![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/38/64/62e5167b65185c24f244d8db9b5fc0cf.jpg)
5月5日、NHK BS4Kで、ミラノ・スカラ座 ヴェルディ作曲 歌劇「ドン・カルロ(1884年ミラノ4幕版)」 が放送された。
収録:2023年12月7日 演出:ルイス・パスクワル
<出演>は、次の通りで、凄い布陣である。
フィリッポニ世:ミケーレ・ペルトゥージ
ドン・カルロ:フランチェスコ・メーリ
ロドリーゴ:ルカ・サルシ
大審問官/修道士:パク・ジョンミン
修道士(カルロ五世):イ・ファンホン
エリザベッタ:アンナ・ネトレプコ
エボリ公女:エリーナ・ガランチャ ほか
合唱:ミラノ・スカラ座合唱団
管弦楽:ミラノ・スカラ座管弦楽団
指揮:リッカルド・シャイー
さて、2年前に、METライブビューイングの舞台をレビューして書いたが、私がドン・カルロの実演を観たのは次のたった一度だけで、
1989年4月3日、ロンドンのロイヤルオペラの舞台であった。
5人のトップ歌手が揃わないと上演出来ないと言う至難のオペラで、鑑賞するチャンスが極めて希有だと言う。
指揮 リチャード・アームストロング 演出セット衣装等 ルキノ・ヴィスコンティ
ドン・カルロス:デニス・オニール フィリップ2世:サミュエル・レイミー ロドリーゴ:ジノ・キリコ
エリザベート:カーティア・リッチャレッリ エボリ公女:アグネス・バルツァ
これも素晴しいキャストで、感動したという記憶だけは残っている。登場のオペラ歌手も、すべてロイヤルオペラで聴き続けて知っていたので、イメージが湧いていたし、特に、リッチャレッリとバルツァは、憧れの歌手であった。
今回の舞台は、冒頭の第1幕の、カルロと許嫁のエリザベッタが愛を育む「フォンテンブローの森」が省略された短縮版で、
既に父王フィリッポ二世の王妃になったエリザベッタを諦めきれないカルロの苦悩からスタートする。後半、国王は、二人の関係に苦しみ王妃に愛されない悲哀と孤独に苛まれ続ける。
カルロは、唯一の理解者で親友の、ポーザ侯爵ロドリーゴに励まされ、カトリック教のスペインに弾圧されて虐げられているフランドルの民を救うため、戦いに加わることで愛の苦悩を忘れるよう促される。
全編を通じて、カルロとエリザベッタの愛の交流が主旋律だが、副主題として、カルロに思いを寄せる王妃の女官エボリ公女の恋の鞘当てが絡み、運命を翻弄する。
国王を賛美する大聖堂前の大広場では、異端者が火刑に処されるところへ、王子カルロがフランドルの使節たちを連れて現れ、フランドルの救済を願い出るが、国王は聞く耳を持たない。興奮して思わず剣を抜いたカルロは、反逆罪で捕らえられて投獄される。
ロドリーゴは、反逆者はカルロではなく自分だということにして身代わりになって、カルロの独房にやってくる。フランドルの救済をカルロに託し、自らは暗殺される。このとき、カルロの解放を求めた民衆の暴動が起きて、その騒ぎに紛れて、エボリがカルロを牢から逃がす。
静かな修道院で、昔の幸せを思い出しながらエリザベッタが待っているところへ、カルロが現れ、スペインを捨ててフランドルへ行き、自由のために戦うのだと告げエリザベッタも唱和して、二人は天上での再会を約して永遠の別れを告げる。
フィリッポ2世がやって来て、カルロを捕らえようとしたが、そこへ先王カルロ5世の亡霊が現われて、カルロを連れ去る。
私が注目したのは、マドリードの王宮の王の書斎の場での国王の独白で、ウィキペディアをそのまま引用すると、
妃に一度も愛されたことがなく、今や息子にも裏切られた国王は、王として生きることの苦難について瞑想し、孤独にアリア「ひとり寂しく眠ろう」を歌い悲しみ吐露する。感情的な疎外感からの自己憐憫(弦楽器による執拗な音型の繰り返しを伴い「彼女は私を愛したことがない」という激しい感情の発露で頂点に達するアリオーソ)から死についての暗澹たる瞑想を経て自からの権力についての再認識し、最後には感情の高揚で終結するアリアとなっている。
ところで、歴史上は、フィリッポ2世は、
スペイン絶頂期に君臨した国王で、絶対王制の代表的君主であり、その治政はヨーロッパのみならず、中南米・アジアにも及ぶ大帝国を支配し、その繁栄は「太陽の沈まない国」と形容されたほどの史上屈指の権力者であった。
その偉大なフィリッポ2世が、シラーの作とは言え、このオペラでは、悲哀の限りを慨嘆して泣くという落差の激しさ、
何度かスペインを訪れて、その偉大さを実感しているのだが、歴史の虚実の不可思議さをを感じながら、素晴しいミケーレ・ペルトゥージのアリアを感慨深く聴いていた。
それに、オランダに3年間住んでいたので、フランドルの歴史を反芻して、往時の世界史に思いを馳せた。
このオペラでは、感動的なアリアが鏤められているのだが、終幕のエリザベッタが歌うアリア「世のむなしさを知る神よ」が胸を打つ。プーチン支持でMETを干されているアンナ・ネトレプコだが、情感豊かに切々と歌う、千両役者の貫禄である。
軽く手を叩きながら、シャイーは、拍手の鳴り止むのを長い間待ってからバトンを振った。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/79/c3/10e1f904c391e785fa93d87e010477e0.jpg)
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カルロの「美しい夢を見ました」に続いて、二人の二重唱「天国で会いましょう」と、別れの悲しみをうたい上げる二重唱「永遠にさらば」が、悲劇の終幕を純化して感動的である。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/70/6f/a2ca22c85a802cb53e012e5338be44e6.jpg)
タイトルロールのドン・カルロのフランチェスコ・メーリを凌ぐほどの歌唱の魅力を示すのはロドリーゴのルカ・サルシ、
それに、アリアが多くて起承転結の激しい役柄を器用に熟して性格俳優ぶりも演じきるエボリ公女のエリーナ・ガランチャも凄い。
METライブビューイングで、ネトレプコとガランチャの舞台に魅了されてきたが、今回も素晴しい舞台に接して感動した。
指揮者のリッカルド・シャイーは、オペラを聴いた経験はないが、コンセルトヘボウの指揮者であったので、結構聴いている。
ハイティンクからシャイーに変って、一気に重厚なコンセルトヘボウのサウンドが明るくなった感じがした。
この舞台は、特に衣装が当時を再現した豪華な出で立ちで素晴しく、それに、合唱団も多くて、舞台セットも、大聖堂やエスコリアルなどをイメージしたクラシカルでシックなので、まさに、打って付けの演出効果であった。
もう一度、METライブビューイングの録画を観ようと思っているが、流石に、ヴェルディの凄いオペラである。
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収録:2023年12月7日 演出:ルイス・パスクワル
<出演>は、次の通りで、凄い布陣である。
フィリッポニ世:ミケーレ・ペルトゥージ
ドン・カルロ:フランチェスコ・メーリ
ロドリーゴ:ルカ・サルシ
大審問官/修道士:パク・ジョンミン
修道士(カルロ五世):イ・ファンホン
エリザベッタ:アンナ・ネトレプコ
エボリ公女:エリーナ・ガランチャ ほか
合唱:ミラノ・スカラ座合唱団
管弦楽:ミラノ・スカラ座管弦楽団
指揮:リッカルド・シャイー
さて、2年前に、METライブビューイングの舞台をレビューして書いたが、私がドン・カルロの実演を観たのは次のたった一度だけで、
1989年4月3日、ロンドンのロイヤルオペラの舞台であった。
5人のトップ歌手が揃わないと上演出来ないと言う至難のオペラで、鑑賞するチャンスが極めて希有だと言う。
指揮 リチャード・アームストロング 演出セット衣装等 ルキノ・ヴィスコンティ
ドン・カルロス:デニス・オニール フィリップ2世:サミュエル・レイミー ロドリーゴ:ジノ・キリコ
エリザベート:カーティア・リッチャレッリ エボリ公女:アグネス・バルツァ
これも素晴しいキャストで、感動したという記憶だけは残っている。登場のオペラ歌手も、すべてロイヤルオペラで聴き続けて知っていたので、イメージが湧いていたし、特に、リッチャレッリとバルツァは、憧れの歌手であった。
今回の舞台は、冒頭の第1幕の、カルロと許嫁のエリザベッタが愛を育む「フォンテンブローの森」が省略された短縮版で、
既に父王フィリッポ二世の王妃になったエリザベッタを諦めきれないカルロの苦悩からスタートする。後半、国王は、二人の関係に苦しみ王妃に愛されない悲哀と孤独に苛まれ続ける。
カルロは、唯一の理解者で親友の、ポーザ侯爵ロドリーゴに励まされ、カトリック教のスペインに弾圧されて虐げられているフランドルの民を救うため、戦いに加わることで愛の苦悩を忘れるよう促される。
全編を通じて、カルロとエリザベッタの愛の交流が主旋律だが、副主題として、カルロに思いを寄せる王妃の女官エボリ公女の恋の鞘当てが絡み、運命を翻弄する。
国王を賛美する大聖堂前の大広場では、異端者が火刑に処されるところへ、王子カルロがフランドルの使節たちを連れて現れ、フランドルの救済を願い出るが、国王は聞く耳を持たない。興奮して思わず剣を抜いたカルロは、反逆罪で捕らえられて投獄される。
ロドリーゴは、反逆者はカルロではなく自分だということにして身代わりになって、カルロの独房にやってくる。フランドルの救済をカルロに託し、自らは暗殺される。このとき、カルロの解放を求めた民衆の暴動が起きて、その騒ぎに紛れて、エボリがカルロを牢から逃がす。
静かな修道院で、昔の幸せを思い出しながらエリザベッタが待っているところへ、カルロが現れ、スペインを捨ててフランドルへ行き、自由のために戦うのだと告げエリザベッタも唱和して、二人は天上での再会を約して永遠の別れを告げる。
フィリッポ2世がやって来て、カルロを捕らえようとしたが、そこへ先王カルロ5世の亡霊が現われて、カルロを連れ去る。
私が注目したのは、マドリードの王宮の王の書斎の場での国王の独白で、ウィキペディアをそのまま引用すると、
妃に一度も愛されたことがなく、今や息子にも裏切られた国王は、王として生きることの苦難について瞑想し、孤独にアリア「ひとり寂しく眠ろう」を歌い悲しみ吐露する。感情的な疎外感からの自己憐憫(弦楽器による執拗な音型の繰り返しを伴い「彼女は私を愛したことがない」という激しい感情の発露で頂点に達するアリオーソ)から死についての暗澹たる瞑想を経て自からの権力についての再認識し、最後には感情の高揚で終結するアリアとなっている。
ところで、歴史上は、フィリッポ2世は、
スペイン絶頂期に君臨した国王で、絶対王制の代表的君主であり、その治政はヨーロッパのみならず、中南米・アジアにも及ぶ大帝国を支配し、その繁栄は「太陽の沈まない国」と形容されたほどの史上屈指の権力者であった。
その偉大なフィリッポ2世が、シラーの作とは言え、このオペラでは、悲哀の限りを慨嘆して泣くという落差の激しさ、
何度かスペインを訪れて、その偉大さを実感しているのだが、歴史の虚実の不可思議さをを感じながら、素晴しいミケーレ・ペルトゥージのアリアを感慨深く聴いていた。
それに、オランダに3年間住んでいたので、フランドルの歴史を反芻して、往時の世界史に思いを馳せた。
このオペラでは、感動的なアリアが鏤められているのだが、終幕のエリザベッタが歌うアリア「世のむなしさを知る神よ」が胸を打つ。プーチン支持でMETを干されているアンナ・ネトレプコだが、情感豊かに切々と歌う、千両役者の貫禄である。
軽く手を叩きながら、シャイーは、拍手の鳴り止むのを長い間待ってからバトンを振った。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/79/c3/10e1f904c391e785fa93d87e010477e0.jpg)
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カルロの「美しい夢を見ました」に続いて、二人の二重唱「天国で会いましょう」と、別れの悲しみをうたい上げる二重唱「永遠にさらば」が、悲劇の終幕を純化して感動的である。
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タイトルロールのドン・カルロのフランチェスコ・メーリを凌ぐほどの歌唱の魅力を示すのはロドリーゴのルカ・サルシ、
それに、アリアが多くて起承転結の激しい役柄を器用に熟して性格俳優ぶりも演じきるエボリ公女のエリーナ・ガランチャも凄い。
METライブビューイングで、ネトレプコとガランチャの舞台に魅了されてきたが、今回も素晴しい舞台に接して感動した。
指揮者のリッカルド・シャイーは、オペラを聴いた経験はないが、コンセルトヘボウの指揮者であったので、結構聴いている。
ハイティンクからシャイーに変って、一気に重厚なコンセルトヘボウのサウンドが明るくなった感じがした。
この舞台は、特に衣装が当時を再現した豪華な出で立ちで素晴しく、それに、合唱団も多くて、舞台セットも、大聖堂やエスコリアルなどをイメージしたクラシカルでシックなので、まさに、打って付けの演出効果であった。
もう一度、METライブビューイングの録画を観ようと思っているが、流石に、ヴェルディの凄いオペラである。
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