小金沢ライブラリー

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映画感想―『ビューティフル・マインド』

2009年12月07日 | 映画感想

~あらすじ~
94年ノーベル経済学賞を受賞した実在の人物、ジョン・ナッシュの半生を描く。
47年、ジョンは「非協力ゲーム理論」を発表。その才能に国防省が目をつけ、彼の周囲には怪しげな人物が出没し始める。


~感想~
まずはこれが実話だということに驚かされる。もちろん多少の脚色はされているものの、ノーベル賞を獲った天才学者にこんな波乱万丈の人生があったとは、まさに事実は小説よりも奇なりといったところ。
多少のベタな展開や予定調和な流れも、実話という重みの前ではかすんでしまい、むしろベタで予定調和であるほど、悲劇性をいやましているのだ。
また実話であるにもかかわらず、どんでん返し映画としても非常に優秀で、序盤からあからさまに張られた伏線の妙と、まさかの急展開により何重にも驚かされる、サスペンスとしても良質の佳作でした。

ちなみに映画では固い絆で結ばれたこの夫婦だがwikiなどによると、美談としてふさわしくなかったため削られた、映画の何倍も数奇な変遷をたどっているので、鑑賞後にはぜひ調べてみることをおすすめする。


評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『球体の蛇』道尾秀介

2009年12月04日 | ミステリ感想
~あらすじ~
17歳だった私は両親の離婚により、隣の橋塚家に居候していた。主人の乙太郎さんと娘のナオ。奥さんと長女のサヨは7年前、キャンプ場の火事が原因で亡くなっていた。どこか冷たくて強いサヨに私は小さい頃から憧れていた。そして、彼女が死んだ本当の理由も、誰にも言えずに胸にしまい込んだままでいる。
乙太郎さんの手伝いとして白アリ駆除に行った屋敷で、私は死んだサヨによく似た女性に出会う。


~毒舌~
事前に得ていた情報よりはよっぽどミステリしていたものの、いつもの道尾作品だと思って読んでいたら大ヤケドしていただろう、純文学寄りの物足りない作品でした。
もちろん物語の常としてどんでん返しや意外な事実はあるものの、徹底的に、そしておそらくは意図的にサプライズを起こさせないように書かれていて、どんな真相が明かされても「やっぱり」という感想しか抱けないようになっている。
このサプライズ性のなさというのが実に堂に入っていて、どうして驚けないのだろうと考えると、その秘密は語り口の淡白さにあるのか、一度に多くのどんでん返しを仕掛けるのではなく、順を追ってひとつずつ明かしていくからなのか、それとも『龍神の雨』のよりもさらに極端に絞り込んだ登場人物数のせいで、意外な事実のバリエーションをせばめた結果なのか。おそらくその全部だろうが、読者をまったく驚かせないやり口が徹底されており、語り手の口調に乗せられたように淡々と読み終えてしまうのがあまりにも残念。
作家としての幅を広げることには成功したのかもしれないが、こんなヤマなしオチなしイミなしのヤオイブンガクを、稀有の才能を持った作者が書く意味があったのだろうかと(ましてや今年のようなぱっとしない作品しか出していない時にだ)疑問に思えてならない。
言ってしまえばこの程度の作品なぞ、いまの道尾秀介には湯船で鼻歌まじりに作ることなど造作もないことだ。今作にしてもサプライズを演出し本格ミステリにすることはできたはずである。この程度の作品は、道尾秀介ならば才能が枯渇してからでも余裕で書けるに違いない。せっかくの時間と才能を無駄に浪費したとしか思えないのだ。

ところでこの国のブンガクというものには赤裸々に描かれた性というものが必須らしいのはなぜなのだろうか。(「本格には殴りっこや濡れ場は必要ないのです」by鮎川哲也)どんなに格調高くうたい上げたところで、濡れ場なんてものは単なる下ネタでしかないと思うんだけどなあ。


09.12.4
評価:★★☆ 5
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