小金沢ライブラリー

ミステリ感想以外はサイトへ移行しました

ミステリ感想-『人間の尊厳と八〇〇メートル』深水黎一郎

2017年04月25日 | ミステリ感想
~収録作品とあらすじ~
「人間の尊厳を証明するため八〇〇メートル走をしないか」たまたま立ち寄ったバーで男はそう誘ってきた…表題作
クレジットカードをめぐる不思議な一騒動と、戦争博物館を早く閉めたがる館員…北欧二題
皇居を狙った爆破予告。官邸のサイトをハッキングしてまでわざわざ予告した犯人の意図とは?…特別警戒態勢
たった一人を狙い一度きりなら完全犯罪は成立すると豪語する女の、たった一つの誤算…完全犯罪あるいは善人の見えない牙
新婚旅行でパリに行くも、バックパッカーとして経験豊富なはずの夫は失敗続きで妻との仲もぎくしゃくし始め…蜜月旅行LUME DE MIEL

2011年日本推理作家協会賞・短編部門(表題作)


~感想~
バラエティ豊かな作品が揃った短編集。それぞれ簡単に感想を述べると、

まずは日本推理作家協会賞の短編部門を射止めた表題作。使い古された手ながらひねりをいくつも加えて新味を出し、不可解なタイトルで完璧に落としてみせた良作で、受賞にも納得がいく。それにしても素晴らしい、これ以上ない的確なタイトルである。

つづく「北欧二題」はクレジットカード、いや信用売買電路票の方は「頭の体操」か何かで既視感のある内容ながら、日常の謎としては文句のない出来。しかし続く博物館の謎は謎どころか旅の一コマでしかないどうでもいい話で、わざわざ書いた意図すらわからない。地獄のようなルビの山を書きたかっただけではとすら疑う。

「特別警戒態勢」は表題作とは比ぶべくもないひねりの無さで評価のしようもない。

「完全犯罪あるいは~」は泡坂妻夫の「歯と胴」を思い出させるような結末が好み。表題作と双璧をなす良作である。

「蜜月旅行」は趣味自分探し(笑)の元バックパッカーとやべえ新妻がイチャイチャするだけの72ページなので、海外旅行好きなら楽しめるんじゃないだろうか。僕なら成田離婚するけど。

一つ残念なのが、「北欧二題」で外来語を全て漢字でルビ表記するほど言葉にこだわりのある作者なのに、各編に1つは非常に目につく下らない誤植があったこと。単行本版ではもっと酷かったようだが直しきれておらず、編集者と校正には猛省を促したい。
また余談だしまったくの個人的な感想だが、文庫版の解説が謎の日記形式だったり、シリーズ作品を何の意味もなく3→1→2と読んだ後にデビュー作を読んだりと非常に気持ち悪く、別の意味で一読の価値があることも付記しておく。


17.4.22
評価:★★☆ 5
コメント