小金沢ライブラリー

ミステリ感想以外はサイトへ移行しました

ミステリ感想-『十戒』夕木春央

2023年08月16日 | ミステリ感想
~あらすじ~
浪人中の里英は急死した伯父の別荘がある孤島を、父やリゾート開発の社員らとともに訪れる。
そこでは大量の爆弾が製造されており、一夜明けて死者も出てしまう。
「殺人犯が誰か知ろうとしてはならない」さもなければ島もろとも爆破すると、犯人は「十戒」を誓わせる。


~感想~
ほとんど無名ながら昨年「方舟」で文春1位に輝くなど飛躍を果たした作者の新作。
聖書、密室状況、テロリストとちょっと笑ってしまうほど「方舟」に似た作風で、あえて逆にしてみた安易さはどうしても感じてしまうものの、また違った趣向で意外性を狙ってきてくれた。
孤島の密室殺人というかほとんど人狼ゲームさながらに滞りなく進む殺人とか、「十戒」ガン無視で自由気ままに振る舞うおもしれー女とかノイズは多々あるし、真相も個人的にあんまり好きではない要素が目白押しで、そんなにノレなかったのだが、ロジックは「方舟」よりさらにシンプルかつ明快で鋭く、結末からのもう一捻りも期待通りだった。
ただ真相自体はこの設定から考えつくいくつかのパターンの一つではあり、「方舟」からは数段落ちるのは仕方なく、1位を争うことはないだろう。
評価が上がったのは再読からで、処理は抜群に上手い。匠の技と言ってもいい華麗さで、このあたりの処理が十数年かからないと上達しない作家も普通に何人も思い当たるので、作者のセンスの良さが垣間見られる。
余談だが「ペルソナ4」を再プレイしたばかりなので、ラストシーンはほぼ「P4G」だった。


23.8.16
評価:★★★★ 8
コメント

本当にミステリランキング期限ギリギリに出版するのは有利なのか?説を検証

2023年08月16日 | ミステリ界隈
※文末で1~3位の集計も追記しました。

「このミスランキング期限の月には有名作家の新作が出版される」
毎年のミステリランキングを楽しみにしている方なら一度は聞いたことがあるだろう。期限ギリギリに出版すれば印象に残りやすく、賞レースで有利になるという計算だ。
今年も期限となる9月の出版予定には現在わかっているだけでも阿津川辰海、伊坂幸太郎、井上真偽、今村昌弘、京極夏彦、白井智之、東野圭吾と錚々たる名前が並ぶ。しかも京極は百鬼夜行シリーズだし東野はまさかのアレだ。
去年も相沢沙呼、阿津川辰海、有栖川有栖、石持浅海、宇佐美まこと、歌野晶午、鵜林伸也、奥田英朗、加賀美雅之、笠井潔、河井莞爾、雫井脩介、周木律、白井智之、月原渉、西尾維新、似鳥鶏、林泰広、東川篤哉、道尾秀介、夕木晴央というとんでもないラインナップだった。
その前を振り返ってもやはり有名所が並んでいたように思う。

そこで「本当に期限ギリギリに出版するのは有利なのか? 有力作は期限ギリギリに出るのか?」検証してみる。
本ミスランキングが始まった1996年から昨年まで各年のこのミス・文春・本ミス1位作品がいつ出版されたのかを調べグラフにしてみた。



これは有意な結果が出たのではないだろうか。
明らかに期限に近いほど1位を獲りやすい!!
なお期限月は現在は9~10月で、このミスは長らく10月期限だったが、コロナ禍をきっかけに9月期限へ変更された。
3月も抜けて多いが、やはり決算月を意識して大作・有力作をぶつけたのだろう。
前年11月~12月出版でそのまま逃げ切ったのはわずか4作で、98年このミスの高村薫「レディ・ジョーカー」、08年このミスの伊坂幸太郎「ゴールデンスランバー」、11年本ミスの米澤穂信「折れた竜骨」、12年本ミスの法月綸太郎「キングを探せ」と納得の4作だ。
統計に全く詳しくない文系のつたない計算だが調査は以上である。


8/19追記
特に反響は無かったがハートが強いので1~3位まで集計範囲を拡大してみた。



それでもやはり傾向は変わらないようだ。
ちなみに11月出版で2位にランクインした3作品は、前年ではなく文春・本ミスの当年の対象だったが11月でひと括りにしている。
コメント (2)