熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

国立能楽堂・・・銀鏡神楽 ~銀に輝く能舞台~

2019年10月10日 | 能・狂言
   宮崎県が恒例で公演している県の誇る神楽公演も、今回で4回目。
   毎回、鑑賞させてもらって居るが、日本の文化力の高さを実感して、いつも、感激している。
   プログラムは、次の通り。

第一部 講演   
【能にみる神々の舞】金春流 櫻間金記
【米良(銀鏡)神楽の特色と魅力】國學院大學 小川直之
第二部
 銀鏡神楽公演 11番

   この銀鏡神楽だが、西都市銀鏡地区に伝承される米良系の神楽で、神楽としては宮崎県で初めて、全国的にも2番目の事例として、国の無形民俗文化財に指定されたという日本屈指の神楽である。
   銀鏡を「しろみ」と読むのだが、何故、そうなのか、興味深い地元の逸話によると、
   『遠い遠い昔、初めて竜のような己の容姿を目にした磐長姫命は、驚きのあまり手にした鏡を投げ捨ててしもうた。そうして龍房山山頂の大木に引っ掛かった鏡は、周囲を白く照らすようになったとさ。このとき、夜でも昼のように明るく照らされた村は「白見村」と呼ばれ、投げられた銀の鏡にちなんで、やがて「銀鏡」と書くようになったげな。』

   銀鏡神楽(しろみ神楽)は、銀鏡神社の大祭(12月12日~16日)に、三十三番の夜神楽として奉納されるので、境内に外神屋とよばれる舞場が設けられ、神楽は、13日の夕方に式一番「星の舞」が内神屋で舞われ、14日には式二番「清山」が最初の舞になり、三十三番 神送りまで、夜を徹して15日朝まで舞い続けられると言う。
   この日の公演は、一番星神楽から、三十三番神送りまで、途中は選別されて、全部で11番が演じられた。

   銀鏡神楽の特色は何かと聞いたら、ほかの神楽と違うところは、式一番の星の舞だと言うことで、北極星を意図した神楽だと言うことであった。
   パンフレットでは、内神屋の天井中央に張った注連縄は、中国の天体思想「二十八宿星」を表現したものだと言うのだが、北極星を中心に大宇宙を回る星空を仰いで、夜を徹して神楽を舞い続けると言うのは、神仏の世界もそうだが、実にロマンがあって素晴らしい。

   80世帯くらいしかない小さな銀鏡集落で500年以上も育まれ続けてきた凄い神楽なのだが、若者の出演者が多いのは、神主が、柚子を産業資源として色々な製品を製造して村おこしをしていて、若者が地元に残って活躍しているからだと言う。
   ~銀に輝く能舞台~と銘打った神楽だが、今迄観た神楽の中で、一番芸術性が高くて洗練されていて、物語性も豊かで、ドラマチックな展開があり、能や狂言に近い感じがした。
   囃子(笛2、太鼓、板木、手平鉦)を伴った無言劇と言う要素もあって、興味深い。
 
   櫻間金記師は、式能から五番目ものまでの能の基礎から説き起こして、実際に、神舞を舞い、そして、神楽の詞章にある天照大神の天岩戸のシーンと同じ能「三輪」の天岩戸逸話の部分を地謡パートも独吟して舞ってみせた。
   興味深かったのは、神舞を、囃子の部分を口三味線宜しく口囃子で非常に調子よく謡いながら舞い続けたことである。
   実際に歌舞伎などで口三味線を聴いてその気になるのだが、能の囃子も、能楽師には、本当はあのように、リズミカルに謡うように聞こえているのかと思うと、正に、オペラの世界であり、新鮮な驚きであった。

   もう一つ櫻間師の話で面白かったのは、神舞は、様式化されていてすべて同じで、早くしたり遅くしたり、シチュエーションによって異なるが、何を舞っているのだと言われても困ると語っていたことである。

   ところで、この銀鏡神楽の舞台は、能楽堂の舞台に、一面ゴザが敷き詰められていて、日頃、ひのき舞台で摺り足で舞っている櫻間師のことであるから、神舞で、一寸、足を取られかけたが、囃子なし、地謡なしでありながら、凄い仕舞の至芸を魅せて貰って感激したひと時であった。
   この銀鏡神楽の特色と言うか至芸の一つは、足さばき、足の動きが天下一品で、おいそれとまねのできないほど難しく凄いのだと言う。
   とにかく、ゴザ敷きの舞台を滑るように流れるように飛ぶように踊るように舞っていて、美しい。
   
   山深い小さな寒村と思しき銀鏡集落で、このような凄い神楽が演じ続けられていると言うことは、私など、神がかりに近いとしか思えないのだが、伝統を守り続けると言うことは、こう言うことなのであろうか。
   いつも許されていた写真が禁止であったので、今回は舞台写真がない。

(追記)冒頭、宮崎県を、宮城県と打ち間違えたのを、訂正。
コメント (1)
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