熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

300年の企業価値を棒に振る赤福の背信

2007年10月13日 | 経営・ビジネス
   食料品偽装事件は、依然後を絶たず、とうとう、私自身もファンである300年の老舗赤福まで事件を起こしてしまった。
   当日作りたて新鮮を売り物にしていた赤福が、30余年間にもわたって、生産過剰・売れ残りの菓子を最大2週間も冷凍保存して、製造日付を書き換えて包装し直して出荷していた、そして、重量順に記載すべき原材料名を、「小豆、もち米、砂糖」と健康食品を装って、最も重い砂糖を最下位に表示していたと言うのである。
   農林水産大臣が、記者会見で、先日、寝る前に美味しく頂いたと言うのだから、正に茶番劇である。

   食品の偽装については、雪印以降、今年に入ってからも、不二家、ミートホープ、白い恋人など後を絶たないが、私が、ここで問題にしたいのは、300年の歴史が如何に貴重な企業の財産なのか、そして、その伝統を棒に振った経営についての問題の深刻さである。
   上村達男早大教授が、
   「日本は伝統社会で1000年以上たった会社が100以上あり、1400年の伝統を持つ宮大工の「金剛組」などは国宝として保護すべきで、世界遺産かも知れない。」と言って、会社が提供する企業価値とは何なのかを熱っぽく語っている。(株式会社はどこへ行くのか)
   上村教授が引用したのは、野村進氏の「千年、働いています――老舗企業大国ニッポン」だが、この本の中には、世界でも稀有なほど永い伝統と歴史を持って今でも素晴らしい業績を上げ続けている日本企業について書かれていて、ニッポンの老舗の奥深さには感動さえ覚える。

   もっとも、同じ建設会社でも、創業100年以上の社歴を持ちながら談合塗れのゼネコンもあるなど、歴史が古いと言うだけでは生き抜いてきたと言うだけで何の意味もないケースも多い。
   しかし、赤福の場合は、江戸中期からの300年の歴史があり、それに日本社会に根ざした意味合いの深さは格別であり、近代経営への移行と言う日本企業の経営の問題も色濃く引き摺っている。

   赤福は、伊勢神宮門前の旅人相手の地菓子であるあんころ餅が、当時ブームを呼んだ「お陰参り」や「抜参り」、「お伊勢参り」などの客に受けて伊勢名物になったと言うことだが、
   消費期限についても、製造年月日を含めて夏は2日冬は3日と極めて厳しく、そのために、市場も神戸から名古屋までに限っていた。
   ところが、73年ごろ、20年毎の伊勢神宮社殿立替行事「式年遷宮」での観光客増加を見越して冷凍保存戦略を打ったのが、そもそも今回の躓きの始まりだと言う。まさに、2日しか消費期限のない需要変動の激しい命の短い商品の在庫流通管理の難しさが、今回の経営を直撃したのである。
   この生鮮食料品の在庫流通問題については、おそらく、このような需給ギャップを埋める為に、日本全国を調べれば軽度な偽装は限りなく存在しているのではないかと思う。

   赤福と言う商品名は、同社の社訓である「赤心慶福」、すなわち、「まごころ(赤心)をつくそう。そうすることで素直に他人の幸せを喜ぶ(慶福)ことができる」と言う考え方から来ており、この精神は、創業1707年以来、今も脈々と行き続けている伝統だと、赤福の書類のあっちこっちに書いてあり、2年前、10代目当主の濱田益嗣代取が三重県中小企業同友会のスピーチ「赤心慶福が赤福経営の原点」で得々と語っている。

   濱田氏は、更に、「経営者は、会社をひとつの生き物として考える習慣があり、日本を全体で見ることが出来、・・・日本の国を語る時代になった。
   客が求めるものを提供し、そのシステムを作ることが企業の基本。時代の変化は顧客の変化と捉えている。
   時代は変わって行く。今は、江戸から明治の変革に匹敵。経営者は、過去の智恵に従っていてはダメで、経営方針、ノウハウを革新して行かない限り、良いボジションを得られない激しい変化の時代にある。
   20世紀に売れていたものは21世紀では売れない。・・・新しい時代を展望する才覚を持って臨む経営者には、今ぐらいチャンスの多い時はない。」と、赤福300年は革新の連続と豪語して中小企業のトップにハッパをかけている。

   この講演で言っていることを、悉くひっくり返して引き起こしたのが、今回の赤福偽装事件である。
   赤福300年の歴史を支えてきたのは、一体何だったのか。
   このブログで、世界の企業王国・ダイナスティのところでも触れたが、同族企業・ファミリィビジネスで最も重要な筈の、信用と厳しいビジネス倫理が赤福300年を支えていた筈で、
   今回の事件で、このビジネス倫理の根本たる社是・赤心慶福の精神を喪失してしまい、顧客の信頼を裏切り会社の信用を失墜してしまったのである。
   同族会社・不二家事件の時にも、コメントしたが、経営者の独善と偏見、驕りと傲慢、社員の積極性や創意工夫の圧殺、時代の波に乗れない経営者の無能等々同じ様な問題があったのかも知れない。

   今日の経済社会は、コンプライアンス・遵法が騒がれる法化社会であり、法を犯し企業倫理に悖る経営者や会社の所行は、内部の社員から即刻内部告発されて世間に流布してしまう時代であって、経営者が法を守りエリを正して経営しない限り、経営者にとって極めてリスクの高い厳しい時代になっていることを夢夢忘れてはならない。
   
   企業の社会的責任が大きく問われ、経営者にプロとしての才覚と品位が求めれている。
   庶民に信頼し愛され続けて来た300年の赤福の伝統と歴史の重みは、今日の殺伐とした株価アップの企業価値一辺倒の時代にあっては、極めて貴重な企業の財産であった筈だが、その類稀な貴重な企業価値も経営者の無能によって一瞬にして吹き飛んでしまう、そんな、時代が到来しているのである。
   
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