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ミステリ感想-『騙し絵の館』倉阪鬼一郎

2007年04月09日 | ミステリ感想
~あらすじ~
過去におびえながら館の奥でひっそりと暮らす少女。
過剰なまでに彼女を守ろうとする執事。
自作の刊行をかたくなに拒むミステリ作家。
連続少女誘拐殺人事件が勃発するなか、彼らの抱えたひそやかな秘密が少しずつ明かされていく。


~感想~
ここにあるぞ。
秘密がここにあるぞ。


俳人の顔も持つ作者の力が遺憾なく発揮された詩情にあふれた作品。――のため、正直前半はなにを言っているのかすら理解できなかった。
それが結末にいたって明白な現実の情景へと転じ、はっきりとした姿を見せてくれる。どちらかというとそれは騙し絵というより、抽象画の絵解きをされたような気がするが。
しかし伏線・トリックは容易に見抜けるものと全く見抜けないものが混在し、まさに騙し絵さながら。作者はどこまでを見抜かれるよう計算し、どこまでを見抜かれないように企んだのか興味深い。
表層に現れている事件と、既に結末を迎えていた事件、そして隠されていた事件といくつもの謎と真相が層を成し混ざり合い、不思議な色を見せてくれる。驚くことこそなかったが心に残る佳作であった。
……分量といい読了に要す時間といいちょっと値段不相応だが。


07.4.9
評価:★★☆ 5
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