響されているためもあって、トランプに少なからず違和感を感じていたので、トッドの指摘が新鮮であった。
さて、過半を占める佐藤優の”「トランプ現象」の世界的影響、そして日本は”と言う論稿は、視点が違っていて、面白かった。
特に、トランプ大統領以後のアメリカを見極めるための、三つのポイントの指摘。
⓵1941年12月7日より前のアメリカ、非介入主義への回帰
アメリカ・ファーストと言う内向き視点のモンロードクトリンの復活・回帰であり、パクス・アメリカーナを維持すべく世界の警察を任じていたアメリカが、表舞台から退場するとどうなるのか、世界秩序が根底から変わってしまう。
⓶FBIの政治化による自由と抑圧のせめぎあい
クリントンの私用メール問題調査に捜査妨害の圧力を感じたFBIが、クリントンに最もダメージを与えるタイミング、投票日前日に捜査終結を宣言して、あたかも指揮権が発動されたかのように国民に思わせた。トランプを大統領に当選させた最大の立役者は、FBIだと言う指摘を、小沢代表の西松建設事件を東京地検の捜査と絡ませて説明している。
このFBIの立役者コミー長官を、感謝しながら、ロシアゲートで、首にしたトランプ、どうなっているのか、
⓷国内の敵探しが始まる危険な兆候
赤狩りで全米に吹き荒れたマッカーシズム、
マッカーシズムを通してトランプを見ると、「歴史は繰り返す」と言う反復現象が浮かび上がってくるのだと言う。
真実なら、民主主義の根幹に関わる脅威となる。
とにかく、日経やインターネットの記事ばかり見ていては分からない話題満載の小冊子だが、面白かった。