国民投票法案が4月13日、衆議院を通過しました。憲法改正手続きが明文化されたことになります。この法案に目を通して問題点を抽出してみました。
○ 有効投票数の過半数としている(第98条の2)憲法の条文からは、有権者の過半数とするのが本来の考え方である。有効投票数の過半数は、最も低い選択である
○ 投票率に関する規定がない 投票率が低い場合には極めて少数の賛成で可決される場合がある。最低投票率を設けるなどしてより国民の多くの賛同を得なければ、改憲に踏み切れないようにするべきである。
○ 発議の方法が個別でない(国会法6章の2を追加:国会法第98条の3) 国民投票法に伴い国会法の一部を改正して、第6章の2「日本国憲法の改正の発議」を追加している。第68条の3として“憲法改正原案の発議に当たっては、内容において関連する事項ごとに区分して行なうものとする。”とされた。発議者の判断で関連する項目をまとめて「一括投票」されることになる。複数の内容に個別の異なる判断をさせないようにしている。容認しやすい法案と、抱き合わせる法案を一括投票させることで、発議者に有利に働くことになる。
○ 国民投票運動が厳しく規制されている
・報道に関して投票14日前から一般の放送を禁止、放送を止めさせている。(第105条)投票14日前以降は国民投票協議会と政党等以外は放送できない。(第106条)
・公務員の運動禁止職務権限に関わる者の運動を禁止している。教育者などの発言などが強く規制されている。(第103条の2)報道に関しては、放送に量的制限がないために、資金力のある者が圧倒的に民意誘導に有利である。広く意見を集約すると、事前運動や「組織的多人数買収および利害誘導罪」(第109条)の適用も考えられる。利害誘導が生ずるとする考え方が不成立でないか。
○ 発議からの時間が短い(第2条)国民投票の期日は国会の発議から60日以降180日以内としている。国の基本となる憲法改正の検討としては極めて短いものと思われる。改正内容の質と量を考慮していない。
○ 国民投票選挙無効訴訟期間が短く、一審の訴訟が東京高裁に限定されている(第127条)国民投票無効訴訟する場合は、選挙結果の告示から30日以内としているが、全国規模の投票であり、違反の発覚やその裏づけに相応の時間がかかるものと予測される。一審の管轄裁判所を東京高等裁判所に限定することも、全国投票から考えても訴訟をより困難にしている。
国民に情報を十分提供しなければならないことを考えると、一般国民の自由で闊達な論議を高めるべきである。法の趣旨はこれに大きく反して、運動そのものに規制を加えようとしている。事前運動や、無資格の一般国民が幅広く論議することを制限するべきではない。
個人を選出する選挙ではなく、国民の意見集約である性質上、広範な意見集約や意見交換が容易のできるようにするべきで、一般選挙とは大きく異なる。
政党以外の発言や意見広告などの規制は、幅広い論議の広がりを抑える作用をもつものであって、規制そのものがおかしい。
○ 「憲法審査会」の危険性(国会法11章の2を改める)国民投票法に伴い国会法の一部を改正して、第11章の2を追加している。法案成立後に国会内に従来の「憲法調査会」を改め「憲法審査会」を設置するとしている。(国会法102条~9)これはいわば憲法改正の原案作りのための機関を常設することを意味している。相対的に憲法の存在を軽ろんじて、形骸化するもので、憲法第99条に違反するといえる。
総じて発案者に有利に作られた法案であるといえる。今後改憲に向けては改憲派と護憲派を党内に抱く、野党最一党の民主党の出方が大きな鍵を持つ。同法は3年間凍結されることになるが、この3年間は国民の切迫感をなくさせる冷却期間とも思える。熱しやすく冷めやすい日本人が、より一層無関心になるのを待つようにも思える。
安倍ボン内閣は極めて古風な国粋主義的性格で、この国を戦争ができる国へとシフトする危険性を露わにした法案であるといえる。