熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

映画「シェイクスピアの庭」

2021年06月19日 | 映画
   HPの冒頭に、
   ”ケネス・ブラナー悲願のプロジェクト 不朽の名作を生み出した文豪シェイクスピアの晩年をついに映画化”
   シェイクスピア役者として最高峰のケネス・ブラナー監督主演の映画「シェイクスピアの庭」である。
   ブラナーのシェイクスピアの舞台に接したのは、ロンドンでRSCの「ハムレット」だけだが、ブラナーの映画は、DVDを含めて「ヘンリー五世」「から騒ぎ」「ハムレット」や主演の映画などを鑑賞しており、著書「私のはじまり ケネス・ブラナー自伝」も読んでいるので、親しみを感じている。

   ”演出・出演をした『冬物語』で幼い息子を失ったリオンティーズを演じたブラナーは、先ず、シェイクスピアと彼の夭逝した愛息ハムネットとの関係をリサーチしたという。49歳という若さで執筆活動を引退したシェイクスピア。「何故、こんなに才能に溢れた男が早くに引退したのだろう?」というブラナーの抱いた疑問から本作は生まれた。”という。
   したがって、この映画は、1613年、「ヘンリー八世」の上演中に舞台用の大砲撃ちが失敗して、木の梁や茅葺き屋根に点火してグローブ座が全焼してしまった。それをきっかけに、ウィリアム・シェイクスピアは引退を決意し、故郷のストラトフォード=アポン=エイヴォンに帰った。引退したシェイクスピアが亡くなるまでの3年間を主題にしている。
   風来坊のように故郷を出奔して20年以上の間、ほとんど帰らずに、顔を合わせることのなかった主人の帰還に戸惑う妻と娘たち、そして、田舎町の常連たちの対応、
   1582年11月29日、18歳のシェイクスピアは既に3ヶ月の身重の26歳の女性アン・ハサウェイと結婚し、すぐに、長女スザンナが生まれ、1585年に、長男ハムネットと、次女ジュディスの双子が生まれたのだが、その後、故郷を離れて音沙汰なく、時たま帰ってきたり仕送りはしていたようだが、芝居一途の生活を送り、適当に浮名を流して入れ込むが、可哀想なのは、アンと子供たち、
   その辺りの心の行き違いや人生の思いへの激しい落差がビビッドに美しいストラトフォード・アポン・エイボンの田園風景をバックに描かれている。
   しかし、シェイクスピアにとって一番知りたかったのは、17年前に9才で幼くこの世を去った最愛の息子ハムネットの死であり、悼むために、妻アンの導きで庭を造る決心をする。
   ハムネットが、シェイクスピアを感激させていた詩は、実は、姉のジュディスが詠んで口述筆記させていたもので、父シェイクスピアに褒めて貰いたい一心のハムネットは苦に病んで入水、シェイクスピアが真実を問い詰めても、アンは流行っていた疫病で亡くなった、運命だと言い張る。
   「真実の愛はすぐそばにある」、ハムネットの庭で、シェイクスピアに、妻アン、長女スザンナ、次女ジュディスとその子供たち家族が、あたたかく寄り添うラストシーンが感動的である。

   さて、途轍もなき栄光を捨てて故郷へ帰ってきたのは、飽きたからだと、ブラナーは語っている。
   All the world’s a stage, And all the men and women merely players. この世は、舞台。男も女も、登場しては消えてゆく役者に過ぎない。
   最後の憩いのステージを、人間らしく家族との安らぎの場で終りたいというシェイクスピアの希いであろうか。
   
   キャストは、次の通り。
   監督:ウィリアム・シェイクスピア: ケネス・ブラナー - 引退した劇作家。
   アン・ハサウェイ: ジュディ・デンチ- ウィリアムの年上の妻。
   サウサンプトン伯爵: イアン・マッケラン- ウィリアムのパトロン。
   スザンナ・シェイクスピア: リディア・ウィルソン - ウィリアムの長女。
   ジョン・ホール: ハドリー・フレイザー - スザンナの夫。医師。清教徒。
   ジュディス・シェイクスピア: キャスリン・ワイルダー- ウィリアムの次女。
   トム・クワイニー: ジャック・コルグレイヴ・ハースト - 酒などの貿易商。プレイボーイ。ジュディスの夫に。

   鼻を高くして額を広くしたメイキャップのブラナーの姿や仕草など芝居の総ては、ブラナー自身のシェイクスピアのイメージなのであろう。
   人間国宝とも言うべき超ベテランの英国俳優DBEの
   デイム・ジュディス・オリビア・デンチとサー・イアン・マーレイ・マッケランの、燻し銀のような滋味溢れる渋い演技が光っている。
   
   

   脚本:ベン・エルトン、撮影:ザック・ニコルソン、美術:ジェームズ・メリフィールド、衣装:マイケル・オコナー、音楽:パトリック・ドイル
   この映画のタイトルは、「ALL IS TRUE」、しかし、エルトンの脚本は、かなり、創作が入っていると思うのだが、劇作家シェイクスピアとは違った生身の人間シェイクスピアを描き出そうとしていて、その息遣いさえ感じさせてくれる。
   カメラワーク・映像の美しさは、流石で、ストラトフォード・アポン・エイボンの美しい田園風景や田舎町の佇まい、それに、僅かに差し込む外光や室内灯に浮き上がった薄暗い古風な室内の雰囲気など、いやが上にも、懐かしさを催させる。

   私は、RSCの公演を鑑賞するために、随分、ストラトフォード・アポン・エイボンを訪れており、シェイクスピア ホテルなど、シェイクスピア当時の雰囲気を持っているホテルに泊まっていたり、イギリスは勿論ヨーロッパ各地でも、古色蒼然とした歴史の古いホテルに好んで泊まっていたので、この映画の醸し出す雰囲気は、涙が零れるほど懐かしくて胸に染みる。

   素晴らしい映画でありながら、見過ごしていた。WOWOWで録画鑑賞したのである。
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