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ミステリ感想-『ダレカガナカニイル…』井上夢人

2021年11月07日 | ミステリ感想
~あらすじ~
左遷された警備員の西岡は、新興宗教団体「解放の家」の警備を依頼される。
解放の家は居を構えた村の人々に反対運動を口実とした迫害を受けていたが、そのさなかに西岡の身体に異変が起こり、まるで別人格が心の中に現れたように語りかけられ…。

1992年このミス6位、文春6位、本格ベスト51位

~感想~
主人公で語り手の西岡は退屈しのぎに盗聴をやって左遷された超やべえキャラだが、なぜかその経歴以外はきわめて常識人で、ヒロインにもこのうえなく優しい人とぞっこん惚れられる。なら盗聴するな。
西岡に語りかける謎の声の主もきわめて常識人であり、従って話の要である主人公と謎の声の会話もきわめて常識的になってしまい、会話の妙や面白さがほとんど無く、冗長になっているのがまず難点。
だが声の正体に科学的・神秘的な両面のアプローチから迫る試みは(やはり冗長さは否めないが)真摯なもので、作品に深みをもたせることには成功している。

そしてこれは作品にも作者にも罪の無い巻き添え事故のようなものなのだが、本作はオウム事件が明るみに出る前に書かれたものながら(※92年刊行、地下鉄サリン事件が95年)数々の偶然の一致からオウム事件そのものが著しいノイズとなっている。
まず解放の家が悪いことに山梨にあり、現実のオウムさながらに地元住民とトラブルを起こし、しかも本作ではむしろ住民の方が頭の固い迫害者のように描かれる。そしてキーワードとしてよりによってポワ(ポア)が使われてしまっており、作者はオウム事件を題材にしたとする風評被害さえ受けたという。
自分もあまりに符合しすぎていて、オウムの存在を知り資料を集めたのではと疑うほどだった。(※作者は否定している)

魅力的ではない主人公と会話、勝手に見え隠れするオウム、何かと連呼されるポワのせいで、リアルタイムで読んでいない読者には余計なノイズが走るのだが、本作の真骨頂は結末にある。
終わってみれば全てが結末から逆算された、ここしかない一点へと収束して行く物語であり、納得と満足のいくものだった。
また繰り返し冗長と書いてきたが、正確にはミステリとして必要以上の冗長さであり、それを重視しない一般的な読者ならば、苦にはしないだろう。
このミス6位等とミステリ的に高評価を受けたが、どちらかというと一般的な本好きに(いちおうオウム事件との偶然の一致を念頭に置いた上で)読んで欲しい佳作である。


21.10.30
評価:★★★ 6

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