この表は10年程前農水省の作成による、複雑な牛乳という生の商品が市場にどのように流れて行くかを示したものである。優秀な官僚たちによって作成されたもので極まめて解り易い表である。
国内消費量(1151万トン)の内、国内生産量が745万トン、輸入量が406万トンである。
酪農家が出荷するのは生乳と言われるが、生乳は保存が難しい飲用(牛乳)だけではなく、保存可能で、輸送に便利なバターやチーズなどがある。これらは加工乳と呼ばれるが、飲用に比べて安価となる。
農家が受け取る乳代はグラフの縦であらわされている。飲用乳は115円、生クリームは75円、チーズは50円、バター脱脂粉乳は70円とそれぞれの左肩に書いてある。
飲用乳(396万トン)は人口の多い本州方面の酪農家が(ピンク色)ほぼ8割を占めている。加工乳には北海道(空色)から向けられたものが多く、生産者価格(破線の部分)をすべて下回っている。加工乳には補給金(311億円)が支払われている。原資は輸入乳製品の関税が充てられている。
酪農家には目的別の価格を案分した金額が支払われることになる。
日本の酪農家が1万戸を切った。私が乳牛の獣医師になった頃には、40万戸もあったが、この数年でその傾向は著しい。経済学者たちは生存競争を生き残った酪農家と、大型の酪農家を称賛していた。この数年はその大型酪農家が、肥料の高騰、輸入穀物の高騰、円安による輸入資材や機械の高騰、電気料の3割値上げなどで、赤字経営に陥っている。これに農家戸数が減れば、国内業者が価格をあげるにきまっている。
農業は基本的にゼロエミッション(外部から導入するものがないが出て行くものがある)である。しかし、国の奨励する大型酪農家は、外部資本(補助金・補助事業)と外部資源(輸入穀物・輸入肥料など)に大きく依存するため、社会の動向に左右される。特に大型酪農家は機械に頼っている面が多く、電気水道料金などは300頭搾乳農家では、毎月100万単位の上昇価格の請求書が届く。
大型酪農を推奨したのは、アメリカ飼料穀物協会である。穀物を売り込まんかなという大々的キャンペーンを展開して、牛の生理に沿って環境にも優しい酪農家や私などを、公の場で大々的に非難されたものである。
それは1970年代からはじまり、急速に農家戸数が減少して規模拡大が進んできたことが解る。(下図)
それでは規模が小さなマイペース型酪農、輸入穀物の依存度が少なく、国などの補助事業にあまり依存していない農家はどうかというと、それなりに大変であるが、多くの農家が苦しいので乳価が上がったので、一息ついている状況である。経営的な打撃はあまりない。
然しあらゆる酪農家に共通しているのは後継者不足である。大型酪農家は赤字だし、昔からのスタイルでやっている農家は経営は健全でも、3K職業の典型と見える酪農で、若い子たちは不評なのか学生時代を都会で過ごすと帰ってこないことが多い。
国は、田舎を憧れ牛を青空の下で飼いたいと憧れる世代は決して少なくはない。そうした新しい人材を、彼らの要求に沿った、環境に優しい新しい時代の酪農家の導入を図るべきである。