熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

新日本フィル定期・・・井上道義と安倍圭子の華麗な饗宴

2006年10月14日 | クラシック音楽・オペラ
   今月は井上道義の華麗な演奏だが、私は安倍圭子のマリンバに注目していた。
   マリンバについては、TVやラジオで昔から平岡養一が奏でる素晴らしい日本の音楽に慣れ親しんできた。
   しかし、実際にコンサートに出かけて聴いたのはずっと後で、ロンドンで、シティ・フェスティバルの時、古風で優雅なギルド・ホールでのイブリン・グレニーの演奏会であった。昔の貴族の館の様な華麗なホールで奏でられる何とも言えない温かくて柔らかな、それでいて時には激しい華麗な音色を聴いて幸せであった。
   耳に障害があり体全体で音をキャッチして演奏する偉大なパーカッショニスト・グレニーの華麗で懐かしいマリンバの音色、、それに踊るような美しい姿も印象的であった。

   休憩前の伊福部昭作曲「ラウダ・コンチェルタータ~オーケストラとマリンバのための(1976)」のマリンバ独奏が安倍圭子。
   小柄な安倍が、肩パットを三角に高く尖らせた白いゆったりとした流れるようなドレス姿で登場し、時には優雅にやわらかく、時には天使が飛ぶように華麗に舞台を舞う。

   グレニーの時にはどうだったのか忘れてしまったが、安倍の奏でるマリンバは実に堂々としていて立派な楽器である。
   マリンバは、アフリカ原産のようで、板を並べてその下にひょうたんをぶら下げて共鳴管にしていたようだが、19世紀にグアテマラで改良され、更に、シカゴのディーカン社が木製パイプを金属製パイプに代えて今日に至っていると言う。
   しかし、安倍圭子がアメリカ製のマリンバを東京文化会館で奏でた時に、作曲者から「フォルテッシモの低音はドブ板のような音、ピアニッシモはホールの後まで聞こえない」と言われてショックを受けて、ヤマハと独自の楽器を開発することにした。
   4オクターブしかなかったマリンバを5オクターブに改良し、立派な独立したソロ楽器として完成させたのも安倍圭子の貢献あってこそだと言う。

   安倍のLPがアメリカの教授の注目を浴びて招聘されて渡米したが、あまりにも華麗で激しい音色に男性奏者と間違われてプログラムにMRと書かれていたとか。
   40歳を過ぎてからの安倍の海外行脚が始まるのだが、多くの演奏の他にマスタークラスでのレッスンを行い、日本の文化を教材に現地のミュージシャンに最高のマリンバ音楽を教えマリンバの普及に努めているのだと言う。

   マリンバは、安倍の心を語る手段であり、マリンバと語りながら生きてきて即興から始まって作曲がスタートしたのだと言っているが、マリンバが好きで打ち込んできた安倍のマリンバ修行が、多くの弟子達を育て裾野を広げてきた。
   ピアノに近い筈のマリンバが、大学では音程なしの打楽器科にあるらしいが、まだまだ道は遠いようだ。
   あの胸に響く華麗で懐かしいマリンバの音色は、やはり、人間の生み出した素晴らしい楽器である。

   ところで、伊福部の「ラウダ・コンチェルタータ」であるが、荘重な大地の底から響いてくるような導入部が長く続いて、マリンバの第一音は激しく打ち落とされる。
   私は、このマリンバと大管弦楽との協奏曲を、奈良の風景を懐かしく思い出しながら聴いていた。
   古くてどこか雅な日本の風景、決して京都ではない、広々として低い起伏のある大らかで明るい、大和の風景である。
   マリンバの低音がどことなく銅鐸の音色に聞こえ、オーケストラが荘重な雅楽の雰囲気を奏で、そして、日本人には懐かしい心の故郷を呼び起こしてくれるような音色が、時には静かに優しく、時にはうねる様に激しく駆け回る。

   この音楽は平岡養一の為に作曲されたようだが、安倍圭子の為に独奏パートを加筆して1979年に初演されたのだと言う。
   このソロパートが実に美しいし、それに、丁度安倍のコスチュームが、飛ぶように演奏する姿に合わせて、大和時代の巫女か天女のように華麗に靡いて素晴らしい。

   ところで、井上道義指揮の他の演目は、ロシアの作曲家シチェドリンの「お茶目なチャストゥーシュカ」とバルトークの「弦楽器、打楽器、チェレスタのための音楽」で、夫々、それなりに楽しませてくれた。
   余談だが、夫君岩城宏之氏を亡くしたバルトークで出演していたピアニストの木村かをりさんは元気な姿を見せていた。
   

   
   
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