熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

格差の起源 なぜ人類は繁栄し、不平等が生まれたのか(2)格差

2023年05月06日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   オデッド・ガロー の「格差の起源」の第2部「なぜ「格差」が生まれたのか」について、考えてみたい。
   興味深いのは、現在の格差問題を分析しながら、その起源を、歴史を逆戻りして、原初の人類誕生にまで翻って検討していることである。

   まず、発展途上国の貧困は、主として不適切な経済や政治の政策の結果であり、従って普遍的な一連の構造改革を実施すれば解消されるという通念の誤りについて、もっと根深い根源的な要因があって、そうした政策の有効性を損ねている重大な影響を無視しているとして、
   その例として、ワシントン・コンセンサスを糾弾している。
   発展途上国への政策提言として、世界銀行やIMFが、貿易の自由化、国有企業の民営化、財産権の保護の充実、規制緩和、課税ベースの拡大と限界税率の引き下げなどの政策を推進させて努力したにも拘わらず、成功は限定的で成果は殆ど上がらなかった。これらの政策は、経済成長のための社会や文化の前提条件を既に整えた国家にとっては有効かも知れないが、これらの土台を欠いたり、社会の結束が弱かったり、賄賂が横行している環境では、これらの普遍的改革は実を結ばなかったのである。
   先進国の後追い政策は、後進の発展途上国の指針にはなり得ない、ロストウの経済成長の発展理論は、最早骨董になって使い物にはならないと言うことである。
   余談ながら、これと同じことは、このブログで何度も論及しているように、今日、発展途上国が経済成長を策すためには、西側先進諸国の民主主義体制を取るよりも、中国型の専制主義的な政治経済体制を取る方が有効だと言うことである。このことは、現代史における逆転現象で、残念ながら、民主主義勢力の退潮を現出しており、歴史の逆行でもある。

   さて、格差のおおもとは、植民地化とグローバル化との非対称の影響である。
   この両制度は、西欧の国々の工業化や発展のペースを速める一方、発展の遅れた国々が貧困の罠から逃れるのを遅らせた。
   世界の一部の後進地域では、既存の経済の不平等と政治の不平等を永続させるように作られた収奪的な植民地制度が持続したために成長が抑えられ,国家間の格差を更に広げることになった。
   
   人類の歴史においては、地理的な特性と人口集団の多様性こそが、何をおいても、世界の格差の背後にある最も根深い要因である。そして、文化や制度の環境への適応は、しばしば、世界各地の社会で発展の進む速度を決めている。と説く。
   一部の地域では、成長を促すような地理や多様性のお陰で、文化の特性や制度の特徴が環境に迅速に適応し、技術の進歩の加速に繋がった。何世紀も後、この過程が人的資本の需要爆発を引き起こし、出生率が低落して、それによって経済が成長軌道に乗り、近代の成長時代への移行が始まった。
   別の場所では、地理や多様性と文化や制度の相互作用の悪循環などで、社会の進展が遅れてゆっくりと旅路を歩むこととなり、マルサスの罠から逃れる時期が遅れた。
   こうして、現代世界に見られるような巨大な格差が生まれた。と言うのである。
  
   著者は、特に人口集団の多様性について注目しており、最終章「出アフリカ」において、「東アフリカからの移動距離と先住民族集団内の多様性」について計測して、移動距離と観察可能な特性の多様性との間に密接な負の相関関係があると指摘している。
   この多様性だが、相反する影響を経済にもたらしている。
   多様性は、社会的な相互作用の中で、個人の価値観や信念や嗜好の幅を広げることによって、個人間の信頼を低下させ、社会の結束を弱め、内戦を増やし、交易の提供を非効率化し、その所為で景気を悪化させる。その一方で、社会の多様性は、経済の発展を促してもきた。技能や問題解決の取り組み方など、個人の特性の幅を広げることによって、専門化が進んだり、革新的な活動でアイデアの「交雑」を後押ししたりして、変わりゆく技術環境に迅速に適応することを可能にした。 
   現在の繁栄の最も深い起源だが、出アフリカの道筋によって部分的に決まった各社会の多様性の度合いが、人類史全体にわたって、経済の繁栄に長期的な影響をもたらした。技術革新を誘発する「交雑」と社会の結束の両面でスィートスポットを上手く捉えた人口集団が、最も大きな恩恵を受けた。と言うのである。

   私自身は、著者の「地理的な特性と人口集団の多様性こそが世界の経済格差の根本要因だ」という説については、反論はしないが、
   やはり、今日の先進国と発展途上国など遅れた国との経済格差の要因は、「植民地化とグローバル化との非対称の影響」が大きいと思っている。
   植民地や遅れた国を搾取し踏み台にして、政治経済社会の好循環に恵まれて、工業化や近代化を進めて発展を遂げてきた西欧の国々に対して、発展の遅れた国々は、既存の政治や経済の不平等を内包した収奪的な植民地制度を持続して成長への芽が摘まれて、貧困の罠から抜け出せなかった。
   国家の政治経済社会構造が、権力と富が偏在した専制的な独裁体制ではなくて、革新的な進歩発展を策せる自由で公正な機動性に富む柔軟な体制であるほど望ましかったと言うことであり、この制度の違いが明暗を分けた。

   何故、社会制度など文化的な要素を重視するのかと言うことだが、これは、かって4年間ブラジルに住んでいた経験からである。
   もう、半世紀以上も前から、明日の経済大国と囃され、BRIC’sでも脚光を浴びた資源大国のブラジルが、未だに鳴かず飛ばずで汚職社会からさえ抜けきれず、成長頓挫の苦境に呻吟し続けているのは、ポルトガル時代に刷り込まれた強烈なマイナスのラテン気質の為せる業、
   そして、神の恵みを受けたはずの資源豊かなアルゼンチンやヴェネズエラなどラテンアメリカの惨状を見ても、宗主国スペインの残した負の遺産故であって、
   ダロン・アセモグルが国家の衰退要因だと説いた収奪的政治制度や経済制度の一変形である深刻な国家病、
   植民地化の残した罪は深くて重い。   
コメント
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