食料自給率がどうしてこんなに低いのか、日本の政治家たちは真剣に考えようとしていない。あるいは、食糧の本質と実態を理解していない。一般国民も、食糧自給率を高めなければならないと、観念的には多くの人が思っているようではある。
しかし、現実には食料の本質を理解する姿がそこにはなく、結局は価格に反映された、結果だけを見るだけのようである。
今回民主党の提案した「所得補償制度」は、一考に値する。しかしながら、政局にでっち上げ られ、自民党からはその資金となる1兆円をどこから捻出するのかとか、1兆円では足りないだとか、お金の論議に終始している。
そもそも、自給率が下がったのはお金の問題である。人が毎日食べなければならない、なければ生きてゆくことができない食料を、一般商品と同等に金銭評価したことが間違いなのである。
だから自民党にお金の話を持ちかけられて、お金の話で民主党が返答することがそもそもの間違いである。この、所得補償制度も実行されたところで、大きな問題がいく度も起きることであろう。仕事しない農家と、創意工夫している農家を峻別するのは難しいことや、農業のもつ多面的機能の評価などで、いきなりつまずくことになるであろう。それでも、農業のためには具体的で緊急な補助が必要なのである。
農業従事者の半数が65歳以上になって、三千数百の限界集落のうち10%ほどが、5年で消滅しようとしている。食料の自給率を維持するのに、論議の余地も時間もこの国にはない。すでに、多くの食料生産機能がマヒ状態に直面している。具体的で緊急な対策が求められている。
お金の問題や政治的得点を高めるための論議を行っている場合ではない。そうした低レベルの論議をすることが、すでに農業の自給率を念頭に置かない考えと言える。
食糧を自給しない国家は、独立国ではない。すでに日本は、バイオエタノールに飼料用穀物を回され、大豆やコーンの高騰にも毅然とした態度すら取れない国家に成り下がってしまっているのである。拙書参照ください。
そりゃないよ獣医さん―酪農の現場から食と農を問う
発売日:2005-10