熟年の文化徒然雑記帳

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PS:インドの選挙と国の経済の将来 The Indian Election and the Country’s Economic Future

2024年05月27日 | 政治・経済・社会時事評論
   ラグラム・G・ラジャンは、PSの論文で、
   最近、かつてのイギリスを追い越して世界第5位の経済大国となったインドのスターは確かに躍進著しい。 しかし、もしこの国が現政府の開発戦略にコミットし続ければ、経済が離陸速度に達するかなり前に勢いを失う可能性がある。と説く。
   現在の年間6~7%の成長率を維持すれば、まもなく停滞する日本とドイツを追い越して第3位に浮上するだろう。
   しかし、人口高齢化により、2050年までにインドの労働力は減少し始め、 成長は遅くなる。 それは、インドが老いる前に豊かになる可能性が狭いことを意味する。一人当たりの所得がわずか 2,500 ドルであるため、経済は次の四半世紀にわたって年間 9% 成長しなければならない。 それは極めて難しい課題であり、それが本当に可能かどうかは今回の選挙で決まるかもしれない。と言うのである。

   インド政府は急速な成長を追求するため、日本が戦後すぐの数十年間にたどった道、そして毛沢東の死後中国がたどった道を踏襲しようとしている。
   中国が成長への道を歩み始めた1970年代後半には両国も同様に貧しかったにもかかわらず、インドは、中国とともに目指した輸出志向の製造業への経済転換に失敗した。 熟練度の低い工場での雇用であっても、最低限の教育とスキルが必要であり、 当時、多くの中国人労働者はこの基準を満たしていたが、インド人の労働者のほとんどは満たしていなかった。
   また、中国共産党による中央集権的統治が原則だが、省や市の首長は大きな権力を行使して成長をもたらした。 対照的に、同時期のインドの官僚制は分散化されておらず、成長促進の動機付けもされていなかったため、むしろインドのビジネスにとってさらなる負担となった。
   更に、、独裁国家の中国はいつでも、民主国家のインドにはできない方法で製造業を優遇する可能性があるなど、国家資本主義手法が成長発展を促進した。
   この差が、インドの成長の足を引っ張った。

   それにもかかわらず、現在のインド政府は製造路線に乗りたいと考えて、 他の多くの企業が中国での生産から多角化を模索しているので、これをインドの経済政策立案者らは失われた時間を取り戻す機会と見ている。 確かに、インドのインフラは著しく改善され、 とりわけ、現在、多くの世界クラスの空港と港、電力不足を埋めるための再生可能エネルギー容量の増加、優れた高速道路システムを誇っている。
   しかし、他の障害が残っている。 モディ政権が発足してからの10年間で、自国の象徴的な財であるインドの衣料品輸出は5%未満の伸びにとどまった一方、バングラデシュとベトナムの衣料品輸出は70%以上増加し、現在では両国の輸出額は2019年の何倍にもなっている。 インド政府は、これらの継続的な障害を認識し、インドでの生産を奨励するための補助金の提供を開始するとともに、輸入品の関税を引き上げて、現在は保護されている大規模なインド市場への販売によるこれらのメーカーの利益を拡大し始めている。
   しかし、まだ初期段階だが、この戦略には懐疑的であるべきで、生産関連の補助金により、製造業者はインドで組み立てるようになるかもしれないが、それらの企業は依然としてほとんどの部品を輸入する必要がある。 さらに、インドの労働者は現在、かつてのように先進国の高給取りの労働者ではなく、低賃金のバングラデシュ人やベトナム人労働者と競争しているため、利幅は小さくなる。 企業が再投資できる利益がほとんどなく、補助金を差し引いた税収も少ないため、インドをバリューチェーンの上位に上げるために必要な好循環を達成するのははるかに困難になる。
   さらに悪いことに、たとえインド政府が製造業を拡大したとしても、世界は中国規模の輸出大国を新たに受け入れる準備ができていない。 製造業の保護主義への広範な移行と環境の持続可能性に対する懸念の高まりを考慮すると、中国式の製造業主導の発展を重視する政府の姿勢は世界が向かう方向とは相いれない。

   ところで、インドにも、自分の強みを活かしてプレーする別の方法がある。 インドは成長を促進するために、十分な教育を受け熟練した国民が提供するサービスの輸出に注力している。 この集団は総人口のほんの一部にすぎないが、それでも数千万人に上り、このような戦略はインドの強みを活かすことになり、世界のソフトウェア産業における役割ですでに顕著で、現在では他の多くのサービスを輸出していて、世界のサービス輸出の5%以上を占めており、物品輸出は2%未満より多い。
   ゴールドマン・サックスからロールス・ロイスに至るまでの多国籍企業は、インドを拠点とするグローバル・ケイパビリティ・センター(GCC)に有能なインド人卒業生を雇用しており、そこではエンジニア、建築家、コンサルタント、弁護士が組み込み型の設計、契約、コンテンツ(およびソフトウェア)を作成している。 世界中で販売される製造品やサービスにおいて、これらのセンターはすでに世界の全GCCの50%以上を占めており、2023年3月時点で166万人のインド人を雇用し、年間収益460億ドルを生み出している。

    確かに、インドの製造業もこれらの変化から恩恵を受けていて、製造プロセスそのものよりも、エンジニアリング、イノベーション、デザインが重要な分野で起こっている。
   インドが自国の強みを築くのは当然のことで、何百万人もの高度なスキルを持ち、創造的で教育を受けた労働者であり、その多くは英語を話す。しかし、 残念ながら、教育の欠陥がさらに深刻なので、そのような労働者は不足しつつある。 急成長国の通常の道とは反対に、今日インドでは農業従事者の割合が増加していて、失業の危機に直面している。
   したがって、インドは創造的な高度スキル部門の拡大とは別に、人々が持つスキルを幅広く対象とした雇用を創出する必要がある。 また、インドの労働者が将来の仕事に就けるよう、短期的および長期的に教育とスキルを向上させる必要がある。 同様に、学生が雇用適性の基準を超えることを可能にする職業訓練プログラムや見習いプログラムに公的資金を提供すれば、何百万人もの人々が生産的な労働者に転換できる可能性がある。 医療提供者、配管工、大工、電気技師の需要は尽きない。

   この選挙での選択において、野党のマニフェストにもこの種の提案が見られる。 企業、特に衣料品、サービス業、観光業などの労働集約部門の中小企業を支援する改革と組み合わせることで、インドはさらに多くの人々を働かせることができる。 しかしこれには、現在補助金として大手製造業者に約束されている数百億ドルを再配分することで部分的に資金を賄う、慎重に設計されたプログラムが必要となる。
   長期的には、インドの最大の資産である国民を活用するには、保育、教育、医療機関の数と質を増やす以外に方法はない。 これらの分野における現在の公共支出の低水準は、成長の余地が十分にあることを意味するため、チャンスと見るべきである。
   インドはまた、その広大な世界中の印僑を利用して、高度なスキルを持つ人材の数を増やすために新しい高等教育および研究機関を創設する必要がある。 人々が適切なスキルを持ち、アイデアを生み出す機関と連携すれば、起業家精神により、思いもよらない場所で雇用が創出される。 結局のところ、インドのソフトウェア産業を創設したのは民活であって政府ではない。

   保護主義の高まりがこの道を妨げる可能性はあるだろうか? ハイエンドサービスの輸出は、バーチャルで提供される場合、国境で止めるのが難しいため、必ずしもそうではない。 さらに、先進国もそのようなサービスを世界的に販売しているため、米国の経営コンサルタントやベンチャーキャピタルを見れば分かるように、これらの分野における保護主義が魅力的ではなくなることを意味する。 そして、人口の高齢化を考えると、先進国は遠隔医療のようなインドが提供するサービスから多くの利益を得ることができる。

   以上がラジャン教授の論文の主旨だが、インド政府は、経済成長発展のためには、中国の発展路線を踏襲すべく策しているが、インドにはインド特有の問題があり、国情にあった成長政策を推進しない限り失敗するとして、成長政策を提言している。
   世界に冠たるインドのICT分野でのハイテク技術サービス分野での偉業は当然だが、この創造的な高度スキル部門の拡大とは別に、多くの産業分野において、教育や職業訓練を強化して労働者のスキルを向上させて、高度化した知見やスキルを持った労働者を幅広く対象とした雇用を創出する必要があり、かつ、起業家精神を喚起すべきだというのである。要するに、インドの経済社会全体の質の向上、その底上げが必須であり、今回の選挙でその帰趨が問われていると言うことであろうか。
   半世紀以上も前に、ガルブレイス教授が中印大使の時に、インドの欠陥は教育であると言ったことがあるが、IITで世界ハイテク界で冠たるインドも、貧しくて手を抜いている教育が、今でも問題だと言うことであろう。
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