小金沢ライブラリー

ミステリ感想以外はサイトへ移行しました

ゲーム感想-『カリギュラ2』

2024年10月12日 | ゲーム
~あらすじ~
μ(ミュー)が起こした前作のメビウス事件から数年―。
出自不明のボーカロイドのリグレットが作った仮想空間リドゥに再び囚われた、後悔を持つ人々。
μを母と慕う後継ボーカロイドのキィはリドゥをブチ壊し母の汚名を晴らそうと、現実に帰ろうとする仲間とともに帰宅部を結成し戦いを挑む。


~感想~
前作はいろいろ独自性を出そうとしたものの技術と予算が圧倒的に足りず「劣化ペルソナ」に落ち着いたが、本作は独自性をブラッシュアップするとともに欠点の改善を図り、まだまだペルソナには及ばないものの確固とした己を持つ「カリギュラ2」として格段の進化を遂げた。


1.ストーリー
前作に引き続き仮想空間リドゥで暮らす人々は後悔をやり直すための仮の姿に過ぎず、実生活では年齢はおろか性別も違う、という設定が面白い。
仲間キャラの正体は(ほのめかしすぎて大半モロバレなものの)前作よりもぶっ飛んだものが多く、背景はより複雑に。
前作はストーリーが一本調子かつ設定だけで力尽きたようにろくに起伏もなかったが、本作は山あり谷ありの意外性ある物語で最後まで引っ張り、楽士それぞれに対応した帰宅部メンバーとの因縁もあり、比べ物にならないほど面白い。
なんといってもまだ世に出ていない未熟なボーカロイド・キィが人間を知り世界を知り、頼もしく成長していく本筋が通っていて、ラストも衝撃的かつ皮肉な結末に、人間と世界を知ったキィが敢然と立ち向かうのがお見事。やればできるじゃないかフリュー!


2.音楽
言うまでもなく今回も最高。もちろんフィールド中に流れる曲が戦闘に入るやボーカル付きに移行し、しかも今回は背景にMV付きで一層盛り上げる。さらに敵のリグレットと味方のキィのWボーカルで2種類あるのもうれしく、戦闘中にキィに別曲で割り込ませて場を支配するという発想も素晴らしい。
キィは大人びたリグレットと対照的に幼くかわいらしい歌声だが、成長につれてしっかりとした歌い口に変わっていくのも良かった。
それにしても前作の上田麗奈といい本作の香里有佐といい的確に最高の人材を探してくるよな…。
「夜に駆ける」でブレイク前のAyaseを呼んでいた件もセンスの良さを感じさせる。
個人的には「スワップアウト」に完全に心をつかまれた。全体としてはリグレットに軍配を上げるが、「ミス・コンダクタ」と「xxxx/xx/xx」はキィの方が好み。「SINGI」は甲乙つけ難い。


3.グラフィック
口パクしてるだけで圧倒的な進化を感じてしまうのはノイズだが、3Dモデルはほとんど表情が変わらず、モーションもほぼ全員共通。オープニングで流れる日常風景が素人でも作れそうな低予算丸出しの悪夢のような代物で爆笑してしまったが、口パクすらしなかった前作を体験していれば全く問題なかった。
主人公が必殺技を決めて真顔のキィとハイタッチするシーンは見るたびに笑ってしまうが、原監督のグータッチみたいなものだと思えば、まあ。
一方の2D一枚絵は前作と同じ作者が相変わらず世界観に見合った美麗なものを仕上げてくれたので安心。キャラの内面や正体を示唆するギミックも面白い。


4.戦闘
敵味方ともに攻撃が100%命中した場合の未来予測が見え、それをもとに対策を立てるシステムは健在。前作では3つの行動を入力したが本作では1つに簡略化され、強敵との戦いで全員に指示を出すのも楽になった。
ノーマルでクリアしたが油断するとそのへんのザコ敵にも全滅させられるちょうどいい難易度で、味方AIも役に立てばラッキーくらいだった前作よりは頼れるが、自分(主人公)一人でなんとかしなければならないのは変わらない。ボス戦は特殊ギミックもありちゃんと考えて全員に指示を出さないと難しい。
ただし後半になり装備やスキルが揃うと大抵のボスはフロアージャックからのタコ殴りで簡単に片がついてしまう。通常攻撃の連打だけでラスボスが溶けた前作ほどヌルゲーではないが。
数百人のモブがフィールドをうろつき、戦闘にも加わってくる独特のシステムはやはり健在だが、巻き込むのは戦闘開始時点で近くにいたモブだけに変更された。敵の火力が本作はかなり高いので改善である。
なおクリア後の2周目からは自由に敵レベルを上げられる最高のシステムは今回もある。


5.クエスト
そこら中をうろつく数百人のモブに話しかけて仲良くなるのは相変わらずだが、2回話しかけるだけでクエストが受注できるように簡略化。また何組かはグループごとにまとまってサブストーリーが展開され、解決すると全員の正体が一斉に明かされる方式になった。
モブの中には重要キャラの関係者も何人かいたり、正体を調べるのは今回も楽しく、クエストもストーリーを進める合間に自然と達成できるものが増えたのでコンプリートが現実的なものとなった。
たぶん全員異なるSNSアイコンは素直にすごいと思う。


6.UI
上記で何度となく改善と評したように、前作から引き継いだシステムの大半は簡略化がなされており好感が持てる。
やはりロードの微妙な長さやろくに機能しない装備品・スキルのソート、結局おつかいさせられるだけのクエストなど荒削りな面は多々あるが、前作の反省を明確に意識した改善ぶりは評価に値するだろう。
触れるだけでオートセーブされるセーブポイントや、目的地が明確に表示されるミニマップ、1周目でやってしまえば2周目からは一切触れる必要すらないクエストやキャラエピソード(※もしかしたらやらないと戦闘中のセリフが更新されないかも?)など手放しで褒められる点も数多い。


総評
あからさまに「劣化ペルソナ」だった前作のダメだった点をきちんと反省し、できないことはできないと割り切って、できることと独自の魅力を突き詰めた結果、多少ひいき目に見れば広く勧められる良作へと変身を遂げた。
なんといってもこの世界観と設定は他にない独自の素晴らしいものであり、大げさに言えばカリギュラというジャンルを作り出したとすら言えるだろう。
ゲーム的にもフィールドをうろつくザコ敵とモブ、ただのBGMではない全てと密接に絡んだボカロ曲、モブ全員と交流できる謎のボリューム、未来予測を基にした戦闘などなど独自性が高く、重く暗いテーマ性あるストーリーと粗いグラフィック・UIとあいまって万人ウケはしないが、刺さる人にはとことん刺さるインディー的な魅力のある、他にない唯一無二のRPGに「カリギュラ2」は育ったのである。

なお前作をやっていればより楽しめるのは当然だが、本作はたまにフリューが頭おかしくなって965円という驚異的な価格でPSストアに並ぶことがある(※正気に戻ったのか直近のセールでは1,755円だった)ので、1000円札1枚でおつりが来るのだから、興味があればぜひやってもらいたい。
売れて3が出たら絶対買う。

※近日中にネタバレ感想も更新予定

評価:★★★★ 8
コメント

ミステリ感想-『ゼロの誘拐』深谷忠記

2024年10月12日 | ミステリ感想
~あらすじ~
塾帰りの生徒が殺され、経営者の木暮のもとには責任を問う脅迫電話が届く。
そして木暮のまだ乳児の娘が誘拐されるが、犯人は「5日間は無事だ」となぜか期日を切り、はじめは身代金も要求せず…。


~感想~
冒頭、まるで実在の事件の裏側を小説化したかのようにうたい、さらに作中で「ある実験を試みた」と言うが、無論架空の事件であるとともに、87年10月出版と綾辻行人「十角館の殺人」の翌月でもあり、この頃はまだこの仕掛けを施すために但し書きが必要だっただけなので、過度の期待は禁物である。
内容は誘拐事件に様々な事件を絡めつつ、ほぼ昭和ミステリらしいお色気シーンも挟んで最後は一つにまとめ上げる丁寧なもので、可もなく不可もなく楽しめる。

あまりに面白かったのでネタバレながら紹介してしまうが、終盤に犯人がまるで犯行を否定するように「それは……それは、違う」「真実を知ってもらいたい」と訴えながら単に計画的ではなかっただけで普通に殺してたのは笑った。違わねえよ!殺ってんじゃねえか!!


24.10.12
評価:★★★ 6
コメント