熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

青い目の見た日本不動産業の不思議

2006年09月19日 | 経営・ビジネス
   先日、「日本人の知らない「儲かる国」ニッポン」について、日本で起業して儲けたアメリカ人の目から見た日本のサービス産業の後進性とお粗末振りについて序論を書いたが、面白いので、各論について考えてみたいと思った。

   口絵写真は、わが庭のイチジクの実の蜜を吸う問題のオオスズメバチであるが、外資はこのようなものであろうか。
   さて、日本のサービス産業は、外資、それも、先の読める普通の個人の外人にさえ簡単に攻略されるようなヤワなシロモノなのであろうか。
   この本は、昨年アメリカで出版されたもので、アメリカの起業家に対して、今こそ、日本は千載一遇のビジネスチャンスを与えてくれると進軍ラッパを吹いているのである。

   ところで、不動産市場であるが、これは最も地場に根ざした産業なので、日本的ローカル性の強いのは当然であるが、それにしても日本の特殊性は群を抜いている。
   今日の新聞に都市の基準地価が上がり始めたと言う記事が出ているが、正に日本のリバイアサンで、今度こそ上手くコントロールしないと、明日の日本が危うくなる。

   著者達が問題にしているのは、日本の不動産市場そのもに触れているわけではないが、欧米との一番大きな違いは不動産評価の問題であると思う。
   もう20年も前になるが、ロンドンでビッグバン対応の為にシティの一等地を取得しようと試みた時に知ったのだが、物件買収価格を弾き出す手法は、今日本でも普通になっている収益還元法である。
   要するに、その土地で、何平方フィートの賃貸可能面積のビルが建設出来て何ポンドの賃貸料で貸せて、その収益率が総投下コストに対していくらなのか、期待収益率で土地価格を割り出す手法である。
   言うならば、不動産を特別な投資対象とは考えておらず、他の金融商品への投資と同じで、利回りいくらで有利か不利かと言うことが問題なのである。
   イギリスには、チャータード・サーベイヤーと言う専門の不動産鑑定評価会社があって、プロが物件取得や賃貸を仲立ちしてくれており、日本と比べて遥かに公正な価格システムが維持されている。
   因みに、自社ビルとして土地を取得する場合は、これに少し色が付くと言う事である。

   それに時価会計であるから、毎年、不動産の評価鑑定を行うので、移動がないのに財務諸表が変動して決算数字が変って来る。
   日本の様に、B/Sに土地を取得価格のまま計上して含み益を隠しておける取得原価主義に慣れた人間には晴天の霹靂であった。
   今考えると、欧米並みの時価会計システムを取っておれば、もう少し、日本のバブルも穏やかで、その後の失われた10年の落ち込みも緩やかであったような気がする。

   
   ところで、著者達がまず問題にしているのは、賃貸物件を斡旋する不動産会社が、物件所有者と賃貸人との双方代理・二重代理をつとめていて両方から手数料を取り、欧米で禁止されている利益相反の疑いがあり違法行為ではないかと言うことである。
   それに、よく言えば結婚の仲人のような立場だが、謂わば仲人口、仲介業者と不動産所有者との癒着関係に目に余るものがあり、賃貸や物件購入希望者の利益が著しく害されている。
   そこで必要上考え出されたのが、従来の不動産斡旋業ではない、賃貸や物件取得希望者にとって最良の取引条件を勝ち取ってくれる借り手専任の不動産代理業である。
   欧米の進出企業は、双方代理の日本の不動産会社など信用していないので、借り手・買い手側だけに立った不動産の専任代理ビジネスを立ち上げたドナルドソンの起業が成功し、その良さを知った日本の顧客が増えていると言う。
   
   面白いのは、日本の家屋は自動車と同じで中古になれば値段が下がるが、外国では逆に上がる。イギリスでは、古くなれば成るほど良く、苔むしてお化けが出ると評判が立てばぐんと値が上がり200年以上になると田舎の苫屋でも異常に値が張る。アメリカでは、改装や内装充実に力を入れて物件価値を上げようとする。
   それに、日本は、土地代が上昇一途だったので更地ほど高くなり粗製濫造のビルや家を建てる「スクラップ・アンド・ビルド」システム。ぼつぼつこの発想から脱却して建物の質の維持を考えるべき時期かも知れない。

   著者達が指摘するのは、中古物件の活用・活性化である。
   現代の基準や生活者のニーズには、異常な高さや品質の悪さを考えれば新築物件だけでは即座の対応は不可能なので、沢山市場に安値で放出されている中古住宅を買って、プロが現代基準に合致した質の高いリフォームを施して転売すればビジネスになる。
   更に、外国の建築や専門知識に加え、エスクローや不動産権保険、査定サービス、二次抵当市場における資産調達や証券化、ノンリコース・ローン、住宅仲介ローン、都市計画、景観計画、等々アウトサイダーの技術が活用できる筈だと言うのである。
   このことは、オフイスビルの場合にも当てはまり、二束三文の中古ビルを買って、現代の基準に合わせてリフォームし、欧米流のプロがしっかり管理すればドル箱に成り得ると言う。
   
   もっともこれらの事業については現実に少しづつ進んでいて目新しい話ではないが、傍目八目、案外、多くの日本の大企業の成功例も外国で見て得た発想を取り入れている場合が多いことを考えれば、青い目の提言も無駄ではない。
   他にも、ショッピングセンターの開発事業や病院等の設計などに関しても、欧米のノウハウを導入すれば如何に上手く行くのか、面白い話を展開している。
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