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ミステリ感想-『緑陰の雨 灼けた月』高里 椎奈

2005年10月06日 | ミステリ感想
~感想~
シリーズ中ではいちばん楽しめた。
状況設定が解りやすく、展開に裏切りがあり、物語に起伏があった。
捨てキャラがほとんどいず、造型ができていたことも大きい。
例によって疑問符はたくさんつくものの
(以下ネタバレ↓)
1:どうして道長は先回りして記録を消せたの?
2:前日は流血するくらいブン殴ったのに、翌日は枝でぺちぺちって、結局なにがしたかったの?
3:んで、柚之助は結局どうなったの?
4:田中の妹のその後はまったく描写しなくていいの? 無駄に手遅れになってるし。
5:柚之助の変化は軽く見破れるくせに、毎晩抜けだしてたことにどうして気づかないの?

(↑ここまで↑)
まあ、いつものことか。

今回は氏の描写の浅さを島田荘司と比べて検証してみたい。
島田氏のものす御手洗潔は、ファンクラブが結成されてしまうほどに人気のある名探偵である。
彼の魅力は、推理力はもちろんのこと、女性ファンが多い理由は、その優しさにある。
なにげない行動や言葉の端々からただよう、温かな心。
ただの面白いミステリでは、御手洗シリーズはあそこまで発展しなかっただろう。
御手洗が魅力的だからこそ、ものすごく面白いミステリになったのだ。

んで、深山木秋である。
彼もさりげない優しさが魅力らしい。
しかし大きな問題点がひとつ。彼の優しさはちっともさりげなくないのだ。
たしかに物語中で示される彼の優しさはさりげなく、一見冷淡にも見える言動の裏に、そこはかとなく流れているのだが…。
困ったことに作者は、そのすべてを描写してしまっているのだ。それも執拗なまでに。

「秋は●●と冷たく言った。しかしその裏には●●という思惑があり、本当はリベザルを思いやる言葉だったのである」
などと、なにもかも書いてしまっている。しかもその後に
「リベザルはこれこれこういうわけで感心した。いつかは秋のようになりたいと思った」
と、読者の感想まで書いてしまうサービス(?)ぶり。
優しさが押しつけがましく、そこに読者の介在する余地は少なすぎる。

御手洗が見せる優しさに対する、石岡君の感想は実に簡潔なものである。
読者は個々人で御手洗の魅力にふれ、人柄を味わうことができる。
深山木秋にはそれがない。僕がどうしても好きになれない理由のひとつである。

まあそもそも、島田荘司と比べるのが酷だがな。


評価:★★☆ 5
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