ロンドン交響楽団は、四年間、会員権を維持して、バービカン・ホールに通っていたので、色々な思い出がある。しかし、記録に残しているのは僅かで、メモの残っている「ドイツ・レクイエム」の時のコンサートについて書いてみたい。
口絵写真は、ウィキペディアからの借用で、本拠地バービカンセンター・ホールのロンドン響で、ホールに隣接してRSCのシェイクスピア劇場が併設されていたので、ここには足繁く通った。
1993年6月某日 この日の演奏会は、アンドレ・プレヴィン指揮・ピアノで、モーツアルトのピアノ協奏曲第21番、そして、ブラームスのドイツ・レクイエムで、ソリストは、ソプラノ・シルビア・マクネール、バリトン・トーマス・アレン、コーラスはロンドン・シンフォニー・コーラス。
この合唱団は、ロンドン響の定期で、ヘンデルのメサイア、マーラーの第3、ベートーヴェンの第9、ブリテンのウォー・レクイエム等結構聴く機会があったが、素晴らしいコーラスである。当時、この合唱団で、アバード指揮ベルリン・フィルのドイツ・レクイエムのCDが出ていて、車の通勤中などで聴いていたが、やはり、実演の迫力は何物にも代えがたい。
マクネールは、前年、ロイヤル・オペラで、EC統合を記念して上演されたロッシーニの「ランスへの旅立ち」で、ギリシャの女神コリーナを歌ったのだが、その素晴らしい歌唱に魅了されてしまった。舞台中央の高みに設えられた小さな円形の神殿の奥のベールの影から、限りなく美しい女神の声が天国から聞こえてくる・・・丁度そんな感じであった。それに色白の美人で、白いギリシャのチュニクがぴったり合っていて容姿の美しさを際立たせていた。
このオペラは、よく知らなかったので、ホテルの女主人を歌うモンセラ・カバリエを聴くつもりで行ったのだが、このマクネール以外にも役者が揃っていて、ヨーロッパ各国を代表する登場人物が、恋物語を織りなしながらコミカルに舞い歌う、まさにお祭り気分のカラフルな舞台で、鳴り物入りのEC統合を祝賀するうってつけのオペラであった。
マクネールは、グラインドボーンで、ストラビンスキーの「道楽者のなりゆき」にアン役で出ていたが、奇天烈な登場人物の中にあって、一人だけ場違いに綺麗な人が出ているなあと思った記憶があるのだが、これが最初で、コベントガーデンでも何回か聴いており、CDも買った。
この日のマクネールは、白く光り輝くイブニングドレスのようなしっとりとした衣装を身につけて、ヘアーはアップしてうなじを出すスタイルだが、プログラムの写真もそうなので、好きな髪型なのかも知れない。出だしは少し重かったが、天国の母が、ブラームスに優しく語りかけているような、そんな美しい声であった。ハイティンクが、ベルリン・フィルとのマーラーの交響曲のソリストにマクネールを起用したのが良く分かる。
私の私見だが、これまで聴いたソプラノの中で、マクネールは、キャサリン・バトルに並んで、美しい声を持つ魅力的な歌手だと思っている。余談だが、バトルは、METと悶着を引き起こして、なぜ、素晴らしい将来を棒に振ってしまったのか、残念だが、マリア・カラスとは桁が違っていたと言うことであろうか。
さて、トーマス・アレンは、英国の誇るバリトン。何回も、コベントガーデンで聴いているが、最初に彼を聴いたのは、半世紀も前になるが、東京のロイヤル・オペラ公演のモーツアルトの「魔笛」で、パパゲーノを歌っていた時。大柄で一寸馬力のあるパパゲーノで、上からパンやワインの入ったバスケットが下りてくるシーンで、アドリブで「オサシミ!」、と大きな声を出したので、観客が沸いていたのを覚えている。
ロイヤル・オペラでは、モーツアルトの「フィガロの結婚」の伯爵と「ドン・ジョバンニ」のタイトル・ロールを思い出す。アレンは、ハンサムで舞台姿がダンディで見栄えがして藝が上手いので見ていて楽しい。可愛いマリー・マクローリンを口説く好色な伯爵、キリ・テ・カナワに迫られてこそこそ逃げていくドン・ジョバンニと、それぞれ貴族の威厳を保ちながらの演技で、流石に、シェイクスピアの国の歌手だけあって、観客の目が厳しい所為もあるのであろう、藝が抜群に上手い。勿論藝だけではなく、歌唱もトップクラスなので、ミラノ、ウィーン、ミュンヘン、ザルツブルグ、METと引く手数多である。
この日は、ホワイト・タイの正装で、全く直立不動の超真面目スタイルで歌っているので、オペラの舞台とは全く違う。幾分重々しくて太い声で歌う、レクイエム・モードである。これは、私だけの印象かも知れないのだが、このシーズン、ロイヤル・オペラで、サミュエル・レイミーの「ファウストの劫罰」と「アッチラ」を観たのだが、モーツアルト専科に近いアレンにも、このレイミーのような、あるいは、ルッジェロ・ライモンディのように、少しアクの強い性格的なレパートリーが欲しい。切々とドイツ・レクイエムを歌うトーマス・アレンの歌を聴きながら、そんなことを思った。当時、ロンドンに居たときに、BBCで、原作と同じ場所で同じ時間に「トスカ」が演じられて放映され、ドミンゴとマルフィターノと共に歌ったスカルピア男爵のライモンディの凄さに圧倒されたのだが、あの迫力が、アレンのドン・ジョバンニに少しでもあったらと思ったのである。
アンドレ・プレヴィンは、多才多芸な音楽家で、ジャズピアノも良くし、ハリウッドの映画音楽などの作曲家で、クラシックの指揮のみならず室内楽の演奏も積極的。
モーツアルトのピアノ協奏曲はお手の物としても「ドイツ・レクイエム」を、感動的に歌わせるなど流石である。勿論、世界中の名だたるオーケストラを客演しており、ピエール・モントゥーに指揮法を学び、ロンドン響の指揮者を長く務めており、当然のこと、オーケストラとも呼吸ピッタリで、終演後も、素晴らしいサウンドの余韻が覚めやらなかった。
このアンドレ・プレヴィン、女優のミア・ファローやヴァイオリニストのアンネ=ゾフィー・ムターらと結婚したという映画音楽のような華麗な人生を送ってきている。
口絵写真は、ウィキペディアからの借用で、本拠地バービカンセンター・ホールのロンドン響で、ホールに隣接してRSCのシェイクスピア劇場が併設されていたので、ここには足繁く通った。
1993年6月某日 この日の演奏会は、アンドレ・プレヴィン指揮・ピアノで、モーツアルトのピアノ協奏曲第21番、そして、ブラームスのドイツ・レクイエムで、ソリストは、ソプラノ・シルビア・マクネール、バリトン・トーマス・アレン、コーラスはロンドン・シンフォニー・コーラス。
この合唱団は、ロンドン響の定期で、ヘンデルのメサイア、マーラーの第3、ベートーヴェンの第9、ブリテンのウォー・レクイエム等結構聴く機会があったが、素晴らしいコーラスである。当時、この合唱団で、アバード指揮ベルリン・フィルのドイツ・レクイエムのCDが出ていて、車の通勤中などで聴いていたが、やはり、実演の迫力は何物にも代えがたい。
マクネールは、前年、ロイヤル・オペラで、EC統合を記念して上演されたロッシーニの「ランスへの旅立ち」で、ギリシャの女神コリーナを歌ったのだが、その素晴らしい歌唱に魅了されてしまった。舞台中央の高みに設えられた小さな円形の神殿の奥のベールの影から、限りなく美しい女神の声が天国から聞こえてくる・・・丁度そんな感じであった。それに色白の美人で、白いギリシャのチュニクがぴったり合っていて容姿の美しさを際立たせていた。
このオペラは、よく知らなかったので、ホテルの女主人を歌うモンセラ・カバリエを聴くつもりで行ったのだが、このマクネール以外にも役者が揃っていて、ヨーロッパ各国を代表する登場人物が、恋物語を織りなしながらコミカルに舞い歌う、まさにお祭り気分のカラフルな舞台で、鳴り物入りのEC統合を祝賀するうってつけのオペラであった。
マクネールは、グラインドボーンで、ストラビンスキーの「道楽者のなりゆき」にアン役で出ていたが、奇天烈な登場人物の中にあって、一人だけ場違いに綺麗な人が出ているなあと思った記憶があるのだが、これが最初で、コベントガーデンでも何回か聴いており、CDも買った。
この日のマクネールは、白く光り輝くイブニングドレスのようなしっとりとした衣装を身につけて、ヘアーはアップしてうなじを出すスタイルだが、プログラムの写真もそうなので、好きな髪型なのかも知れない。出だしは少し重かったが、天国の母が、ブラームスに優しく語りかけているような、そんな美しい声であった。ハイティンクが、ベルリン・フィルとのマーラーの交響曲のソリストにマクネールを起用したのが良く分かる。
私の私見だが、これまで聴いたソプラノの中で、マクネールは、キャサリン・バトルに並んで、美しい声を持つ魅力的な歌手だと思っている。余談だが、バトルは、METと悶着を引き起こして、なぜ、素晴らしい将来を棒に振ってしまったのか、残念だが、マリア・カラスとは桁が違っていたと言うことであろうか。
さて、トーマス・アレンは、英国の誇るバリトン。何回も、コベントガーデンで聴いているが、最初に彼を聴いたのは、半世紀も前になるが、東京のロイヤル・オペラ公演のモーツアルトの「魔笛」で、パパゲーノを歌っていた時。大柄で一寸馬力のあるパパゲーノで、上からパンやワインの入ったバスケットが下りてくるシーンで、アドリブで「オサシミ!」、と大きな声を出したので、観客が沸いていたのを覚えている。
ロイヤル・オペラでは、モーツアルトの「フィガロの結婚」の伯爵と「ドン・ジョバンニ」のタイトル・ロールを思い出す。アレンは、ハンサムで舞台姿がダンディで見栄えがして藝が上手いので見ていて楽しい。可愛いマリー・マクローリンを口説く好色な伯爵、キリ・テ・カナワに迫られてこそこそ逃げていくドン・ジョバンニと、それぞれ貴族の威厳を保ちながらの演技で、流石に、シェイクスピアの国の歌手だけあって、観客の目が厳しい所為もあるのであろう、藝が抜群に上手い。勿論藝だけではなく、歌唱もトップクラスなので、ミラノ、ウィーン、ミュンヘン、ザルツブルグ、METと引く手数多である。
この日は、ホワイト・タイの正装で、全く直立不動の超真面目スタイルで歌っているので、オペラの舞台とは全く違う。幾分重々しくて太い声で歌う、レクイエム・モードである。これは、私だけの印象かも知れないのだが、このシーズン、ロイヤル・オペラで、サミュエル・レイミーの「ファウストの劫罰」と「アッチラ」を観たのだが、モーツアルト専科に近いアレンにも、このレイミーのような、あるいは、ルッジェロ・ライモンディのように、少しアクの強い性格的なレパートリーが欲しい。切々とドイツ・レクイエムを歌うトーマス・アレンの歌を聴きながら、そんなことを思った。当時、ロンドンに居たときに、BBCで、原作と同じ場所で同じ時間に「トスカ」が演じられて放映され、ドミンゴとマルフィターノと共に歌ったスカルピア男爵のライモンディの凄さに圧倒されたのだが、あの迫力が、アレンのドン・ジョバンニに少しでもあったらと思ったのである。
アンドレ・プレヴィンは、多才多芸な音楽家で、ジャズピアノも良くし、ハリウッドの映画音楽などの作曲家で、クラシックの指揮のみならず室内楽の演奏も積極的。
モーツアルトのピアノ協奏曲はお手の物としても「ドイツ・レクイエム」を、感動的に歌わせるなど流石である。勿論、世界中の名だたるオーケストラを客演しており、ピエール・モントゥーに指揮法を学び、ロンドン響の指揮者を長く務めており、当然のこと、オーケストラとも呼吸ピッタリで、終演後も、素晴らしいサウンドの余韻が覚めやらなかった。
このアンドレ・プレヴィン、女優のミア・ファローやヴァイオリニストのアンネ=ゾフィー・ムターらと結婚したという映画音楽のような華麗な人生を送ってきている。