熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

会社は誰のために・・・御手洗・丹羽対話(2)

2006年08月28日 | 経営・ビジネス
   第一章の「改革力を身につける」は、御手洗社長時代のキヤノンの経営改革が語られ、それに呼応して丹羽会長が伊藤忠の改革力を語る。

   御手洗会長は、社長就任時に、グローバリゼーション下の世界の潮流とキヤノンの経営との乖離、即ち、激烈な国際競争下にある「公平・公正な世界」に身を置くことなく、平等主義と官僚優先の日本の経済社会に安住しているキヤノンの現状を知って、ダイナミックな世界の動きに応じて発展して行くためには、グローバリゼーションの波に乗り、フェアな競争を闘い抜ける強い体質に早急に改革する必要を感じた。

   北米での薄利多売の事業に対して、米国税務官に、売掛金を回収してそれを銀行に預けて事務所を畳んで帰った方がマシだと揶揄されて、会社にとって必要なのは「利益」であることを悟り、これが、御手洗経営の「利益優先主義」の原点になったと言う。
   長期的な研究開発を遂行するためには十分な自己資本の確保は急務であり、この利益優先は必須であると同時に、PLからBS重視、そして、キャッシュフロー経営重視に会社経営戦略を大きく切り替えた。
   これは、アメリカで培った経営哲学の実践であるが、他の日本企業より、その実践は数段早く、今日の先手必勝のキヤノンの好業績を支えている。
   御手洗会長の在米当時の日本企業は、売上至上主義で売り上げ競争に狂奔し、海外事業などは売上に貢献しておればOKとされて、赤字でも許されていて謂わばアクセサリーのような存在であった。
   まだ、日本企業の海外生産拠点が殆どなかった頃で、販売拠点が海外にあって、海外でモノを売っておれば国際化していると考えられていた頃のことである。

   次の御手洗経営の真髄は、「部分最適」ではなく「全体最適」を目指した経営である。
   あのキヤノンでさえも、日本本社が海外の販売会社に商品を押し付けたり、事業部間の軋轢があるなど部門間の不協和音が業績の足を引っ張っていたようで、「連結評価制度」を導入することによってこの弊害を除去し、全体最適の考え方を徹底させて、事業部間の壁をなくし、一つの会社として無駄をなくそうと考えたのだと言う。
   この方針を真似て、松下電工を子会社にまでした中村革命の全体最適戦略は、松下をソニー以上にイノベイティブな企業に変身させた。
   
   この「利益優先主義」と「全体最適」が御手洗経営哲学の核だが、更に、果敢に挑戦したのは、不採算部門の整理で、反対を押し切ってパソコン事業を切り捨てた。
   伝統的に独自技術の開発にこだわる風土を持ち、その独自技術で新しい製品を生み出し、また新事業を開拓して行くのがキヤノン流だが、儲からない事業に命を賭けては困るのだと言う。ジャック・ウエルチ流の集中と選択戦略の踏襲であり、多くの家電・電機メーカーが総花的な事業展開で危機に瀕したのとは好対照である。

   さて、ブロードバンド時代の動画技術の確保は必須だとして、東芝とSEDを共同開発しているが、その将来はどうなるのであろうか。
   液晶とプラズマの世界メーカーが激烈な持続的イノベーション競争を続けており、クリステンセンの理論から言っても、既にメーカーの技術革新が需要者・消費者のニーズを超えており、更に長足の進歩が期待されている。
   果たして、破壊的イノベーションでもなさそうなSEDに、コスト競争力と市場参入の価値があるのかどうか、第二のパソコン事業にならないように祈るのみである。

   面白いのは、御手洗会長の「100年以上続いている会社の研究」で、研究の結果、「独自の技術を開発して、それを商品化して市場を創造し、発展して行く。こう言う循環になっている」ことが分かったので、キヤノンをそのようなサイクルを持った会社にしたいと言う。

   ところで、キヤノンのこのキャッシュフローやBS重視経営、連結評価制度等を包含した「利益優先主義」も「全体最適」も、アメリカのビジネス・スクールで以前から教えている経営理論であって、何ら新しい概念でも何でもない。
   しかし、御手洗会長が言うように世界潮流から乖離していた日本企業を方向転換して、このグローバル・スタンダード経営手法を導入して改革することが如何に困難で至難の業であるか、御手洗会長だから出来たと言う以外にはないと思う。
   
   さて、丹羽会長の伊藤忠改革であるが、瀕死の状態であった会社を見事に再生させた手腕は高く評価されている。
   会社と心中する積もりで果敢に実施した膨大な特別損出の処理が会社を救ったのだが、無配の苦渋に耐えながら報酬を返上して、電車での通勤を押し通した。
   給料がないのに、税金は前年度の所得に課せられるので、税金だけ払い続けたというが、この公平無私の姿勢が信頼を集めている。

   守勢一辺倒の経営姿勢は会社を潰すと言う強い信念で、川上から川中を中心としたトレード・ビジネスを、川上まで傘下に収める「縦の総合化」を図って、「利益の根源に迫る」戦略を推進した。
   ものを左右に動かせて口銭ベースで稼ぐだけではなく、他の企業との連携を図って新たな収入源を積極的に求めたと言う。

   三年連続赤字の会社は全部整理しろと檄を飛ばして大鉈を振るって多数の子会社を整理して、企業経営の健全化を図り効果をあげたと言う。

   この伊藤忠の場合も、キヤノンの場合も、企業の再生・改革は、トップ主導で行われたが、やはり、激動の乱世は、英邁な指導者が出現して大鉈を振るうことであろうか。
   
   

   
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