経済学者のオデッド・ガロー が表した歴史書「格差の起源 なぜ人類は繁栄し、不平等が生まれたのか The Journey of Humanity: The Origins of Wealth and Inequality」
本のタイトルは、 「The Journey of Humanity」 「人類の発展への旅路」と言うことであろうか
サブタイトルが、Wealth and Inequality(繁栄と不平等)となっているとおり、2部に分かれていて、「何が「成長」をもたたらしたのか」「なぜ「格差」が生じたのか」
新版のサブタイトルが、 And the Keys to Human Progress となっているように、15万年程前に東アフリカで出現した我々の祖「ミトコンドリア・イヴ」から、「出アフリカ」を経て大移動によって全地球に広がって今日の繁栄を築いてきたホモ・サピエンスの軌跡を克明に追いながら、その発展と格差へとドライブした要因は何であったのかを論じた本である。
技術、人口統計、文化、貿易、植民地主義、地理、制度といった世界経済史の諸要素を見事に織り込み深く論じた統一理論を創り上げたと言うこの本、新しい知見を含めて、歴史経済学と言った位置づけでもあり、話題が多岐にわたっているので、非常に面白い。
今回は、第1部の「成長」について考えてみたい。
地球上に数多生物が生息しながら、人類の発展は並外れている。
人類の成長発展の最初の引き金を引いたのは、「脳」の発達であり、脳の機能の拡大は人類に特有の進化圧への適応によるものであった。
高性能の脳を備えた人類は次第に優れた技術を開発し、狩猟採集の効率を高め、人口を増やすことが出来,手足の器用さなどこれらの技術を上手く使いこなせるのに適した特質が、人間の生存に有利に働いた。
これらの過程は、変わり続ける環境に人類が適応する力を絶えず高めて繁栄して発展し、アフリカから脱出して、様々な生活環境で危険な気候条件から身を守りながら、新しい生活場所を求めて全世界に広まることを可能にした。
今から約1万2000年前、一部の集団が定住生活に切り替えて食糧を栽培し、家畜を飼い始めた。数千年足らずに、人類の大多数は移動生活を止めて、この農業革命に追随した。
灌漑や耕作方法などの技術革新によって農業生産高が増えて人口密度が上がり、非生産階級が出現して、科学技術や芸術文化の発展を加速させて文明の誕生に繋がり、村が町になり都市へと発展していった。技術の進歩によって人口の増加が可能になり、あらたな技術に適応した社会の特性が広がり、創造とその導入が更に促進されて、この人類史の巨大な歯車が水面下で回り続けて,人類の旅を推し進めた。
しかし、そのような革命的な変化にも拘わらず、人類の生活水準は、一向に向上しなかった。人類史の大半を通して、技術の進歩は人々の物質的豊かさを長期にわたって向上させることが出来なかった。
技術革新は、数世代の間は、経済の繁栄を促し謳歌したが、決まって人口の増加を招き、進歩の成果を多くの人間に分配して食い潰して、人々の暮らしは、元の生活水準に引き戻された、すなわち、マルサスの罠から脱し得なかったのである。
それでも、人類の歴史を通して、技術の進歩は加速を続けて、ついに、臨界点に達した。
北ヨーロッパの狭い範囲で18世紀と19世紀に始まった産業革命の技術革新は、ある特別な資源の需要、すなわち、新しいばかりではなく絶えず変化する技術環境に対応できる技能と知識への需要を高めた。
そのような世界に子供を備えさせるために、親は養育や教育に投資を増やし、出産を抑えることを余儀なくされて、平均寿命の急上昇と子供の死亡率の低下によって、教育がもたらす利益の持続期間が延び、人的資本への投資と出生率削減への意欲が更に高まった。
これらの要因が合わさって、人口転換の引き金となり、経済成長と出生率アップとの根強い正の相関が絶たれた。成長の過程が人口増加による相殺効果から解放されて、技術の向上が、繁栄を、束の間ではなく永続的に進展させることが可能となった。労働者の質が高まり、技術の進歩が更に加速し、持続的な経済成長によって一人あたりの所得も持続的に増えて生活水準が上昇していった。
この革命的変化が、この200年で進行している人類発展の軌跡を引き起こしたのである。
ところで、技術の目覚ましい進歩と生活水準の大幅な改善の恩恵は、世界各地に均等に行き渡ったわけではなく,社会の内部でもおぞましいほど差を生んでおり、自然災害やパンデミック、戦争、残虐行為、政治や経済の大変動が無数の人の命を奪うことがあった。
しかし、これらの悲劇や不公正は、人類の旅の長期的な進路をそらしはしなかった。人類全体の生活水準は、これらの惨禍から驚くべき速さで立ち直り、勢いよく向上し続けた。そして、それを促した巨大な歯車は、技術の進歩と人口変動(規模と構成の変化)であった。と言うのである。
これからの人類にとって最大の脅威は、地球温暖化による環境破壊だが、
進歩の時代に華々しく解き放たれた人類の驚くべき技術革新力は、出生率の低下と相まって――それらはどちらも人的資本の形成によって促進される――これから必要になる画期的技術の時宜に適った発展を可能にし、今後の数世紀で、この気候危機を薄れ行く記憶に変えるはずである。と言う。
筆者の思想には、人口増加抑制傾向は現世ではほぼビルトインされているので、豊かで適切な人的投資によって、人類の技術革新力を涵養して、これまでの成長軌道にのった人類の長期的な旅の進路を踏み外さなければ、未来は明るいとする楽観論が貫かれているような感じがして、非常に興味深い。
本のタイトルは、 「The Journey of Humanity」 「人類の発展への旅路」と言うことであろうか
サブタイトルが、Wealth and Inequality(繁栄と不平等)となっているとおり、2部に分かれていて、「何が「成長」をもたたらしたのか」「なぜ「格差」が生じたのか」
新版のサブタイトルが、 And the Keys to Human Progress となっているように、15万年程前に東アフリカで出現した我々の祖「ミトコンドリア・イヴ」から、「出アフリカ」を経て大移動によって全地球に広がって今日の繁栄を築いてきたホモ・サピエンスの軌跡を克明に追いながら、その発展と格差へとドライブした要因は何であったのかを論じた本である。
技術、人口統計、文化、貿易、植民地主義、地理、制度といった世界経済史の諸要素を見事に織り込み深く論じた統一理論を創り上げたと言うこの本、新しい知見を含めて、歴史経済学と言った位置づけでもあり、話題が多岐にわたっているので、非常に面白い。
今回は、第1部の「成長」について考えてみたい。
地球上に数多生物が生息しながら、人類の発展は並外れている。
人類の成長発展の最初の引き金を引いたのは、「脳」の発達であり、脳の機能の拡大は人類に特有の進化圧への適応によるものであった。
高性能の脳を備えた人類は次第に優れた技術を開発し、狩猟採集の効率を高め、人口を増やすことが出来,手足の器用さなどこれらの技術を上手く使いこなせるのに適した特質が、人間の生存に有利に働いた。
これらの過程は、変わり続ける環境に人類が適応する力を絶えず高めて繁栄して発展し、アフリカから脱出して、様々な生活環境で危険な気候条件から身を守りながら、新しい生活場所を求めて全世界に広まることを可能にした。
今から約1万2000年前、一部の集団が定住生活に切り替えて食糧を栽培し、家畜を飼い始めた。数千年足らずに、人類の大多数は移動生活を止めて、この農業革命に追随した。
灌漑や耕作方法などの技術革新によって農業生産高が増えて人口密度が上がり、非生産階級が出現して、科学技術や芸術文化の発展を加速させて文明の誕生に繋がり、村が町になり都市へと発展していった。技術の進歩によって人口の増加が可能になり、あらたな技術に適応した社会の特性が広がり、創造とその導入が更に促進されて、この人類史の巨大な歯車が水面下で回り続けて,人類の旅を推し進めた。
しかし、そのような革命的な変化にも拘わらず、人類の生活水準は、一向に向上しなかった。人類史の大半を通して、技術の進歩は人々の物質的豊かさを長期にわたって向上させることが出来なかった。
技術革新は、数世代の間は、経済の繁栄を促し謳歌したが、決まって人口の増加を招き、進歩の成果を多くの人間に分配して食い潰して、人々の暮らしは、元の生活水準に引き戻された、すなわち、マルサスの罠から脱し得なかったのである。
それでも、人類の歴史を通して、技術の進歩は加速を続けて、ついに、臨界点に達した。
北ヨーロッパの狭い範囲で18世紀と19世紀に始まった産業革命の技術革新は、ある特別な資源の需要、すなわち、新しいばかりではなく絶えず変化する技術環境に対応できる技能と知識への需要を高めた。
そのような世界に子供を備えさせるために、親は養育や教育に投資を増やし、出産を抑えることを余儀なくされて、平均寿命の急上昇と子供の死亡率の低下によって、教育がもたらす利益の持続期間が延び、人的資本への投資と出生率削減への意欲が更に高まった。
これらの要因が合わさって、人口転換の引き金となり、経済成長と出生率アップとの根強い正の相関が絶たれた。成長の過程が人口増加による相殺効果から解放されて、技術の向上が、繁栄を、束の間ではなく永続的に進展させることが可能となった。労働者の質が高まり、技術の進歩が更に加速し、持続的な経済成長によって一人あたりの所得も持続的に増えて生活水準が上昇していった。
この革命的変化が、この200年で進行している人類発展の軌跡を引き起こしたのである。
ところで、技術の目覚ましい進歩と生活水準の大幅な改善の恩恵は、世界各地に均等に行き渡ったわけではなく,社会の内部でもおぞましいほど差を生んでおり、自然災害やパンデミック、戦争、残虐行為、政治や経済の大変動が無数の人の命を奪うことがあった。
しかし、これらの悲劇や不公正は、人類の旅の長期的な進路をそらしはしなかった。人類全体の生活水準は、これらの惨禍から驚くべき速さで立ち直り、勢いよく向上し続けた。そして、それを促した巨大な歯車は、技術の進歩と人口変動(規模と構成の変化)であった。と言うのである。
これからの人類にとって最大の脅威は、地球温暖化による環境破壊だが、
進歩の時代に華々しく解き放たれた人類の驚くべき技術革新力は、出生率の低下と相まって――それらはどちらも人的資本の形成によって促進される――これから必要になる画期的技術の時宜に適った発展を可能にし、今後の数世紀で、この気候危機を薄れ行く記憶に変えるはずである。と言う。
筆者の思想には、人口増加抑制傾向は現世ではほぼビルトインされているので、豊かで適切な人的投資によって、人類の技術革新力を涵養して、これまでの成長軌道にのった人類の長期的な旅の進路を踏み外さなければ、未来は明るいとする楽観論が貫かれているような感じがして、非常に興味深い。