小金沢ライブラリー

ミステリ感想以外はサイトへ移行しました

非ミステリ感想-『御手洗潔の追憶』島田荘司

2016年06月04日 | ミステリ感想
~あらすじと感想~
作者の分身による御手洗潔や石岡和己へのインタビュー、犬坊里美やレオナ松崎の手紙から御手洗父(?)の知られざるエピソードなどを収録したファンブック。

まごうかたなきファンブックで一見さんはお断り。御手洗シリーズを残らず読んでいて、作者本人による作中人物へのインタビューというネタも受け入れられる層……って百人単位で存在するのだろうかというマイノリティに向けた一冊である。
インタビュー内容もなかなかガチなもので、大半の読者にはどうでもいいような質問を重ねつつ、どうでもいいような御手洗や石岡君の近況が垣間見られるという、もう本当にファン向けの本なので要注意。

御手洗の父(? 作中で正確な血縁は明かされない)を主人公にした中編「天使の名前」は島田節で読ませる内容だが、真珠湾攻撃前後のさして珍しくない話と広島原爆投下の日が描かれるだけで、大方のファンには興味がなかろう。
その他の短編も御手洗が北欧神話の豆知識を語るだけ&スウェーデンでの御手洗の近況を伝えるだけのもので興味は引かず、十何年ぶりでもやっぱりイラッと来る犬坊・ミステリ界三大腹パンしたいヒロイン・里美の間延びした口調や、やっぱり色々とすげえやばい石岡君の独占インタビューを楽しめてしまう我々のような信者以外は手出し無用だろう。
まあ今回一冊にまとめるにあたり、御大の脳裏に「伊根の龍神」と「エンゼル・フライト」という単語を再び刻むことが出来たのは喜ばしい。「Classical(以下略)」の続きとどっちが先に出るだろうか。
あと「里美の口調は文字で見るとムカつくけど、現物がしゃべってるのは全然イラつかないんだよ」とものすごく力説してて笑った。

余談だがこの作中世界では御手洗シリーズの作者は石岡君で、現役刑事の吉敷竹史が現実の事件の小説化を許すはずがなく、そうなるとこの世界の島田荘司の代表作はいったい何になるのだろうかと思ったり。あれか。「漱石と倫敦ミイラ殺人事件」か。「写楽」や「アルカトラズ」や「ハロゥウイーン・ダンサー」など最近の傑作を出せる年齢まで作家としてやっていけるのか。少なくともこっちの島田荘司は「ゴッド・オブ・ミステリ」なんて絶対に呼ばれてないよな。島田荘司が中堅作家なら新本格派は存在できたのか。アレやアレをパクらずに金田一少年の事件簿は売れたのだろうか、などなど余計なことを考えてしまう。


16.6.4
評価:★★☆ 5
コメント