熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

六月大歌舞伎・・・素晴らしい仁左衛門の元禄忠臣蔵・徳川綱豊

2007年06月16日 | 観劇・文楽・歌舞伎
   今月の歌舞伎座の夜の部は、中々充実していて面白い。
   何と言っても素晴らしい舞台は、仁左衛門が徳川綱豊卿を演じた真山青果の「元禄忠臣蔵」の「御浜御殿綱豊卿」で、昨年の秋に国立劇場で実施された素晴らしい梅玉の舞台を思い出しながら楽しむことが出来た。
   次の「盲長屋梅加賀鳶」の「本郷木戸前勢揃いから赤門捕物まで」の段は、幸四郎の悪役・按摩竹垣道玄」が吉右衛門の日蔭町松蔵に窮地に追い込まれる場面が主体になっていて面白い。
   最後は、同じく河竹黙阿弥の「船弁慶」で、幸四郎の弁慶だが、静御前と新中納言平知盛の霊を演じる染五郎が華麗な舞台を見せてくれて楽しめる。
   終演が9時30分で、久しぶりに長い舞台であった。

   御浜御殿の場は、真山青果が、次期将軍・綱豊の言葉を介して忠臣蔵のあるべき本当の姿を徳川幕府の立場から語らせていることで、忠臣蔵の本筋とは離れているが非常に重要な舞台である。
   仇討ちの本懐を遂げさせたいと言う思いと、馬鹿を装いながら時期を待たざるを得ない内蔵助の苦衷を、自分の姿を重ね合わせながら噛み締めている綱豊の思いが、赤穂の浪人・富森助右衛門(染五郎)との激しい対話を通して浮き彫りにさせる。
   赤穂浪士の討入りがありやなしやを知りたくて富森を挑発し続ける綱豊。内蔵助の放蕩を揶揄されて耐えられなくなった富森に、政事に口を挟まないのは猜疑心深い綱吉の目を背ける為の方便ではないかと暴露されて刀に手をかける綱豊。

   近衛関白家から御台所を通じて浅野家再興の願いが再三出ていて、明日、登城して綱吉に直々に願い出て認められると仇討ちの機会がなくなるぞと言われて、感極まった富森が敷居を越えて綱豊に近づき涙を流して綱豊を凝視する。
   仇討ちの意思ありと知った綱豊は、キッとした口調で「憎い口を利きおったぞ」と富森に言葉を残して嬉しそうに部屋を出て行くのだが、
とに角、最初から最後まで、実に大きくて風格のある人間味豊かな次期将軍を演じきる仁左衛門の芸は流石である。
   荒削りではあるが、それに敢然と、そして、真摯に挑んでいる染五郎の爽やかさも格別である。
   シェイクスピア張りに豊かな青果の長台詞を、緩急自在に操りメリハリをつけながら舞台を展開するあたりは、やはり今を時めく旬の役者のなせる技であろう。   
   台詞が出なくなって、プロンプターの声が耳障りな人間国宝級の歌舞伎役者には出来ない舞台である。

   新井勘解由の歌六の凛とした格調、初々しくて素晴らしく魅力的な後の将軍の生母お喜世の芝雀、それに、控え目で気品のある秀太郎の江島など脇を固める役者にも恵まれて素晴らしい「御浜御殿綱豊卿」の舞台となっている。

   ところで、火事と喧嘩は江戸の華とかと言われて、火消しや任侠が見得を切る胸のすくような舞台が、江戸では人気があったようであるが、私には、所詮、小競り合いや喧嘩であって、アウトローの世界でもあり、そんなに格好の良い舞台だとは思えない。
   そのためもあり、先月の「め組の喧嘩」の舞台などめ組辰五郎に菊五郎、四ッ車大八に團十郎を筆頭に多くの看板役者が登場した舞台であったが、特に粋だといった意識はなく醒めた目で見ていた。
   意気地なしと時蔵の女房が辰五郎を煽るあたりは面白かったが、今回の「盲長屋梅加賀鳶」の冒頭の勢揃いの場も、幸四郎の二役の妙を楽しむ意味はあったが、それほどの感興は感じなかった。

   面白かったのは、なんとも言えない人間味豊かで、何処か間が抜けていて憎めない、どんなに考えても極悪人になりきれない惚けた幸四郎の悪党ぶりである。
   小声でぶつぶつ言いながら理知的で才気が見え隠れする、細面であの目をぎょろりとさせた表情が如何にも意味深な幸四郎のこのキャラクターは、世話物の人情長屋の住人にも通用するユニークな芸の源でもある。
   同じ兄弟でも、吉右衛門は、藤山寛美の世界を演じられと思うが、幸四郎は寛美とは違った対極にある役者で貴重な存在である。
   今回は、幸四郎の道玄の、妻・女按摩お兼を演じた秀太郎と道玄の悪を追い込む日蔭町松蔵の吉右衛門との丁々発止の舞台が面白かった。
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