熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

アメリカは「ホモ・エコノミクス」・・・エマニュエル・トッド

2017年06月12日 | 政治・経済・社会
   トッドの「問題は英国ではない、EUなのだ」を読んでいて、一寸、気になった点があった。
   「今日、アメリカの学問は、完全に経済学中心となり、単純な「ホモ・エコノミクス」のモデルを世界中に適用しようとしています。」と言う指摘である。
   さらに、「左派・右派を問わず、フリードマンにしろ、スティグリッツにしろ、クルーグマンにしろ、経済学モデルですべてを説明しようとする。実に貧しいものの見方です。世界中に多様性を認めない、攻撃的で単純な普遍主義です。」と言っている。

   ケインズの時代は、経済学の中心はイギリスにあり、アメリカの学問は、今日のように経済学偏重ではなく、世界の多様性に目を向けていました。」と言っているので、人類の多様な文化文明を排除圧殺して、独善的なアメリカの価値観、特に、経済主導のアメリカのシステムを世界中に押し付けて、アメリカナイズしようとしている。と言っているのであろうか。
   経済学が、アメリカの政治経済社会の中心であるかどうかと言うことには疑問もあるが、アメリカの最も深刻な問題が、ウォールストリートや富者に富が集中した”We are the 99%”の極端な格差社会だとするならば、そうかも知れないと思っている。

   もう一歩踏み込んだ発言は、
   「もし、ルーズベルト時代のアメリカが、民主主義を押し付けようとして、結局イラク国家を破壊したのと同じイデオロギーを採用していたら、日本はどうなっていたでしょうか。日本が日本として存在できたかどうかわかりません。」と、意味深なことを言っていることである。
   全く、文化伝統なり歴史的背景や宗教や価値観など、異質な文化文明のイスラム国家であるイラクに、木に竹を接ぐように、アメリカ流の民主主義を押し付けて、再生を図ろうとして、実質的に、イラク情勢を悪化させて無茶苦茶にしてしまったのであるから、トッドの指摘には異存はない。
   後述するように、文化文明の担い手である個人にとって国家の重要性を強調するトッドにとっては、まして、中東は、国家が弱い地域で、国家建設が困難であり、アラブ世界の本質的特徴だとすれば、「国家なき空白帯」が生まれて、イスラム国の擡頭は当然だと言うことであろう。

   「1930年から1970年にかけて、アメリカは外の世界に開かれていたのですが、今日のアメリカはそうした器量を欠き、知的に貧しくなっています。」
   日本が、終戦で経験したアメリカの占領政策が、あの、オープンで開かれたアメリカン・デモクラシーの影響下で実施されたと言う現実を、トッドが認めており、当時のアメリカは、政治においても、学問においても、賞賛に値すると言っている。

   トッドは、「国家こそ、個人の自由の必要条件であり、個人の成立には国家が必要である。国家によって個人が解放され、国家は、家族、親族、部族と言った関係から、個人を開放する。」ことを、アングロサクソンは忘れている。として、
    自分たちの文化にしか可能でないモデル、すなわち、絶対核家族社会に適したモデルを世界中に広めようとして、アングロサクソンの米英は、ネオリベラリズムとグローバリズムを推進して、ヨーロッパ大陸とアジアの国家主義的なシステムを破壊してきたのだが、今や、それが、米英社会自体を破壊しようとしている。と言う。

   しかし、いずれにしろ、そのアメリカが、どんどん、弱体化して、トランプ政権になってから、さらに、内向きとなり、世界の檜舞台から退場の一途を辿り始めている。
   果たして、ネオリベラリズムに代わる新しい潮流が生まれるのであろうか。
   このネオリベラリズムもグローバリズムも限界に達してしまったのだが、かっては、アングロサクソンの先進性が、国家にあったから、新しい価値あるシステムを生み出してきたと、トッドは、アメリカに期待をしている。

   それはそれとして、Brexitも驚きなら、トランプ大統領の登場も驚きだが、それよりも、トッドの国フランスでの、これまで鎬を削って争っていたエスタブリッシュメントの筈の2大政党が退潮して、彗星のように現れたマクロンが大統領に選出され、そのホカホカのマクロン新党・共和国前進が、一気に、下院の7割を占めると言う信じられないような大変化を、どう考えるべきか。
   轟音を轟かせ地響きを立てて鳴動する、この宇宙船地球号の、直近の政治経済社会の激変と、想像を絶する時流の流れの速さは、トッド人口経済学をもってしても、予測不可能になってしまったような気がしている。
コメント
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