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ミステリ感想-『貴族探偵対女探偵』麻耶雄嵩

2013年11月13日 | ミステリ感想
~収録作品とあらすじ~
新進気鋭の女探偵・高徳愛香は亡き師匠の言葉を胸に数々の難事件に挑む。
だがある事件で貴族探偵を名乗る男に出くわし――。

亡霊が出ると噂の古井戸を地下に備えた別荘に、大学時代の親友を訪ねた愛香は、古井戸の前で死体を発見する。井戸の中には親友を告発するように彼女のコートのボタンが落ちていて……「白きを見れば」
男女問わず二股・三股を掛ける恋多き令嬢。恋人のうちの一人が彼女の家で首を吊って死ぬが、状況から自殺ではなく他殺と判断される。なぜ犯人は単純なミスを犯したのか……「色に出でにけり」
大学内の事件を解決した愛香は、立て続けに殺人事件に遭遇する。事件の鍵を握るのは断水とカップの種類なのか……「むべ山風を」
幸運をもたらす「いづな様」が棲む旅館に親友の付き添いで訪れた愛香は殺人事件に巻き込まれる。ところが記録された通話時間によると犯人はいなくなってしまい……「幣もとりあへず」
ウミガメが名物の無人島へ何者かによって招かれた愛香。例によって殺人が起こり、現場にはいくつもの不自然な痕跡が残されていた……「なほあまりある」

~感想~
「使用人が推理、貴族が解決」の貴族探偵シリーズ第二弾。プロットについて大いにネタバレするので↓以下↓要注意。

本作は昨年、話題を呼んだ「メルカトルかく語りき」のように基本的にある一つの法則で貫かれている。
それは「愛香が貴族探偵を犯人と告発→使用人が推理を披露→愛香敗北」の法則で、天丼ネタのように繰り返されるものの、外した愛香の推理自体も一定以上の説得力を持っており、それを否定した上でさらに意外な真相を用意する手腕はさすが麻耶雄嵩といったところ。
個々の短編の質が高いのは言うまでもないが白眉は「幣もとりあへず」で、前作「貴族探偵」収録の歴史的傑作「こうもり」の変奏曲のようなトリックで、真相が明かされるや目が点になり、衝撃のあまりいったい何を話しているのか訳がわからなくなったくらい。
また掉尾を飾る「なほあまりある」はこの一編で本書を連作短編集としてまとめ上げる豪腕と、心から納得の結末で本書を一段高みに引き上げることに成功している。

何かといえば雪の山荘化する現場、行く先々に現れては毎度毎度最有力容疑者になる貴族探偵、都合良く起きる殺人事件、全員が全員抜群の推理力を持つ没個性的な使用人と、開き直ったようにパターン化されたプロットは、きっと他の誰かが描けばユーモア・ミステリ扱いされるだろうが、こと麻耶雄嵩の手にかかると上質の本格ミステリに仕上がる。今回も楽しませてもらいました。

13.11.12
評価:★★★★ 8
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